2007年10月28日
雨はやむことなくアスファルトを叩いていた。
午前9時過ぎ、観戦予定の東京六大学野球早慶戦が中止という連絡を受けると、私は外苑前から銀座線へ乗り込み、渋谷へ向かった。
用意されていた選択肢は2つ。大学へ戻り、授業を受講する。あるいは12時キックオフの駒澤×法政の首位決戦を夢の島まで見にゆくかである。
カバンには教科書が入っていなかった。元々、この日は授業を受ける心構えが私には備わっていなかったらしい。前日、雨の天候を見越して僅かにちらついたサッカー観戦の選択肢。しかし、その期待は胸の中で膨らむ一方だった。
時間をつぶすべく、山手線の中で眠りにつく。一周した後、高田馬場で降り、煙草をくゆらしてから東西線へ乗り込んだ。
関東大学リーグ第18節
法政大学×駒澤大学
10月27日 @夢の島競技場
法政大学スターティングメンバー
GK12若田 和樹
DF2元木 数馬
DF3吉田 正樹
DF4福田 俊介
DF5中野 桂介
MF23富井 英司
MF7本田 拓也
MF14山本 孝平
MF11菊岡 拓朗
FW13土岐田 洸平
FW10市川 雅彦
交代:
78分 14山本→20DF堀越 寛人
86分 13土岐田→9FW稲葉 久人
87分 11菊岡→26MF鴇田 将己
駒澤大学スターティングメンバー
GK1山内 達夫
DF7塚本 泰史
DF25中山 友規
DF5伊藤 龍
DF35湯川 貴嗣
MF4菊地 光将
MF8田谷 高浩
MF19山崎 健太
MF6八角 剛史
FW9高崎 寛之
FW11小林 竜樹
交代:
65分 8田谷→22GK岡 大生
スタジアムに着いたのは試合開始の15分前だった。
それでも屋根つきのスタンドは7割ほどが埋まっている。やや法政寄りの中央部に腰を下ろした。
台風直撃に加え、降り続ける雨でピッチ上はまさに水浸しのコンディションとなっていた。スタンドから見て右側のエンドが特に顕著であり、所々に大きな水たまりが存在している。
前半は右側に法政、逆エンドに駒澤が陣地をとる。駒澤が攻めるにあたってこれらの水たまりがいかに影響を及ぼすのだろうか。
駒澤はこれで3週連続の観戦となったが、小林、菊地がスタメンに復帰した。「前へ、前へ」の駒大サッカーを実現するには理想的な布陣である。
元来ロングボールを多用するチームだが、ピッチコンディションに難があるこの日は、一層縦へロビングを入れてくるであろうことは容易に予想できた。シンプルに法大ディフェンスラインの裏へ放り込み、小林、高崎、山崎が殺到する。FKのこぼれ球を後方から小林竜樹が狙う。右へ外れた軌道に頭を抱えて悔しさを露にする。前回の試合よりも体は切れているようだ。
ショートパスと高い連動性を生かした切り崩しを生命線とする法政にとって、ぬかるむピッチは障壁と成りうるものだった。ショートパスは味方に渡る前に止まってしまい、お家芸のパスワークは影を潜めてしまった。
プレスを受けた本田拓也が軟弱な地面に足を取られ、派手に倒れる。スタンドから飛び交う声には黄色い声援もまじっていた。法政はチアリーダーも駆けつけている。この一戦に懸ける思いは、強い。
このピッチ状態ではショートパスは困難と判断を下すのに、それほど時間はかからなかった。打開策の一つとして浮き球でのパス交換がある。
駒大はDFの裏、あるいは高崎に長いボールを入れてくるのに対して、前線に高さのない法政は近い位置での浮き球パスを多用する。高いボールタッチ技術と状況判断力が求められるプレーであるが、いとも簡単にこなしていく。
少ないタッチのパス交換から菊岡が上手く前線でボールをキープし、中にクロスを入れて決定機を演出する。
土岐田、山本が空中戦に上手く絡み、徐々に法政が自分たちのサッカーへとベクトルを合わせてきた。
雨中のサッカーにおいてもう一つ有効なプレーが、止まるボールを利用した大きなストライドのドリブルである。法政は土岐田がトーキックで浮かせながら長い距離をドリブルで突破し、スタンドを沸かせる。
駒澤もロングボールに反応した高崎が敢行するものの、福田につぶされてしまった。
反則をアピールするものの、笛は鳴らない。攻め上がった福田に今度は菊地がタックルを見舞う。ボールには当たっていたが、中村主審はFKを指し示した。
希望を乗せた菊岡のキックは山内の手元で伸びたが、何とか弾き出し、難を逃れる。
中村主審は法政寄りのジャッジが目立つ。高崎、小林へ入るロングボールでの競り合いや、前線でのチェイスに、度々笛が鳴る。
「何だよあの審判、法政のOBじゃねぇか?」
試合開始直前に私の隣へ半ば強引に割り込んできた駒大OBらしき中年の2人組は主審への罵詈雑言が尽きることはない。特に私の隣に座る男性の声が耳をつんざく。
「あーっ!ぐぁーっ!危ないって」
「行かなきゃ!そこで行かなきゃ!」
31分、富井が中盤のルーズボールを上手く体を入れてマイボールにする。前線へパスを出したところで、後ろからアフタータックルが彼の脚を刈った。
菊地光将である。膝から崩れ落ちるように倒れる富井。駒大のヴィエラのタックルは危険な角度で脚に入っていた。中村主審は一瞬の沈黙の後、赤いカードを提示した。スタンドは騒然となる。
「何でだよ!ふざけんなよ糞審判!」
横の男性が叫ぶ。
菊地は納得できないという撫然たる表情で腰に手を当てていたが、下を向いてタッチラインへと歩き出した。
駒大はヴィエラを早くも失ってしまった。前節の東海大戦ではこの試合を見越して温存したにも関わらず、である。
得たFKのチャンスを法政は逃さない。中でこぼれたところを土岐田が浮き球でつなぎ、最後は市川が豪快にゴール上部へ突き刺した。
背番号10は雄叫びをあげて疾走する。沈黙する駒大応援席の前を、耳に手を当てるアルゼンチン流のパフォーマンスを携えて横切り、自軍のベンチ前で喜びを爆発させた。
「うーっ!糞審判め!」
隣で男性が頭をかきむしる。
数的優位に立つ法政はテクニックに長ける菊岡を起点に攻める。リフティングや足裏でのボールタッチなどキープ力のある菊岡がタメをつくることにより、サイドバックの元木、吉田が積極的にオーバーラップできる。
それはすなわち、駒澤の田谷、山崎を自陣へ押し込むことを意味し、前線の2トップは孤立する。
菊岡でなくとも、もう一枚後方の富井、本田がゲームメイクを実行できる。決して流麗なサッカーではないが、高い個人能力と攻撃意識を全面に押し出している。
