2010年03月29日

ラルフ・ローレンのジャケット

一昨日に行なわれたK-1 MAXに行ってきました。

まさかの大穴・長島選手の優勝という劇的な幕切れ、そして涙のマイク。そのマイクも何をしゃべっているのかよく聞き取れなかったのですが、むしろその叫びからは気持ちがダイレクトに伝わってきました。普通、表彰式が始まるとお客さん達は家路を急ぐのですが、あの日はしばらくその場に留まり余韻に浸っていましたね。私はなにか「青春」と呼ばれるような切なく、甘酸っぱい風景を観ているような気分でした。

魔裟斗選手という、MAXにとって太陽といってもいい存在が引退。
これまでは、その放熱によって輝いていた選手達が、今度は自らの力で輝かくなくてはなりません。
もちろん、これまで魔裟斗選手以外の選手にもMAXに対する愛はあったでしょう。しかし、あまりにも魔裟斗選手の愛が巨大で、力強く、ある意味MAXというジャンルと相思相愛だった。しかし、これからは、自らの力によってMAXを振り向かせ、そして背負わなくてはならない。当然簡単なことではなく、もしかしたら無謀とさえ言われるかもしれません。しかし無謀と呼ばれても立ち向かうことを、人はときに「青春」と呼ぶことがあります。私が感じた空気は、たぶんこれなんでしょう。

優勝した長島選手は、見事の一言。
鮮烈なデビューを果たし、その後ドン底を味わった。言わば、昨年は天国と地獄の両方を見た選手です。今回、相当な覚悟で臨んだことは想像に難くありません。


大会前日に行なわれた記者会見では、こんなことがありました。
この会見では、どの選手も正装が義務づけられているのですが、いつもコスプレが正装の長島選手は
衣装を全て会場に送り届けていたので、スーツはおろか、ジャケットもシャツもなく、今着ているジャージしかありません。最初は佐伯さんが「俺のスーツ着て出れば大丈夫だわ!」と、ムチャなことを言っていたのですが、私がその日着ていたラルフ・ローレンのジャケットを着て出ることに。試しに着てみたら思いのほかピッタリのサイズでした。とりあえずこれで一安心していたのですが、結局さいたまスーパーアリーナから衣装が間に合い、無事コスプレで会見に出席することができました。

ここからは私の勝手な妄想ですが、そのラルフ・ロレーンのジャケットに「運」がついていたんだと思います。長島選手が袖を通したときに、何の根拠も無く「これで乙君が勝ったら、このジャケットは幸福のジャケットになるなぁ」とぼんやり思っていました。

とまぁ、こういうことを言っている人はたっくさんいると思います。「俺が、長島クンと朝飯を一緒に喰ったから優勝したんだ」とか、「試合前に肩を叩いたから、KO勝ちできたんだ」とか。身も蓋もない言い方をすれば、どれも正しくて、どれも正しくないってことです。達成した偉業が大きい程、こういうことを言う人が増えるのは世の常。しかし、だからこそ、何かを成し遂げた時に、自分がいかに多くの人に支えられていたということに気付くんでしょうけど。


ラルフ・ローレンと言えば、沢木耕太郎の「彼らの流儀」というエッセイのなかに「ラルフ・ローレンの靴下」という掌編があります。僅か数十ページの物語ですが、青春の瑞々しさが詰まったお話しです。

(ちょっとうろ覚えですが)こんな内容。
とあるきっかけで出会った青年と交流を重ねるようになった作者。やがて、彼が自分と同じように物書きを目指していることを知る。もちろん彼には、何の経験も実績もない。しかしこれまでのやりとりのなかで、少なくとも真摯であることを知っていた作者は、雑誌の仕事を紹介することに。そこで仕事の厳しさを知り、物を書くことに大変さを知ってもらえればと思っていたのだが.....僥倖に恵まれた青年は、いきなり文章を書かせてもらうことになる。その雑誌の仕事を紹介したお礼に、作者は青年からラルフ・ローレンの靴下をプレゼントされる。

今、まさにその靴下を履き、ニューヨークのセントラルパークにジョギングに出掛けようとする作者が、まだ何者でもない青年と、僅か25歳でファッション界にデビューしたラルフ・ローレンとを重ね合わせる。やがて彼も「ポロ」のように、何かしらのモノを書き上げ、創り上げることができるだろうかと。


