2008年08月19日

裏切られ続ける、言葉。

体操男子、最後の競技である、種目別の鉄棒。
団体では銀を取ったもののここまで個人ではメダルを取っていない、日本体操界のエース、冨田選手。

本人の目指す美しい演技をいかんなく見せてくれ、
ため息がもれる。
テレビの画面に惹きつけられる。

だが、最後の着地で膝をつく失敗。
胸いっぱいに膨らんだ期待が萎んでいく。
最後の鉄棒もメダルは遠くなったか。

美しい演技の余韻は、ほのかな痛みも加わった。

終了後の冨田選手へのインビュー。
最後の着地の失敗は、さすがに苦笑いを浮かべて、
悔しいとの言葉も出た。
だが、その次の五輪を振り返っての総括の言葉は、

「幸せなオリンピックでした。」
そう満足そうに彼は答えた。

どうして、この冨田選手は、毎回、私達をいい意味で裏切り続ける言葉を返してくるのだろう?

今回の五輪、男子は団体で銀を取った。
だが、その後の個人総合で、冨田選手は、失敗の少ない競技である吊り輪でのまさかの落下。
そして、世界大会で優勝経験のある第一人者である彼が、個人としては未だメダルはゼロ。

この最後の競技である鉄棒にメダルを期待するのは、観客である私達、そして本人も一番に望むところではなかったのか?
そんな張りつめた思いで見ていた最後の鉄棒競技で、思うような結果が出せなかった直後でのこのインタビュー。

誰もが、彼が悔やむ言葉、落胆の表情を思い浮かべる状況と読んでいた。
そこに、この「幸せ、、、」の発言。
思いがけない言葉だった。

五輪に限らない事だが、競技終了後のインタビュアーは、ある程度、その選手が何て答えるか、読んで質問してる。
そして、大部分の選手は、その読みどおりの答えを返してくる。
「悔しいです。」「嬉しいです。」
選手によって、その人なりの色の部分のコメントを付け加える事はあっても、大筋の意味は予想通りなのだ。

だが、この冨田選手という人は、毎回、こう答えるだろう、
という私達の描いていたコメントとは、かけ離れた言葉を発してくる。

前回の種目別のあん馬。
いい演技をするも、メダルには届かなかった。
この時も全く悔しさを表す言葉は一言も発せず、
「自分の満足のいく演技が出来ました。」
と、晴々とした表情を浮かべていた。

体操競技という世界は審判による採点競技。
自分がどんなにいい演技をしたと思っても、その結果は第3者である審判にその結果を委ねられる世界。

その世界に身を置きながら、自らの判断基準を持ち、得点には固執せず、自らの納得のいく演技をひたすら追い求めていく姿。

美しい演技を一心に探求し続ける、その姿勢もやはり美しい。

団体の銀メダルを取った時の冨田選手の言葉も、輝いていた。
「負けて銀メダルでなく、勝ち取った銀メダル」
凄い言葉だ。
うわべだけの言葉が飛び交う今の時代に、この言葉ほど、今回の状況を見事に潔く表した言葉はないのでなかろうか。

普段、無口であるという冨田選手。
言葉で語れない分を体で表現する。

美しい演技を生み出す、その元にあるのは、彼のその美しい魂なのだ。

これからも、その世界一の美しさを魅せてもらおう。










posted by happy130 |22:49 | 体操男子 | コメント(0) | トラックバック(0)
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