Moon Ball in the Sun

モンテカルロ閉幕~ケガとプイユとミスジャッジと~

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モンテカルロMSが終わりました。序盤順当、中盤大荒れ、最後は大団円のクレーキング戴冠。いろんな事があったので、どんな切り口で書こうか迷いましたが、あまりストーリーに拘らず、頭に浮かんだことをポンポン挙げていこうと思います。
「風と雲と虹と」(1976年、NHK大河ドラマ)、「恋しさとせつなさと心強さと」(1994年、篠原涼子の大ヒット曲)ではないですが、テニス観戦という至福の時間を過ごしながら、気になった3つの単語をつなげると、今この瞬間の私は「ケガとプイユとミスジャッジと」になります。
人によっては、いやいやもっと気になるのは、トーナメント運営のスケジュール問題だ、観客のマナー問題だ、いやいや、ラケット破壊問題だ、サーフェスとボールの問題だ、選手の大会出場プランだ・・・と、その時々に旬なテーマがあるでしょう。スポナビのブログでも活発に意見が交わされており、私自身もたかだか1年足らずのブログ歴の中で、UE解釈問題だったり、錦織選手の特質に関することだったり、最近では世代交代論だったりを書いたりしています。
そして今、モンテカルMS準決勝、ナダルVSゴファン(今回からゴフィンではなくゴファンにしてみます)の第1セット、試合の流れを完全に変えたミスジャッジ事件と、プイユの地味な活躍、バルセロナOPの錦織欠場の報道が同時期に重なって、ちょっとばかり思いが巡ってきたので、ケガとプイユとミスジャッジについて少々書かせていただきます。ケガについては、昨年全英での錦織選手のリタイア、ミスジャッジについても、同じ全英でのクエリーVSジョコビッチ戦アップセットの際に採り上げた内容が一部重なります。記事にご記憶のある方には「またかよ」の思いをさせてしまいますが、今は今なりの考えもありますので、どうかご容赦ください。
まずケガについてです。スポーツにケガは付き物ですが、ケガで実力を出せない状況は、選手本人もファンも本当にフラストレーションが溜まるもので、私なんかは、スポーツ漫画ですら、読み手として悶々としてしまうことがあります。「スラムダンク」の赤木の足首捻挫とか桜木の背中痛とか、本来の力だ出せない状態が切なかったです。
さてリアルな世界(漫画「リアル」じゃないですよ)。2016年全英4回戦のチリッチ戦、脇腹痛を抱えた錦織選手は強行出場ともとれる痛々しい姿でプレーし、試合途中で棄権しました。この時は出場の是非、或いは棄権のタイミングの妥当性を巡って議論が湧き起こったわけです。私としては、テニス競技における棄権の判断は、本人の裁量余地が大きく、かつリスクマネージしやすいと思っていますので、プレーしながら考えるのもありだろう、当時はそんなことを書きました。ボクシング等の格闘技やサッカー等のチーム競技とテニスを比べるとわかりやすいですが、フィジカルに不安を抱えていても、選手自身の自己責任で事態を観察しながらプレーの種類やレベルを調整し、プレーが止まる幾多のタイミングの中で、自由に継続・棄権の判断ができるスポーツと捉えています。
でも、ケガの種類によりますね、これは。今回の錦織選手の手首に関しては、プレーの種類やレベルを選べない箇所であり、よりストレートに言えば、ゴマカシが利かない箇所、再発悪化リスクの高い箇所、しっかり治すことでしか活路が開けない箇所ではないかと心配しております。
ファンからの応援の声に「ケガには十分に注意して」という言葉がありますが、ケガをしないことが勝利に優先する会社勤めのアマチュアテニス選手と違って、勝つためにギリギリのプレーをするプロ選手に対しては、残念ながら、これは殆ど実効性のない激励フレーズなのだろうと思ってしまいます。
ケガといってもいくつか種類があります。一つは、その選手のフォームや体質に起因する構造的なリスクがプレーの累積によって顕在化したもの(負傷タイプ①)。デルポトロやナダルの手首はこれに当たるのでしょう。二つめは、試合中の集中的な負荷蓄積や強烈なワンプレーで発生する、攣った・剥がれた・捻った・転んだ系のアクシデント(負傷タイプ②)。西岡のヒザ、ラオニッチのハムストリングはこちらに分類されるでしょう。他にも、日常生活中のアクシデントがありますね。直近では、娘さんとの入浴中にケガしたフェデラーの例がありますが、一般人も含めたかなりジェネラルな話なので、ここでは除きましょう。
タイプ①の負傷を回避するため、或いは、タイプ②のアクシデント発症のリスクを下げるため、選手が事前に出来ることは、まずは特定の箇所に負担をかけないバランスのよいフォーム作り、そして普段からの体重管理や栄養管理、筋力トレーニング、可動域拡大のためのストレッチ運動等があるでしょう。そして試合直前のアップの質と量。しかし、試合中に出来ることとなると、相手が繰り出した厳しい球をどこまで追うか、予想の逆側を突かれたショット、ドロップショット、頭を越されたロブ、こういったショットへの対応とその見切りということになるのでしょう。重要度の低いポイントでのケガは、リスクとリターンが見合わないので、タイプ②の負傷は極力避けたいところですが、選手の本能がそれを邪魔することもあると思います。結局、プロ選手にとっての「ケガに気を付ける」の正体は、普段通り、ルーティンをきちんとすることでしかない気がします。
