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映るのは少女か老婆か:2017インディカー・シリーズ開幕戦 セント・ピーターズバーグGP

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 2017年のインディカー・シリーズはウィル・パワーがポール・ポジションを獲得して始まった。ごくごく当たり前に見知った光景だった。2010年からこっち、次の年もそのまた次の年も、昨年にいたるまでこの選手権はそういうふうに始まるものと決まっていた。正確にはこの間1回だけ日本人に特等席を譲っているのだが、そんなのはちょっとした例外だ。だから今年もセント・ピーターズバーグでいちばん速いのはパワーなのだと最初からわかりきっているのだったし、日本時間でいえば日曜日の未明にコーヒーを沸かしながら予選を見届けたあと、肩をすくめて「ほらね」とつぶやく以外の反応が起こるはずはなかった。それは何一つ意外なところのないタイムアタックで、だからわたしはその結果に心動かされることなく自分の出場するカートレースの身支度をはじめていた。待ち望んでいた開幕とともに過ごすには少々慌ただしい休日の朝だったが、自分や普段から活動をともにするチームメイトに関連する大会が3つもあって、わたしの心はまずそちらへと向いていたのである。

 その日は悲喜入り交じる一日だった。ストラテジストとして2組の仲間を優勝と2位表彰台に送り込むことに成功した、殊に後者は敗れこそしたもののピットからは完璧なレースを提供してみせたのだが、その後自らステアリングを握ったレースでは惨敗して、あらためてレーシングドライバーとしての才覚をなにひとつ備えていない事実を思い知らされたのだ。各地で行われているレンタルカートのレースにぽつぽつ出るようになって2~3年になる。すっかりわかっていることだが、どうやら自分はどれだけ人生を繰り返してもサーキットを戦う人間にはなれそうもない。大多数の人間がそうであるように、結局のところレースを見るほうがよほど向いているようなのだった。大井松田カートランドからの帰路、そうした失望を得たわたしの意識はようやくインディカーへと戻っていった。それはわたしにとって羨望と詮ない嫉妬をもって眺めるしかない遠い世界だった。

 圏央道を北上しながら今年のセント・ピーターズバーグでもまたパワーは敗れることになるのだろうという漠たる予感は得たが、それ以外はちょっと予想がつかなかった。最近はずっとシボレーと組むチーム・ペンスキーが上位を独占していたレースなのに、今年は例年になくホンダが好調だったからだ。春先はエンジンの掛かりが遅い(これは比喩である)チップ・ガナッシ・レーシングのスコット・ディクソンが開幕戦で2番手からスタートするのは少しばかり物珍しい光景ーー珍しいといえば、大スポンサーだったターゲットが撤退して、彼は白い的をモチーフにした意匠の描かれた、あの十何年と見慣れた赤い車を失っているーーだったし、もっと信じがたいことにはシュミット・ピーターソン・モータースポーツのジェームズ・ヒンチクリフがその後ろにいた。ともにホンダユーザーだ。あるいは5番グリッドの、アンドレッティ・オートスポートに移籍したばかりの佐藤琢磨がいきなり優勝してしまうのもありうる脚本だった。ペンスキーにとってはいつものように気ままなレースにはなりそうもない。才能を買って獲得したジョセフ・ニューガーデンが4番手からスタートするのは悪い事態ではないが、昨年王座についたシモン・パジェノーは予選14位に沈んでいた。さてもうひとりいたはずだが、3年近く優勝から遠ざかっている41歳に多くを期待するものでもあるまい。

 パワーが敗戦する予感は、過去の経験に根ざしている。彼はセント・ピーターズバーグの8年で7度のポール・ポジションを得たが、そのうち逃げ切って優勝したのはたった1回だけだ(皮肉なことに、4番手スタートだった2014年は優勝している)。しかも唯一のポール・トゥ・ウィンを果たした2010年は第2戦に設定されていたから、結局その印象に反してパワーがセント・ピートの開幕戦を完全に制したことは一度もないのだった。昨年など、練習走行の事故で脳震盪をあらわし、ついに決勝を走ることさえ叶わなかった。彼の開幕は、そんなふうに土曜日と日曜日の落差によって語られるしかないはずだった。もちろん、過去がそうだからといって未来もおなじように繰り返されることが決まるはずはないのだが、あらためて振り返ってみるとたしかにパワーは過去44度もポールシッターになりながら優勝は29にすぎず、それどころか表彰台に立ったのも55回である――それは同年代のライバルであるスコット・ディクソンがわずか27回のポール・ポジションから40勝をあげ、89度にわたって表彰台の美酒を堪能しているのと見事に対照をなす――のだから、予選の順位が決勝を保証しないのは明らかだった。しかして実際そのとおりだったのだ。パワーはスタートしてからタイヤに問題を生じてまったく速度を上げられないままわずか5周でヒンチクリフに先頭を譲り、3回ストップには早すぎる14周目にピットへ戻る他なくなった。以降は燃料を節約するために苦しい戦いを強いられ、最後はエンジンが悲鳴を上げてとどめを刺されることになった。こうしてパワーの日曜日はまたしても無為に費やされ、ポール・ポジションと優勝回数の差はまたひとつ広がった。これもまた、予選同様に何ら意外なところのない結果だった。

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記事カテゴリ:
インディカー
タグ:
セバスチャン・ブルデー
ウィル・パワー
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