2010年02月15日

監督、コーチ、アナリストの役割とは

皆さま、こんにちは。

先週末の東京大会では7位と8位のFC東京、大分三好が
ともに3勝目を挙げるという試合を見ることができました。

どちらのチームも「こういうバレーをすれば勝てる」という
勢いのある姿が見られましたが、それを何試合も続けることができるか否かが
今、下位にいる2チームと上位チームとの差のように思えます。
両チームの来週以降の戦いにも注目したいと思います。

2日間で印象に残ったのは堺のセッター、今村選手です。
これまでも内定選手らしからぬ安定したプレーを見せていましたが
日曜日の試合途中、西尾選手に代わりオポジットのポジションに
本来はレフトである木内選手が入った場面がありました。
木内選手はオポジットでも練習をしているのかな、
どうするのかなと思って見ていると
何本かライトから攻撃をしたあと、木内選手がライトから、
中央に素早く走り込んで時間差を決めました。
ああ、そうかこの手があったか、そうだよなと目が覚めました。
木内選手には機動力という武器があったことを思い出させてくれたプレーでした。

あとで今村選手に「自分のアイデアですか」と尋ねると
「木内さんからもかき回して行こうと声をかけられたので」と。

今村選手の冷静な視点、そして代わって出た選手がそれぞれ
「自分の持ち味を生かそう」としている気持ち、
あれだけ故障者が多い中でも
チームが好調である理由を現すプレーだったように感じます。

さて、前回の記事にもさまざまなご意見をありがとうございました。

いただいたコメントにあったように、近代バレーは情報戦も戦いの一部です。
試合が始まる前の準備が極めて大切な競技であることは確かです。
アナリストの存在がクローズアップされる機会も増えました。

現時点で、日本のVリーグおよび代表チームに関わるアナリストは
大きくわけて以下のような仕事をしていると考えられます。

①まずは試合経過のオペレーション。
これは試合を見ながらパソコンに結果を打ち込み、同時に
ビデオ撮影もする作業のことを言います。
②次に、そのオペレーションの結果を数値化すること。
よく聞く「効果率」とか「レセプションのAカット率」などは
こうして結果を数値化することで出てくる数字です。
対戦相手の分、そして、同時に自分たちのチームのデータも必要になります。
③その数値化したデータ結果を検証し、
次の戦いに必要な資料を選ぶ作業。
④最後に、そうやって膨大な量の資料の中から選ばれたデータをもとに
次の試合ではいかに戦うかと選手に戦術を伝授する作業です。

ちなみに、ここまでの工程はリーグ中、
試合を戦う際に必要な準備作業だと思ってください。

アナリストのキャリアやスキルによってデータ算出のスピードに違いはありますが
近年ではおそらくどのチームも同じ分析ソフトを使用していると思われますので
出てくる資料の種類には大きな差はないと思います。

ここで重要なのが③と④です。
各ローテーションごとの、それぞれのポジションからのスパイク決定率や
配球率、そしてレセプションがAカットだった場合、
Aよりやや劣るAダッシュだった場合、Bカットだった場合等、
すべての状況でのセッターの配球など、出てくる資料は膨大な量になります。
その中からどれが自分たちのチームに必要なのかを見極め
試合前には選手が混乱しないよう、要点をまとめて指示を出し
試合中はその展開によって、わかりやすく、簡潔に
選手に対してアドバイスができるかどうかが大切です。

とにかく「わかりやすく」「簡潔」であることがポイントです。

この作業の中で、どこまでを監督がやるべきなのか。
どこまでがコーチの仕事なのか。
どこまでをアナリストの仕事とみなすのかは各監督&チームによって違います。
④までをアナリストが担うチームもあれば、
アナリストはあくまでオペレーションのみで
その他を監督とコーチが受け持つチームもあります。
後者のほうが多いかもしれません。
そして、各役割の分担配分というのは、線引がとても難しいとわたしは思います。
いずれにせよ、それそれのチームの方針ですので、
「これが正解だ」と決めることはできません。

昨年度の全日本男子の場合は、そのほとんどを監督が担っていましたので
負担が大きいという見方もできるでしょう。
もう少し、手放して、専門家に任せてもいい気がしますが
ただし、その専門家であるアナリストがどんなに資料を用意しようと、
コーチがどんなアドバイスをしようと
それに耳を傾けるか、傾けないかは監督次第です。

2008年北京五輪での全日本に、そういったスタッフ間の意思の疎通が
あったようには、わたしには見受けられませんでした。

確かな戦術があるときの選手の戦い方には、自信というか
安心感のようなものを感じることができます。
五輪直前の最終予選での全日本チームには
試合中も、試合後のコメントひとつにも
そういった「落ち着き」が見られました。

五輪本戦という大舞台だったから浮足立ったのも事実でしょうが
「こうすれば勝てる」という自信があれば、たとえ初めての五輪出場でも
その緊張感を少しは緩和できたのではないかと感じます。

さて、Vプレミアリーグも佳境に入ってきます。
とても楽しみです。
皆さまもお風邪など召しませんように、試合観戦を楽しんでください。

posted by 市川忍 |20:55 | 戦略、戦術、コーチング | コメント(4) | トラックバック(2)
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2010年02月11日

ご質問に対して

皆さま、こんにちは。
いつもたくさんのコメントをありがとうございます。

さて前回の記事に寄せられた別府さんのご質問に対して。
今日はわたしなりの意見を書かせていただきたいと思います。

> なので、よろしければ具体的に采配の何がいけなかったのかを教え
> ていただけませんでしょうか?

