阿佐智の「アサスポ・ワールド・ベースボール」

フロリダ野球紀行6:旧ソ連、モルドバ初のプロ野球選手

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ツインズコンプレックスにて。 路は 「道はここに始まる」というマイナー施設入り口の言葉どおり、メジャー目指してプレーする選手に再会した。

試合がないので、寮を訪問、お目当ての選手に会えないかと、受付の女性にダメもとで聞いてみると、向かいにある球団の管理棟に行ってGMに掛け合って来いとのこと。それでのこのことオフィスまで足を運ぶ。 Balan 受付には誰もいないので、その奥の廊下に入り込むと男の姿が、事情を話すと、 「俺はGMじゃないし、忙しいんだが」と言いながら、寮に電話をしてくれ、その選手を呼び出してくれた。 「遊びに行ったと思ったが…。ラッキーだな、いたよ」 ということで、めでたく再会。

バディン・バラン。「モルドヴァ人初のプロ野球選手」だ。 Badin

彼と出会ったのは、2012年。夏にイタリアで行われるMLBのヨーロピアン・アカデミーを取材したとき、彼がそこに弟とともに参加していたのだ。この時のゲームで彼の弟がゲームに登板し、写真を送ってくれとせがまれたので、送ったのだ。 彼はこの時のことを覚えていてくれていて、インタビューに快く応じてくれた。 弟の方は今もプレーを続けていて。この夏もU21の国際大会にロシア代表としてイスラエルに遠征に行ったという。 旧ソ連において、辺境の地だったモルドバでは結構野球が盛んだったというのは本で読んだことがあるが、彼らは、2重国籍を利用してロシアの代表でもプレーできるようだ。 それに、彼らは「モルドバ人」とは言っても、彼の場合、ことは少々複雑だ。 彼らのホームタウン、ティラスポリを私も訪ねたことがある。この町は、実は旧ソ連が崩壊し、隣国のルーマニアと民族的に近いモルドバが独立した際、それを嫌がったロシア系住民とモルドバ系住民がさらにそのモルドバから一方的に独立した「沿ドニエストル共和国」の首都なのだ。この町へはモルドバの首都、キシナウからアクセスできるが、列車は「国境」までしか行かず、日もとっぷりと暮れた後、数キロ離れたティラスポリまで、出るのに難儀した思い出が私にもある。正確には彼は「沿ドニエストル共和国初のプロ野球選手」なのだ。とは言え、世界中どこの国も認めていないこの国の人々は、モルドバのパスポートも、この「国」を保護するロシアのどちらのパスポートも取れるらしく、彼は「モルドバ人」としてアメリカに渡った。

彼が野球を始めたのは12歳の時だという。野球を知っている友達に誘われたのがきっかけらしい。「政府」どうしはいがみ合っているが、モルドバと「沿ドニエストル」は野球を通じた交流は盛んなようで、ティラスポリの3チームとキシナウの4チームは試合を行っている。そういう中で、MLBから派遣されたスカウト(とってもプロではなく、ヨーロッパ在住のアメリカ人がアルバイトでやっているだけだが)がこの対抗戦を観に来て彼もそこで目をつけられた。 「タンパベイやピッツバーグが観に来てたよ」とバランはチーム名を教えてくれた。 そういう中からイタリア・ティレニアで開催されるアカデミーのことを耳にし、バスを乗り継いで参加したのが2012年。  ヨーロッパアカデミーには翌2013年にも参加したが、結局スカウトのお眼鏡にかかることはなかった。そして、2014年にいったん野球から離れたものの、2015年に再び競技復帰。今度はよりレベルの高いチェコに活躍の場を求め、約2か月、オストラバというチームでプレーした。そしてこれが吉と出、ついにミネソタ・ツインズと7年契約を結んだ。契約金は1万5000$。正直MLBのチームからすればはした金に過ぎない。しかし、ひとりあたりGDP4666$というモルドバ人の彼にとって大きな金額であったことは間違いない。結局、このルーキーシーズンはリリーフで1試合、わずか1イニング2/3を投げただけにとどまった。  このシーズンオフには、一旦モルドバへ帰った後、ニュージーランドに渡り、現地のアマリーグで、「助っ人」として月給500ドルで投げていたという。MLBの育成の場は、世界各地に広がっているようだ。  貧国のドミニカへ野球普及の要因としてこの競技が「金になる」ことを指摘したスポーツ人類学者のアラン・クラインはヨーロッパの野球普及について、豊かな西欧より貧しい東欧により可能性を見出しているが、彼の言葉どおり現在、この地域へのスカウト網は確実に広がっているようだ。ちなみに彼の同室者は南アフリカからの選手だ。  今季は残念ながら、早々に故障者リストに入り、結局登板の機会なしに終わった。  現在の彼の月給は1000~1500$ほどだという。ここから500$が寮費として引かれるが、正直ここにいる限り他に金を使うことはほとんどない。なにしろ、町の中心まで20キロほどあるのだから。休日に自転車で出かける選手もいるようだが、ハードな日程の中、そうしょっちゅう出かけられるものでもないだろう。  7年契約と言っても、これは7シーズンを保証されたものではもちろんない。ツインズが7シーズンは囲いこめるという意味合いが強い(もちろん、ある程度実力つき、他のチームから目をつけられればルールファイブドラフトで移籍することもあるが)。クビはいつ宣告されるかわからない。  そういう「不安定低賃金」の出稼ぎ者でもある彼だが、その射程は、メジャーというより「アメリカでの仕事」にあるようだった。将来的にはアメリカの市民権を得て引き続きアメリカで働きたいという。グローバル化が進む現在、「ベースボール労働移民」も多様化しているようだ。 ばぢん2

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