2008年01月20日
クローザー上原の功罪
開幕から1ヶ月故障離脱していた上原浩治に、これだけMVP票が集まるとは思ってもみなかった。
別項でセ・リーグMVPについて扱った際にも、上原への信望の厚さがうかがえるコメントが寄せられ、これはしっかり検証しておく必要があると感じさせられた次第である。
沢村賞を二度獲得した上原は、クローザーとしてどのような役割を果たしたのか。功罪含めて振り返ってみたい。
上原 浩治
登板数55 投球回数62 4勝3敗32セーブ ※WHIP0.84 奪三振率9.58 防御率1.74
※(被安打+四死球)÷投球回数
1イニングあたりに許すランナー数の目安(07年セ・リーグ平均は1.46)
まずは、昨年の上原が残した成績である。
「登板数」「投球回数」「勝敗」「セーブ数」がチームへの貢献度を表す数字なら、「WHIP」「奪三振率」「防御率」は投手としての能力を示す指標である。
リリーフの仕事は、数字に表れにくい。だからこそ、リリーフピッチャーのMVP獲得には、「貢献度」と「能力」で完璧に近いものが要求され、その「実績」においても周囲を納得させるだけのものが必要になる。
比較対象として、同リーグ内屈指のクローザー二人の成績を用意する。
岩瀬 仁紀
登板数61 投球回数59 2勝4敗43セーブ WHIP1.05 奪三振率7.63 防御率2.44
藤川 球児
登板数71 投球回数83 5勝5敗46セーブ WHIP0.83 奪三振率12.47 防御率1.63
三者を比較してみると、開幕から出遅れた上原は、積み重ねの数字でやや劣る。逆に、統計数字では藤川と甲乙つけがたい成績を残した。
とはいえ、1年間チームに帯同した2人とでは価値が違う。上原をMVPとするには、「貢献度」の面から条件を満たしていないと言える。
また、個人成績には残らない貢献度を計るため、クローザー3人の点差別登板状況を比較してみた。当然、僅差の場面での登板が増えるほど、その価値は高まる。
上原 岩瀬 藤川
1点リード 9 17 18
2点 〃 8 11 20
3点 〃 11 19 10
4点 〃 12 5 7
5点 〃 1 1 1
6点 〃 1 3
7点 〃 2
10点 〃 1
同点時 10 5 13
1点 2
ビハインド
登板数 55 61 71
傾向は、明確に表れている。上原は、岩瀬や藤川ほどにタフな場面で投げていない。1、2点のリードより、3、4点のリードを守るケースが多かったのである。
内訳を見ると、終盤まで激しい優勝争いを繰り広げたドラゴンズ戦には、1点リードの場面で1試合、2点リードの場面で3試合投げただけだ。タイガース戦に至っては、ともに1試合ずつにしか過ぎない。
逆に、藤川は、ジャイアンツ戦1点リードの場面で8試合も投げている。
このような傾向が現れるのは、ジャイアンツのチーム構成に原因がある。
言うまでもなく、ジャイアンツは強力打線を抱え、大量得点を望めるチームだ。反面、効果的な足攻から局面を打開する、などという芸当にはほぼ縁がない。スコアが大味になるのは当然で、それだけクローザーの出番もまちまちになってしまう。1点をしぶとく勝ちにつなげるドラゴンズや、先攻逃げ切りのタイガースとは、まったく性質の異なったチームなのである。
破壊力抜群の打線が火を噴けば、相手チームは勝ちパターンのリリーフを送ることができない。力の劣る2番手以降のリリーフから、追加点をあげるのは容易である。そのような展開に持ち込めれば、大量得点が、アキレス腱となるブルペンを覆い隠す。攻撃は最大の防御なり、である。
実際、昨季のジャイアンツは、大味な展開に持ち込むほど勝率が上がった。5得点差以内の試合では60勝59敗だが、6得点差以上の試合には20勝4敗と圧倒的である。ゆえに、他球団ほどクローザーへの需要は高くならない。ジャイアンツのようなチームでは、絶対的なクローザーの確立が最優先事項とはならないのである。
00年以降の、シーズン勝率1位チームで例を挙げてみよう。