錦織選手のバルセロナ欠場の理由は右手首痛とのことです。ベルダスコやフォニーニの重い球を受け続けたため顕在化したという観測記事もありましたが、基本的には、以前から潜在的に抱えていたリスクであり、タイプ①の負傷なのでしょう。小指側の靭帯の痛み(TFCC)なのか、そうでないのか詳しい情報は出ているのでしょうか。直近の報道では、5月8日のマドリード大会からの復帰を想定しているようですが、あと1~2週間というスパンで回復するものなのか、充実の27歳の時期に長期離脱とならぬことを祈るばかりです。
次にミスジャッジについてです。この問題は、審判個人の能力や努力などではなく、制度としての改善を願ってやみません。ホークアイのもたらした透明性に関しては、昨年全英のクエリーVSジョコビッチのアップセット事件の際に書きましたが、今回はクレーコートで起きた事件なのでまた違う様相を呈しています。あの時のジョコビッチの敗北は、彼自身がチャレンジの権利を早々に喪失したマネージミスが一因で、制度としてのフェアネスは確保されている認識です。またホークアイ判定は、選手に対してのみならず、審判の責任や心理的負担を軽減し、観客の納得感も高めるものになっています。そのお陰で、クエリーVSジョコビッチ戦の後味は、今回のナダルVSゴファン戦のように悪いものではなかったと思います。もしクレーの試合にもホークアイが導入されていれば、線審が「アウト」、主審が「イン」と判定した今回の事案でも、ゴファンのチャレンジ後にホークアイが「アウト」と判定し、ゴファンのゲーム獲得で終わった話です。主審のミスは記録として残りますが、事実の確認により、審判が過ごす嫌な時間は短時間で済んだことでしょう。ナダルとしては、本人に帰すべき責任が皆無なのに、観客のブーイング(本当はムーリエ主審への抗議の声なのですが)を浴び続けたわけで、本当に不憫でなりません。
誤審事件に関連し、以前と同じ例を引用して悪いですが、サッカーW杯2010年の南アフリカ大会、ドイツVSイングランド戦の「幻のゴール」も世紀のミスジャッジ事件として特に有名です。しかし、サッカーにはサッカーで、ビデオ判定を採用してこなかった哲学があり、審判がその瞬間に判断したものを最終結論として受け入れる、90分間の澱みない流れと即断即決の美学を重んじる競技になっています。最近はビデオ活用の実験も行われているそうで、将来はどうなるかわかりませんが、競技哲学が正確性担保より上位に位置する概念なら、それも一つの選択でしょう。それに比べ、テニスははっきりと合理性に舵を切っているわけですが、クレーコートだけは最終判断ルールが異なる、それでいてホークアイの映像は存在しているという中途半端な状況になっています。地面に残ったボールの痕跡の方が、ホークアイによる映像処理より信頼性があるというのが理由ですが、実際のところ、その合理性はどうなのでしょう。
コート上に混在する複数の痕跡、数ミリ単位の判定の微妙さ、主審が現場を確認するために生じる試合の中断、選手の動きによって証拠が消える可能性など、ホークアイに比べて欠陥が多いように思うのは、観戦者の目線だからでしょうか。実際、選手からすれば、自コートの痕跡であれば自らの目で見てクレーム出来るメリットがあるかもしれません。ところが、今回ゴファンが遭遇した事件は、その損得計算を覆す、何とも恐ろしい事例になってしまいました。協会サイドで、何らかの改善議論が行われることを強く望みます。
最後にプイユです。モンテカルロMSはナダルの優勝で幕を閉じました。クレーキングによる同一大会10度目の優勝。結局のところ賜杯は収まるところ収まったわけですが、マレー、チリッチを破ったラモスビノラスがナダルを破って優勝したら、それはそれで優勝に相応しい内容でした。また、仮にゴファンが準決勝でナダルに勝ち、決勝でラモスビノラスに勝てば、これもこれでジョコビッチ、ナダルを破っての優勝なので文句なしだったでしょう。ベスト4の顔触れから言うと、唯一、プイユが勝ち残った時だけが、タナボタ感漂う優勝になるところでした。プイユがゴファンに相性がよいこと、ナダルにも昨夏の全米で勝っていることで、そのシナリオを私は結構リアルに想定していました。そのプイユもラモスビノラスに不完全燃焼感のある負け方をしましたね。才能はあるのに、この人も何か突き抜けられない選手との印象を持ってしまいました。
プイユという選手は、ボールタッチや戦術眼に大変なセンスがある選手ですが、逆に、これといった武器や特徴のはっきりしない不思議な選手です。また、23歳という年齢の割に荒っぽさがあまり感じられず、むしろ少々老けて見えるのは、決してビジュアルだけでなく、力をセーブして相手が嫌がるコースを狙うところ、相手の圧力に合わせて自分のレベルが変わるところがあり、どこか器用さが勝った印象があるせいだと思います。昨夏の全米でナダルを撃破した時は、キレキレ状態で果敢な攻めを見せ、プレー上限レベルの高さに恐ろしさも感じたのですが、現時点でティエム、キリオス、ズべレフといった面々と比べると、インパクトの弱さは否めません。
プイユのこれまでの成績ですが、現トップ8(BIG4、ワウリンカ、錦織、ラオニッチ、チリッチ)との戦績は1勝10敗です。一方、ティエムには2勝0敗、ゴファンには3勝0敗です。もしかして将来は、ベルディヒ的なポジションに向かうのかなとも思い始めてきました。ちなみにキリオスには0勝1敗です。

