2008年01月06日

2007年セ・リーグ真のMVPは誰だ!?

07年シーズンのセ・リーグMVPには、ジャイアンツの小笠原道大が選出された。小笠原は、昨年のファイターズでの受賞に続き2年連続での選出となり、両リーグでのMVP受賞は江夏豊以来2人目である。

打率.313(4) 95得点(2) 31本塁打(6) 88打点(9) 長打率.539(4) 出塁率.363(11)( ) はリーグ内順位
以上が、07シーズンに小笠原が残した主な打撃成績である。
素晴らしい数字であることに違いはないが、「最も優れた選手」とするには物足りない数字ではないだろうか。

打率.313(4) 77得点(3) 32本塁打(1) 100打点(1) 長打率.573(1) 出塁率.397(3)
これは、小笠原が初のMVPを受賞した06年に残した成績である。
06年と07年。数字だけを単純比較してしまえば、そう違いのない数字であると言える。だが、同じような数字でも、リーグ内における順位に大きな違いが表れている。出塁率を下げながら得点が増えたのは、ジャイアンツの中軸が強力であったからに他ならない。怪我の影響も含め、ジャイアンツ移籍1年目の小笠原は総合的に成績を落としたと言っていいだろう。

打率.324(.360) 89(126)得点 29(37)本塁打 88.5(102)打点 長打率.570(.649) 出塁率.409(.473)( ) はキャリアハイ
比較対象として、小笠原が初めて規定打席に達した99年から06年まで8年間の平均成績を算出してみた。
小笠原が活躍した頃のパ・リーグが極端な打高投低にあったとはいえ、これだけのアベレージはやはり立派である。積み上げてきた数字が立派であるために、今シーズンの成績が見劣りしてしまう。

松井 秀喜(00年)
打率.316(3) 116得点(1) 42本塁打(1) 108打点(1) 長打率.654(1) 出塁率.438(1)
ロベルト・ペタジーニ(01年)
打率.322(3) 93得点(4) 39本塁打(1) 127打点(1) 長打率.633(1) 出塁率.466(1)
松井 秀喜(02年)
打率.334(2) 112得点(1) 50本塁打(1) 107打点(1) 長打率.692(1) 出塁率.461(1)
金本 知憲(05年)
打率.327(3) 120得点(1) 40本塁打(2) 125打点(2) 長打率.615(1) 出塁率.429(2)
福留 孝介(06年)
打率.351(1) 117得点(1) 31本塁打(6) 104打点(5) 長打率.653(1) 出塁率.438(1)
00年以降、野手としてセ・リーグでMVPを獲得した選手を掲載した。
日本のプロ野球では、「最も優れた選手」ではなく「最も貢献した選手」にMVP票が多く集まる傾向にある。「最も貢献した選手」ではなく、「最も優れた選手」にMVPを与えると定めているのに、だ。よって、優勝チームの選手から選出される傾向にある。
同様に、個々の数字にも傾向は表れている。、チームへの貢献度を表す「打点」「得点」と、打者としての実力の指標を示す「長打率」「出塁率」で、軒並み高い数字を残していることだ。
面白いのはこの5人が、05年金本の出塁率を除いた全ての「長打率」「出塁率」の部門でトップに立っているということである。00年代序盤は、現在ほど「長打率」や「出塁率」の重要性が浸透していたわけではなく、MVPを選出される際に考慮されていたとは考えにくい。このことから、チーム数の少ない国内のプロ野球では、「最も優れた選手」と「最も貢献した選手」は、密接な関係にあると言える。
上記の5人は、いずれも優勝したチームからの選出であり、「最も優れた選手」でありながら「最も貢献した選手」でもあったように思える。MVP受賞の栄誉に預かるのも当然のことだろう。
このように考えると、小笠原の07シーズンMVP受賞に不当なものを感じざるを得ない。


では、07シーズンセ・リーグMVPにふさわしかったのは誰なのか。
最も条件を満たしていたのは、ジャイアンツの高橋由伸であったと思う。

ただ単に「最も優れた選手」を問うのであれば、スワローズの青木宣親やアレックス・ラミレスあたりが対抗馬として挙げられる。特に青木は守備・走塁面での貢献も大きく、「最も優れた選手」の最有力候補だ。しかし、所属チームの成績を考えた時、彼らの名前は早々とリストから姿を消すことになる。
よって、07年の高橋が小笠原よりも優れた選手であり、貢献を果たした選手であると証明することができれば、それが「高橋こそ真のMVP」の証明になるように思う。
ここからは、高橋をMVPに推す理由を述べてみたい。

