2008年05月29日

『エピソードⅠ 別人からの励まし』村木田一歩

大事な試合の前にチョロチョロするのはまずいと思ってはいたけど、我慢できなくてジムへ行ってみたのが、5月15日。ちょうど『ホセ・アルファロ』や『ポー ラス・モセス』それに何故か『ローマン・ゴンザレス』も来ていたな。『モセス』は延々縄跳びやってて、まるでマサイ族みたいだった。間近に見る『アルファ ロ』は中南米人特有の浅黒い肌をした超の付くイケメンだった。


だけど、驚いたなあ。『小堀さん』は、まるで違う『小堀さん』になっていた。まず身体の仕上がりが違っていた。今までは絞ればフェザー級でも戦えそうな、若干余裕のあるスーパーフェザーだったけど、今は絞り切った上でのライト級の身体になっていた。
一日もサボらず鍛えたっていうのは、本当だったんだ。
 
既にスパーリングを切り上げている時期だったけど、『田中トレーナー』とのミット打ちでのパンチが今までとは桁違いだった。体幹がしっかりしていて、リズミカルに軽く打ち放つ全てのパンチに恐ろしいほどの切れがあったし、目付きも普通じゃなかった。
これまでで最強だと感じた。本当にそう思ったから「負けるわけがない。」と彼に声を掛けたら、コクッと頷いて「自信になります。」と答えた。
 
『エピソードⅠ 別人からの励まし』
『小堀さん』のことは、去年の4月のこのコラムでほぼ言い尽くしたと思ってたけど、『小堀さん』はもっともっと画期的に進化していたのだ。 彼は、2005年『イーグル』と『高山勝成さん』とのタイトル戦の前座で『鈴木哲也君』を倒したあたりから、突然強くなったと今でも思っている。巷では『真鍋圭太さん』の方が圧倒的に有利だと言われていたタイトル戦も、自分は『小堀さん』の勝利を疑っていなかった。 相手の打ち出しを待ってのカウンターだけでなく、『小堀さん』は打ち合いの中でカウンターのチャンスを見つけるし、次のカウンターを打つための捨てパンチも器用にこなす。その日、『田中トレーナー』は左の使い方を何度も何度も指導していた。その左で二人は世界を取った。 実 を言うと、世界戦はもう少し先の方がいいと思っていた。直近の二つの防衛戦は後輩からさえ「何やってんですかあ。」となじられるような正直少しヘタレタ試 合だったし、もう少し『小堀さん』を楽しみたいとも思っていたので、負けたら引退というのはちょっとシンドイ気持ちだったからね。 『小堀さん』が以前に言ったこと……。 「次もいい試合ができるかわかりませんが……。」 「ひとつひとつコツコツと……。」 彼の謙虚で真っ正直な人柄が表れた自分の大好きな言葉だ。 試 合が近付くにつれ、ジムには取材陣を中心に多くの人たちが訪れ、他のボクサーたちの練習に支障をきたすような状況も起きたが、『小堀さん』はそのことをと ても申し訳なく感じていて、先輩の『榎洋之さん』にはちゃんと詫びている。そこらへんがエライくてスゴイと『榎さん』が言ってた。 そういう性格はジムのスタッフ、特に女性陣からも愛されていて、時には母親のごとく、時には姉のようなサポートを受けていた。今回の世界戦では、WBAの役員をはじめ、ジャッジ、リングアナ、『アルファロ』、『モセス』、モセスの相手『クルーグリック』のそれぞれ御一行、それにかの『ドン・キング一家』の来日離日のスケジューリングやホテルの手配や移動の段取り、試合の承認を受けるためのWBAやJBCに対する雑多な書類の往復など、そりゃあ大変だったらしいよ。 それから、“エビログ”の追っかけ記事も的確だったし、『田中トレーナー』や『坂本博之さん』のコメントもホットだったなあ。 この時期の角海老ジムのホームページは、『小堀さん』の世界戦に向けて一丸となっていて、とても気持ちがこもっていた。 そんな穏やかで愛すべき『小堀さん』が、試合前日「ぶっ殺してやります。」と言った。彼の中で何かが変わって、世界戦を前に徐々に別の人間になっていくようだった。 そして、同時に語った言葉が……。 「僕のような人間でも、何かを成し遂げられるというところを見せたいと思います。」 「僕みたいな人間を応援して下さっている人に感謝しています。」 「僕のボクシング人生の全てを出すつもりで全力で戦います。」 そして、「いつか励ます側になってみたいです。」 2008 年5月19日、あの日“ディファ有明”で自分は、何十年に一度の試合を見た。1700人の観客たちも同じだったらしく、みんな興奮してなかなか帰らなかっ た。泣いている人も沢山いた。知らない人同士がハイタッチを繰り返し、みんながその瞬間に『小堀さん』に励まされたのを感じた。何のために頑張るかを見つ け、頑張ると決めた時、人は変わるということか。 この夜、『小堀さん』はまさしく励ます側にまわった。 思えば去年すぐ近くの“有明コロシアム”で『本望信人さん』が激闘を繰り広げたのも5月、あの晩も帰り道足元がフワフワしてたっけ……。


posted by 村木田一歩 |14:45 | コラム-リングサイド | トラックバック(0)
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