2007年01月15日

坂本博之[角海老宝石]***K・シットジャープライ[タイ]2007/01/06

1月6日、いよいよその日がやってきた。坂本博之ラストファイト。「平成のKOキング」と呼ばれた坂本が、数々の名勝負を繰り広げてきたボクシングの聖地、後楽園ホールは全国各地から駆け付けたファンたちで超満員。椎間板ヘルニアによる腰の大手術など幾多の困難を乗り越え、15年間の現役生活を全力で走り続けた不動心の男が36歳47戦目、ついに最後のリングに上がる時が来た。

「新世界」が後楽園ホールに鳴り響く。この荘厳なクラシックの名曲をバックに坂本が入場する姿が見られるのもこの試合で最後。ファンにとってはそう思うと鳥肌が立たずにはいらないという心境だろう。

花道に登場した坂本はいつも通り真っ白なガウンにトランクス、シューズに身を固め、もみくちゃにされながらリングまでへの歩を進める。深呼吸を2度ゆっくりと、そして口に水を含ませていよいよリングイン、会場を一際大きな歓声が包む。「今となっては世界の肩書きも不要、最も多くの人の思いを背負った伝説的なボクサー……、皆様も最大級の賛辞をお願いします!」と、富樫リングアナも過去最長と思われる口上でラストファイトに華を添える。