優勝をしたとは言え、長島選手が為すべきことはたくさんあるでしょう。
また逆の言い方をすれば、優勝を果たしたことで、一ファイターから、何者かへなる第一歩を踏み出したとも言えます。

長島雄一郎という青年が、何者かになろうとする。
もちろん、一昨日出場した選手達も同様の思いを持っているでしょう。
何者かになろうとする者達の闘い。MAXのJAPANトーナメントには、こういう物語が本当に似合っていると思います(そう考えると、谷川さんはMAX学園の校長先生のように見えてくるなぁ)。

posted by dream_sasahara |16:02 | トラックバック(0)
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

2010年03月24日

Spring has come

3月も残すところあと十日余りとなりました。
寒い日が続いたと思ったら、びっくりするくらい穏やかな日が続き、やがて春を迎えます。俗に言う「三寒四温」です。

この言葉、本来は中国の東北部や朝鮮半島で、寒さと暖かさの周期を表す言葉として冬に使われて
いたそう。でも日本では、春先に使われることが一般的です。しかも単にその気象現象を表すだけでなく、何か「春への期待」のような意味を込めて用いられているような気がします。

さて、一昨日は今年の一発目のDREAMでした。
勝った選手も負けた選手も、それぞれ勝利に浸り敗北に肩を落としていることでしょう。言うまでもありませんが、総合格闘技における「一敗」は、「一敗地にまみれる」の本来の意味に近いのではと思います。「一敗地にまみれる」は単なる敗北ではなく、(刀で切られ)内臓が泥まみれになるほどの大敗を喫したときに用います。

先日後楽園で行なわれたDEEPで、ある選手が敗北を喫しました。
佐伯さんがその様子を見て「○○選手の人生が、三年遅れた」と言っていました。そう、決して長くない格闘家人生において、斯くも重大な敗北というのがポッカリ口を空けて待っていることがあるのです。もちろん、だからこそ必死で掴んだ勝利が輝かしいものになるのですが。


昨日の一夜明け会見は、勝利した7選手が揃って出席しました。

彼らは、言葉を交わさなくても、共に死地をくぐり抜けた者だけが感じることのできる共通意識を持っているのでしょう。もっと言えば、仲間意識に近い感覚なのかもしれません。もちろん、この先は敵になる可能性は当然あるのですが、この意識を共有できるからこそ「対戦相手をリスペクトしている」というありきたりの言葉に血肉が通うんでしょう。

しかし、勝利に浸り、敗北にうなだれているのは昨日まで。
今日からすでに新しい闘いが始まっています。

寒い日が続いたあとには、暖かい日が続く。そしてやがて春がくると信じて彼らは今日も汗を流しているはずです。アンブリッツも、弘中選手も、前田選手も、アンドリュースも、ジダも、モーも、そしてヨアキムも、もう一度戦場に戻って来るはずです。

(D.13は色々反省点はありますが、それはまた今度書きます。いや、書く予定です)

posted by dream_sasahara |20:30 | トラックバック(0)
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

2010年03月21日

2010年第一回目の大会

気が付けば、前の日記から十日以上経っていました。
(最近、こんな書き出しばかりですが)。

昨日は大会前々日ということで、写真撮影やインタビューが行なわれ、今日は公開計量とルールミーティングでした。その模様はDREAMオフィシャルサイトや、スポナビさんの格闘技ページに詳細が書かれていますのでそちらをご参照下さい。

では!





というワケにはいきません。
私なりの感想を。

今回、初来日となるのはコール・エスコベド選手とKJヌーン選手。
噂の「恐れる」タトゥーでお馴染みのエスコベドは、非常に真面目な印象です。キング・オブ・トライアングルと呼ばれるだけあって(要は三角締めが得意ってことです)、手足が長いです。寝かしたらやっかいな感じです。初参戦にも関わらず、全く緊張しているように見えませんが.....目を見たらヘビになってしまいそうなほど眼光が鋭いのが印象的。誰かに似てるなぁと思っていたら、ブランコ・シカティックですね。明日は「伝説の拳」もかくや、という試合をしてくれるはず。前田選手は、まぁいつもの調子で、ずーっと佐伯さんと馬鹿話しをしていました。リラックスした精神状態のまま試合に臨めれば、得意のスタンドで翻弄できるはず。連勝すれば、ベルト戦線にグッと近づきますね。

