2008年12月04日
■守護神の鑑賞方法
2007年のメジャーリーグにおいて、近年まれに見る珍事が起こった。インディアンスの抑え投手ジョー・ボロウスキーが、防御率5.07と低迷しながらも、ア・リーグ最多の45セーブを挙げタイトルを獲得したのだ。見るからに安定感を欠いた数字であり、1年間クローザーを全うしたこと自体驚きだが、これは彼が幸運に恵まれた結果としか言いようがない。それは何より、翌年の成績が物語っている。 2008年のボロウスキーは、防御率7点台の大不振に加え、10度のセーブ機会のうち4度もの失敗を犯すなど見事に“本領発揮”し、シーズン半ばの6月には案の定チームを解雇された。前年のタイトルホルダーが1年以内にクビを宣告されるというのは極めて異例のことだ。結局、秋になっても彼の獲得に名乗りを挙げる球団は現れなかった。 もちろんこれは極端な例に過ぎないが、クローザーの力量を計る上で重要な要素は何か――、そんな疑問を抱かせる出来事であったことは確かだ。最終回を確実に抑える“絶対的守護神”の存在ほど心強いものはない。これは当然、日本国内においてもいえることだ。では、一体何をもって“絶対的”とするのか。いくつかの指標を基に探っていきたい。1イニングあたりに出塁を許した走者のおおよその数を示す「WHIP」は、先発中継ぎを問わず、その投手の能力が表れる最も明確な指標だ。いくら被打率の優れた投手であっても、四球を連発するようでは高い信頼は得られない。メジャーリーグでは公式記録として扱うほど重要視されている。 一般には1.30前後が平均的な目安とされるが、今回取り上げた10投手の平均値は1.05である。限りなく完ぺきに近いものを求められる、抑え投手とはそういった役割を担う立場なのだ。 今季は藤川球児(阪神)が圧倒的な数字をたたき出した。他投手と比較しても、群を抜いて優れた成績だ。単純計算にして、1度の許出塁につき4アウト以上を奪うのだから、その完成度の高さには脱帽するばかりである。 では、得点状況別に見るとどうだろう。1点差の状況では多くの投手が成績を落とすなか、唯一プラスに転じたのが岩瀬仁紀(中日)である。合計での数字こそ10投手中最低だが、失点の許されない緊迫した場面で集中力を発揮するあたりはさすがといったところだ。10年連続50試合以上登板を記録した鉄腕の意地とプライドすら垣間見える結果となった。
抑え投手といえどもその投球スタイルはさまざまだ。よって、三振を奪うことが必ずしも最高の形とはいえない。しかし、時には火消し役として登板する機会もある立場だけに、失点の可能性を限りなくゼロに近づけるという点で、奪三振率は安易に無視できない数字である。特に、必要な場面で狙って奪えるか否かは、クローザーとして重要な能力のひとつといえるのではないだろうか。 得点圏に走者を置いた状況こそ、最も三振が求められる場面だ。失点の確率が高まるあまり、10人中6人の投手が奪三振率を低下させた。岩瀬にいたっては、得点圏走者のいない状況と比べ3分の1にも満たない数字である。前出のデータでは特筆すべき成績を示しただけにこの結果はかえって際立つ。必要とされる場面で三振を奪えなかったことが、例年に比べやや不調を感じさせた今季の投球を表しているのかもしれない。
どれほど優れた投手でも、相手打者を常に封じ込むことは容易ではない。ピンチの可能性をいかにして最小限にとどめるか、これもクローザーとして欠かせない重要な要素といえるだろう。被安打ひとつにしても、当然ながら長打は避けたい。走者を背負った状況であれば、なおさら回避したいものである。 被長打率においては、藤川とクルーン(巨人)が2割台を切る優秀な成績を残した。抑え投手のなかでも指折りの球威を誇る両右腕だけに、この結果は大いにうなずける。しかし、走者状況別に見るとその差は歴然だ。藤川が走者を置いた場面ほど長打を許していないのに対し、クルーンはそれと正反対の結果を示している。今季、両者の防御率が1.50余りひらいた要因のひとつは、こんなところに潜んでいるのかもしれない。 さらに、浴びた一発がそのまま失点に直結する被本塁打は、少ない得点差で登板する抑え投手にとって致命傷となりかねない。長打を献上しやすい林昌勇(ヤクルト)の被本塁打率はやはり厳しい結果となった。10投手のなかで唯一1本台を示したツバメの守護神は、“一発病”という大きな不安を残して来日2年目のシーズンに臨むことになる。
抑え投手といえばまずはセーブ数――。紙面ではそれが当たり前かもしれないが、そんな身近な成績をあえて最初に掲載しなかったのは、クローザーの過大評価につながりかねない不透明な指標から視線をそらせるためである。WHIP、奪三振率、被長打・被本塁打率といった詳細なデータを基に分析すると、セーブ数ひとつでは見えてこない要素がいくつか浮き彫りになった。 結論として、あらゆる部門において優秀な数字を示した藤川こそ、球界ナンバーワンの抑え投手といって間違いないだろう。チームが彼を“絶対的”存在として据えるかぎり、猛虎のブルペンはしばらく安泰であると断言したい。 今回、冒頭で取り上げたボロウスキーほど“飾り付け”された投手は見当たらなかったが、表面上では明らかにならないデータによって、彼らが持つ本来の能力や欠点を少なからず提示できたのではないだろうか。これによって来季以降、各球団が誇る“守護神”なる存在を少しでも異なった角度から眺めていただければ幸いである。 ※データ及び所属球団は2008年シーズン終了時点