坂本博之
日本のボクシング史上、世界のベルトを巻かずしてこれほどまでに愛されたボクサーはいない、ということがこの引退興行の盛り上がりを見れば一目瞭然だ。富樫アナの選手紹介が終わると、場内からは割れんばかりの歓声がわき起こる。 相手はタイ・ライト級1位の17歳、カノーンスック・シットジャープライ選手。戦績も10戦6勝と明らかに格下の相手 泣いても笑ってもこれが最後、不動心・坂本博之のラストファイト。1R開始のゴングが鳴る。 「どんなことがあっても前に出る。自分らしいファイトを見せたい」と試合前に語っていた坂本だが、立ち上がりはまずは様子を窺うベテランらしい展開。じりじりと前に出て時折左右のコンビネーションを出していく。相手もフットワークを効かせてガードをしっかり固めており、懐には入れさせない。1R終了間近、坂本の代名詞とも言える左フックがガードの上に着弾、カノーンスックが大きく体を揺らす。この一発がクリーンヒットすれば…と思わせるのには十分な破壊力は健在に見える。 2R。坂本は左右のボディブローを中心に攻め立てる。しかしカノーンスックはしっかりと防戦、ショートアッパー、ストレートをうまく当ててくる。坂本は上下に打ち分けつつ強引にパンチを振っていくがなかなかタイミングが合わず。終盤には左のボディから右、左フックと良いコンビネーションが叩き込むが、詰め切れずにここでコング。 3Rから坂本がじわじわと苦戦を強いられる。序盤から接近戦での打ち合いとなるが、カノーンスックが強引に坂本をロープに押し込みショートアッパー、ストレートとスピードのあるパンチが次々にヒットしていく。坂本は一発狙いの大振りの強打を何度も振り出すが、空を切ってしまう。そのスキにカノーンスックは若さ溢れるキレのあるパンチを容赦なく叩き込む。 全盛期の坂本ならばノーガードで打ち合っても良さそうなパンチだが、やはり歴戦の体の衰えは隠せない。というよりも、昔を知っているボクシングファンにとっては坂本がここまで自分の身体を犠牲にしてまでリングに上がり続けていたことには驚きだったはずだ。 無論カノーンスックも無名ながら力強いヤングファイターで、引退興行だからと言って楽な対戦相手を選ばないのも非常に坂本らしいところだ。もうこうなったら互角の勝負。 試合を見守る場内からは「頑張れ!坂本!」のコールが飛び交う。4R以降はそれに応えるように坂本はどんなに打たれても闘志を絶やさず全力で立ち向かっていく。中盤には強烈な左フック、そして続けざまに右ストレート。ふらふらになりながらビッグパンチを懸命に狙う坂本の姿、これこそがファンたちが愛し続け、支え続けてきた男の生き様だろう。坂本の原点とも言える福岡の児童施設「和白青松園」の子供たちも心配そうな表情を浮かべながらも「坂本お兄ちゃん」へ熱い声援を送る。 しかし坂本は5Rにバッティングで左瞼の古傷を切り流血。6Rにはこの瞼の傷が開き始め、ついにはドクターチェックが入る。試合が再開し、坂本は顔面を血で染めながらも決して諦めず、相手の勢いに押し込まれても一歩も引かずに打ち合う。7Rが始まり、中盤には坂本が左フックからボディの連打、そして右のフック気味の強打を側頭部に叩き込み、カノーンスックがバランスを崩す。カノーンスックもダメージがあるようで組み付きながらロープに押し込むだけの展開に。このラウンド終盤に坂本は連打で見せ場を作るが、詰め切れずにゴングが鳴る。 そしてここでラストファイトの終結が訪れる。大きく広がった坂本の傷を見たレフリーが駆け付け、両手を振ってついに試合を止めた。場内からはどよめき、坂本は大きくうなだれる。バッティングによる負傷のため7Rまでの判定に勝敗は持ち込まれ、結果はドロー引き分けに終わった。 完全燃焼とは行かなかったが、満員の会場は坂本の最後まで諦めない姿に大きな拍手で健闘を称える グローブを脱いだ坂本はリング上から「現役最後にこんな試合をしてしまって申し訳ありませんでした」と頭を下げ、「90年代は突っ走ってきて頑丈な体を売り物にしていたんですけど、それから故障をしてもうこれ以上はできないなと思うところまでやってきました。でも手術をしてまたリングに上がろうと思えたのは皆さんの熱い声援のおかげです。僕のボクシング人生の全てを応援してくれた皆さんに捧げます。ありがとうございました!」と語り、大歓声が起きる。 最後の試合については「ドローが一度もなかったんで現役最後がドローで、これもまた人生かな、と。ボクサーとしては今日で引退しますが、僕の人生は終わりません。これかも前に進んで熱く生きていきますんで宜しくお願いします!」と締めくくった。 試合終了後には親友の辰吉丈一郎をはじめ坂本と交流のあるボクシング界の戦友たちが集合し、坂本を称えていた。
坂本博之
最後の試合は勝利で飾れなかったが、決して諦めず最後まで熱く戦う姿を見せてくれたのは間違いない。傷だらけでリングを去るということも、また坂本らしい幕引きだったのではないかと思う。坂本博之はグローブを置くが第二の人生を歩む坂本博之のこれからにもまた期待したい。 控え室でのコメント 「完全燃焼とは言えないけれど、打たれても前に出る自分のスタイルを貫き通そうと思った。自分がやれるのはここまでかな。6Rが終わってレフリーが止めようとしたんだけど、止めないでほしいって言って試合を続けてもらった。完全燃焼とまでは言えなかったけれど、KOデビュー、新人王、日本、東洋を獲って4度の世界挑戦に破れて、そして傷だらけのドローで引退する、すべて含めて坂本博之だと今は思います。90年代は自分は不死身だと思った、あの(スティーブ・)ジョンストンのピストルの弾のようなパンチを受けても大丈夫だと思った。でも僕のような打たれても踏ん張って耐えるボクシングは一番腰に負担がかかる。現役最後はやっぱり自分も生身の人間だったことを強く認識させられました。それでもこの15年間で得たことは僕にとってかけがえのない財産です。そして辰吉や吉野弘幸や…同じ時代を沸かしたボクサーたちが駆け付けてくれて本当に嬉しい。これからは僕の経験を若い世代に伝えていきたい。皆様本当にありがとうございました」


■坂本博之プロフィール
http://www.kadoebi.com/boxing/players/index.cgi?n=339

posted by 角海老広報室 |21:05 | 試合レポート | コメント(0) | トラックバック(0)
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