もう一人の初来日ファイターKJヌーンは、写真や映像で観る通りのイケメンです。ビバリーヒルズ青春白書に出てきてもおかしくないくらいの雰囲気。笑顔は春のそよ風のようです。以前本ブログでも書きましたが、彼はPRIDEのオーディションに合格した数少ない選手の一人。結局PRIDEでのデビューは実現しませんでしたが、PRIDEが生んだ「落とし子」であることは確かです。対するアンドレ・ジダは、元々シュート・ボクセの出身です。つまりこの対決は、PRIDEの遺伝子を持つ者同士の対決でもあるワケです。
そうそう、KJの顔を見ていて思ったのですが、ほとんど顔に傷がない。おそらく毎朝の肌のお手入れを欠かさない.....からではありません。打撃系の選手でありながら、ディフェンスが上手いってことでしょう。ジダのパンチはブアカーオからダウンを奪ったほどの破壊力と命中度ですから、相当スリリングな試合になりそう。

それから今回ミドルからウェルターに階級を落としてきたアンドリュース。さすがに顔のまわりはスッキリしていますが、もともとミドルのときは無理して食べて体重アップをしていたそう。なので減量はそんなに大変じゃなかったようですね。余裕で計量クリアでした。相変わらず目元は涼しげで、スーツ姿も似合っています。演歌歌手でデビューしたらジェロより人気がでるはず(歌が上手いかどうかは未確認)。
対する長南選手の計量前は飢えた虎のよう。ノシノシと歩き、周りにガンを飛ばす(多分、本人はそんなことをしている意識はないと思いますが)雰囲気は、ちょっと近寄り難いものがあります。計量は一発でクリアして大きくガッツポーズしていました。その長南選手の席から(計量の際に、選手はそれぞれ指定の場所に着席しています)、ボブ・サップばりの馬鹿笑いが聞こえてきました。誰かと思いきや、ジェイソン・メイヘム・ミラー選手でした。今回は、長南選手のセコンドに付くためにわざわざ来日したんですね。非常に心強いセコンドでしょう。

そしてメインイベントでチャンピオンシップを行なう、ビビアーノとヨアキム。
二人とも体調万全の様子でした。いつもビビアーノは計量に苦しむのですが、今回はほぼパーフェクトに絞れたそうです。そのビビアーノが、予備計量を終わったときに私に話かけてきました。「ソーリー、ソーリー」と捨てられた子犬のような目で謝ってきます。「?」と思っていると「ベルトを忘れてきた」とのこと。思わず「ゲッ!」と言ってしまったのですが、明日には会場に届くそうなので一安心です。

ライトから階級を落としてきたヨアキムはフェザーでは化け物なんでしょうが、二人が並ぶとそんなに対格差を感じませんでした。むしろ「ビビアーノって、こんなにリーチがあったっけ?」と思ったほど。間違いなく総力戦となるハズですから、勝負を左右するのはほんの些細な攻防になるはず。私は「テイクダウン」が勝負の別れ目になるような気がしています。安易なテイクダウンをビビアーノが仕掛けると、ヨアキムの膝の餌食となりそう。逆に、それを避けてグラウンドに持ち込めればビビアーノ有利。しかし、それぞれ、高谷戦とエディ戦で真っ向から殴り合っていますから、もしかしたら殴り合いになる可能性もありますね。うーん、どうなるんだろう。

菊野選手と弘中選手の日本人対決ですが、弘中選手が非常に落ち着いている印象。日本・アメリカと多くの修羅場を潜っているから、ということもあるのでしょうが、それ以上に「ライトなら絶対に負けない」という自信がそうさせているのでしょう。対する菊野選手。相変わらず減量は辛そうですが、まぁそれはいつものこと。あのエディと互角以上に渡り合ったワケですから、自分のスタイルを貫けば自然と勝利を手に出来るはず。この試合も勝敗予想が難しいですね....。菊野選手は寝技の強い選手と闘ったことがないとよく言われますが、TKの弟子ですからね。当然一通りのことはできるはず。方や弘中選手もシュートボクシング勝つくらいボクシング技術があります。日本人対決は良くも悪くも感情が剥き出しになるので、より「総合」をやったほうが勝利を手にすることになるんでしょうか。うーん、これもどうなるか全く予想がつきません。