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この記事へのコメントコメント一覧

モンテカルロ閉幕~ケガとプイユとミスジャッジと~

ukk_chu_renさん、コメントありがとうございました。

自分のシロウト経験では、腰痛の時はトップスピンサーブをやめる、肩の時はサービスのスピードを落とす、スリークォーター気味のスライスする等で凌いだ記憶があります。あくまで草テニスの話です。

これまでの錦織選手のコメントを見ていくと、自分が抱える痛みを割と正直に表現するので、「出場する」と判断するときは、基本的には悪化を覚悟しての判断ではなく、やりながら治せるという感触があってのものだと思います。結果はそうでない時もありましたが・・・。

そんな中で今回の手首ですね。ご指摘のようにラケットに一番近く、自分でレベルを調整できるサービスと違って、すべてのショットで相手の圧力を真っ先に受け止める箇所です。また、球種やコースに多大な影響を与える箇所なので、庇おうにも庇えない辛い箇所と推察します。本当に心配ですね。

でも、そんな事は選手たちがよく知っているわけで、錦織選手が「出る」という判断をしたのなら、その感触を信じて精一杯応援するだけです。見守る方もドキドキの時間が来そうですが、リスクゼロの判断など、この世界にはそうないと思うので、その時は覚悟を決めて応援しましょう!


「モンテカルロ閉幕~ケガとプイユとミスジャッジと~」へのコメント

halfwayvolleyさん
今回も楽しく読ませて頂きました。
「プレーの種類やレベルを選べない箇所であり、よりストレートに言えば、ゴマカシが利かない箇所、再発悪化リスクの高い箇所、しっかり治すことでしか活路が開けない箇所」
読ませていただきながら、この種類の箇所って、他には肘、肩、足首、膝、股関節、腰等がありますが、最たる箇所が手首かなと。デルポトロも長期離脱に繋がってしまいました。それにラケットに一番近い間接ですよね。

「その時々に旬なテーマ」という事で幾つか挙がっていた内容、全て私が書いたテーマだ!ちょっと反応してしまいました。多くの方が書いたテーマですよね。意識過剰でした。

読み進める程に、いろんな事を連想させてくれる文章でした。
次回も楽しみにしています。

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