2008年03月13日

男子バレー雑感 《組織で戦う》

皆様、こんにちは。

そして加奈子さん、はじめまして。

加奈子さんにご指摘いただいた公式記録ですが、
あのB表からセッターの力を図り知ることは難しいかもしれません。
ただし、すべてのアタッカーの決定率が均等に高ければ、
その試合は「セッターが自軍の戦力を十分に生かして戦えた」という
試合展開が予測できるのではないかと思います。

そして「チーム状況が厳しいため、能力が発揮できていない選手は?」
というご質問ですが。

少し質問からはズレるかもしれませんが
「ワールドカップ2007」の女子大会をテレビで見ていたときに、
栗原恵選手があまりにも相手のブロックにマークされていて、
かつ、そういった「不利な状況」で打たなければならないケースが多く、
気の毒に感じた覚えがあります。
わたしは女子の取材をしないので普段、男子バレーを見ている立場から
(気楽に?)試合を見た、単なる「感想」だと受け止めてください。

高橋みゆき選手も木村沙織選手も非常に能力の高いアタッカーですが、
確か、わたしの見た試合では決定力が低かったと記憶しています。
そこで、チームとしては
栗原選手にトスを集めざるを得なかったのではないかという印象を受けました。

個人のスパイク決定率には、セッターの力量だけではなく、同じチームの
他のアタッカーの決定率の良し悪しも深く係わっているとわたしは考えています。

手持ちのカードが多ければ多いほど、
相手のブロックにとっては「警戒しなければいけない攻撃が増える」とお話しましたが、
その考えに基づくとアタッカー陣は1本の命綱でつながれている、
運命共同体だといえるかもしれません。

全日本女子の場合は3名ですが、
ここでは4名のアタッカーが攻撃に参加できる男子のチームを例に上げます。
仮に4名のアタッカーをA選手、B選手、C選手、D選手とします。

A選手の決定力が高ければ、ブロックはA選手を警戒し
B選手、C選手、D選手へのマークが薄くなります。
男子バレーにおけるブロックとアタックの関係は、
アタッカーに対し、ブロックが1枚だったり、一人が跳び遅れて、
2人のブロッカーが揃わなかったときには
圧倒的にアタッカーが有利だと考えられています。
(組織的な守備システムのために、あえて間を開ける場合は除きます)

仮にA選手に2枚のブロックをつけたとすると、
B、C、D選手という3名のアタッカーに対し、
守備側は1枚のブロックで対応しなければなりません。
3対1ですから、A選手以外のスパイクが決まる確率は高くなります。

すると今度は「B選手に決められているので、B選手をマークしよう」という風に、
攻撃の傾向に合わせて守備側はブロック戦略を変えます。
B選手をマークするようになると代わって
C選手、D選手、A選手へのマークが薄くなり、
今度はB選手以外のスパイクが決まりやすくなります。

こうしてバレーボールには1人のアタッカーに決定力があれば、相乗効果で、
他のアタッカーの決定力も上がる可能性が高くなるという特性があります。

そのため、近年の男子チームは
相手のブロッカー(3枚)より多い攻撃陣を常に揃えておきたいと考え、
バックアタックの打てるレフトプレーヤーを起用するのだと思います。

また、逆のパターンもあります。
A選手の調子が悪く、なかなかスパイクが決まらない。
ミスもするし、決定力に欠けるとなると、
相手のブロッカーは「きっとA選手には上げづらいだろう」と
セッターの心理を読みます。
そこでA選手へのマークを薄くし、A選手以外のアタッカーを警戒します。

試合状況、データ、そのアタッカーのチーム内での信頼度など、
さまざまな条件をもとにブロッカーは跳ぶ位置を絞っていくのですが、
「警戒しなければいけないポジション」の数は少ないほうが、
決断を下す際に迷いが減ります。
迷わず出した一歩のおかげで、ワンタッチを取れたり、
相手のスパイクの邪魔をすることができるので、
ブロッカーからしてみれば選択肢は少ないに越したことはありません。
その結果、今度はディフェンス側が優位に立ち、
A選手以外のアタッカーは不利な状況でスパイクを打たなければならない機会が増えます。
A選手が機能しないせいで、他のアタッカーにかかる負担が増えるのです。
こうなると攻撃陣全体が、相乗効果とは逆の
「劣勢のスパイラル」に巻き込まれます。

もちろんブロックが2枚、3枚つこうとスパイクを決められるアタッカーもいるので、
そういう秀でた能力を持つ選手を擁するチームが勝つケースもありますが、
レベルの高い戦いになればなるほど、
1人のアタッカーに頼った単調なバレーでは限界があるとわたしは感じています。