40分に訪れたビッグチャンスはまさに水際のところで阻まれた。
右からのクロスがこぼれたところに市川が待ち受け、がら空きのゴールに流し込んだが、伊藤が体を張ってブロックした。『1点モノ』のディフェンスに駒大応援席が沸く。
前半終了を告げるホイッスルが響く。選手たちは水浸しになったユニフォームとともにドレッシングルームへと消えた。
エンドが替わると、芝生が剥げ、大きな水溜まりが点在するピッチを法政のアタッカーは走らなければならなくなった。
さらに、風向きは駒大に追い風となっている。駒澤が敢行する単純な放り込みのサッカーが、法政守備陣にもたらすリスクは小さくない。
47分、駒澤は左サイドでFKを得る。キッカーはもちろん塚本泰史。先週の東海大戦ではセットプレーで3アシストをあげている。
水しぶきを飛ばしながらキックしたボールは高崎の頭にわずかに触れてゴール右に突き刺さった。高崎が頬を紅潮させて叫ぶ。私の隣の男性が大声で歓声をあげたのは言うまでもない。
さらに駒澤は塚本が先程と同じ位置からFKを直接狙う。3分後には塚本から右サイドの田谷へ長いボール。折り返して角度のない位置から高崎が強烈なシュートを放つ。ここはいずれも、若田がナイスセーブで弾き出す。
法政も決して劣勢ではないが、普段のパスサッカーで数的不利につけこむ戦い方ができないのが辛いところだ。ボールを菊岡に集め、背番号11は多彩なキックで攻撃に味付けする。
58分には、DFの間に出された浮き球のパスを菊岡がうまくコントロールし、右足でシュートを狙う。DFに詰められてこぼれたところを再び押し込んだ。
ボールは山内の横を抜いた。ゴールを確信した私は立ち上がる。
しかし、ネットは揺れなかった。こぼれ球を狙っていた市川と中山がもつれあいながら滑り込む。不運にも菊岡のシュートは市川に当たり勢いが弱まった。止まったボールはゴールラインを割ったかに見えたが、線審は得点を認める素振りを見せない。ぬかるむピッチに見放され、法政の勝ち越しゴールは幻と消えた。
直後にはディフェンスラインの裏へ菊岡がフワリと出したループパスに市川が反応。ボールは飛び出してきた山内の前で止まり、突っ込んだ市川がわずかに早く触る。だが、シュートはボール1個分、枠を逸れた。決定機を逃し、市川は仰向けになりながら顔を覆う。
菊岡のゲームメイクに活路を見い出した法政。
核として君臨する小柄な司令塔は、中盤でリフティングからまたもバックラインの裏へループのスルーパスを送る。山本が走り込むが、滑るように飛び出してきた山内が先に触れて弾く。
ボールは転々と転がるが、そこはペナルティーエリアの外。再び山本がボールを手なづけようとしたところに、手の使えない山内がタックルを仕掛ける。
山本は膝から崩れるようにして倒れる。だが、山内のタックルはボールをとらえていた。こぼれたところをDFがクリアする。
その時だった。
「おい!」
ピッチ上で怒声が響く。
それに反応するかのように中村主審は長い笛を鳴らした。彼の手が胸ポケットを探る。取り出したのは赤いカード。提示された先は山内達夫だった。
山内は手を広げて抗議する。無論、他の選手たちも黙ってはいない。主審の周りに赤い輪が広がる。
「何でだよ!ふざけんなよ!てめぇ!」激高した隣の男性が唾を撒きながら叫ぶ。
法政寄りの視点で見ていた私にも、中村主審の判定は不可解だった。繰り返すが、山内のタックルはボールをとらえていた。たとえ反則を受けても、得点機会阻止とは見なされぬ位置である。倒されたのはペナルティーエリア左隅のわずかに外側だった。
中村主審の頭では、GKが1対1の状況でタックルを敢行することが得点機会阻止による一発退場とイコールで結ばれていたのかもしれない。
それにしても、笛を吹くのが遅かった。あたかも法政選手の「おい!」につき動かされたように……
駒澤は前半早々にハードタックルを受けた田谷を下げて、1年生GKの岡を送り込む。突然の出番である。ファーストプレーがFKというのは、少なからず彼に重圧をかけていたはずだ。
しかし、菊岡のFKはミスキックとなり壁に当たる。またしても、法政は軟弱な雨のピッチに行く手を阻まれた。
残り30分間を駒澤は9人で戦わなくてはならない。中盤を完全に省略して大きいボールを高崎、小林にあてる。
試合はにわかに乱戦の気配を催した。次々と選手が倒され、芝を噛む。ヒートアップした展開を中村主審は落ち着けることができない。曖昧な判定基準に苛立ちを隠せない選手たちのユニフォームは泥で真っ黒だった。
法政守備陣を屋台骨として支える福田俊介は、ここまで高崎をほぼ完璧に抑えていた。ヘディングに強い高崎に対して制空権を得ていたのである。
75分、左サイドで高崎がくさびを受ける。福田は背後から忍び寄った。
まだ敵陣に入ったばかりである。高崎はシンプルに横へはたいた。チェックにいった福田の体は止まれなかった。高崎の足を激しいタックルが襲う。
アフタータックルに中村主審の笛が響く。イエローカードを突きつけると、間髪入れずにレッドカードが福田の瞳に映る。
ユニフォームを手荒に裾から出し、大股でピッチを出る福田の目にははっきりと怒りが宿っていた。
法政は前線の山本を下げてセンターバックの堀越を投入した。あくまでも4バックは崩したくない、駒大に勝ち点3を与えたくないカードの切り方である。
しかし、80分だった。右CKを塚本が放り込む。選手が重なりあう中、若田が飛び出してパンチングした。ピンチを脱したはずの白いユニフォームは、ホイッスルに凍りつく。中村主審はペナルティーマークを毅然と指した。
堀越が駒澤の選手を引っ張って倒してしまったようだ。投入されてわずか5分。取り返しのつかないミスを犯してしまった。
若田が大きく手を広げる。八角はゆっくりと助走を始めた。左へしっかりと蹴りこみ、咆吼をあげながらベンチへ走る。次々と赤い選手が抱きつく。
隣の男性も半狂乱である。「よっしゃー!これだ、これだよ!」
と興奮がとまらない。
染め抜かれたコントラストは、残酷なほど鮮やかだった。腰に手を当ててうつむく若田。連盟の公式記録において、『泥沼』と表されたピッチで同点ゴールを奪いにいく気概は彼らに残っていなかった。反撃もままならずにタイムアップの笛を聞く。