まず、チームには
戦略 → わたしたちはこう戦うのだというチームの核のようなもの
と
戦術 → 相手の出方や自チームの状態によって、臨機応変に対応するもの
が必要だとわたしは思っています。

戦略のほうは、どんなチームを目指すのか、長い合宿や
何度かの対外試合の中で、ある程度、長い目で見て、我慢をして
選手とチームを育て、作り上げていくものだと思っています。
いわば持久力を必要とするものです。

そして戦術のほうは、自分たちが築き上げた戦略を軸に
対戦相手の戦略や戦術に対し、柔軟な姿勢で臨むものだと思います。
こちらは瞬発力の必要なものです。

その両者を統括するのか監督の役割だと感じています。

北京五輪の出場権を獲得したときの全日本(最終予選時)には
確固たる戦略がありました。
朝長選手を軸に、石島選手、越川選手、荻野選手といったアウトサイドプレーヤーを
彼らのコンディションや、対戦相手によって使い分け
大事なときには山本選手が決めるという「勝利パターン」ができていたと思います。

そして出場権を獲得して、北京へ向かいました。

ただ、そこからの戦いは疑問の残るものでした。
いちばんは、その「今まで勝利を収めてきた戦略」を
早々と諦めたことです。
時間をかけて築いていたことを簡単に翻したとわたしは受け止めています。

同時に、ヨーロッパの高いチームに対し
トスの緩やかな朝長選手をスタメンで使ったこと。
特に初戦のイタリアはリードブロックシステムのチームですので、
セオリーで考えれば、サイドへのトスが速い宇佐美選手のほうが
ブロックシステムを崩すためには有利です。
ところが朝長選手をスタメンで使い、リードをされて初めて
宇佐美選手に切り替えるという采配を選びました。

そしてセッターだけではなく、その他のアタッカーに関しても
とにかく交代が多かったですよね。

もちろん選手交代を否定しているわけではありません。

ただ、我慢して築き上げてきた戦略、本来ならば
信じなければいけない選手のことは早々に見切りをつけ、
反対に、臨機応変に対応しなければいけなかった戦術面に関しては
最後まで瞬発力を見せることなく終わってしまったと感じています。

その「我慢するところ」と「切り替えるところ」のピントがずれていたのが
北京で1勝もできなかった要因ではないでしょうか。

よくオリンピックに出場した人は
「緊張することも想定内で、緊張した上でのパフォーマンスでも
相手に勝てる、記録が出せるだけの準備をしなければいけない」と言います。

男子バレーがオリンピックに出場するのは16年ぶりでした。
荻野選手以外の選手にとっては初めての舞台。
緊張して当たり前です。
選手が緊張することを想定して、先に手を打てるくらいの冷静さが
五輪で戦う指揮官に求められる、最も大切な資質だとわたしは思います。

> あと、ものすごくくだらない質問なのですが、センターの選手が後衛
> に回ったときバックアタックをするのは不可能なのでしょうか?本当
> にアホな質問ですみません。

打つことは可能ですが、チームの戦略として必要かどうかの選択肢だと思います。

たとえば現Vリーグのチームでは、ほぼすべてのサイドアタッカーが
後衛にいるときにもバックアタックで攻撃に参加します。
最近ではパイプ攻撃という、中央からバックアタックを打つチームが多いですが
それ以外にも、スーパーエースポジションの選手は
後衛に回った際にライトからバックアタックを打ちます。

となると、前衛に2人(セッターが前衛の場合)~3人のアタッカー。
そして後衛にも1人~2人(セッターが前衛の場合)のアタッカー。
常に相手のブロッカー3人より多い4名以上のアタッカーが
攻撃に入るスタンバイをしているので
そんな中でミドルブロッカーの選手があえて、バックアタックを打つ必要がないのです。

このあたりのブロックとアタッカーの関係については過去記事をご覧ください。
こちら

こうしてミドルブロッカーの選手がバックアタックを打つ戦術は
日本では少なくなっているのだと思います。
もちろん、サイド後衛の選手よりも決定力があれば後衛で攻撃に参加することも可能ですが
クイックを中心に練習を積んでいるミドルブロッカーと
サイドアタッカーを比較したときに、サイドアタッカーのほうが
後衛からのバックアタックに適していると判断するチームが多いせいではないでしょうか。

ただ、それも現時点でのセオリーであるだけで
将来はどんなふうに変化するかわかりません。
バレーの戦略、戦術は常に進歩していて、変化していて
本当に奥が深く、勉強を怠るとすぐに置いていかれてしまいます。

だからこそ楽しいのかもしれませんね。

…という説明でおわかりいただけるでしょうか。

ではまた。



posted by 市川忍 |01:40 | 戦略、戦術、コーチング | コメント(3) | トラックバック(0)
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