執筆者;山田隼哉
posted by 山田隼哉 |18:05 |
メジャーリーグ |
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1イニングあたりに出塁を許した走者のおおよその数を示す「WHIP」は、先発中継ぎを問わず、その投手の能力が表れる最も明確な指標だ。いくら被打率の優れた投手であっても、四球を連発するようでは高い信頼は得られない。メジャーリーグでは公式記録として扱うほど重要視されている。
一般には1.30前後が平均的な目安とされるが、今回取り上げた10投手の平均値は1.05である。限りなく完ぺきに近いものを求められる、抑え投手とはそういった役割を担う立場なのだ。
今季は藤川球児(阪神)が圧倒的な数字をたたき出した。他投手と比較しても、群を抜いて優れた成績だ。単純計算にして、1度の許出塁につき4アウト以上を奪うのだから、その完成度の高さには脱帽するばかりである。
では、得点状況別に見るとどうだろう。1点差の状況では多くの投手が成績を落とすなか、唯一プラスに転じたのが岩瀬仁紀(中日)である。合計での数字こそ10投手中最低だが、失点の許されない緊迫した場面で集中力を発揮するあたりはさすがといったところだ。10年連続50試合以上登板を記録した鉄腕の意地とプライドすら垣間見える結果となった。
抑え投手といえどもその投球スタイルはさまざまだ。よって、三振を奪うことが必ずしも最高の形とはいえない。しかし、時には火消し役として登板する機会もある立場だけに、失点の可能性を限りなくゼロに近づけるという点で、奪三振率は安易に無視できない数字である。特に、必要な場面で狙って奪えるか否かは、クローザーとして重要な能力のひとつといえるのではないだろうか。
得点圏に走者を置いた状況こそ、最も三振が求められる場面だ。失点の確率が高まるあまり、10人中6人の投手が奪三振率を低下させた。岩瀬にいたっては、得点圏走者のいない状況と比べ3分の1にも満たない数字である。前出のデータでは特筆すべき成績を示しただけにこの結果はかえって際立つ。必要とされる場面で三振を奪えなかったことが、例年に比べやや不調を感じさせた今季の投球を表しているのかもしれない。
どれほど優れた投手でも、相手打者を常に封じ込むことは容易ではない。ピンチの可能性をいかにして最小限にとどめるか、これもクローザーとして欠かせない重要な要素といえるだろう。被安打ひとつにしても、当然ながら長打は避けたい。走者を背負った状況であれば、なおさら回避したいものである。
被長打率においては、藤川とクルーン(巨人)が2割台を切る優秀な成績を残した。抑え投手のなかでも指折りの球威を誇る両右腕だけに、この結果は大いにうなずける。しかし、走者状況別に見るとその差は歴然だ。藤川が走者を置いた場面ほど長打を許していないのに対し、クルーンはそれと正反対の結果を示している。今季、両者の防御率が1.50余りひらいた要因のひとつは、こんなところに潜んでいるのかもしれない。
さらに、浴びた一発がそのまま失点に直結する被本塁打は、少ない得点差で登板する抑え投手にとって致命傷となりかねない。長打を献上しやすい林昌勇(ヤクルト)の被本塁打率はやはり厳しい結果となった。10投手のなかで唯一1本台を示したツバメの守護神は、“一発病”という大きな不安を残して来日2年目のシーズンに臨むことになる。
抑え投手といえばまずはセーブ数――。紙面ではそれが当たり前かもしれないが、そんな身近な成績をあえて最初に掲載しなかったのは、クローザーの過大評価につながりかねない不透明な指標から視線をそらせるためである。WHIP、奪三振率、被長打・被本塁打率といった詳細なデータを基に分析すると、セーブ数ひとつでは見えてこない要素がいくつか浮き彫りになった。
結論として、あらゆる部門において優秀な数字を示した藤川こそ、球界ナンバーワンの抑え投手といって間違いないだろう。チームが彼を“絶対的”存在として据えるかぎり、猛虎のブルペンはしばらく安泰であると断言したい。
今回、冒頭で取り上げたボロウスキーほど“飾り付け”された投手は見当たらなかったが、表面上では明らかにならないデータによって、彼らが持つ本来の能力や欠点を少なからず提示できたのではないだろうか。これによって来季以降、各球団が誇る“守護神”なる存在を少しでも異なった角度から眺めていただければ幸いである。
※データ及び所属球団は2008年シーズン終了時点