駒澤にとっては、あまりにも大きな勝ち点3である。数的不利な状況に追い込まれ、主審の曖昧な判定基準に苛立ちながらも、『力』で法政をねじふせた。一時は完全に優勝争いから脱落したかと思われたが、やはり帳尻を合わせてきた。
法政の敵は駒大だけでなく、ぬかるむピッチでもあった。本来のピンボールのようなパスワークは発揮されたとは言い難い。
しかし、苦しい条件下でも優位にゲームを進めたのが、法政が法政たる所以である。市川、土岐田、山本を菊岡がループパスで自在に操る。今季、一番魅力的なサッカーを繰り広げているのは間違いなくこのチームである。
だが、それでも美は力に屈した。
これと同じようなシーンを見たことがある。
昨年の後期リーグ、駒澤と早稲田が相まみえた一戦は、駒澤が力で早稲田を押しきった。日本サッカーの主流となりつつある、連動性に裏付けされたパスサッカーを打ち砕くのは、『BEST POSITIONING SOCCER』という名のキック&ラッシュである。
一体日本サッカーの向かうべき道とは……そう考えさせられる1戦だった。
駒澤大学2×1法政大学
得点:
32分 法政 市川雅彦
47分 駒澤 高崎寛之
81分 駒澤 八角剛史
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2007年10月22日
第2試合には駒澤が登場。2週連続の観戦となる。例によってスタンドは駒澤ファンが詰め掛け、東海大としてはアウェー気味の雰囲気となった。
関東大学リーグ第17節
駒澤大学×東海大学
10月20日 @西が丘サッカー場
駒澤大学スターティングメンバー
GK1山内 達夫
DF7塚本 泰史
DF5伊藤 龍
DF25中山 友規
DF35湯川 貴嗣
MF6八角 剛史
MF8田谷 高浩
MF19山崎 健太
MF14榊原 浩一朗
FW9高崎 寛之
FW10東平 大佑
交代:
50分 9高崎→12FW三島 康平
65分 10東平→11MF小林 竜樹
85分 14榊原→15MF島田 祐輝
東海大学スターティングメンバー
GK21石井 健太
DF4児玉 慎二
DF2杉山 佑介
DF5大原 卓丈
DF32松下 翔
MF17山上 泰寛
MF7川島 大地
MF12一色 翼
MF8吉田 明生
FW11佐藤 晃大
FW9軽墓 浩二
交代:
61分 17山上→16MF須藤 啓一
71分 9軽墓→3DF甚野 弘輝
83分 4児玉→18FW皆本 泰希
駒澤は前節の国士大戦で完封勝ちを収め、ようやく安定感が出てきた。この日は来たる法政との直接対決に向けてMF菊地光将を温存。ベンチにも姿はなかった。股関節に少し違和感を感じているとの情報もあり、温存とここでは表記する。
4分、駒澤は前線が粘って獲得したCKを塚本が蹴る。榊原の頭に合わせてあっさりと先制。
14分にはスローインから榊原、東平とつなぎ、右から独力突破で強引にゴールをこじ開け、2点目を奪う。
「これは何点入るかわかんねぇぞ」私と一緒に観戦していた先輩が呟く。試合はゴールショーの様相を呈していた。
駒澤はセカンドボールを全て隈なく拾い、サイドあるいは縦へ展開する。まさに駒大のやりたい放題である。
20分には右から塚本が蹴ったCKを中山がヘッドで合わせる。
バーに弾かれたところを高崎がボレーも、これはよくGK石井が至近距離で反応、弾くが再び中山が詰めていた。電光掲示板には3点目が点灯する。
4分後には自陣ペナルティーエリアから塚本が中盤の田谷に預けると、長い距離をドリブルで持ち上がり、右に開く東平へ渡す。そのままニアに走り込む田谷ではなく東平は中央の高崎に合わせた。
斜め後ろからの難しいボールだったが、胸トラップでコントロールした後、回し蹴りで叩き込んだ。
これはアクロバティックなゴールだった。不利な体勢から強引にシュートを放とうとする気概が産んだものである。DFは詰めてきており、ボールを足元にコントロールしていては間に合わない。高崎の下した判断はストライカーのそのものだった。
高崎はやはり駒澤の起点である。ロングボールに対してファーストコンタクトにいくのは必ず背番号9だった。そしてその競り合いの中でマイボールにすることができる。昨年の巻佑樹ほどの怖さはないが、やはり駒澤イズムを継承しているのは明らかだった。
東海大は戦意を喪失しまっていた。押し込まれてズルズルと下がり、セットプレーを献上して失点という悪循環に陥ってしまう。その中で光ったのは一色翼か。ミドルシュートを2本見舞い、山内の好セーブに阻まれたものの、駒澤を一瞬ヒヤリとさせた。
注目の川島大地は早稲田戦と同じくボランチで出場。体格は恵まれているとは言い難く、守備ではあまり機能していなかった。
しかし、川島の持ち味は何と言っても足先のテクニックである。ラボーナ、ヒールなどトリッキーなプレーを連発する。ボールを奪われる場面も多かったが、30分を過ぎると駒澤も警戒を強め、川島に対しては距離を置いたディフェンスで対応するようになった。
駒澤は4点取ってもまだ満腹にならないようだ。
38分、右サイドでFKを獲得する。
「これも入っちゃうんじゃないですか」
私は隣の先輩に冗談混じりで話しかける。
だが、本当に「入っちゃう」ところが駒澤の凄さである。塚本のキックはニアの高崎の頭にピタリと合った。ついに5点目が灯る。
後半開始直後にもCKから塚本が中山の頭に合わせて6点目。
駒澤はここで高崎を下げる。警告も受けており、温存の意図だろう。
スタンドからは
「良かったぞ!」
「やればできるじゃないか」
と声が降る。高崎ははにかみながら軽く頭を下げた。
代わった三島は起点になれず、駒大はペースダウンする。
それに対して目立ったのが川島大地だった。
ボールを受けると、引く、転がす、切り返す、と技のオンパレード。シンプルなプレーというものはこの日の彼の頭にはなかっただろう。
川島がボールを魔法の左足で転がす度にスタンドが唸る。勝敗を度外視したこの状況だからこそ実現する彼の曲芸。足の裏を多く用いるそのプレースタイルはフットサル選手を彷彿とさせる。
「何だあいつ。色んな意味でちょっとおかしいよね」
「無駄に巧いな。無駄に」
一緒に観戦していた先輩方の関心も川島大地へ移行した。
川島はとにかくスキルが高いと改めて証明された。後は周りがいかにそれをゴールへ直結できるよう引き出せるかだ。
川島、吉田が中盤でリズムをつくり、佐藤には2度フリーの決定機が訪れたが、いずれもフイにしてしまった。東海大の決定力不足は深刻である。
