阿佐智の「アサスポ・ワールド・ベースボール」

GG佐藤退団の真相からみる日伊野球の違い

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「こっちも悪いんですけどね」
GG佐藤は、あの時を振り返る。「あの時」とは、ボローニャ退団が決まった8月末のことである。
「でも、その前から球団の態度が変わってきてたんですけどね。こっちいると、家のこまごまとしたことあまりできないじゃないですか、最初はやってくれてたんですけど、だんだんやってくれなくなって…。そんなこんなで、不信感がたまってきてたんですよ」
 球団にしてみれば、イタリアに来て5か月にもなれば、そろそろ自分の身の周りのことは自分でしてほしいと言う考えもあったのかもしれない。彼の話を聞けば、コミュニケーション不足からくるボタンのかけ違いが原因だったようにも思える。イタリア語習得に熱心で、試合のない日は、イタリア語を習いにいったり、チームメイトを自宅に招いて言葉を教えてもらうなど、佐藤はイタリアに溶け込もうと努力していた。しかし、こまごまとした要求や、気持ちの微妙なニュアンスまで伝えられるほどには彼のイタリア語は流ちょうでなかったことも確かだ、指導者の多くやフロントは片言の英語を話すとは言え、彼らの英語も完璧なものではなく、アメリカでマイナー経験のある佐藤も、3シーズンのアメリカ生活で英語は結局完全には習得できなかったと言っている。

 しかし、単なる言葉の問題やコミュニケーション不足だけが今回の退団騒動の真相だとも言えない。イタリア球界の事情通の話からは、佐藤に対するボローニャ球団の需要の低下が背景にあるとも推測できる。

プロリーグ、イタリアンベースボールリーグ(IBL)の拡大策を目論むイタリア野球ソフトボール連盟(FIBS)は、来季よりこれまでの8球団制から4球団増の12球団、2地区制を導入しようとしているという。しかし、おそらくアマチュアトップリーグ・セリエAから昇格するであろう新規加入球団は、IBL昇格に二の足を踏んでいるというのが現実である。IBL入りによって増大する選手への報酬や遠征費などの支出増は、球団の持続的成長にプラスには働かないと考える球団は少なくない。
そこで、FIBSは、セリエからの「昇格」を促すために譲歩を行うことにした。試合数減と外国人選手枠の縮小である。試合数減により、平日の試合が減り、遠征費も抑えられる。また、外国人枠の縮小は、EU国籍保有者より高く設定されている選手登録費を軽減できることになる。これらの改革を既存球団はプロ化に逆行するものとして、FIBSに異議を唱え、いまだIBLは来シーズンのフォーマットを確定できずにいる。

このことは、佐藤とボローニャとの関係においては、以下のことを意味する。まずFIBSの思惑通り外国人枠が2人に狭まれば、ボローニャにとって、佐藤はどうしても欲しい選手ではなくなってくる。枠内の2人の外国人は、先発投手と強打の内野手ということになるだろう。それまで雇っていた勝ち試合用のリリーフ投手や、ある意味打つだけの外野手に対する需要は確実に低下する。そう考えれば、球団の対応が鈍くなってきたという佐藤の言葉にも納得がいく。

しかし、あれだけの騒動がありながら、球団は佐藤に来シーズンのオファーも非公式ながら出している。国内リーグは終わっていたとは言え、ヨーロッパチャンピオンを決めるユーロ・ファイナル4が残っているというシーズン途中で解雇しておきながら、一方では来年のオファーも出すと言うのは、日本では考えられないことだが、これについては、ボローニャ・ナニーニ監督も、佐藤を来季も必要な選手だとして、この事実を認めている。
ただ、外国人枠が現状のままだったとすれば、佐藤は是非とも来てほしい戦力なのだろうが、仮に2枠に狭まったとしても、球団とすれば契約はともかく、コーチ的な役割をするという条件なら、佐藤を重要な「戦力」と考えていたのではないだろうか。一部報道では、兼任コーチだったというものがあるが、実際は今年の佐藤は選手のみの契約だった。

