2009年01月07日
2009年1月3日 WBA世界ライト級タイトルマッチ12回戦 小堀祐介の初防衛戦を振り返って
1月3日に行われたWBA世界ライト級タイトルマッチは、チャンピオンの小堀祐介(角海老宝石)が同級1位の指名挑戦者、パウルス・モーゼス(ナミビア)と12回のフルラウンドを戦い抜いた末、判定で敗れて初防衛に失敗、王座陥落した。この先には本場ラスベガス進出の夢も見えていただけに、非常に残念としか言いようがないが、個人的な感想もまじえてこの試合を振り返ってみたい。 全体的な試合の印象で言うと、小堀にとって一番やられたくないボクシングをモーゼスにされてしまったことに尽きるのではないだろうか。小堀の持ち味を見事に封じる今回のモーゼスの戦い方は、ほぼ完璧な小堀の攻略法だったと言える。 小堀は中間距離で打ち合いながら、天性のタイミングで左右のカウンターパンチを強振できることが一番の強みであり、6度の防衛に成功した日本チャンピオン時代はその必勝パターンで何人もの日本人トップコンテンダーをマットに沈めてきた。 つまり小堀は打ち合いの中から勝機を見出し、打ち合ってこそ強さが発揮されるボクサーである。殴り合いをスポーツの域に高めるボクシングの魅力を最大限に体現し、打ち合うことを信条とするボクシングは、小堀が「日本で一番面白い試合をする男」と言われる所以でもある。 しかし相手が足を止めて打ち合ってくれない場合やアウトボクサーとの対戦は、小堀にとって長年の課題だった。相手の長所を消すことはボクシングの常套手段であり、小堀への戦略を考えるならば、いかに打ち合わずに勝つかということは大きなテーマとなるはずだ。ましてや世界チャンピオンとなれば、挑戦者は小堀をしっかりと研究してくるだろう。そして、モーゼス陣営はその宿題を完璧にこなしてきた。 中盤、特に5回までは小堀陣営にとって悪くない展開だった。 初回に関してはいつもの小堀の立ち上がりだったはずだ。まずは相手の力量、タイミングを見極めるために「受け」に徹した。 ナミビアのヒットマンの異名を持つモーゼスの印象はまずはスピーディーでキレのある左のリードジャブ。試合を振り返ってみれば小堀とのリーチ差が12センチというこの長く鋭いジャブが小堀包囲網と言うべき「距離」を作った。小堀が控え室で語った「とにかく遠かった…」という言葉の意味はまさにこのモーゼスの支配距離にあったはずだ。 モーゼスは試合前から「状況に応じてファイトもするしボクシングもする」と言っていた通り、中盤までは挑戦者らしくチャンピオン小堀としっかり打ち合った。これは小堀にとっては理想の展開で、打ち合いの中で左右のカウンターパンチを単発ながら何度も当て、モーゼスの膝を揺らした。小堀陣営からしてみると、この中盤までの流れの中で倒して試合を決めたかった。倒せずとも最低でも1回はダウンを取りたかった。2回、5回の攻撃ではそのチャンスが十分あった。そして6回以降、それまでのラウンドで小堀と打ち合うリスクの大きさを十分理解したモーゼスは一転して足を使って距離をコントロールしながら、出入りの激しいヒットアンドアウェイのスタイルに作戦を転換した。ジャブで距離を作り、鋭い踏み込みから連打をまとめ、また距離を取る。そして小堀の左フック、特に打ち終わり時のカウンターはしっかりと警戒し、接近戦では右のアッパーを有効に使った。 これに対して小堀は終始モーゼスの距離で戦うことを強いられ、「10発貰っても1発良いのを返せれば」とモーゼスを追ったが、言い換えればモーゼスの距離を打ち破る術はなく、小堀には「一発狙い」しかなかったとも言える。コンビネーションもワンツーから左フックと単調になりがちで、モーゼスのジャブに合わせた右クロス、ボディー攻撃などバラエティーが欲しかった。 モーゼスはさすがアマチュア時代から無敗というだけあって巧かった。フットワークを効かせて上手に小堀を捌き、手数でポイントを稼いだ。モーゼスは決して強打者ではないが、スピードとキレのあるパンチをうまくまとめ、結果的に小堀は終盤ダメージが蓄積したのか失速した感は否めなかった。 モーゼスが距離を取り、ポイントを稼ぐ作戦に切り替えたことに対して、小堀は不器用に、まるでジムの大先輩である坂本博之のように打たれても前に出て、左フック1本でモーゼスを追った。その姿は観客の心を打つものであったことは間違いないし、あの会場の多くが最後まで小堀の「一発」に期待していた。いつか観た日本タイトルの防衛戦の時のように、最後の最後で小堀がモーゼスをぶっ倒してくれることを祈っていたのではないかと思う。 しかしモーゼスは、小堀の言葉を借りれば「遠かった」。この一言に尽きた。小堀が見せ場を作る場面もあり、ポイントは僅差だったが、モーゼスは世界チャンピオンになるだけのボクシングをした。相手をしっかり研究し、あるゆる事態を想定して策を練り、それをリング上で100%のパフォーマンスで実行した。 小堀は試合後、進退については明言は避けたが、課題があるのはまだまだ伸びしろがあることの裏返し。今回の試合を見ても小堀ほどの実力を持った逸材はそういない。27歳と年齢的にもだやれるし、小堀はまだまだ強くなれるような気がする。世界再挑戦の道は決して簡単ではないのを承知で、小堀にはなんとか再起してもう一度リングに戻ってきてほしい。そう切に願っている。 (フリーライター・野口弘宜)
■小堀 佑介
http://www.kadoebi.com/boxing/players/index.cgi?n=338
posted by 野口弘宜 |13:58 |
コラム-KNUCKLE IS THE SOUL |
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