駒澤も後半は三島にボールが収まらず苦しい時間帯が多かった。途中出場で小林が「たっちゃん頑張れ!」の温かい声援を受けて送り出されたものの、本来の動きには程遠いものだった。
重要なのは得失点差を詰めたこと、そして2試合連続で無失点に封じたことだろう。
試合後、インタビューに応えていた秋田監督は笑顔だった。
駒澤大学6×0東海大学
得点:
4分 駒澤 榊原
14分 駒澤 東平
20分 駒澤 中山
25分 駒澤 高崎
39分 駒澤 高崎
47分 駒澤 中山
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2007年10月21日
関東大学リーグ第17節
法政大学×中央大学
10月20日 @西が丘サッカー場
法政大学スターティングメンバー
GK12若田 和樹
DF2元木 数馬
DF3吉田 正樹
DF4福田 俊介
DF5中野 桂介
MF7本田 拓也
MF23富井 英司
MF14山本 孝平
MF11菊岡 拓朗
FW13土岐田 洸平
FW10市川 雅彦
交代:
75分 11菊岡→9FW稲葉 久人
82分 13土岐田→24FW永露 大輔
86分 14山本→8MF向 慎一
中央大学スターティングメンバー
GK1山本 雅義
DF25永木 亮
DF13比嘉 隼人
DF3益永 康介
DF7斎藤 広野
MF17前田 遼平
MF18村田 翔
MF10大瀧 義史
MF8南木 享
FW11辻尾 真二
FW15石川 泰樹
交代:
55分 15石川→9FW小池 悠貴
60分 18村田→6MF柴田 公章
85分 10大瀧→22MF柴橋 浩太
先週に続いて西が丘へ。法政は9月17日の国士大戦以来、中大は前期最終節以来の観戦だ。駒澤、流経、早稲田と上位をひたすら食い続ける中大。残留争いからは抜け出した。早稲田戦(○4×1)は早いプレスで早稲田にサッカーをさせず、確実に好機を点に結びつける完勝ぶりだったようだ。チーム、個人ともに高い完成度を誇る法政に挑む。
もう一つの見所として、来季ともに清水エスパルスへの入団が決まっている辻尾真二、本田拓也の対決である。オレンジのユニフォームからまた別のオレンジを纏う2人。ゴール裏には『日本平で待ってるぜ』の横断幕が光る。粋な清水サポーターからの計らいだ。
試合は序盤から動く。左サイドでボールを受けた土岐田が中に持ち込み、左45゜から強引に右足で放つ。インにかかったシュートは、恐らく思惑通りの軌道で、ゴールへ突き刺さった。
あまりにも早い時間帯での先制点。しかし、喜びは1分と続かなかった。
左サイドを高速ドリブルで駆けあがった斎藤がラインぎりぎりまでえぐり、低いクロスを入れる。南木がDFの前に入りこみ、ニアで合わせた。
スピードを生かした高い得点力。それこそが上昇気流に乗る中大の武器である。
辻尾ばかりがクローズアップされるが、今回のゴールをお膳立てしたのは左サイドバックの斎藤広野。元々攻撃的な選手で、前期の早稲田戦では3トップの一角として出場していた。この斎藤がサイドバックに配置されていることが現在の中大を物語っている。
ちなみにこの日、発表されたフォーメーションは4―4―2だったが、実際は南木がFWの位置にいる4―3―3である。中盤は3枚。3トップが前に張っている以上、ある程度ボールを回されても仕方がないだろう。
その代わり、前にボールが入ると速い。左サイドのオープンスペースに出たボールに右サイドから辻尾が疾走する。対応した元木はいなしきれず、タッチラインへ逃げた。
10分にはピッチ中央からフワリとDFの裏に出したパスへ石川が鋭い反応を見せる。GK若田をかわしたが、バランスを崩して打ちきれない。
チームとしての戦い方は非常にシンプルである。前方のスペース、特に左サイドへ放り込み、斎藤、南木が俊足をいかして追い掛ける。注目の辻尾はむしろポスト役をこなす機会が多いようだ。
一方の法政は小気味良いパスワークに加え、3人目、4人目の選手が次々と飛び出してくる。
右サイドバックの元木、左の吉田が、攻撃的MFである山本、菊岡を次々と追い越すオーバーラップを見せれば、本田から菊岡、市川とワンタッチで繋いだ先には長い距離を走って富井が詰めてくる。右足で打ったシュートはGK山本雅義を抜くが、ポストに弾かれた。
富井は非常によく効いていた。大瀧、村田、あるいは遅れて入ってくる辻尾といった『中大の3人目』によく食らいつく。ディフェンスラインから相手陣内のペナルティーエリアまで幅広く、かつ効果的に動く様は本田以上の貢献度といって差し支えない。足元も非常に強く、中盤で囲まれても細かいタッチで敵の足をかいくぐるようにボールを愛でる。彼が最終ラインのビルドアップに加わると一気に安定度が増した。
もっとも、基本的なボールタッチに優れているのは何も富井だけではない。法政は前線からディフェンスラインまで、足元のボール扱いはかなり高い水準にある。
その「止める・かわす・パス」の高い能力、さらに優れた状況判断力を持つ彼らだからこそ成しえる、ダイレクトパスを多用した組み立ては流麗だ。グラウンダーのパスだけではない。フワリと浮かせたショートパスも交え、着実につないでいく。以前も述べたが、同様のパスサッカーを志向する早稲田、明治よりも完成度は数段高い。
以前、早稲田の大榎監督に話をうかがった際に「ハイプレッシャーの中でももっとつなげるようにならなきゃ」とおっしゃっていた。法政はその「ハイプレッシャー」の中でもしっかりと構築できるチームである。
30分を過ぎると中大は全体的に引いてきた。法政の自陣から行うビルドアップにはチェックにいかず、縦パスの出し先を徹底して潰していく。
中盤にボールが入ると一気に追い込む様は『ボール狩り』と形容すべきか。
前半は1×1のスコアで終了する。
後半、試合は一気に動いた。
左サイドでボールを受けた市川が菊岡とのワンツーでペナルティーエリアに侵入。角度のない位置から右足を振り抜きゴールを奪う。
7分後にはロングボールのこぼれ球に素早く反応し、DFを振り切って流し込む。まさに市川の独壇場だった。高さがなくても得点はとれる。そう証明する2ゴールと言えよう。
64分にはコーナーキックから跳ね返されたボールを再び本田がつくりなおす。ニアに送った速いボールを元木が受けると足先で2人かわして左足からシュートを放つ。当たり損ねのように緩く転がったボールはGK山本の手をかすめてネットを揺らした。
