2010年02月11日

ご質問に対して

皆さま、こんにちは。
いつもたくさんのコメントをありがとうございます。

さて前回の記事に寄せられた別府さんのご質問に対して。
今日はわたしなりの意見を書かせていただきたいと思います。

> なので、よろしければ具体的に采配の何がいけなかったのかを教え
> ていただけませんでしょうか?

まず、チームには
戦略 → わたしたちはこう戦うのだというチームの核のようなもの
と
戦術 → 相手の出方や自チームの状態によって、臨機応変に対応するもの
が必要だとわたしは思っています。

戦略のほうは、どんなチームを目指すのか、長い合宿や
何度かの対外試合の中で、ある程度、長い目で見て、我慢をして
選手とチームを育て、作り上げていくものだと思っています。
いわば持久力を必要とするものです。

そして戦術のほうは、自分たちが築き上げた戦略を軸に
対戦相手の戦略や戦術に対し、柔軟な姿勢で臨むものだと思います。
こちらは瞬発力の必要なものです。

その両者を統括するのか監督の役割だと感じています。

北京五輪の出場権を獲得したときの全日本(最終予選時)には
確固たる戦略がありました。
朝長選手を軸に、石島選手、越川選手、荻野選手といったアウトサイドプレーヤーを
彼らのコンディションや、対戦相手によって使い分け
大事なときには山本選手が決めるという「勝利パターン」ができていたと思います。

そして出場権を獲得して、北京へ向かいました。

ただ、そこからの戦いは疑問の残るものでした。
いちばんは、その「今まで勝利を収めてきた戦略」を
早々と諦めたことです。
時間をかけて築いていたことを簡単に翻したとわたしは受け止めています。

同時に、ヨーロッパの高いチームに対し
トスの緩やかな朝長選手をスタメンで使ったこと。
特に初戦のイタリアはリードブロックシステムのチームですので、
セオリーで考えれば、サイドへのトスが速い宇佐美選手のほうが
ブロックシステムを崩すためには有利です。
ところが朝長選手をスタメンで使い、リードをされて初めて
宇佐美選手に切り替えるという采配を選びました。

そしてセッターだけではなく、その他のアタッカーに関しても
とにかく交代が多かったですよね。

もちろん選手交代を否定しているわけではありません。

ただ、我慢して築き上げてきた戦略、本来ならば
信じなければいけない選手のことは早々に見切りをつけ、
反対に、臨機応変に対応しなければいけなかった戦術面に関しては
最後まで瞬発力を見せることなく終わってしまったと感じています。

その「我慢するところ」と「切り替えるところ」のピントがずれていたのが
北京で1勝もできなかった要因ではないでしょうか。

よくオリンピックに出場した人は
「緊張することも想定内で、緊張した上でのパフォーマンスでも
相手に勝てる、記録が出せるだけの準備をしなければいけない」と言います。

男子バレーがオリンピックに出場するのは16年ぶりでした。
荻野選手以外の選手にとっては初めての舞台。
緊張して当たり前です。
選手が緊張することを想定して、先に手を打てるくらいの冷静さが
五輪で戦う指揮官に求められる、最も大切な資質だとわたしは思います。

> あと、ものすごくくだらない質問なのですが、センターの選手が後衛
> に回ったときバックアタックをするのは不可能なのでしょうか?本当
> にアホな質問ですみません。

打つことは可能ですが、チームの戦略として必要かどうかの選択肢だと思います。

たとえば現Vリーグのチームでは、ほぼすべてのサイドアタッカーが
後衛にいるときにもバックアタックで攻撃に参加します。
最近ではパイプ攻撃という、中央からバックアタックを打つチームが多いですが
それ以外にも、スーパーエースポジションの選手は
後衛に回った際にライトからバックアタックを打ちます。

となると、前衛に2人(セッターが前衛の場合)~3人のアタッカー。
そして後衛にも1人~2人(セッターが前衛の場合)のアタッカー。
常に相手のブロッカー3人より多い4名以上のアタッカーが
攻撃に入るスタンバイをしているので
そんな中でミドルブロッカーの選手があえて、バックアタックを打つ必要がないのです。

このあたりのブロックとアタッカーの関係については過去記事をご覧ください。
こちら

こうしてミドルブロッカーの選手がバックアタックを打つ戦術は
日本では少なくなっているのだと思います。
もちろん、サイド後衛の選手よりも決定力があれば後衛で攻撃に参加することも可能ですが
クイックを中心に練習を積んでいるミドルブロッカーと
サイドアタッカーを比較したときに、サイドアタッカーのほうが
後衛からのバックアタックに適していると判断するチームが多いせいではないでしょうか。

ただ、それも現時点でのセオリーであるだけで
将来はどんなふうに変化するかわかりません。
バレーの戦略、戦術は常に進歩していて、変化していて
本当に奥が深く、勉強を怠るとすぐに置いていかれてしまいます。

だからこそ楽しいのかもしれませんね。

…という説明でおわかりいただけるでしょうか。

ではまた。



posted by 市川忍 |01:40 | 戦略、戦術、コーチング | コメント(3) | トラックバック(0)
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ご質問に対して

コメント投稿者ID : NID00000595

市川さん、おはようございます。

北京での戦いでいちばんはがゆい想いをしたのは、荻野キャプテンや山本選手であったと思います。

私自身、しつこい、とか、いいかげん許してやったらどうか、とか言われますが、過去は変えられないとして、これからの戦いの中で、同じことがまた起きるのではないかという疑心暗鬼が払拭できません。

野球では監督さんのそばにヘッドコーチがいて、監督の補佐をしているようですが、バレーにはそのような役割はないのでしょうか。

それがあればブラジル戦を思い出させるようなメンバーチェンジのミスは防げるとおもうのですが。

posted by こにゃとんパパ | 2010-02-11 09:25

初めまして

コメント投稿者ID : NID00000715

記事はいつも読ませて頂いてます。
コメントをするのは初めてです。

戦術と戦略について…、
最終予選は全試合東体で観戦しました。16年ぶりのオリンピック出場には陳腐な言葉ですが、本当に感動しました。
永遠に感動を味わっていたくて体育館から出たくなかった。
北京にも行きました。
悔しかったです。
正直あの采配は今だに許せません。
もっともっと戦える12名だと思ってましたから。
私の見落としかも知れませんが、市川さんのこの記事程北京オリンピックの事を書いてくれたメディアはありませんでした。
いつか監督の口から選手はもとより、スタッフやファンにもきちんとした説明をして頂きたいと思ってます。
それができるのは市川さんしかいないと思ってます。
よろしくお願いします。

posted by 麟 | 2010-02-12 00:20

Re:ご質問に対して

コメント投稿者ID :

市川さん、おはようございます。

北京は善戦を期待していただけにじくじたる思いが今も残っています。でも、アテネの女子の時も同じ思いをしました。
いずれも、実力以上に一般マスコミが「メダル」と持ち上げ過ぎて、地に足がつかなかったのも一因だったかと感じています。

長くメダルから遠ざかってしまうと、植田監督、柳本監督といったオリンピック若葉マークの監督を支えられる人材もいなくなってしまったのかな?、なんて勘ぐってしまいます。
内部事情はよくわかりませんが、試合中の情報戦でも世界にかなり遅れをとっているように見受けられる現在、監督に戦略・戦術をおもねるのもどうかな?と思います。
外からはこんなふうに見えますが、実際はどうなのでしょうか?

posted by usako | 2010-02-13 10:35

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