Moon Ball in the Sun

アカプルコでクエリーが見せたテニス競技の「ある本質」

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アカプルコはクエリーの優勝で幕を閉じました。米国テニスチャンネルで観戦していましたが、対米国人選手16連勝だったナダルが破れる、という小ネタ付きで報道されていました。クエリーは対ナダル5戦目にしての初勝利だそうです。

しかしまあ、今日はクエリーのショットがよく入る、入る。

クエリーはナダル相手に長いラリーに付き合う気などないのでしょう。70%の体勢でも、引っぱたける時は思い切り手首を使って引っぱたき、コートの隅にボールをねじ込んでいました。ナダルは悪くなかったと思います。もっと打ち合えていれば、戦術の善し悪しなどに議論が及ぶのですが、今日のように、対話を拒否する相手(人間的な意味ではありませんよ。サービスエースとギャンブルショット・ウィナー量産のスタイルです)だと、敗れても評価がしづらいものです。どの選手にも心身の好不調はありますが、このような「当たり」の日には誰にでも勝ってしまうタイプの選手をどう封じこめるか、これはトップ選手にとって、解決可能かすら怪しい永遠の課題です。

今大会のクエリーの優勝は、ゴフィン、ティエム、キリオス、ナダルを連続撃破しての偉業です。まさに「当たり」を4試合並べたわけで、このメンバー相手に瓦4枚抜きをやられると、それはもはや「実力」と呼ぶべきなのかもしれません。しかし、私もテニス観戦の自称ベテラン。まだそこまでは譲れません。これがもし19歳の若手選手の仕事だったとしたら、その伸びシロに思いを巡らせ、かなり違った受け止め方をしたでしょう。しかし、クエリーについては、これまでも幾多の試合を観てきました。そして、彼がどんな選手かを私たちはよく知っている。こう考えると、今回のクエリーの爆発は、テニスという競技の本質を考える格好の材料に思えてきました。

さて、クエリーといえば、昨年は全英3回戦でジョコビッチを破った記憶が新しいところです。その後、4回戦でマユをストレートで下しましたが、QFではラオニッチに敗れました。5セットマッチのグランドスラムでは、試合は1日おきに組まれ、挟まれた日を調整や体力回復に充てることができます。クエリーのような展開の速い選手にとってはどうでしょう。今回のような「当たり」の4連発は、3セットマッチで休息日のない短期決戦の方が、起きやすい結果かもしれませんね。

先ほど「テニスという競技の本質」と、やや大袈裟な表現を使ってしまいましたが、それは、テニスが「敗者のゲーム」なのかというテーマです。「敗者のゲーム」とは、投資の世界の名著『敗者のゲーム』から来ています。その表現が使われた部分だけ簡単にまとめれば、投資の世界は、負けるべく人が負ける(市場平均よりも損をする)ことで勝敗が決しています。その文中「敗者のゲーム」の代表例として、テニスが引き合いに出されます。テニスという競技は、相手よりも一本多く返せば得点になる、つまり、ミスをした方が負ける「敗者のゲーム」だということです。但し、これには重要な前提があります。それはアマチュアテニスの話だと。

私も同感です。プロのテニスは「敗者のゲーム」ではなく、自ら適切なリスクをとってポイントを重ねる「勝者のゲーム」だと捉えています。一見ミス多発で自滅したかのように見える試合でも、やはりプロの試合の本質は、二人のうちのどちらがその日の勝者に相応しいかを決めるゲームであることに、殆ど疑いはありません。

そこで今日のクエリーです。ナダルを相手に明らかに「勝者のゲーム」に徹していました。この戦い方で負けるなら仕方ないという割り切りもあったでしょうし、昨日までの好調への信頼もあったでしょう。こうした心理状態は、テニスには大変なプラスなわけで、やはりビッグサーブ&フラット引っぱたき系ストロークの大型選手は、「極端すぎるほどの勝者のゲーム」(誤解を恐れずに言えば、あたかも「ウィナー数の多い方が勝ち」というルールで戦う試合)をすることが可能です。相手を選びません。

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この記事へのコメントコメント一覧

アカプルコでクエリーが見せたテニス競技の「ある本質」

岩さま

このたびはコメントありがとうございます。
テニス界のメインストリームにおられる方からの声、たいへん励みになります。

更新頻度にはちょっと自信がありませんが、どうぞ宜しくお願いします。

「アカプルコでクエリーが見せたテニス競技の「ある本質」」へのコメント

こんにちは。

元プロ現コーチをしております。
一言で申しますと、面白いブログを見つけた、です。

今後も参考として見させていただきます。

お体にお気を付けてされますよう。

アカプルコでクエリーが見せたテニス競技の「ある本質」

jigyakutekiさん、コメントありがとうございました。

プロ―アマ、「勝者のゲーム」―「敗者のゲーム」で少々デジタルに分けすぎたかもしれませんね。

ご指摘のとおり、ゲームの性格は、あるラインを境に白黒に綺麗に分かれるものでなく、レベルが上がっていくごとに「やらなきゃ、やられる」の攻めプレッシャーは段階的に強まっていくものだと思います。アマであっても、インターハイレベルになればもう相当な攻めプレッシャーがあるのだろうと、私なんかは想像しています。

さて、プロの話ですが、今のATPのトップに立っているのが守備力に優れたマレーですから、「勝者のゲーム」を継続的に制していくのは、やはり、より確率の高い攻撃(得点方法)を粘り強く実践できる選手ということになりますね。それでも、昨日のサム・クエリーのような戦い方が嵌れば、確率は低いまでも、トップ選手の強さ・良さが出てくる前に勝敗を決めてしまうことがあるのがテニスの恐ろしさと思い知らさせました。

ジョコビッチ対キリオスの試合はテレビで観ていましたが、こちらでも夜の遅い時間でしたので、不覚にも途中うたた寝してしまいました。大体の流れとしては、ジョコビッチが普通に押され負けた試合です。キリオスはサービスエース25本というノリノリ状態でしたが、ダブルファーストとか、リスクテイク姿勢丸出しで刺し違いに行った感じはなく、自分の持ち球で合理的な攻めをしていたと思います。ああいう「圧」のある相手を止められないのが、今のジョコビッチなのかと感じてしまいました。デルポトロ戦で出し過ぎたんでしょうかね。

jigyakutekiさんのブログも楽しみにしております。

アカプルコでクエリーが見せたテニス競技の「ある本質」

EXO Penさん、

またもコメントをいただき有り難うございます。さほど狙わず、何気なく出てきた表現でしたが、まさかここをお気に召していただけるとは!

趣味で続けているブログですが、読んでいただく以上は少しでも楽しんでもらいたいと思いますので、大変うれしいです。

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