得点差は3点に広がった。
後半に入ると中大は法政のアタッカーについてこれなくなってしまった。
菊岡、市川を後ろから倒し、ファールをもらう場面が増えてきた。
前半ラストパスの精度を欠いた菊岡だが、後半は躍動。市川へのアシストも素晴らしかったが、前半より球持ちの時間が長く感じられた。持ちすぎかと思うくらいまでボールを保持して敵を引き付け、タイミングを図りスルーパスを送るプレーが目立ち、市川も前を向いてボールを受けるシーンが目立つ。
相手陣内から積極的にプレスをかけ、円滑なパスサッカーを披露する法政にあって、富井と本田拓也のダブルボランチがバランスを絶妙にとる。本田がやや前目に位置し、フィジカルコンタクトで中大の攻撃を食い止める一方で、富井は背後のスペースを上手に埋めていく。ただ奪うだけでなく突破、大きな展開も可能だ。非常に高い能力を持ったセンターハーフである。
70分には富井がタックルでボールをむしりとると、前線の市川へ。裏へ抜ける菊岡にギリギリのタイミングでスルーパスを出す。菊岡はゴールへ流し込んだが、わずかにオフサイドだった。
両チーム足が止まりだした中で、圧倒的な運動量を見せたのは富井と山本孝平である。富井は前述の通り、中盤の危険区域に顔を出し、制圧し続けた。
山本は球際で頑張れる選手。前線で体を張り、独力でも前へ運ぼうとする姿勢がすばらしい。このような選手がいると随分戦い方は楽になるものだ。
ロスタイム、その山本に代わって入った向がペナルティーエリア付近で余計なFKを献上。辻尾の低く蹴ったキックに南木が触り、1点を中大が返したものの、タイムアップ。
法政は取るべきところでゴールが奪える完成度の高いチームである。この日も攻撃サッカーを貫いた。その根底を支えるのは富井と本田拓也であることを忘れてはならない。特に富井は新しい発見で、今後の活躍が楽しみである。
ちなみに清水内定同士の本田、辻尾の対決はチームの勝敗同様、本田に軍配が上がった形だ。直接のマッチアップは本田が優勢だったが、それ以上にFWとしての辻尾をよく法政が囲いこんで孤立させていた。
ただし、辻尾もスプリント能力や、ロスタイムのFKなど随所に高いレベルのプレーを散りばめた。
青空の西が丘の下、非常にすばらしい試合を観戦できたことは幸せだった。
法政大学4×2中央大学
得点:
6分 法大 土岐田
8分 中大 南木
50分 法大 市川
57分 法大 市川
64分 法大 元木
89分 中大 南木
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2007年10月15日
「19番君がもっと頑張ってくれなきゃ駄目なんだよね。ほら、走れ19番!」
駒大OBの方だろうか、二人組で嘆く。彼らの視線の先には左サイドを奔走する背番号19。
しかし、試合の勝負を決めたのは、ハッパをかけられていたこの男だった。試合後には、部員が待つスタンドの前で小踊りして喜ぶ山崎健太の姿があった。
10月14日
関東大学リーグ第16節
駒澤大学×国士舘大学
@西が丘サッカー場
駒澤大学スターティングメンバー
GK1山内 達夫
DF7塚本 泰史
DF5伊藤 龍
DF25中山 友規
DF35湯川 貴嗣
MF4菊地 光将
MF8田谷 高浩
MF19山崎 健太
MF6八角 剛史
FW9高崎 寛之
FW14榊原 浩一朗
交代:
76分 14榊原→18MF那倉 夢人
89分 19山崎→11MF小林 竜樹
駒大を見るのは今年3度目だが、見たことのない選手が2人ディフェンスラインに名を連ねている。
25番の中山は身長の高いセンターバック。左サイドバックに入った35番の湯川は小柄ながら「鉄人湯川」と駒大応援団にコールを受けていた。運動量豊富なラテラルだろうか。
国士舘大学スターティングメンバー
GK1鈴木 智幸
DF26鈴木 達也
DF6濱屋 祐輝
DF4足助 翔
DF2天野 恒太
MF8小島 暢明
MF14半田 武嗣
MF11柏 好文
MF18先崎 勝也
FW9菅原 康太
FW17高橋 大
交代:
71分 18先崎→24MF塩谷 司
78分 17高橋→19FW中村 祐輝
国士舘を見るのも今年3回目。とはいえ、第1節の早稲田戦、13節の法政戦はいずれも試合途中からの観戦。1試合通じて見るのは初めてと言える。
注目は柏好文。韮崎高校出身の2年生。私と同年代の選手だが、ルーキーイヤーの昨年以来高い評価を耳にする。
また、結局試合に出場することはなかったものの、ベンチに入っていた宮内も成立学園高校時代にテレビで見た記憶がある。
土曜日行われた試合では、明治が白星で勝ち点を31に伸ばした一方、流経大が天皇杯4回戦進出で波に乗る順天堂に苦杯を舐めて勝ち点27のまま足踏み。
さらに古河の第1試合は早稲田が中大に大敗を喫して勝ち点を伸ばせない。
駒大としては確実に勝って早稲田、流経大との差を広げたいところだろう。
FWの高崎は来季浦和レッズへの入団が内定している。決して駒澤は好きでないが、浦和レッズを応援する者としては高崎のプレーに着眼せずにはいられない。
最初にチャンスをつかんだのは駒澤。鈴木のゴールキックが低い弾道のミスとなったところを田谷が体を広げてカット。そのまま強引に持ち込んでシュートを放つも、右にそれていった。
11分には川崎フロンターレなど複数のJクラブが注目する逸材・菊地が、右足のミドルで国士大ゴールを脅かす。
『駒大のヴィエラ』(勝手に私が名付けただけだが)は、今回の最大の観戦目的である。高い身体能力を武器としたヘディング、タイトなマークは有名だが、この日はゲームメイク能力にも注目してみた。
17分、駒澤に先制のチャンスが訪れた。コーナースポットにボールを置くのは塚本。セットプレーの精度は評価が高い。
わずかに巻いたキックをとらえたのはやはり菊地だった。強靭な国士大DFを抑え込み、強烈なヘディングでゴールを襲う。
だが、右へボール1個分、外れた。駒大のヴィエラは頭を抱える。
相も変わらず縦に早めに放り込んでくる駒澤だが、国士大もディフェンスラインの水際では安全第一のプレーを選択。駒澤がトップの高崎に入れてくるハイボールのセカンドへ対して抜群の出足を見せる。ボールを奪うと、FWの菅原を上手く動かしてカウンターの機をうかがう。戦い方はシンプルかつ明瞭だった。
