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レースは過去に照らされている:2017インディカー・シリーズ第2戦 ロングビーチGP

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 シモン・パジェノーが予選第1ラウンドでおなじチーム・ペンスキーに乗るエリオ・カストロネベスの進路を妨害した廉でその時点でのトラックレコードとなる1分6秒5026のトップタイムと2番目に速いタイムをまとめて抹消され、ポールポジションさえ狙える状況から一転していちばん後ろのグリッドに着かなければならないことが決まったとき、わたしが愛してやまないこのフランス人がロングビーチで意味のある結果を持ち帰る可能性はほとんど見当たらなくなってしまったようだった。なるほど開幕戦のセント・ピーターズバーグではセバスチャン・ブルデーが最後方スタートから文字どおりの「Biggest Mover」――これ以上の逆転はない――となって優勝したが、それはどうやらインディカー史上わずか4例目の稀なできごとであったらしく、続けざまに起こることを期待できるようなものではなかった。たしかに土曜日のパジェノーはとびきり速かった。幻となった新記録自体は路面状態が良化した十数分後にあっさりと塗り替えられたからさして惜しくもないが、第1ラウンドで抹消されたタイムは2番手を0.2秒以上も上回るものだったのだ。大差である。パジェノーは進路妨害の大元の原因が別の同僚であるウィル・パワーの胡乱な動きにあったと自らの善意を主張したわけだが、実際には却下されたこの抗議がもしも受け入れられて予選2次ラウンド、さらに最終ラウンドへと駒を進めていたら、カストロネベスが残した1分6秒2254を破って真のレコードとポールポジションの両方を獲得していたとしてもまったく不思議はなかった。彼は昨季もっとも多くの予選最速タイムを記録したドライバーであり、何よりチャンピオンなのだ。その資格は十分にあったはずだった。だがどんなに速かろうと記録自体を消されてしまっては元も子もない。

 セント・ピーターズバーグをしてブルデーに奇妙で鮮やかな逆転劇を演じせしめたのは1周目の混乱と望外のタイミングで導入されたフルコース・コーションだったが、ロングビーチでその種の僥倖が後方を走るドライバーたちに降ってくることはなかった。いくらインディカーが運に左右される場合があるといっても、さすがにあれほど極端なレースの反転は年に1回か2回あるかどうかの十分に珍しい部類のできごとで、ロングビーチは一転して淡々と、しかし正当な順位争いをコースの各所に分配しながらごく普通に進行したものだった。ポールシッターこそ最初の加速に失敗し、始まりからわずか数秒のうちに3年も勝利のないトップチームのドライバーなる汚名を雪ぐ機を逸したものの、その後のラップチャートは適度に平穏な、言い換えれば平凡な動きを示している。1周目から先頭に立ったスコット・ディクソンをライアン・ハンター=レイが16周目に交わす。30周目にピットストップが絡んで入れ替わり、また一度入れ替わり、やかてゴールまで残り3分の1ほどになって、追い縋っていたジェームズ・ヒンチクリフが先頭を奪い去っていった。優勝争いだけに視線を固定すれば、ディクソンの最後の給油でピットクルーがリグを差し込むのに失敗して脱落した以外に特異な事件はなく、結局レースリーダーはこの3人に留まった。3度導入されたコーションも車同士の差が縮まる以上の意味をもたらさない普通の黄旗にすぎなかった。そうした展開であるかぎり、最後尾から進むドライバーが何らかの存在感を示す場面などあろうはずがない。どれほど潜在的に優れているとしても、ふとした弾みで後方に下げられてしまった者はもはやその場所にふさわしいレースしかできなくなると、4週間前の開幕戦は教えていた。無関心に覆われるとき、速さは唐突に失われる。現象としてそうなってしまう。

 しかしレースが中盤の入り口に差し掛かろうとするころ、テレビカメラは優勝争いからはまだ遠い位置を走るパジェノーの姿ばかりを追うようになっている。普段と異なる派手な蛍光黄色の特別色に彩られた1号車は、後方に追いやられた失望とわたしの勝手な不安とは裏腹に速さを失うことなく、スタートから十数周のうちに順位を一桁まで戻すなどして、コース上でもっとも見せ場を提供していた。6周目、8周目、15周目、18周目に見せたオーバーテイクは動きの多くなかったレースにあって中継のスイッチャーに仕事をさせるにふさわしい場面で、きっとそれだけでも王者を映しつづける価値は十分あったに違いない。違いないのだが、そのときのわたしにはパジェノーがカメラを捉えて離さない理由がそれだけとも思えなかった。たしかに注目に値するほど速く、また追い抜きの場面は映える。しかしそういったわかりやすい事象以上に、もっと情熱的な根源、いわばレーシングカーを観察する歓びといった感情がパジェノーを通して溢れかえってしまい、だからこそみな彼に囚われていると考えずにいられなかったのである。

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