2008年06月11日

第十七回 人は経験の生き物

技術は年々進化を続け、かつ継承されていく。したがって技術は初歩的な段階に逆戻りしたり、後退することはまずない。

一方、人は一から経験を積み上げるも、その経験のすべてを伝えきることなく死とともに墓場にもっていってしまう。
「戦争は悪」と先人から学んでいても、いつもどこかで戦争は繰り返し行われている。残念ながら人は自ら戦争を体験してはじめて、「戦争は悪」を真に学ぶ。ゆえに人は経験の生き物たる所以である。

ジーコジャパンのサッカーも選手としてのジーコの経験が色濃く投影されていた。

ジーコの活躍していた頃のブラジル代表は四人のMFがゲームを組み立て、攻撃重視のサッカーを展開していた。

当時ジーコ、ファルカン、ソクラテス、トニーニョセレーゾのMFは「黄金のカルテット」と呼ばれていた。ジーコが中田、中村、小野、稲本を重用したのは、日本版「黄金のカルテット」を思い描いていたふしがある。しかもこの四人はヨーロッパ組みだ。
ジーコは選手がハイレベルな欧州で経験をつむことを重視し続けてきた。ジーコのオフィシャルサイトに日本人選手がヨーロッパでプレーすることの意味を説いていた。試合に出られなくとも、在籍するだけで得がたい経験を身に付けることができる。そのひとつにJリーグでは感覚的にとらえきれないフィジカルの違いを肌で体得できることをあげていた。

意外なことにジーコ自身、ブラジル以外でプレーをしたのは83年~85年のシーズンをセリエAのウディネーゼで過ごしただけである。この短い海外経験がヨーロッパ組み重視につながったかどうかは簡単に判断がつきかねる。

ジーコのブラジル仕込みの攻撃重視はサントスの起用法によく表れている。サントスのディフェンス能力は目を覆いたくなるほど世界水準とかけ離れているが、ジーコはそれに勝る彼の攻撃センスを評価し続けた。

ジーコがディフェンス面を軽視したとは言わないが、人に弱い宮本を使い続けてきたのは彼のキャプテンとしての能力の高さを重視した結果だろう。宮本は一時期、西野監督から所属のガンバ大阪でもレギラーをはずされていたことがあった。宮本の特徴は、身体的能力の劣勢をプレーの先読みでカバーしていくタイプのディフェンダーだ。一対一のプレーは苦手にしている。

ジーコは母国ブラジルの強さの源泉を家族に模した結束力にあると信じていた。宮本が中田とチームメイトとの融和にかなりのエネルギーを費やしていたが、ジーコはそんな宮本のピッチを離れたところでの調整役としてのリーダーシップに期待していたのかもしれない。

ジーコの代表選びに際しては、これまでかなりの数の選手をセレクションしてきたが、最終的な二三人はほぼチーム結成当初の固定メンバーと大きく変わらなかった。ここでもブラジル流の結束力重視の傾向が読み取れる。

ジーコは選手選考、ならびに前日練習から先発メンバーにいたるまで、常にオープンにしてきた。その意味で外から見るとジーコのサッカーは相当わかりやすい。もちろん対戦相手からもわかりやすかったはずだ。オーストラリアを率いた百戦錬磨の曲者、ヒディングと何かと比較される所以だ。

ジーコは日本人選手に欠けている点の一つに「マリーシア(ずる賢さ)」をあげていた。いい意味での狡猾さ、試合なれしたかけひきとでも言うのだろう。
ジーコはこれまで見てきたように監督として正々堂々と振舞ってきた。しかし監督としてのジーコがブラジルでの体験をひきずらなかったものは皮肉にも「マリーシア」だった。

<2006年のドイツ大会期間中、私はあるブログに20回にわたり、サッカーに寄せてきた私の思いを交えながら、「これまでの四年、これからの四年」と題した話を書き綴った。
そのあとがきにはこう書いた。(一部抜粋)
「Jリーグ発足以降にサッカーの虜になった人たちは、それまでの日本サッカー受難の時代を知る由もない。この人たちになかにはワールドカップを少し、甘く見ているような気がしてならなかった。若手で人気のあるサッカー評論家の発言や著作の端々に「日本がワールドカップに出るのは当然」というニュアンスが感じ取れたのも引っ掛かっていた。マスコミの取り上げ方も、日本の実力を結果的に過大評価していたと思う。というより、正確な情報を知ろうとしなかったように感じる。この一文はその事に警鐘を鳴らすつもりで書いた」
そんな思いから2年前の6月を思い出して、当時の文章を一切手を加えず、転載させていただくことにしました。>

posted by futbolwold |16:13 | サッカー全般 | コメント(0) | トラックバック(0)
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