その菅原が魅せる。
左サイドで突破を図ると、たまらず飛び出してきた中山に対して1対1のスピード勝負を仕掛ける。巧みに体を入れたコースどりで振り切ると、マークにつききれていない赤い壁を崩すべく低いクロスを送る。柏が走りこんで放ったシュートはDFの腕に当たったが、抱山主審の笛は鳴らなかった。
菅原はスピード豊かで、マイボールになったときの動き出し、ポジショニングも秀逸である。国士大の起点として前線で牙を研ぐ。
国士大は4バックが一定のラインを敷いてロングボールに対応し、ボランチの先崎または小島が1枚ブロックとしてその前にそびえ立つ。塚本の放り込みに反応した高崎のシュートにもしっかり体を寄せる。
注目の高崎の立ち上がりは、まずまずだった。前線で起点になるわけだが、くさびで入るロングボールの精度が良くなかったため、オープンスペースに走らされる場面が目立った。しかし、うまく体を使い田谷らサポートに入る選手との連係で抜け出す場面もつくる。むしろ気になるのは2トップを組む榊原だった。高崎の競るセカンドボールへの対応が遅い。拾いに奔走しているのは右サイドの田谷だった。
ゲームメーカーとしての菊地もあまり見栄えは良くなかった。もちろんその戦術によるところが大きいのだが、前のスペースへ大きく蹴る場面が目立つ。横にはたいて組み立てたほうがいいのでは?と思うことも少なくなかった。
ペナルティーエリア内でも粘ってついていき、決定的なシュートを許さなかった国士大だが、牙城はやはり崩された。30分、左に抜けた榊原があげた山なりのクロスを高崎がゴールに背を向けてコントロール。巧みに操ると走り込んできた八角へ足でラストパスを渡す。勝負ありと思わせるプレーだった。押し込むだけでよかった八角は、すぐさま高崎と抱擁を交わす。駒澤が高崎の「らしい」プレーで先制点をあげる。
4分後には、この日も幾度となく素晴らしいクロスを供給している塚本のCKに高崎が頭であわせる。強烈なシュートだったがDFの肩に当たり、枠をとらえることはできなかった。
前線で基準点となり続ける背番号9。だが、秋田監督の評価は辛い。
「たぁかさきぃー!!!!前で(競れ)!!」
むしろ彼へのくさびの精度にも問題があると思うが、秋田監督の指示(怒声)は止むことを知らない。
昨年の2トップ、巻佑樹(現・名古屋)、原一樹(現・清水)へのロングボールはもう少しいい形で入っていたと記憶しているが……西が丘に轟く怒声は、高崎への期待の裏返しか。
駒澤の度重なるハイボール。その中で輝きを見せたのは国士大GK鈴木智幸である。安定感抜群のキャッチングで、空中戦では無類の強さを誇る駒澤山脈のさらに上を飛ぶ。
前半ロスタイム、駒澤はCKのこぼれ球を八角が再度放り込む。中の選手が頭で放ったシュートはバウンドしてGK鈴木の手から逃げていく弾道。難しいバウンドだったがかろうじてパンチングで枠からはじき出した。詰めていた山崎のシュートは大きく外れる。メインスタンドには溜め息が一斉に漏れた。
後半最初にチャンスを掴んだのは国士大。高橋がゴール前でDFにうまく体を預けながら左足のシュートを放ったが、ミートせず外れる。
その直後、駒澤は塚本のFKを高崎が頭でゴール方向へそらす。
GKの前にふわりと上がったボールに山崎がフリーで飛びこんだが、鈴木智幸が大きく体を広げてジャンプ。シュートコースをふさぐ。山崎は苦しい体勢のままパスを選択したが、国士大のDFがしっかりカバーしていた。山崎健太はまたしてもチャンスをつぶしてしまう。
「なんだよあの山崎クンは」
この台詞の後、冒頭の会話が飛び出す。山崎は激しくチェイスするでもなければ、スピードに特化したわけでもない。一芸に秀でている駒澤の中では異色に映るだけに、OBの方が溜め息を漏らしてしまうのもわからなくはない。
スコアこそ1点のビハインドを追ってしまったが、国士大は決して劣勢ではなかった。赤いユニホームのプレスがさほどきつくないからか、はたまた国士大のDFの足元がしっかりしているのかは計れないが、しっかり最後尾からつくろうという意図は感じられる。しかし、中央を小島と先崎2人のみで構成しているゆえ、中からの組み立ては困難。加えて菅原と高橋の2トップがくさびを受けられない。必然的に攻め手は1対1の突破能力を有するサイドのみになってしまった。
59分、この試合のキーともいえるプレーが起こる。駒澤からアタッキングゾーンでボールを奪うと、横へはたく。左で受けたDFは、軽くチェックに走る八角をいなしにかかるが、フェイントをつまづいた。そのままCBないしGKに下げてよかったシーンだが、彼はなお八角を強引にかわそうとしてしまった。八角の足を引っ掛けてしまい、笛が鳴った。抱山主審は駒澤のFKを指し示す。無用なファールでセットプレーを与えてしまった。
塚本は八角に軽く声をかけ、ボールに近づいた。スコープの定める照準は高崎か菊地か、それとも中山か。駒澤はいつものように中に入る選手が一度集まる。
菊地と高崎は中央に入った。中山はファーポスト気味に遅れて入る。だが、塚本のキックはニアへ向かった。勢いをつけた選手が飛び込み頭であわせ、ネットを揺らす。
喜びの輪で控えめに叫んでいるのは、先ほどまで槍玉に挙げられていた山崎だった。
秋田監督も嬉しかったのだろう。「ナイスゴール!」と祝福する。
相手のミスからのセットプレーだっただけに、大きな2点目である。
後半元気のなかった菅原。ようやくこの時間帯になり輝きを垣間見せる。下がってパスを受けると前を向き、低い重心でドリブルを開始。ミドルレンジから左足でグラウンダーのシュートを放つ。ポストに当たって入るかと思われたがこぼれたところをよく山内がキャッチした。
この試合、山内は当たっていた。66分には、CKのこぼれ球を菊地がシュートブロックされたところからスピードに乗ったカウンターを食らうが、半田のシュートを横っ飛びで防ぐ。3失点の早稲田戦、5失点の流経大戦と観戦して失点が多いイメージがある駒澤だったが、山内はしっかりとゴールに鍵をかけていた。
両チームやや足が止まり、中盤が空きだした時間帯。菅原が危険なタックルを受けてうずくまる。
一旦外で治療を施されたのちに再びピッチへ戻ったが、起点となることはもはやなかった。
中央にボールを当てられない国士大は、右の柏好文にボールを集めるほか選択肢が無くなった。
