2007年01月08日
国立での決勝戦がもたらす雰囲気は、元旦のそれにも匹敵するほどだった。試合前には両校の校歌が斉唱され、カメラ越しに選手達の表情が映る。日本代表ではおなじみの光景だが、それを初めて体験する選手の表情はどことなく初々しさが感じられた。
豊富な運動量と堅い守備からの速攻というスタイルで決勝まで勝ち上がってきた盛岡商は準決勝は累積警告により出場停止だったFW東舘がスタメンに帰ってきた。一方、高い組織力とサイドを起点にした鋭い攻撃、相手に合わせたフレキシブルな戦い方が特徴である作陽は、注目のFW・村井はベンチスタートだったが、現段階で今大会得点王の小室をスタメンで起用してきた。
円陣によって作られた輪の中でモチベーションを高めた盛岡商、そして全員が手をつなぎ国立のスタンドを目にやりながら集中力を高めた作陽。3万人を優に超える大観衆に見守られ、第85回大会の王者を決める戦いの火蓋が切って落とされた。
運動量をベースにする盛岡商は、前線からのプレスがチームの生命線であるといってもいいほどだが、この試合でのプレスの厳しさ、速さは特に際立っていた。ボールをつないで攻撃の形を構築したい作陽の最終ラインに対して人数をかけてボールを奪い、そのままフィニッシュまで持ち込むといったシーンが前半何度も見られた。特に9分に東館が敵陣でボールを奪い、成田へつないでたった2人で決定機を作り出した場面は盛岡商のスタイルを如実に表していた。
自陣でボールを失うことが多く、落ち着きを取り戻すのに苦労した作陽だったが、得意のサイド攻撃に活路を見出し、少しずつ流れを引き寄せていった。立ち上がりは左サイドの濱中を起点にして攻撃を仕掛けることが多かったが、前半半ばごろから右サイドバックの桑元が積極的にオーバーラップし、小室とのコンビネーションでフィニッシュまで行く場面もあった。
前半最大の決定機は38分だった。左サイドに出たスルーパスに左サイドバックの長谷川が反応しファーサイドへクロスを上げると、走りこんできた櫻内が完璧なタイミングで頭で合わせたが、ボールはゴールネットの僅か上を通過した。
エンドが変わった後半、作陽の野村監督をして「彼が入ると雰囲気が変わる」と言わしめるチームのエース・村井が投入された。前半途中に何度もアップをしている姿が映し出されたように、村井の登場は、観客、茶の間の期待する所でもあった。
あらゆる期待を一身に受けて登場した村井。その期待に応えるまでに擁した時間はたったの11分だった。ペナルティエリア前でくさびのボールを受けると、3人に囲まれながら左足を軸にして右足でボールコントロールしゴールマウスを視界に捉える。間髪入れずに右足を振り抜き放たれたシュートはクロスバーを直撃したものの、跳ね返りをこの試合積極的な攻撃参加が目立っていた桑元が頭で押し込んだ。桑元のポジショニングも素晴らしかったが、それ以上に村井の技術と閃きが際立っていた。
なおもゴールを狙う作陽は、村井を起点にし、くさびを受けた村井を宮澤、濱中、小室が追い越していくことでチャンスを作る。しかし、追い越す動きをしていたのは作陽だけではなかった。劣勢に立たされた盛岡商は、ディフェンスの選手も積極的に攻撃参加し、右サイドを中心に少しずつ、確実にペナルティエリア内まで侵入し始めた。そして18分、前線へ顔を出したボランチの千葉がドリブルで切り込むと、ペナルティエリア内で倒されPKを獲得した。このPKを2年生の林が蹴るが、ボールはゴールポストの右をかすめていった。僅かボール1個分の差だった。
PK失敗による気落ちを心配した斉藤監督がすかさず林に「落ち着け!」と声を掛けた。これまでのPK戦でも1番手を蹴っていたようにPKに自信を持っている林が外しただけに、そのショックの大きさを察したのだろう。だが、武南、八千代といった関東の強豪校を倒して決勝まで勝ち上がってきたことは、林、そしてチームに揺ぎ無い自信をもたらしていた。