打率.308(6) 76得点(11) 35本塁打(2) 88打点(9) 長打率.579(1) 出塁率.404(3)
まずは07シーズンの高橋の成績を振り返り、過去の受賞者との比較を行う。すると、小笠原同様、数字の面ではいまひとつ物足りなさを感じる。しかし、07年の高橋は主にトップバッターを務めた。クリーンナップとして受賞した5人との単純比較はできない。
打率や打点が少なくなるのはトップバッターであれば当然で、このポジションとしては十分な数字である。トップバッターとして重要な得点数がリーグで11位となっているが、上位にひしめくのは、これも中軸を任されるような選手が多い。高橋に不利な見方をするなら、快足の持ち主であればもう少し数が増えていただろうか。
「本塁打」「長打率」「出塁率」の項目からは、高橋がリーグ有数の攻撃的なバッターであることがうかがえる。本塁打数はトップのベイスターズ・村田と1本差。出塁率こそリーグ3位だが、これもトップバッターとしての役割を担っていたためであり、OPS(長打率+出塁率)はリーグで1位。クリーンナップを任されていれば、10割超えも望めたはずである。
また、高橋は外野手としてリーグ3位の7補殺を記録し、1失策でゴールデングラブ賞に選ばれている。小笠原は三塁手として、野生的な打球反応で幾度もジャイアンツ投手陣を助けたが、この部門で高橋を大きくリードするほどに貢献できたわけではない。
以上を理由に、ジャイアンツ内で「最も優れた選手」は、小笠原でなく高橋であったと言い切ることができる。

それでは、高橋の果たした貢献とはどのようなものであったのか。
表立った数字には表れにくい要素を考えてみる。

1)強打のトップバッターがもたらすメリット
高橋は、従来のトップバッターとはイメージの違う、「強打のトップバッター」として新ポジションに据えられた。オープン戦で、原監督が先頭打者としての起用を明言すると、早速「由伸だと足が使えない」「早打ちの由伸で大丈夫か」の声が上がった。

確かに高橋は足が使えない。本人曰く「なぜか速く見られるが、松井さん(ニューヨーク・ヤンキース)より遅い」とのこと。プロ10年間での通算盗塁数は22にしか過ぎず、失敗も22で成功率は5割である。本人の意思だかサインかはわからないが、07年の成功1に対して失敗5は印象を悪くしただろう。
だが、トップバッターに求められものは、1にも2にも「出塁」である。足が使えるに越したことはない。一つでも先の塁に進むことも、相手バッテリーに無形のプレッシャーを与えることも、ゲームを有利に進めるための武器である。しかし、それはあくまで「出塁」という前提から派生したオプションに過ぎない。
特に、ジャイアンツのようなチーム構成であれば、足攻の需要は減る。あれだけ強力な中軸が後に控えているのだ。「待て」のサインが、強力打線の抑制となって働いてしまうリスクの方が大きい。この打線に塁上からの援護は必要なかった。トップバッターはただ、ベースに蓋をしておけばよかったのである。
ちなみに、トップバッターとして4割を超える出塁率を維持したのは、ここ10年間で、98、99年の緒方孝市(カープ)と07年の青木宣親、高橋由伸のみだ。

「早打ち」についても賛否両論はいろいろとある。反対派の意見としては、「トップバッターはなるべく多くの球数を投げさせ、相手投手を消耗させなければならない。そして、球筋を味方に伝達しなければならない」といったところだ。
しかし、継投全盛のこの時代、待球は以前ほど意味を成さない。確かに、積極的な高橋が初球を打ち損じ、淡白な攻撃につながる可能性もある。それでも見逃せないのは、多くのプロ野球OBが口をそろえて「1番高橋は怖い」と語る点だろう。
最初に対峙する打者が振ってこないと分かっていれば、投手は好きな球を投げ、自分のペースで試合に入っていくことができる。逆に、高橋のような打者が相手ではそうもいかない。初球から振ってくる、かつ長打のある打者に対して、バッテリーは余裕を持てないのである。相手バッテリーに過度の警戒心と慎重さを与えることができれば、試合開始から一気にイニチアシブを奪えるという寸法だ。
今季、巨人が初回に得点した試合は31勝14敗で勝率.689と、大きく勝ち越している。出塁するだけでなく、相手バッテリーに与える影響。ここには、数字に表れない価値が付随している。