そして、一部マニアから熱狂的な支持を受けるジミー・アンブリッツ選手。
ジミーは物腰も柔らかくて、ひじょーに愛想がいいんです。
ハルクトーナメントを制したミノワマンの鉄板のように見られていますが、50キロ近い体重差がありますから、一発かすっただけでも勝敗の帰趨は分かりません。ミノワマン以上の大声援がアンブリッツに飛べば.....凄い力を発揮するかもしれません。


と、ここで取り上げた以外の選手も含めて、全員一発で計量クリア。
明日は7試合といつもより試合数が少ないので、いつも以上に「濃い」闘いが見せられればと思っています。
ご期待ください!

posted by dream_sasahara |17:08 | トラックバック(0)
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

2010年03月11日

女か虎か

すいません。久しぶりの更新です。
本日、日刊スポーツさんの取材を受けたのですが、ご担当の藤中記者のから「笹原さんのブログは素晴らしい!」とお褒めの言葉をいただいたので(えー、実際にはこんな言い方ではなかったのですが、私のなかでは100%の賞賛の言葉に変換されています)、はりきって更新します。

唐突ですが、みなさん「リドルストーリー」ってご存知でしょうか。

端的に言うと、結末が曖昧なまま終わる物語のことです。
と、説明してもピンと来ない人がいるはず。

分かり易い例を出してみましょう。
リドルストーリーと言えば、最も有名なのは「女か虎か」という、ストックトンという作家さんが書いた作品です(かなり意訳しているので、興味のあるかたは原文をあたってみてください!)


ある野蛮な王が治める国のお話。
この国には独自の処罰方法があった。罪に問われた者は、その国王の自慢の闘技場において、二つの扉のうち一つを選ばなくてはならない。一方の扉には餓えた虎が入っており、開ければたちまち虎に喰い殺されてしまう。もう一方の扉には美しい女性が入っており、こちらを開けば罪が許され、その女性と結婚することができる。

そんな国の王女と、ある若者が恋に落ちる。身分の違う恋を知った王は激怒し、この処罰を実行しようとする。しかし王女はあらゆる手をつくし、どちらの扉が美女で、どちらの扉が虎かを探り当てる。そして迎えた処罰の日。この日が来るまでに王女は悩み抜いた。虎を選べば、自分の愛する人が虎に喰い殺されてしまう。しかし女を選べば、愛する人が目の前で自分以外の美しい女性と結婚してしまう。
呻吟を重ねた末に、王の野蛮な血を引き、かつ誇り高く激しい感情の持つ主の女王は、その若者にだけ分かるようにそっと扉を指し示す。
果たして王女が選んだのは、女なのか?虎なのか?


つまりリドルストーリーとは、このように結末が読者に委ねられているワケです。
で、この作品を発表した後、作者のストックトンは「あの結末はどうなるの?」と色んなところで尋ねられたのですが、胸に秘めた結末は最後まで明かさなかったそうです。

ある意味、一対一の格闘技も、試合が終わってしまえば何らかの決着がつくのですが、戦前はこのリドルストーリーに似ているのかもしれません。このストーリーの読み手同様に、我々観る側は「どちらが勝つのか?」と、あれこれ想像する以外の手だてはありません。

先日発表した青木真也×ギルバート・メレンデスの一戦は、青木選手にとっても、DREAMにとっても乾坤一擲の大勝負です。このカードを発表した後にDREAMのBBSで「この試合は、勝てば天国、負ければ地獄の試合」という書き込みがありました。はい、まさしくその通りなのですが、よくよく考えてみると、負ければ地獄は言わずもながですが、実は勝っても地獄なのです。なぜか。当然メレンデスに勝てばストライクフォースライト級のチャンピオンになるわけですから、アメリカではそのベルトの防衛戦を行なわなくてもなりません。もちろん日本でもDREAMのベルトの防衛戦がある。つまり日米を又にかけ、加えてチャンピオンシップに出てくる強豪と闘わなくてはならないわけですから、この試合は、いずれの道も地獄ってことなのです。

我々は、選手が勝利の喜びに浸る姿にも、敗北に涙する姿にも、感情移入させられるのですが、身体が震える程ゾクゾクさせられるのは、たとえ地獄と分かっていてもその扉を開こうとする姿です。

必勝が義務づけられ、勝っても地獄、負けても地獄という扉を開けようとする青木真也。彼はたとえそこから虎が出て来ようとも、立ち向かい、闘うはずです。

彼の命を懸けたリドルストーリーの結末は、4月17日に明らかになります。

posted by dream_sasahara |21:01 | トラックバック(0)
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加