その自信はミスをしても下を向かない強い精神力となった。PK失敗から7分後、1分前に投入されたばかりの大山が左サイドを切り裂き低いクロスを上げるとボールはゴール前で待ち構える林のもとへ。1度はシュートし損なったものの、こぼれた所をつま先で押し込んだ。自分のミスを取り返してやるという執念が生んだ同点ゴールだった。
前半のスコアレスから一転してスリリングな試合展開になり、スタジアムのボルテージも一気に上昇する。それに呼応するように選手のプレーも激しさを増し、低いボールに対しても頭から突っ込んでいく。素晴らしい試合に、解説を務めたジュビロ磐田の中山選手も思わず熱くなる。そして39分、作陽が直接ゴールを狙える位置で得たFKに両応援団から沸き起こった「ゴール!」と「クリア!」の応援合戦。高校生が主役を演じたこの日の国立は、完全に劇場へと化した。
劇場に新たな演出が加わったのは、その僅か1分後だった。成田が左サイドを突破し作陽DFを見事な切り返しでかわすと、グラウンダーのクロスを送る。ニアへ飛び込んだ東館がそのボールをスルーすると後方で待っていた千葉が右足のインサイドでゴール左隅へ流し込んだ。これで2-1。盛岡商がついに逆転に成功した。
作陽に残された時間は決勝のみ適用される90分ルールにより、あと5分。その5分間、作陽は村井にボールを集め、同点ゴールを狙うが、キャプテン・藤村を中心とした盛岡商ディフェンス陣を崩すことが出来ず、成人の日の国立に長いホイッスルが吹かれた。
試合終了と同時に両手を突き上げる盛岡商。膝から崩れ落ちる作陽。そのなかにあって腰に手を当て呆然と立ち尽くす村井。その目は虚ろで、まるで魂を抜かれたようだった。しかし、これだけは言える。試合中の作陽の選手・スタッフ・応援団の魂は見るものの心に響いたはずだ。それはもちろん盛岡商とて同じである。優勝候補が早々に敗れたこと、PK戦が多かったこと、総得点数が少ないことからレベルへの疑問符もつけられた今大会だったが、1月8日の国立で繰り広げられたサッカーには、間違いなく「魂」があった。
posted by 犬太 |16:09 |
高校サッカー |
コメント(1) |
トラックバック(3)
2007年01月06日
高校サッカーの聖地・国立は、大荒れの天候となった。ピッチに立つ選手はもちろんのこと、ベンチに控える選手も震えた体を温めようと足を動かし、スタンドの応援団は雨ざらしになりながらも必死に寒さに耐え、選手を鼓舞し続けた。ボールは水溜りによってスピードを失い、濡れたピッチに選手は何度も足元を取られていた。
3.8度という身を震わすような状況下に加え、昨日からの連戦。このような厳しいコンディションの中にあって、両チームともスタメンに手を加えてきた。作陽は現在大会得点王の小室をベンチに置き、神村学園も鮫島をスタメンから外した。
立ち上がりからチャンスを作ったのは、神村学園だった。2分に右からの低いクロスに遠藤が飛び込み惜しくもサイドネットに当たるシュートを放つと、11分には同じような形から木村がボレーシュートを放ち、その1分後には作陽ディフェンス陣を切り裂き、中央で待つ遠藤へクロスを入れたがこれは合わせることが出来なかった。ほとんどのチャンスに遠藤が絡んでおり、遠藤を起点としてチャンスが生まれることが多かった。
このピッチコンディションに苦しんだのは、作陽だった。作陽の伝統ともいえる高い組織力を生かしたショートパスでの崩しにおいて、ショートパスはまさに肝とも言える部分である。センターサークル付近に出来た水溜りによりボールの勢いが殺がれ、ボールが止まってしまったシーンが象徴しているように、ショートパスを繋ぐのに苦労し、なかなか攻撃のリズムを掴むことが出来ずにいた。
しかし、作陽はしたたかだった。無理してショートパスを繋ごうとせず、1トップの櫻内に当ててそこからサイドに展開したり、サイドへ1本のロングパスを送ったりとパスの長短を使い分けることによって少しずつリズムを掴んでいった。
国立のスコアボードが動いたのは、前半24分だった。作陽が右サイドで得たFKに宮澤が相手と競り合いながら頭で合わせる。1度は神村学園のGK矢野が好セーブを見せたが、こぼれた所をキャプテンの石崎が押し込んだ。その後も作陽は押し続け、1トップの櫻内を濱中、宮澤が追い越していくことでチャンスが生まれていた。特に宮澤の飛び出しは神村学園ディフェンス陣を苦しめていた。
