under green flag 2

関口雄飛とストフェル・バンドーンは日本で出会う、あるいは奇妙で魅惑的な、僕たちのスーパーフォーミュラ

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 レース後の優勝監督インタビューで星野は目を潤ませながら、テレビの音声に載せるには不適切とされる表現で関口を讃え、続いて「F1連れてっちゃおう」と大きな夢を口にすることになる。良くも悪くも直情径行で、情熱を少しも衰えさせないまま年を取ったかつての「日本一速い男」が心から発したであろう言葉は、レースの興奮と相まってあるいは本当に実現するのではないかという誘惑とともにわれわれの耳へと届いた。これほどのドライバーを、日本に、SFに留めておくのは「惜しい」。この菅生の後なら、そんな気持ちが全員に芽生えても不思議はなかった――。

Chapter 2

 2015年から2016年にかけてのシーズンオフ、スーパーフォーミュラの話題の中心はまちがいなくストフェル・バンドーンだったはずだ。F1はマクラーレンの控えドライバーをすでに2年間務め、GP2を圧倒的な大差で制したばかり、将来の世界王者候補と目される23歳のベルギー人がF1の席が空くのを待つ間にレース経験を重ねるためホンダの繋がりでSFに来る、といった話は早くから伝わっており、秋が終わるころには正式発表を待つだけというところまで確実視されていた。2015年のGP2予選11回中4度ポールポジションを獲得した基礎的な速さはもちろん、スタートも巧みで、接近戦に優れなによりレースが抜群にうまい。マクラーレンのレギュラードライバーであるフェルナンド・アロンソをまさに髣髴とさせる走りで次々と優勝を攫い、同僚の松下信治が2年間多くの場面で敵わなかった才能がSFで見られるとあって、日本のファンの多くが色めきたっていたと記憶している。ホンダがモータースポーツ活動計画でその名を発表したのは年が明けて2月12日になってからだったが、同僚となる野尻をはじめ何人かがひとりの新人について直接言及し、小林可夢偉が「絶対に優勝できない」と言い切るなど、最近ならその小林が日本に復帰した際と同様に熱を帯びたドライバー動向だった。はたして欧州水準の能力に極東の地域フォーミュラは蹂躙されてしまうのか、それとも返り討ちにして日本に優れたレースがあると証明するのか。バンドーンの走りは、日本がどの位置にあるかの目印になる――少なくとも、比較材料のひとつにはなる。近年「世界」との繋がりをほとんど持たなくなっていたSFは、GP2王者の参戦によって久しぶりに彼我のあいだに架かる橋を手に入れたのだった。

 しかも偶然の巡り合わせによって、SF開幕前にバンドーンの肩書にはさらに箔が付いた。オーストラリアGPの大事故で負傷したアロンソに代わり、バーレーンGPに出場する機会を得て「F1ドライバー」となったのだ。岡山でのSFテスト参加を急遽取りやめ、機上の人となって説明書を読み込んだというバンドーンは予選でいきなりジェンソン・バトンより上位の12位に飛び込み、決勝ではさらに順位を上げて10位入賞と、最高の結果を持ち帰った。1点だけ、1レースだけとはいえ、前年散々苦しんでいたマクラーレン・ホンダにシーズン最初の得点をもたらし、デビュー戦にして世界王者経験者を完全に上回ったことで、まだ未知の部分があったバンドーンの能力に疑いの余地はなくなった。SFが迎えるのは、まちがいなく最高水準のドライバーなのだと。

 一年が終わってみれば、バンドーンの9レースはだれにとってもすこぶる幸せな結果になったように思う。F1入賞ドライバーとしてふたたび日本に戻ったバンドーンは開幕戦の鈴鹿でいきなり3位表彰台に登り、F1以上に華々しいSFデビューを果たした。その後もレースを重ねるごとに順応を見せ、7月の第3戦富士で早くもポールポジション、9月の第5戦岡山レース1で初優勝、そして10月最終戦鈴鹿レース2で有終の美を飾る充実したシーズンを送った。すべてが完璧とはいかずうまくいかない日もあったが、随所に見せるスタートの鋭さ、接近戦の冴え、レースの巧みさ、それらを支える基礎的な速さはGP2時代とまったく変わらずわれわれの前に現れたものだ。3度の表彰台、うち2勝は国本雄資と関口雄飛に並ぶ最多タイで、小林の挑発的な予想を見事に覆してみせている。選手権では3年目になる同僚の野尻にほぼ倍の得点差をつけて総合4位に入り、主要カテゴリーでことごとく成果の出なかった2016年のホンダにあって数少ない明るい話題をもたらした。ホンダ系のドライバーではもちろん最上位で、他に勝ったのは山本尚貴が1回だけだったのだから傑出した成績と言っていいだろう。見知らぬ土地、聞いたことのない言語、異なる文化、初対面の関係者、そしてもちろん車輌やサーキットにレースのスタイルなど、バンドーンが数々の未知に直面しながら戦っていたことは想像に難くないが、にもかかわらず発揮された煌めきはF1で勝ちうるドライバーの資質の高さをまざまざと知らしめるものだった。

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記事カテゴリ:
スーパーフォーミュラ
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F1
ストフェル・バンドーン
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