柏は多彩なフェイント、またスピードのみでかわすというよりも、ある程度スピードに乗った状態で自分の思い通りにボールを運べるドリブラーである。右サイドでの湯川との攻防は非常に緊迫したものとなる。
1対1であればバリエーションのある柏が優位。湯川は瞬発力では負けないものの、柏の絶妙な間合いに対応しきれない。クロスを許す、またはファールを犯してしまう。一方で、CBの伊藤がカバーに入ると柏は太刀打ちできなくなってしまう。挟み込みのお手本のような形で封じるディフェンスに一日の長があった。
最後のデッドヒートは78分だった。
ボールを受けると柏はフェイントを交えて縦へスピード突破。完全な1対1の徒競走となる。最初のフェイントで出足が遅れたかに見えた湯川だったが、うまく柏のわずかに斜め前へ体を入れた。トップスピードのままもつれあい、最後はたまらず柏が倒してしまった。
1対1では劣勢だった湯川だが、これが4年生の意地。メインスタンドの駒澤ファンからも暖かい拍手が送られる。
粘っていた国士大にとどめを刺したのは85分。後方から入った長いボールの処理にDFがもたついたところを山崎が体をぶつけて奪う。横にすいすいっと抜けて右足をこするように蹴り上げた。スライスのかかった弾道でボールは右サイドネットに突き刺さる。
今回の喜びは控えめではなかった。雄叫びをあげて腕を突き上げる。応援席からは「ヤーマザキ1番、ヤーマザキ1番♪」と、『学級王ヤマザキ』のテーマソングが熱唱される。
ロスタイム、この試合幾度となく右サイドを駆け抜けた田谷から大きなサイドチェンジが少しずれる。左の山崎は足を攣っていた。懸命に追いすがるが、ボールはタッチを割る。
メンバー交代が示された。掲示されたのは19。
2ゴールをあげ、足を引きずって戻ってくる山崎健太を、観衆が大きな拍手で迎えた。
代わって入ったのは、この日が復帰戦となる小林竜樹。
人生初めてという骨折を味わい、聖地にまた帰ってきた。山崎に向けた拍手が鳴り止んだ後、一瞬の間をおいてより大きな拍手が沸き起こる。皆、待っていた。
結局プレー時間はわずか1分だったが、小林は笑顔だった。
また、「強い駒澤」が帰ってきた。
得点
30分 駒澤 八角剛史
61分 駒澤 山崎健太
85分 駒澤 山崎健太
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2007年10月15日
病気の親類のところへお見舞いに行ったついでに、西が丘へやってきた。
お目当てはもちろん、ベガルタ仙台に入団が決まった筑波大学・三澤純一である。
関東大学リーグ第16節
筑波大学×東京学芸大学
@西が丘サッカー場
筑波大学スターティングメンバー
GK1碓井 健平
DF2野本 泰崇
DF3作田 裕次
DF4田中 秀人
DF25長沼 恭平
MF8今田 傑
MF9金正 智也
MF14木島 悠
MF7大塚 宏晃
FW11田中 雅也
FW27小澤 司
交代:
58分 11田中→28FW立花 峻
78分 27小澤→23MF森谷 賢太郎
87分 7大塚→6MF麻生 耕平
メンバー発表のアナウンスを聞いて驚いた。というより、心底がっかりした。背番号10の姿は、スタメンはおろか、リザーブにもなかったのである。出場停止を食らっていないことは調査済みだ。コンディションの問題か、あるいは監督との不協和音か……
さらに麻生もベンチスタート。ここ最近のメンバーを見れば何ら不思議はないが、注目の選手であるだけにスタメンで見たかった。
東京学芸大学スターティングメンバー
GK17山下 渉太
DF2高野 耕平
DF33坂本 史生
DF14奥野 慎祐
DF4林 俊介
MF10瀬田 貴仁
MF6横田 英之
MF21鈴木 崇文
MF25征矢 貴裕
FW9栗原 康彦
FW35村山 翔平
交代:
41分 6横田→5MF渡邊 一仁
86分 25征矢→36MF向後 陽平
89分 10瀬田→20DF高柳 亮太
学芸大を見るのは昨年から通じて4度目である。これまでは全て早稲田戦。そう言えば紫色のユニホームをまとう彼らを見たのは初めてだ。
学芸大の持ち味は“仕掛ける守備”(エルゴラより)。檜山監督の守備をベースにした戦い方はかなり浸透してきた。大崩れしないタイプのチームで、ここまで6位につけている。
筑波は依然として最下位から抜け出す光すら見いだせない。2部降格はかなり現実味を帯びてきた。
天皇杯に茨城県代表として出場し、3回戦まで進んだだけに勢いがつくかと思いきや、相変わらず勝てない試合が続く。14節の早稲田戦では6失点の惨敗。前期勝ち星をあげている学芸大戦で何とか浮上のきっかけをつかみたいという思いは容易に想像できる。
この日の筑波は三澤がいないからか、木島、大塚がウイングに近い形で高い位置に張り出す。今田がセンターハーフでその後ろに金正が控える布陣である。
序盤は筑波がペースを掴む。10分、今田のループパスにスピードのある小澤が反応。並走していたDFの一歩前に走り勝ち、ヘディングシュートを狙う。後方からのパスということもあり、非常に難しいプレーだっただけにシュートは威力がなく山下の胸に収まった。
学芸大の2トップは栗原と村山。村山は1年生で非常に小柄かつ華奢な選手。顔も童顔で、私の前で観ていた高校生のグループが「俺らより年下に見える」と驚いていた。
小澤のヘディングシュートの直後、筑波のサイドチェンジがミスキックとなったところを栗原が奪う。センターライン付近でボールを受けると長い距離をドリブルで持ち込みシュート。左に外れたが、ストライカーとしての怖さを十二分に見せつけるプレーである。カウンターを武器とするチームなだけに、栗原のようなFWがいると戦い方は楽になる。
フラットの4バックを敷く学芸大。しかし、細かい動きで幻惑する小澤を捕まえきれない。やや下がってボールを受け、DFを引き出すこともあれば、サイド深くまでえぐって引き寄せることもできる。空間把握能力と言うべきか、自分の持ち味を生かすスペースの作り方をできるFWだ。ディフェンスラインのバランスを気にする学芸大はやや困惑気味の時間帯が続く。
小澤はスピードもさることながら、足元のテクニックにも優れていた。ペナルティーエリア内でキープすると、囲んだDFの間をうまく通して突破。囲まれてもうまく体を使ってブロックしながら、ボールを器用に転がして網をかいくぐっていた。セットプレーにおいても、右足から巻いた上質のボールを放り込む。
