2009年01月14日

サッカーをしたい女の子のため(下)池田浩美から澤穂希へ

2007年3月。
サッカー日本女子代表「なでしこJAPAN」は夏のW杯出場権を賭けてメキシコと戦った。 
ホーム国立では2-0の勝利。 

メキシコはアウェーの会場に高度2400メートルのスタジアムを選んできた。 
当然酸素が薄いので慣れていないとすぐバテる。 
気圧が低いのでボールの飛び方も勝手が違う。 
しかも気温は30度。 

それでもサッカー日本女子代表は懸命に走った。 
中澤の髪型と鈴木隆行のフィジカル&献身性を併せ持つFW荒川恵理子がGKニアサイドをぶち抜く貴重なアウェーゴールを叩き出す。 
その後メキシコに押されまくって2点取られてこの試合には負けた。
でもトータル3-2で勝利。 
なでしこJAPANは無事W杯出場権を獲得した。 

このチームの主将が池田浩美。
当時は結婚前で「磯崎」浩美だった。 
大部由美から代表主将とセンターバックのポジションを奪い取った選手である。 

池田と大部は同じ1975年生まれ。 
でも二人のサッカー人生は対照的だった。 
大部は中学時代から有名で16歳で日本代表入りした早熟な選手。 
池田は中学では陸上をしており高校に入ってからサッカーを始めた遅咲きの選手。 
14年かけてド素人だった磯崎はエリートだった大部に追いついた。 
世界選抜に招集されるほどの選手になった。 

大部とは対照的なキャリアの選手がどのようにチームをまとめるのか興味があった。 
しかし池田はぼくが予想していた以上に大部に似た選手だったのかもしれない。 

メキシコに勝った直後。 
エースの澤穂希は感想を問われて語った。 


「苦しかったです(笑)嬉しかったけど苦しかったのが最初。 
 それでみんなも結構泣いていてつられてしまった。 
 普段泣かないような人が号泣していて・・・。 
 イソ(磯崎)も。 
 イソは円陣になったときも声を震わせてみんなに声をかけたんです。 
 イソの一言ってすごく大きいんですよね。 
 『苦しいというのはあるけど1人じゃない』っていうのを言っていた。 
 泣きそうになってしまったので後ろを向きました」 


1人ではない。 
11人いる。 
ベンチの選手がいる。 
メキシコに来られなかった選手たちがいる。 
日本中のサッカーを愛する女の子たちがいる。 


キャプテン磯崎に率いられて「なでしこ」たちは高度2400メートル気温30度の芝生の上を駆け続けた。 
1人倒れるたび1人起き上がって最後の1点を守り抜いた。
自分たちのために。 
世間の女子サッカーへの関心を失わせないために。
サッカーを愛するすべての女の子のために。 
日本女子サッカーの魂は大部由美から池田浩美に手渡された。 


しかし2008年12月。
その池田もTASAKIベルーレと共にサッカー界を去った。

苦戦が続いた2007年W杯本大会。
メダルに後一歩まで迫った2008年北京五輪。 
世界では技術・スピード・体力あらゆる点で日本は劣勢であることを否めなかった。 
でもいつだって気持ちと運動量だけは負けないでいてくれた。

今ならその理由がわかる。 
彼女たちは孤独ではなかったということ。
だから池田の託したバトンも必ず誰かが継いでくれること。

北京五輪3位決定戦のロッカールームで澤穂希は若い選手たちに声をかけた。


「苦しかったら私の背中を見て」


大部や池田の背中をずっと見てきた澤だからこその言葉。


女子サッカーを取り巻く状況は世相を反映していっそう厳しい。
でもサッカーを愛するならばわれわれも彼女たちにできることをしよう。

彼女たちの背中を見つめ続けること。

「なでしこ」たちを絶対に絶対に孤独にしないこと。

posted by gregorsamsa |10:43 | コメント(0) | トラックバック(0)
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