ボローニャ球団が佐藤に解雇を通告した直接の理由は、国内トーナメントの「コッパ・イタリア」のネットゥーノ遠征を拒んだことである。しかし、これについても佐藤は、
「この試合は外国人(登録選手)は出場できないですからね。遠いでしょ、ネットゥーノ。30分バッティング練習するのに片道7時間バスに揺られるのももったいないんで、本拠地で練習させてくれって言ったんですよ。そもそも、このトーナメントには帯同しなくていいってあらかじめ言われていたんですよ。シーズン終わった(プレーオフ敗退)後、1週間オフ貰って、バカンスに行って、帰ってきたら、監督にいきなり遠征についてきてくれって…。で、断ったんですが…。もちろん丁寧に言いましたよ。結局行かなかったんですが、球団の会議にかけるって話になって…。監督はそう言ったらしいんですけど、僕はそんなこと全然聞いていなくって。で、球団の人に呼ばれて、今シーズンはクビだけど、来シーズンは契約したいって言われて。結局計算ずくなんでしょう。向こう(海外)ってそういうところあるでしょ。」と語る。
 この話も、外国人枠が縮小した場合のオプションとしてコーチ業も佐藤に求めようと、遠征への帯同を要請した球団が、これを拒否されたため、残りシーズンの人件費節減もあって佐藤を「解雇」したと解釈すれば合点がいく。確かに球団と契約を結んでいる以上、チームの帯同への拒否は、解雇の条件を十分に満たすものである。「当初の遠征に来なくていい」などという言葉は、口約束にしか過ぎないのだから。
 
佐藤自身は、リーグ戦でタイトルを獲れなかった分、コッパ・イタリアのあとに控えていたファイナル4を楽しみにしていたが、この日程は、シーズン当初から決まっていたわけではなく、国別の欧州選手権、WBC予選と国際大会が各国リーグ戦の後に控えていたこともあって、当初は開催見送りの話も出ていたほどである。つまり、球団としては、元々佐藤をこの大会の戦力とは考えておらず、この大会の日程によって、佐藤の帰国日、つまり契約の終了日が変わることはなかったという。
 
イタリア野球の一部サイトには、監督の指示を拒否した佐藤がロッカーを片付け始めて、ユニフォームをゴミ箱に捨てたなどとも報道されているが、これに関しては、佐藤は「いらないものは他の選手にあげましたけど、そんな事実はない」と否定する。これもおそらく、解雇はあくまで佐藤側に責任があるということを示すための誇張表現なのだろう。

私が佐藤と球団とのトラブルを知ったのは、イタリア取材を終えて、帰国の途につくべくローマに戻った8月19日のことだった。ボローニャ、ナニーニ監督からのメールには、翻訳機能を使ったと思われる不思議な日本語があった。
「おはよう。当時の氏G.G.チームから外された。彼に、日本への名誉を作る彼の重要なプレーヤーのために不適切な行動。会社のFortitudoは、重要な決定を下すために会う予定」
この意味を理解すべくナニーニ監督と連絡を取ったのだが、私がことの次第を知り、佐藤の身を案じつつ、帰国したその日、解雇が球団から発表された。
皮肉なことに、佐藤抜きで臨んだファイナル4でボローニャは見事優勝した。ヨーロッパチャンピオンの栄冠を手土産に帰国したいという佐藤の夢はかなうことはなかった。それでも、佐藤はチームの優勝は素直にうれしいという。

「我々はGG佐藤を来年も受け入れる準備がある」
ボローニャ球団監督、GMは口をそろえる。だったらどうしてと思うのだが、それがイタリア野球というほかない。

  • 現役続行か、引退か、揺れ動くGG佐藤の心境については、11月初旬発売の「野球小僧」に特集が組まれます。お楽しみに。


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