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勝ちに不思議な「価値」あり~錦織vsベルダスコ戦。

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「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」

プロ野球の野村元監督が引用した江戸時代の名言です。もともとは肥前国平戸藩主・松浦清の剣術の書からの言葉なのですが、野村節に乗ってすっかり有名になり、スポーツのみならず、会社経営の世界でも引き合いに出される機会が増えました。「勝って奢らず」の姿勢なり、勝因・敗因分析の重要性なりを説いており、教訓として使えるからでしょう。私も何らかの勝負の当事者になる時は、大いに共感を覚える言葉です。

しかし、本日の錦織vsベルダスコ戦を観戦者として眺めると、この言葉に対しどこか自己矛盾も感じます。錦織の勝ちは不思議、ベルダスコの負けは必然、テニスのゲームという、同じ時間を完全に共有した二人の間にそんな違いがあるのでしょうか? 今日は何だかそんなことを考えさせられました。

ああっ、しかし今日だけは松岡修造の解説で観たかった。

米テニスチャンネルは当然のことながら、フィリップシャトリエのマレーvsカチャノフ戦、その後はワウリンカvsモンフィス戦を主体とした構成で、スザンヌランランの錦織vsベルダスコ戦は、時折り映ってはすぐ切り替わるというストレスフルな状況。ドラマ性、エンターテイメント性、今日はすべての面で錦織vsベルダスコ戦が上だという私の確信など通じるわけもありません。

フィリップシャトリエの解説はクーリエ、スザンヌランランの解説はブレークでした。試合終盤になり、ブレークは「錦織が完全にコントロールし、ベルダスコはフィジカル、メンタルでもがいている」と表現していたように思います。“ゾーン”とか“オートマティック”といったファンタスティックな言葉で圭を表現してくれることもなく、何とも寂しい限りですが、スコアをずっと追い、ところどころの映像で状態を見ていた私にはわかりましたよ。これはとんでもない試合をしていると。

腰、股関節などに痛みを抱えていることは事実でしょうが、何とかマネージ可能な範囲なのでしょう。全くなす術のなかったように見える第1セットは、①チュン戦の疲労、②痛みをかばって(相手のミスで勝てれば勝ちたい)脳からの無意識な命令、③ベルダスコの球筋や風に純粋に打点やタイミングが合わなかった・・・等々の複合要因だったと推察します。

①は試合中のアドレナリンで、②は「後悔してローランギャロスを去りたくない」(試合後の本人談)という本人の意志と覚悟で、③は配球の変更と慣れで克服していったのがこの試合ではないかと思います。

今年3月、アカプルコOPの決勝でクエリーがナダルを破った際、「テニス競技のある本質」という記事を書かせてもらいましたが、今日の錦織戦は、また違った本質を見せてくれたように思います。

☆試合時間の長さ、セット数=消耗ではない

本日の錦織vsベルダスコ戦の試合時間は2時間34分です。ストップウォッチの「流し」としてはマラソン並みですが、一般にテニス競技の場合、インプレー時間は10%~15%と言われています。この試合であれば実質稼働時間は20分程度でしょうか。その中には、渾身の一打もあれば、精神的に追い詰められた消耗の一打もある。もちろん悠々のフリーポイントもあれば、半ば捨て鉢の淡白なギャンブルショットもあるわけです。

それもこれも、ゲーム単位、セット単位で結果が一方に片寄せされ、もう一方には大量の「無効ポイント」が量産されるポイント制度のせいでもあります。精神性はともかく、事実として無効ポイントの「数」は勝負に影響しません。そう割り切れば、自分のエンジンが暖まるまで、或いは、打感を掴むまで試行錯誤をすることになって、それが捨てセットになって相手に献上したとしても、数字上はタイブレで落とすこととなんら違いはないわけです。

マラソンなら調子が上がらぬ時間帯の借金は、最終タイムとなって必ず合算されますが、テニスのグランドスラムの場合、どんなプロセスを経ようが、勝つのに必要なものは3つのセットです。負けセットの負けっぷり次第では、ダメージコントロールが可能な部分もあるように思います。ベルダスコ戦の第1セット然り、チュン戦の第4セット然り。これらと対照的なのがデルポトロの対マレー戦第1セットだったのではないでしょうか。押して押して最後に持って行かれる、デルポトロの落胆は観ている私にも重々しく伝わりました。