この試合、作陽に感心した所は、時間の使い方の上手さだった。前半ロスタイムに差し掛かると、作陽の選手は無理することなく前にボールを蹴り出すことで神村学園の勢いを止めていった。
後半に入ってもなお、雨はとどまることを知らなかった。ピッチコンディションがさらに悪化する中、作陽は小室、神村学園は五領というジョーカーを投入した。特に五領は竹元監督から「ラッキーボーイではない。出ればあれぐらいはやれる」と評されている選手であり、何とかして流れを変えようとする竹元監督の意気込みがひしひしと伝わってきた。神村学園は続けざまに中村、村田といった攻撃的な選手を投入し、何としてでも点を取る、という明確な意思が表れていた。
交代が吉と出たのか、確実に決定機は生まれていた。五領が積極的にボールに絡みシュートを放つと、中村は前線を所狭しと動き回った。だが、石崎、安井を中心とした作陽ディフェンス陣の壁をどうしても突破することが出来ず、1点が遠い展開になった。
一転して主導権を握られた作陽だったが、ここでもしたたかだった。小室の個人技に頼りがちだった前線にキープ力のある村井を投入することで攻撃にタメが生まれ、村井が起点となり、スピードのある小室が高くなったディフェンスラインの裏を突き、度々ゴールをおびやかした。そして後半ロスタイムに入ると、後半から投入された小室を下げ、直接狙える位置でのFKもカウンターを避けるために直接蹴らずにサイドへ出してボールをキープするなど、上手く時間を使っていた。
ほどなくして、試合が終了した。結局、前半からスコアが動くことはなく、「大人のサッカー」を見せた作陽が、決勝への切符を手にした。
posted by 犬太 |16:21 |
高校サッカー |
コメント(2) |
トラックバック(3)
2007年01月05日
横浜F・マリノスの水沼コーチも観戦に訪れた(私の5mほど近くにいた!)第2試合、注目はなんといってもJ1内定を決めている八千代の10番・米倉と11番・山崎だろう。前回大会優勝校である野洲を下した3回戦では共にゴールを挙げ、チームも国見、野洲といった強豪に勝ったことで勢いに乗っている。対する丸岡はこれまでの3試合すべてをPK戦で物にしており、得点もなく、失点もないという極めて稀なチームである。とはいえインターハイ準優勝、高円宮杯3位の初芝橋本を完封した堅守は本物であり、国見、野洲を破ったことで一躍優勝候補に躍り出た八千代とて決して油断の出来ない相手である。
試合前、丸岡の選手全員が第1試合との応援団の入れ替えによりしばしの「休息」状態に入っていたスタジアム全体に響き渡るような大きな声で校歌を斉唱し、モチベーションを高めると、キックオフ直前には、八千代イレブンの円陣に合わせて八千代の応援団も気合を入れた。
かくして始まったAブロック最後の試合は、互いに決定的なチャンスを作るもののそれを活かせないという非常にじれったい試合となった。丸岡は笹野のスルーパスに抜け出した中村が1対1でシュートを打つが決められず、八千代も下田のパスを受けた山崎のシュートが足にかかり過ぎたため、枠を捉えることが出来ない。山崎はその後もペナルティエリア内での鮮やかなボールコントロールからループシュートを放つが、これは梅井がゴールラインを割る寸前でクリアした。丸岡ディフェンス陣は山崎の個人技に手を焼いていて、特にペナルティエリア内でのシュートフェイントに何度もかかってしまったため、その形から何度もシュートまで持ち込まれていた。
先制点もその形からだった。前半34分、山崎が角度を右へ右へとずらしながらペナルティエリア内を突き進み、最後はほとんど角度の無いところからゴールネット上段へと突き刺した。これに触発されたのか、米倉も山崎と似たような形で左から中へと切れ込み、角度こそ違えど2本ほど惜しいミドルシュートを放ったが、これはそれぞれGK、DFにブロックされた。
