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ジョセフ・ニューガーデンは三度魔法を使う:2017インディカー・シリーズ第3戦 アラバマGP

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 世界中のサーキットに数多ある「コーナー」でいちばんのお気に入りは何かと問われるとする。10年ほど前だったか、F1世界王者となったばかりのルイス・ハミルトン(ほんの一昔前、マクラーレンはまごうかたなきチャンピオンチームだった)が各地の著名なコーナーを集めて究極のサーキットを「設計」する企画に臨んだ際は、イスタンブール・パークのターン8にはじまりスパ-フランコルシャンのオー・ルージュ、鈴鹿の130Rにシルバーストンのコプスなど高速コーナーばかりを集めて首のもげそうな、なおかつ追い抜きなどとうてい不可能なとんでもないコースを作り上げていたものだが、わたしならまずアラバマはバーバー・モータースポーツ・パークのターン14と14aを挙げたいと思う。数え方によってはターン15および16とされることもあるこの区間は、微妙なターン番号の振られ方から容易に想像されるとおり曲率半径の異なるふたつの曲線が巧みに組み合わされた複合コーナーで、さらにはその直前のターン13と三位一体となってドライバーの行く手に立ちはだかるインディカー・シリーズ屈指の難所である。これについては過去に言葉を尽くしてきたので、昨年のアラバマGPの記事から引用してみよう。「長いバックストレートから高速ターン11を通過し、右に曲がり込むブラインドのターン12を加速しながら立ち上がっていくとほんのわずかな全開区間の先にこのコース最大の難所が現れる。車速をわずかに落として右のターン13に進入し、スロットルを維持したまま続けざまにやってくる高速ターン14の横Gをまともに受けながら、いきなりRのきつくなるターン14aのクリッピング・ポイントに向けてブレーキペダルを踏みしめる。半径の異なる3つのターンで1組となるこの複合コーナーを通過するおよそ7秒間、ステアリングはずっと右に切り続けられている。速度を上げようとすれば車はドライバーが与えるフロントタイヤの舵角に抗って外へ外へと逃げていき、かと思えばいきなりリアタイヤのグリップが減じてカウンターステアを余儀なくされる場合もある。イン側へ寄っていこうとすれば速度を落とすしかなく、ドライバーは速度と距離のジレンマのなかで車をどうにか手懐けながら妥協点を探る。横からの荷重にとらわれて姿勢を乱さないよう、最後のブレーキングはあくまで繊細に。走行ラインの自由度はほとんどない」(「なんて愛しい魔法使い」『under green flag 2』2016年5月6日付)。せいぜいふたつかみっつの曲線についてここまで書きたくなってしまうほど、その区間はたしかに魅惑に満ち、レースの醍醐味に溢れていた。ただ、わたしの意識が離れがたく囚われているのはバーバーの複合ターン14が単にそれ自体で良質なコーナーであるからばかりではない。前戦ロングビーチの記事で取り上げたシモン・パジェノーに並んでもうひとり、わたしは敬愛するドライバーを持っている。そのジョセフ・ニューガーデンの存在と記憶によってはじめて、ターン14は本当の意味で特別な場所へと変わる。当人がどう思っているかは知る由もないが、ニューガーデンに視線を注がずにはいられない観客にとって、そこは彼が今の地位に辿りつくうえで最も重要な役割を果たしたコーナーだったのだから。

 2015年、ニューガーデンがアラバマで初優勝を上げたことはまだ記憶に新しい。この勝利に至るまでに、彼は最高のオーバーテイクを2度成し遂げている。まず1周目、ターン14で2年後に同僚となるウィル・パワーの懐に鋭く飛び込み、少しラインを孕ませたものの上品なブレーキングでターン14aを完璧に押さえてみせた。通常ならパッシング・ポイントになりえないコーナーで前年のチャンピオンを抜き去った機動はそれだけで見事なものだったが、しかしそれもさらに重要な場面への伏線に過ぎなかった。フルコース・コーション中にピットクルーのわずかな不手際で順位を落としたニューガーデンは、そのリスタートで今度はエリオ・カストロネベスに襲いかかり、ターン14で外へ逃げていく相手の姿を嘲笑うかのように内側のラインを保ったまま、最後にはやはり上質なブレーキングでターン14aの頂点を綺麗になぞりながら順位を入れ替えてしまったのである。速く、かつ短く。ニューガーデンは挙動を破綻させることなく、速度と距離のジレンマと無縁なままターン14を走り抜けていった。

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