2009年03月10日
England Away
という小説を読んだ。John King著の、「Football Factory」、「Headhunters」に続く3部作の完結編である。内容は、巷にあふれるいわゆる「フーリガン本」とは一線を画したもの。第2次世界大戦の退役軍人で、今はLondonで隠居生活を送るおじいさん、そしてその孫であるChelseaファンの主人公Tommy Johnson、そしてその友人たちのそれぞれの視点から、物語が同時並行していくフィクション形式のお話だ。BerlinでのGermany v Englandを観戦するため、渡航禁止令を破って、フェリーでオランダに渡り、陸路Berlinを目指すChelseaのフーリガンのメンバーたちに、Londonの狭いフラットにてドイツ軍と戦った時の生々しい思い出にふける老人の回顧録。本物の戦争と、お遊びな戦争との絶妙なコントラスト。 小説を伝わって通じてくるのは、日本ではまずお目にかからないイギリスの労働者階級独特の思想と文化。第2時世界大戦や北アイルランド紛争を通じて生まれてくる他国への憎しみと偏見、上流階級の人間に対しての‘Us and them’のスピリット、男らしさを前面に出さないと生きていけないタフな生活環境、過去に世界を統治したイングランドという国への強固な忠誠心と誇り、そして閉ざされたコミュニティーの中で固まりよそ者を毛嫌いする風潮。 この労働者階級に支えられてきたスポーツこそがサッカーであり、その中で必然的に生まれてきてしまった種族がフーリガンである。 無論イングランドの労働者階級が全て上述のような偏屈な人間たちであるということでは決して無い。現に僕が一緒にサッカーをしたり飲み歩いている連中は、ほぼ全員労働者階級出身である。大部分は、極めて気さくな奴らだ。しかしながら、彼らの中に「偏屈な労働者階級像」がちらつく時がどうしてもある。パブで、昔々のサッカー場での乱闘の話になると、誰もが目を輝かせて飛びついてくる時などその典型であろう。そして何故Tottenhamが嫌いなのかを熱弁する姿にも(ちなみにRacialな理由では無いので悪しからず)。 角度を変えて、Jリーグを見てみよう。 サッカーは、どうしてもファン同士が熱くなってしまうスポーツである。日本のJリーグでも、ごくまれに「持っているハンドバック同士をぶつけ合う程度」(イギリス英語にこのような面白い表現があるのだ)の騒ぎは起こった。 しかしながら、僕が長い間スタジアムに足を運んでいる中で、誰かが人を「殴った」というシーンは見たことがない。マスコミが「浦和フーリガン」と大騒ぎをした94年の横山監督辞任を求めての抗議行動に、95年のシジマール追っかけ事件。前者は「このままではチームが駄目になる」と必死の思いでグランドに飛び込んだファンがほとんどだったし、後者はあれだけ試合中ホームファンを挑発しているキーパーにも大きな非があったし、第一誰もかすり傷さえも負っていない。まあ後者に関しては、ファンは反省すべきことであるには変わりないが。 日本人には、隣町に対する憎しみもなければ、組織的に街の建造物を破壊しようなどという思いは微塵たりともない。ゴール裏でいきがっている若者ですら、本当は喧嘩すらほとんどしたこと無いのが現実だろう。君が代が流れると、アドレナリンが沸き立つどころか、学校で習った歴史を思い出し、申し訳ない気分になる。我々は、戦争から長い時間を経た今、暴力を嫌い、平和を好む民族と変貌を遂げた。 England Awayに書かれていた、そして僕の知っているイギリス人の労働者階級とはある意味対極の人種である。 僕は、日本にはフーリガンが生まれる土壌がないと確信している。England Awayを読んだあと、その思いはより確固たるものになった。スタジアムが、「欧州並みに危険」になることなど、マスコミの妄想、もしくは新聞を売ろうとする策略としか思えない。 日本のゴール裏では、多くのファンたちがイタリアのUltraの真似をしている。しかしながら、England Awayで登場したおじいさんが、フーリガンは「戦争ごっこ」をしているだけと思っているように、日本のゴール裏は「フーリガンごっこ」をしているにならない。 サッカーはどうしても熱くなってしまうスポーツである。時にペットボトルの一つや二つが飛んでくることもあるし、少し好戦的なバナーが登場することもある。しかしながら、それは単に感情があまりに高ぶってしまった結果か、「フーリガンごっこ」の一部であって、決して日本が欧州化する前兆ではない。むしろそれにJリーグ、クラブや周りのファンが過剰に反応することで、スタジアムが「冷めてしまう」ことを懸念すべきではないか。元気の有り余った若者は、多少多めに見てあげないと。放っておくと、彼らがそのうち、ナイフを持ってアウェーの韓国に乗り込んで、南大門広場で、君が代を合唱しだすのか?I don’t think so… フーリガニズムを肯定する気はない。特に彼らが、パブや商店を破壊するなど、一般人へ被害を及ぼす場合はなおさらだ。HeyselとHillsboroughは、フーリガニズムが間接的であろうと、大勢の人を殺してしまった最大の悲劇であり、2度と起こってはならない。フーリガンがフーリガン同士でぶん殴りあいするだけなら大いに結構だが。 ちなみに、England Awayは残念ながら日本語訳は出ていないようだ。しかしながら、Football Factoryの映画版、「フットボールファクトリー」は日本でもDVDで発売されている。ご興味のある方はTsutayaへGo。僕がJリーグのなんちゃってUltraとは全く異なる世界であると言っていることが良く分かるかと。
posted by fareasthammer |20:04 |
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