丸岡はゲームプラン通りに、ラインを高めに設定しオフサイドトラップを積極的に狙う八千代ディフェンス陣の裏を突くことで度々決定機を得たが、それをゴールという形に出来なかった。するとそのツケが回ったのか、後半33分、途中出場の高橋のドリブル突破から得たFKを米倉が蹴り、このこぼれ球をまたしても山崎が押し込み、八千代に2-0とリードをさらに広げられた。
このままでは終われない丸岡はCBの梅井をFWに上げるなど攻撃型にシフトチェンジ。徳丸のFKがクロスバーを直撃するなど確実に得点への機運は盛り上がり、試合終了1分前の後半39分、徳丸とのコンビネーションで笹野が左サイドを突破し、これもほとんど角度の無い所から執念のゴールを決めた。何としても守り切りたい八千代と何としても点を取りたい丸岡との一進一退の攻防に、スタジアムのボルテージも上昇の一途を辿っていった。
しかし、良くも悪くも時間の管理の下に行なわれているのがサッカーだ。丸岡のロングシュートが八千代GKの腕の中に収まると、主審が時計に目をやり、タイムアップを告げる長いホイッスルを吹いた。強豪がひしめき合い、今大会屈指の激戦区とも言われたAブロックを勝ち抜けたのは、八千代高校だった。
試合が終わり、スタジアムを後にしようとすると、ピッチには笑顔でメインスタンドに挨拶をする丸岡高校のキャプテン・徳丸選手の姿があった。その姿は選手宣誓時に四日市中央工の上村選手が言った「さわやかに悔いの残らないようにプレー」をした姿そのものだった。
posted by 犬太 |22:33 |
高校サッカー |
コメント(6) |
トラックバック(2)
2007年01月05日
三ツ沢球技場に来るのは、横浜FCvs徳島ヴォルティス戦以来である。「高校サッカーだし空いてるだろ。」と思い、スタジアムに着いてスタジアム内を見渡してみると、メインスタンドの前列は既に多くの人で埋まっていた。ゴール裏はさすがにガラガラだったが、寂しいゴール裏で1人観戦するのも何だか気が引けるので、メインスタンドの上段に腰を掛けた。
第1試合は、対照的な歴史を歩んだチーム同士の試合となった。星陵は前々回の選手権大会では昨年A代表にも選出された本田を擁しベスト4まで進んだものの、昨年は初戦敗退の憂き目に遭った。しかし、高円宮杯でベスト8に進出し、実力を証明すると今大会もPK戦を制するなど勝負強さを見せ、準決勝まで勝ち上がってきた。
対する神村学園は初出場ながら神奈川県代表の桐光学園をほぼアウェーに近い状況の三ツ沢で下し、ベスト8まで勝ち上がってきた。両チームともこれまでの2試合を三ツ沢で行なっており、もはや勝手知ったる場所であろう。
三ツ沢での3試合を土つかずで終え、試合終了後歓喜に浸っていたのは、初出場の神村学園だった。前半こそ星陵に主導権を握られていたものの、後半に入り五領、中村を投入すると右ウイングに中村を置き、そこから起点を作ることで、徐々に流れを引き寄せた。そして後半25分、芝からのスルーパスを受けた五領が落ち着いてゴールネットに流し込んだ。桐光学園戦でも途中出場で決勝ゴールを決めるなど、五領は今大会のラッキーボーイ的存在になっている。
追加点は先制点から僅か2分後だった。1点目をアシストした芝のFKに塗木が合わせ、2-0。その後星陵はCBの鈴木をFWに上げ、パワープレーに出るものの前線までボールが行く回数が少なく、2-0で試合終了の笛を聞いた。鹿児島県代表・神村学園が、ハーフタイム時も応援を絶やすことの無かった応援団と共に国立行きのチケットを手にした。
チケットを手にするものがいれば、チケットを手に出来なかったものもいる。星陵高校の選手達がベスト4進出を決めた神村学園の応援ゾーンに挨拶に行くと、神村学園の応援団は「星陵!」コールで星陵にエールを送った。学生スポーツでは当たり前とも言える光景だが、実際にそれを見ると、とても清々しい気分になる。試合が終わればノーサイド──これは高校サッカーに限ったことではないが、Jリーグとはまた違った高校サッカーの醍醐味は、こういった部分にも表れていた。
posted by 犬太 |18:37 |
高校サッカー |
コメント(0) |
トラックバック(3)