2)打線の潤滑油としての働き
強力ジャイアンツ打線にあって、高橋の出塁は潤滑油のような役目を果たした。
まずは、高橋の後を打つことの多かった、移籍1年目の谷佳知について触れてみたい。この谷の復活にも、高橋の出塁が大きく影響しているのではないか。高橋が出塁し、後ろには強打者がずらりと並ぶ。ならば、谷は「最悪進塁打でいい」と、楽な気持ちで打席に入ることができたはずだ。ここ数年は、怪我の影響から不本意なシーズンが続いていたが、元々は最多安打を獲得するなどバットコントロールに定評のある巧打者である。その谷にとって、来た球をボールに当てることなど造作もない。三振48と、1打席あたりの三振率0.08は、ともにカープの前田に次ぐリーグ2位である。湿っていた巧打者のバットは、潤滑油を注ぐことで再び輝きを取り戻した。
二人の優れたチャンスメイク能力は、チームに流れを呼び込んだ。07年、得点圏打率トップ10には、ジャイアンツの選手が5人を占める。1位、2位は、高橋と谷の.409、.379であるが、中軸を任された二岡、小笠原、阿部がそれぞれ.370、.324、.319と、シーズン打率を上回る数字を残した。李や清水も同様である。
先頭打者本塁打の記録を更新するなど、核弾頭としての高橋にばかり注目が集まったが、同時に周囲を高める役割も果たしていたのだ。

3)代えの利かない存在
得点力不足に泣いた打線にあって、テーブルセッターの確立こそが、昨年のジャイアンツに課された命題であった。07シーズン、弱点は解消され、06年にはちぐはぐだった打線が効果的に得点を積み重ねる。途中、怪我人や不振者も出たが、強打者揃いの中軸は、調子の良い者を入れ替え、やりくりすることによって事なきを得た。
だが、「1番・高橋由伸」の存在だけは代えが利かなかったのである。高橋は、17試合でスタメンを外れ、怪我人の穴埋めに9試合で3番を打った。その間26試合のジャイアンツの成績は13勝13敗で、平均得点は4.8から4.1にまで減少する。仮に、平均4.1得点を144試合で換算すると590得点にしかならず、リーグで3位の得点力に成り下がってしまう。もちろん、この数字でジャイアンツの優勝はなかっただろう。

4)存在感
チームへの「貢献度」を論じるのであれば、小笠原の野球に対する真摯な取り組みを挙げずにはいられない。小笠原の姿勢がチームにもたらすものは大きいという考えだ。
実際その通りなのだろう。だが、かつての金本知憲や小久保裕紀ですらそうであったように、移籍1年目の選手は周りのプレーに対してとやかく言うことができないものだ。ジャイアンツで率先してそれをするのは主将の阿部であり、小笠原は背中でチームを引っ張ったに過ぎない。
では、高橋にはそれがないのかと言えば、答えは断じてノーである。高橋を知っている者は、必ずと言ってもいいほど、彼の練習に対する勤勉さと熱い気持ちについて語る。人柄の良さも有名で、大学の後輩佐藤友亮は、「高橋さんがいなければ、何人も部活を辞めていた」と語る。高橋のチームに与える影響が、小笠原のそれに劣るとは思えない。
11の試合欠場も、06年に福留孝介が16試合に欠場しながらMVPを獲得したことを考えれば、さしたる問題ではないはずだ。

これらを総合して、満身創痍の小笠原ではなく、高橋由伸が「最も貢献した選手」であったと考える。


怪我をおしながら、あれだけ安定感あるプレーを見せた小笠原は称賛に値する。しかし、MVPともなれば話は別である。小笠原の安定感ではなく、高橋の爆発力こそがセ・リーグを制したジャイアンツの象徴であった。
観客の反応は素直なもので、東京ドームで試合を観戦すると、高橋の登場にひときわ大きな歓声が沸く。アウェイであっても敵味方関係なく、その場の人間全てが、ハラハラドキドキしながら高橋の初打席を見守る。ファンは本能的に察知しているのだ。高橋なら何かやってくれる、と。
原や松井のようにタイトルを獲得したわけではない。中畑や清原のようなキャラクターを持ち合わせているわけでもない。だが、高橋は高橋なりの方法で存在感を示した。
もはや、「4番が打てばチームは勝てる。打てなければ勝てない」という時代ではない。高橋がいて、二岡がいて、阿部がいる。これが、今のジャイアンツの姿なのだ。その中でも、今シーズンの高橋が占めるウエートは、誰よりも大きかったように見える。
実際の投票では、開幕から1ヶ月以上登板のなかった上原に次ぐ3位で、その価値が正しく評価されることはなかった。しかし、優勝を果たしたチーム内で、「最も貢献した選手」であり「最も優れた選手」であったのは紛れもなく高橋由伸だ。「最も価値のある選手」が、個人としては最大の名誉を逃したことを残念に思う。

posted by AKIRA |09:09 | プロ野球 | コメント(17) | トラックバック(0)
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