アタッカーが運命共同体であるという見方からすると、
ワールドカップ2007での全日本女子は、
栗原選手以外のアタッカーの決定力がもう少し高ければ、
栗原選手ももっと有利な状況で打てたのではないか…と感じました。

女子バレーには女子バレーの特徴があって、
一概に男子の戦略や考え方を当てはめることはできませんが、
男女関係なく、バレーというスポーツには
「組織で戦う」という意識が必要だとわたしは思います。

それから選手の「決定力」を語る上で、無視できない問題も生まれてきます。

それが「効果率」です。
ただし「効果率」について書き出すと、
すごく長くなってしまいそうなので、次回の更新まで持ち越させてください。

今週末には4強争いの行方がある程度、見えてきそうですね。
会場へ行かれる方は観戦、楽しんできてください。

posted by 市川忍 |19:32 | コメント(3) | トラックバック(0)
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男子バレー雑感 《組織で戦う》

こんばんは。
とても丁寧に回答して頂き、本当にありがとうございました。
すごく良く分かりました。組織で戦う、本当に今更なのですが、市川さんの文章を読ませて頂いて、バレーというものはチーム戦なのだな、と再認識しておりました。ひとつひとつ、解らずにもどかしく感じていたものをほどいて頂いた様にすっきりしております。

今年のワールドカップ、男子のロシアとの戦いを、偶然にテレビで観戦した事がきっかけとなり、踏み入ったバレーの世界ですが、国内のリーグ戦を観ていく内に、初めは個人選手の応援をしていただけだったものが、それぞれのチームの特徴や抱えている課題を知ってゆく中で、バレーを楽しむ様になりました。どうしてそうなるのか、何がいけなかったのか、それが知りたくて最近の休日は、ルールブックを片手に、ビデオをスロー再生し、選手の動きを観察して考えているのですが、やはり、実際に体験した事が無いためか、とても基本的なことが抜けていたりします。

そんな中で、市川さんのブログで読ませて頂いた文章は、とても助けられました。
かといってまさか、市川さんも初心者のためにこのブログをお書きになっておられる訳では勿論無いと思いますので、これからもルールブックを片手に覗きに来させて頂きますね。

次回の効果率についてのお話、楽しみにしております。
お忙しい中、丁寧に教えて下さり本当にありがとうございました。

posted by 加奈子 | 2008-03-14 05:00

男子バレー雑感 《組織で戦う》

お邪魔いたします。

数年前からバレーボールを見るようになりましたが、経験が無いため実戦したことがなく、解説で難しいとか速いプレーだとか聞いても、それがどれほどすごいことなのか想像することしかできず、もどかしい思いをしながら見ています。
今回はブロックとアタッカーの関係(かけひき)がとても解り易く勉強になりました。
やはりテレビ等での解説者は元プレーヤーなので、ある程度以上の説明になり、それ以下の説明は省かれてしまうのは仕方ないことなのでしょうね。
その中でも全日本コーチの久保さんの解説は丁寧で私にも解り易いなぁと思っています。

また、このような解説をしていただければ有難いです。
次回の効果率も楽しみにしています。

posted by M | 2008-03-14 22:44

男子バレー雑感 《組織で戦う》


コメント、ありがとうございます。

おそらく加奈子さんのように、テレビ放映された国際大会を見て
バレーに興味を持った人は圧倒的に多いと思うのですが、
現在のバレーをとりまくメディアは、その人たちに
「継続的に競技を見たい」と思ってもらえるような
アプローチの仕方があまり上手ではない気がします。

きっかけ作りがうまくても、「いちげんさん」からリピーターを増やし、
ゆくゆくは「顧客」になってもらうための環境が整っていないため、
顧客になり得る「いちげんさん」の多くを失ってきたのではないでしょうか。

わたしがバレーの記事を書くようになってから十数年が経ちますが、
毎年のように国際大会がテレビで放映される割には
Vリーグのファンの絶対数はあまり増えていない気がします。

もちろんさまざまな原因が考えられますが、
その中には、わたしも含めたマスコミの責任が
非常に大きいと思っています。

バレーに興味を抱いた人が、
もう少し競技自体に突っ込んだ記事を読みたい、
バレーの戦略的なことを知りたい、
チームのコアな情報を得たいと感じても、
残念ながら、それぞれの要望に合ったニュースを用意できないのが
今のバレーメディアの現状です。

ただし、幸い、ブログでしたら購買部数を気にすることも、
読者層を絞る必要もありません。
バレーを見始めたばかりの人であろうと、
少数派であろうと、いろいろな立場の人に向けて、
こうして、そのときどき、気づいたことを書いていくことができます。

わたしがブログを始めようと思った理由のひとつであり、
興味を持ってくれた人が1人でもいれば、始めた意味があるのではないかと考えています。

posted by 市川忍 | 2008-03-17 21:10

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