アスリートのメンタル・技術には、試合の間、一定の「慣性の法則」が働くのが通常ではないかと思います。従って、普通はこうした切り替えは容易に出来ないものですが、今日の錦織はやってしまいました。これを「不屈の精神」「諦めない心」と捉えるか、「天才の所業」と捉えるかはファンの見方も分かれるところ。私は結構、後者の要素が大きいのではないかと感じます。こういう選手は、スタッツ分析のストーリーテリング力を弱める試合を時々しますね。

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この記事へのコメントコメント一覧

勝ちに不思議な「価値」あり~錦織vsベルダスコ戦。

キリ丼さん、コメントありがとうございます。

今回の全仏、ナダルが一人抜けた存在のように見えますが、残り2試合がティエム ⇒ ニュー錦織というルートになると、(テンポや間合いの違和感から)死角が最も生じやすい展開かなと想像したりもします。「ベルダスコが経験したのはこれだったのか・・・」と。

まあ何はともあれマレー戦。絶好調時の出来からはほど遠いとはいえ、あの分厚い壁をどうこじ開けるのか、本当に楽しみですね。

勝ちに不思議な「価値」あり~錦織vsベルダスコ戦。

ukk_chu_renさん

偏った知識のブロガーに勿体ないお言葉です。

QF4試合の第一弾でカレノ=ブスタが敗れ、男子シングルス128名の本戦選手のうち121名がコートを去りました。残るは上位シード勢、それもGS優勝経験者+ティエム、錦織です。誰が頂に立っても納得感のある重厚なトーナメントになって来ましたね。とはいえジョコビッチ、ティエム相手に敗色濃厚になってきました。同じ顔合わせでも、時間と場所が違えばこうも違う試合になるという教訓ですね。

GS2週目になると米国でのテレビ観戦も問題ありません。錦織戦も全ポイントが見られるはずです!

土魔人、精密機械、ディフェンスキング、新クレーキング、GSキレキレのタフガイ達に日本の天才。役者は十分です。伝説の待つ全仏クライマックスを大いに楽しみましょう!

コメントありがとうございました。

勝ちに不思議な「価値」あり~錦織vsベルダスコ戦。

なるほどと頷くことばかりです。「ニュー錦織降臨による世界のテニスファン驚愕の快勝」の言葉は、私も感じることと似ている言葉で、自分の気持ちにピタリとはまる言葉でした。ニュー錦織は、マイケル・チャンが求めてきた姿ではないかと思うのです。4つのセットは、2014年からの錦織選手の成長の姿と重なりました。第4セットでは、ベーグルで圧倒されましたが、現段階ではベルダスコをしのいでいるという意味があるのかと。錦織選手がオン・コート・インタビューで、「第4セットは自分もびっくりしている」と話していましたが、サーブ以外のショットは全てベルダスコを上回っていました。2回戦で見せたテニスと4回戦で見せたテニスができれば、マレーに勝つのも可能でしょう。同じ錦織ファンとして、私も「ニュー錦織降臨」を目撃できる幸せを味わいたいと思います。
次のコメントも楽しみにしています。

「勝ちに不思議な「価値」あり~錦織vsベルダスコ戦。」へのコメント

halfwayvolleyさん

今回もまた素晴らしいブログでした。
「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」ですかー。本当にいろんな事をご存知で、尚且つ洞察力の優れた方なのだろうといつも思っています。
この文章は、いちいち調べながら書かれた訳ではなく(アテストで調べるぐらいはあるでしょうけど)、元々の知識と洞察、感想の様なもので書かれていると推察します。知識レベルも高いなー。
無効ポイントの数、負けセットの内容は勝敗に関係無く、3セット取った方が勝ち。極端には0−6、0−6の2セットダウンでも未だ勝つ可能性が残されている。私も常々テニスのこのルールが不思議な事を起こさせていると感じます。そこが面白い所だと感じています。
内容も興味を引かれるものでした。
ホント、錦織を見られるラッキーな私達ですね。(アメリカに居らっしゃる事で少し?随分?アンラッキーがある様ですが、、)

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