2008年06月16日
田中栄民の徒然なるまま日々のこと「小堀の世界戦を振り返って(1)」
皆さんもご存じの通り、5月19日にWBA世界ライト級タイトルマッチに挑んだ小堀(佑介)が王者ホセ・アルファロを3回TKOで倒し、ついに世界チャンピオンのベルトを手にした。俺自身、トレーナーとしてこの運命の一戦を終えてようやく落ち着いてきたところ。色々と振り返ってみたいと思う。 これは今だから話せるちょっとした裏話なんだが、実は試合の3週間前にちょっとしたトラブルがあった。小堀が帝拳の(WBC世界フェザー級王者ホルヘ・)リナレスとのスパーの最中に左フックを空振りして腰をケガしてしまい、この大事な試合を直前にして歩くことさえおぼつかないほどの状態。本人もかなりキツそうにしてて、とにかく1週間は練習を休んで完全療養させる緊急措置を取ることにした。 さすが世界戦だけあって万全の状態でリングに上がらせてやりたいが、果たして試合までに回復するのかどうか。例え回復しなかったとしても、もうここまで来たらやるしかない。ジムのスタッフや関係者も気が気でならなかったし、小堀自身も「痛み止めを飲んででもやる」と腹をくくってたしね。小堀は割と試合前にこういうトラブルが過去にもいくつかあって、俺は「毎度のことだし大丈夫」と口では言っていたが、内心はやっぱり心配だったよ。 ところが結果的にこの休養が功を奏した。まず腰の状態がなんとか回復してくれて練習を再開できるようになった。そしてなによりも世界戦に向けて猛練習をしてきたため、この1週間の休養のおかげで溜まっていた疲れがちょうど良く抜けた。最後の1週間ではさらに激しく追い込むことができて、仕上がりにキレが出たね。一時はどうなることかと思ったが、振り返ってみれば、むしろそれさえも小堀が世界チャンピオンになるという流れの中の出来事だったのかもしれない。なぜなら、小堀は今回の試合には過去最高の状態でリングに上がることができたからね。 それでは、俺たちは肝心の試合に向けてどんな戦略を立ててきたか。チャンピオンのアルファロというボクサーは武骨なパンチャー、言ってしまえば一発屋だ。技術よりもハートと勢いでのし上がってきた選手だな。 こうしたタイプのボクサーは小堀にとっては相性の良い、戦いやすい相手だ。小堀はファイターだが、カウンターボクサーでもある。回転力を活かしてラッシュを仕掛けながら、タイミングでカウンターを取っていくというのが必勝パターンだから、とにかく打ち合いになれば滅法強い。 それでは、俺たちはどんな作戦でこの試合に挑んだのか。まず基本は常にワンツーで入っていくこと。そして向こうが打ってきたところを右ストレートから左フックのコンビネーションでカウンターを取っていく。アルファロの一発は怖いが、打ち合いとなれば小堀の方が回転は速いし、あいつはスピーディーなコンビネーションの中にも細かいフェイントを入れたり、そういう技術も持ってるからね。 とにかくチャレンジャースピリットを持って、絶対に引かないこと。打ってくる相手に下がらずに踏み込んでいくこと。これはもう具体的な作戦の前に今回の試合に向けた一番大きなポイントだった。 ただアルファロのパンチは予想以上に強かった。目と耳に一発貰っただけで切れてたからね。2回にダウンを取られたけど、小堀が過去にダウンしたのは4回戦の頃に1度だけだからね。そんな強打を持った相手に対して踏み込んでいくのはかなり勇気の入ることだったと思うけど、小堀は恐れなかった。勇気を持って踏み込んでいけたことは大きな勝因だと思う。 そして肝心の試合だが、入り方も良かったな。こっちは立ち上がりから行くつもりだったから、そういう意味では1ラウンドは完璧だったと思うよ。行くところで行ったし、しっかり練習したことが試合で出来てたからね。最初からお互い激しいパンチの応酬でお客さんも興奮したんじゃないかな。 そして2ラウンド。中盤にアルファロの左フックをカウンターでもらい、バランスを崩したところに右をもらってスタンディングダウンを取られたんだが、ただ割と早いタイミングでダウンを取ってくれたおかげで、アルファロの追撃を食わずに済んだのがラッキーだった。大したダメージもなくて後半は逆に小堀が反撃してたからね。 とにかくこのラウンドを見ていて、ダウンを取られたこと以外は完全にこっちのペースだった。アルファロの攻撃は破壊力はあるが、極めてシンプルで分析通り。カウンターのタイミングが合ってきてたし、この時点で勝利の手応えを感じ始めてたかな。コーナーに戻ってきた時に「どうだ?」って聞いたら、あいつは「全然効いてません」って言うから、3回はゴーサインを出した。思い切り行ったれとね。 3回のダウンシーンは見事だったな。あの右からのカウンターの左フックはもう死ぬほど練習してきたコンビネーションだし、これ以上ないタイミングで入ったからね。小堀のKOパンチだし、まともに食らったらさすがのアルファロでも立ってられないよ。その後は本当に小堀らしいいつものまとめ方で、本当に小堀の集大成と言っていいほどの内容だった。 (2へ続く)
■田中栄民プロフィール
http://www.kadoebi.com/boxing/trainer/tanaka/
■小堀佑介プロフィール
http://www.kadoebi.com/boxing/players/index.cgi?n=338
posted by 田中栄民 |13:38 |
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