ジャイアンツは00年、開幕からクローザーの槙原が背信の投球を続け、代わった桑田も結果を残せない。それを受け、セットアッパーの岡島を配置転換することとなったが、防御率3.11で7Sを挙げただけである。02年には、河原がクローザーに定着した。2.70の防御率と河原自身は安定していたが、リーグ4位の28セーブという数字が、セーブ機会の少なさを物語っている。
01年、バファローズが優勝を果たすが、チーム防御率はリーグ最下位。クローザーの大塚もご多分に漏れず、26セーブで4.02の防御率である。
ホークスは03年、日本一に輝いたが、スクルメタが11セーブ、篠原が10セーブであり、年間を通して信頼の置けるクローザーはいなかった。2年連続シーズン勝率1位を果たした翌年は、新人王に輝いた三瀬が28セーブを記録するも、防御率は3.06である。さらに、その翌年のホークスは馬原がクローザーに定着するが、防御率は3.08で22セーブを挙げたに過ぎない。
彼らのほとんどが良い投手であっても、「磐石」とするには疑問が残る投手であった。
絶対的なクローザーの不在は、先発力と得点力で補うことができると過去が証明している。01年のバファローズは例外にしても、先に挙げたほかのチームは、スタートに豪華な投手を揃えた。そして、05年のホークスを除く全てのチームが、リーグトップの得点を挙げている。
では、上原以外で、今季、試合の締めくくりを任せられたのは誰か。答えは、リリーフ陣の中で、上原に次ぐ成績を収めた豊田である。
上原は、1点リードの場面で9試合、2点リードで8試合、3点リードで11試合に登板した。上原の防御率は1.74であるから、1点リードの9試合中1.7試合でセーブに失敗するという計算が成り立つ。
対する豊田の防御率は3.38だ。上原と同様に仮定すると、豊田は1点リードの試合で3.4試合、2点リードの試合で1.5試合、3点リードの試合で1.3試合に追いつかれることになる。
2人の成績を比較すると、クローザー上原は勝ち試合を1.7試合壊し、同じ状況で豊田は6.2試合を壊すことになる。上原ではなく、豊田にしんがりを任せていれば、ジャイアンツは差し引き4.5の勝ち星を失っていただろう。
つまり、ジャイアンツはたかだか4つや5つの勝ちを守るために、上原のクローザーに執着したのである。4つや5つと簡単に言えるのは、上原の先発復帰に伴う波及効果が、それを補って余りあるほど大きなものだからだ。4つや5つの負けを受け入れることで、それを上回る勝ち星を得ることができたはずなのである。
ここからは、そのことについて触れるとともに、クローザー上原の存在がチームにもたらした悪影響について述べておきたい。
怪我から復帰した上原は、シーズン終盤まで1人元気だった。あの様子では、先発としても好成績が期待できたはずだ。昨シーズン同様、アテネ五輪で1ヶ月離脱した04シーズンの成績が参考になる。22試合に登板して13勝5敗、防御率2.60は出来すぎかもしれないが、不可能な数字ではないだろう。
だが、上原の復帰当初は、ローテーションがしっかり守られていた。上原の体調も考慮し、手薄だったブルペンに迎え入れたのは正解だったかもしれない。しかし、「今年は抑え一本で」と決めたのが失敗だった。金刃はルーキーで、木佐貫は故障明けの選手である。最悪の事態を想定して、後半からの先発起用も考えておくべきだった。
問題は、今季ジャイアンツをリードした両左腕、高橋と内海にもあった。原監督は、第1次政権時から「エースはシーズン終盤、中5日や4日で投げれなければならない」と口にしている。ドラゴンズとタイガースの猛追に遭い、迎えた9月。高橋は中4日で2試合、中5日と6日で1試合ずつに先発し、リリーフとしても1試合に登板と、フル回転する。だが、先発したドラゴンズ戦2試合とタイガース戦1試合では、どれも5イニング以内での降板となった。
内海も、中5日中心の登板からくる疲労によって、シーズン序盤ほどの勢いがなくなっていた。迎えたクライマックスシリーズ第2ステージ。内海は初戦のマウンドを任されるが、4回を投げて早々にマウンドを降りる。