さらに、筑波は左の大塚がチャンスメイク。常に裏を狙い、突破力もそこそこある。マッチアップした学芸大の林を圧倒した。麻生をさしおいて先発するのも頷ける。
押し気味の筑波を後押しするのはスタンドの控え部員たち。
早稲田戦(5月3日)を観戦したときも思ったことだが、レパートリーが多く、応援も統一されている。
『赤い川の谷間』、『エンターテイナー』などをはじめ、コアな曲も多くやってくる。
「♪オー、オレオー、オレオーオレオーオレオー 筑波!」(エスパルスの応援)のような難しいリズムにも太鼓係はしっかり対応。上手い!と思わず心の中で唸る。
極めつけは、私が普段赤いユニホームを着て歌うこのメロディーだった。
「♪Here We go We are the 筑波 ララーララーラララララ、Here We go We want GOAL ララーラララーララ筑波!」
素晴らしい。心臓が高鳴る。部内のしきたりがキチッとしている証拠である。
学芸大のゴール前、サイド際での攻防が多い一方、中盤はやや空いている。そのなかで両チームのボランチが光った。学芸大の瀬田は、攻撃にリズムを作り出せる選手。ダイレクトプレーや大きなサイドチェンジで一気にカウンターを演出することもあれば、180cmの懐の深さを生かしてタメをつくることもできる。瀬田を中盤の底でつぶせばチャンスになることは明白なだけに、筑波も人数をかけて襲い掛かるが、それをはねのけるキープ力を有していた。
筑波のボランチは金正。素晴らしいポジショニングでカウンターの芽を摘み、サイドの大塚、木島の前へ鋭いスルーパスを送る。ボディーコンタクトにも優れているようで中盤での競り合いは大方金正が勝っていた。
大塚がサイドから仕掛ける。縦に突破してから送った低いクロスをDFはクリアしきれない。後ろから小澤が狙い澄ましてゴール左隅へ突き刺した。
沸きあがる筑波の応援席。三澤がいなくても勝ってしまうのでは?と期待が膨らむ。
41分、学芸大は横田を下げて渡邊をボランチに送り込む。膝のテーピングが痛々しい。
この試合、横田は常に後手に回ってしまった。速いプレスを身上とする学芸では致命的である。
残り5分を回ってから筑波は今田を中心に「はっきりしたことやれ」の繰り返し。今まで「はっきりしたこと」をできずに失点を積み重ねてきたのだろうか。いずれにせよ、集中の切れがちな時間帯において中途半端なプレーを避けるのは理に適っている。
前半は筑波が1点リードで折り返した。
後半の立ち上がりも、筑波は集中して臨んだ、はずだった。
開始間もない49分、学芸大は右サイドから押し込むと、右の林が低いグラウンダーのボールを入れる。中で栗原がわずかに触り、コースを変えるとボールはDFをすり抜けてファーの征矢へ届いた。征矢は落ち着いて右足で流し込み、同点に追いつく。檜山監督は拳を握ってガッツポーズした。
筑波はこの1点で明らかに意気消沈してしまった。中盤でのファールが増え、両サイドハーフの木島、大塚も下がってしまい、小澤と田中雅也は孤立してしまう。
61分、筑波は前線で起点を作れなかった田中雅也に代えて背番号28の長身FW立花を送り込む。身長は190cm。威圧感抜群の4年生と、162cmの1年生小澤が2トップを組む。
足が止まった筑波。大きい立花が競り勝っても、サポートに入るのが小澤1人ではセカンドボールを拾えない。だが、学芸大も引いた筑波を崩すだけのパスワークはない。
選択したのは長いボールだった。
68分、ロビングに栗原が抜け出す。GK碓井が飛び出した。ペナルティーエリア外で大きく交錯した2人。最後に栗原が頭で触ったボールはゴール方向へ向けて転がっていくが、DFがカバー。栗原に目を向けた瞬間、背番号9は倒れていた。
栗原が触った後のボールに目がいって見ていなかったが、碓井の身体(どの部分かはわからない)が思いきり栗原の頭を直撃したようだ。倒れ方が尋常ではない。相当な衝撃だったことは理解できる。
しつこいようだが、栗原は先にボールに触っていた。アフターチャージ、それもGKがペナルティーエリア外で行ったものとなれば、一発退場の可能性も十分あり得た。しかし、篠藤主審はファールをとらなかった。
「なんでだよー!!」
学芸大の控え部員が叫ぶ。
「おい!謝れよおまえ!」
碓井に罵声が飛ぶ。栗原は治療を受けてピッチに戻った。一安心である。
その一方で筑波の空気は悪くなってしまった。怒りに燃える学芸大の応援団がプレーに一喜一憂する中でどことなく受け身に回ってしまう。
ツケはまわってきた。左から突破してきた鈴木に対してずるずると引いてしまう。ゴール前で横に2つはたかれてマークをずらしてしまうと、待っていたのは渡邊の右足だった。鋭いシュートがネットを揺らす。ついに逆転を許してしまった。大きく右腕をあげて吼える渡邊。今田はその姿を腰に手をあてて眺めるしかなかった。
直後には脅威になり続けた小澤に代えて森谷を投入する。小澤を失ったことにより、攻め手は立花へのロングボールのみになった。
大塚が中盤でボールを奪うと長い距離を運ぶ。ゴール前でDFを引きつけて森谷へラストパスを出したが、森谷はあまりにも弱気なトラップだった。足元に詰まってしまい、シュートを打つ前にDFにつぶされる。筑波は決定機を逃した。
10分後、大塚に代わって麻生がついにピッチへ入る。ファーストプレーで挨拶代わりのキャノン砲。大きく左へ逸れたがインパクトは十分だった。
ただ、時間が短すぎた。
ロスタイムに後ろから走りこんで放った左足の強烈なミドルはGK山下に阻まれる。
タイムアップのホイッスルは非情に響いた。
筑波の出来は決して悪くなかった。前半に至っては学芸大を圧倒していたといえよう。しかし、点を取られると落ち込み、足が止まってしまう。敗戦を繰り返して染みついてしまった負け癖だろうか。
この日の敗戦でより残留が厳しくなってしまった筑波。このチームを救えるのは、やはり三澤しかいない。
得点
37分 筑波 小澤司
49分 学芸 征矢貴裕
76分 学芸 渡邊一仁
posted by fantasistalily |09:53 |
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