彼らにエースを求めるのは無理だったのだ。
「クローザー上原につなぐ」という意識は、先発やブルペン全体にモチベーションを与えていたかもしれない。しかし、ジャイアンツ投手陣は終盤、気持ちどうこうの問題以前に、体力がなかったのである。上原が長いイニングを投げていれば、チームは楽になった。大量得点差での登板も目立ったのが、クローザー上原であるが、勝ちを勝ちにつなぐことしかできないポジションの特性にはやきもきしたはずだ。
中4日は全て上原が引き受け、高橋が中5日中心に。内海は中6日で、という状況が確立されていれば、ジャイアンツは後半も優位に戦えただろう。他球団には、川上や黒田、三浦など、力あるエースがいるが、2番手以降は実力でかなり劣る。ジャイアンツは、高橋から内海、木佐貫までは、そう見劣りしない。
先発に余裕が生まれれば、当然好投が増える。先発の好投は、長いイニングの消化を呼び、リリーフ陣の登板機会と負担が減少を呼び込む。それがリリーフの好投につながる、という好循環が生まれていただろう。西村などは、9月の防御率が5.65と、限界に達していた。
こちらも、あくまで仮想の域を出ないが、クライマックスシリーズにも同様のことが言えるかもしれない。初戦、落合竜の奇襲に対応できなかったジャイアンツだが、それでも2点を取っている。上原には十分な援護だったのではないか。そして、高橋に2戦目のマウンドを託せば、歴史は変わっていたかもしれない。ジャイアンツはこの試合、川上から4点を奪っている。
上原のクローザー起用は、ジャイアンツの打線にも影響を与えた。クローザー上原の固定が、チームの動脈硬化を引き起こしたのである。
繰り返すが、ジャイアンツは点が点を呼ぶ循環で勝つチームなのだ。他球団ほどに、僅差の試合に対して過敏になる必要はない。そうであるにもかかわらず、後ろが安定してしまったことで「1点を取ろう」の意識が過剰なまでに作用し、よそ行きの野球が始まったのである。
ジャイアンツは、中軸に怪我人や不振者が出ると、先頭の高橋を3番で起用した。得点圏打率の高さを見込んでのことだろう。だが、ここだけは代えてはならなかった。
代わってトップを務めたのは静かなる巧打者谷だったが、そこから打線は迫力を失うのである。つなぎ役には木村が入り、悪循環に拍車が掛かった。木村は、強力打線の中で、下位を打つ分には良いアクセントになっていたが、上位を打てば事実上の穴でしかなかった。
爆弾も、導火線なしには爆発しない。高橋を生かすはずだった打順は、得点圏自体が減り、流れを失う。「侵略すること火の如し」を絵に描いたような打線は、すっかり鳴りを潜めた。
高橋をトップに据える打線のように、ジャイアンツの野球は大味である。クライマックスシリーズ初戦敗退を受けて、「細かい野球ができない」とする声は多かった。たが、そんなことはする必要がない。根拠は、前回出場した日本シリーズにある。
ジャイアンツは、その圧倒的なタレントでもって、「緻密な野球」の代名詞のようなライオンズをスウィープした。00年も同様である。「緻密な野球」の重要性は、それを標榜するチームにとっての論理にしか過ぎない。
肉を切らせて骨を断つ覚悟がなかったのは、ジャイアンツ首脳陣であるが、クローザー上原の存在は追い風にはならなかった。
上原の1番の武器は、何と言ってもリズムとテンポの良さだ。
その上原を、イチローは「世界のどのチームを相手にしても、自分のペースでピッチングができる」と評する。
リズムがいいから、上原は乱れない。テンポがいいから、相手の攻撃がすぐに終わる。上原が作ったテンポは打線に移り、そこから流れが生まれるのだ。
クローザーのポジションでは、持ち味が半減した。
生粋のスターターは今、まっさらなマウンドに飢えている。
posted by AKIRA |07:26 |
プロ野球 |
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