under green flag 2

関口雄飛とストフェル・バンドーンは日本で出会う、あるいは奇妙で魅惑的な、僕たちのスーパーフォーミュラ

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 毎年毎年、奇妙なくらい菅生と相性の悪いジョアオ=パオロ・デ・オリベイラがSPインコーナーからアウトコーナーにかけてスピンを喫してグラベルトラップに捕まったのは、ドライバーごとの作戦の違いも明確になり、レース全体がとりあえず落ち着きを見せはじめていた19周目のことだ。菅生9年間で4度目のDNFとなる元王者のミスは即座にセーフティカーを呼び込んだが、これはレースにさほど大きな影響を与えないように見えた。上位陣には義務として課せられている1回のピット作業を終えていないドライバーがまだ何人か残っていたものの、SFではセーフティカー走行中もピットは開いたままだ。頭を抑えられてしまう前に飛び込んで給油してしまえば後方の車が追いつくまでの間にコースへ戻るのは難しくない。テレビで解説を務めた土屋武士もそう述べて状況を的確に伝え、実際画面には少し慌ただしくはありながらも無事に作業をこなして順位を失うことなく復帰する数台の様子が映し出されている。ここまでに作った差こそ詰まってしまうが、その程度はレースにつきものの、受け入れるべき損失だ。菅生で抜くのは至難の業だし、隊列も混乱しておらず前の車が速く後ろのほうが遅い状態は基本的に崩れていない。セーフティカーが退いた直後の再スタートさえ注意すれば、オリベイラのスピンの前後でレースの様相はなにも変わらないはずである。

 関口雄飛は速すぎたのだった。スタートからおよそ次元が違うと思わせる走りでレースを完全に支配下へ収めた関口が2位の野尻に14秒もの大差をつけていた、そんなころに件のスピンは起きている。早めに給油を済ませて最後まで走りきる作戦を採用していたオリベイラはそのとき、関口の48秒後ろにいた。菅生は1周70秒弱だから、言い方を変えれば関口より1周少ない20秒ほど前の場所で動けなくなったわけである。オリベイラは自分が犯したミスに頭を抱え、再スタートを諦めてステアリングを外し立ち上がって車を降りると、ガードレールの向こう側を無念そうに歩いてゆく。そうして運転手を失った車が取り残されたところで、ようやくセーフティカーが発令された。スピンの瞬間から約40秒後、それこそ関口にとって最悪のタイミングなのだった。「イン」と「アウト」2つの頂点をリズミカルに攻めなくてはならないSPコーナーはターン番号で表すと9と10(序盤にある左・右のS字カーブを2つで1組のコーナーと見るなら)でコースの後半に位置し、そこから短い加速を終えて高速で大きく回り込んでいく110Rコーナーを立ち上がるともうホームストレートを迎える。予選の速度なら、SFがこの区間に要する時間はおおよそ18秒だ。計算は難しくない。関口とオリベイラの差が20秒、スピンしたオリベイラの脇を関口が通過し、ホームストレートに至るまでの時間が、黄旗区間の減速を加味すると20秒、事故からセーフティカー導入までが40秒――すなわち「SC」と書かれた白い板がマーシャルポストで掲示された瞬間、関口はまさにコントロールラインに差し掛かろうとしていたのである。オリベイラより35秒後ろにいた野尻はピットレーンへと進路を変え、作業を終えてもともと走っていたなりの場所に戻った。続く一貴ももちろん問題はなかった。だが関口は速すぎた。速すぎたがために、SCを察知したチームからの無線でピットに戻るよう指示が出たときにはすでにその入り口を通過しようとしていたのだった。急坂を駆け上ってコントロールラインを迎えたその先には、セーフティカーが魔物の哄笑とともに待ち構えていた。

 結局、オリベイラのスピンによって甚大な被害を受けたのは皮肉にもチームメイトの関口だけだった。他の16台はすべてピットストップの義務を消化しており、ゴールまで届く燃料を持っている。ヨコハマタイヤは性能に優れ、無交換で最後まで走っても心配はない。全員が48周を走りきることに集中すればよいなか、リーダーただひとりが30秒以上を失う作業を残したまま、築いてきた差が水泡に帰してコースに取り残されたのだ。セーフティカーの後ろについた関口は、この信じがたい事態に頭を抱え、レース中にもかかわらずヘルメットのバイザーを開き何度も手を挙げて、失望と怒りと、抗議の意を表した。セーフティカー自体はやむをえないにしても、レースの理に逆行してまるで狙い撃ちにされたかのように速さが罰せられた不公平は、ドライバーとしてとうてい許容できるものではなかったのだろう。あれだけ突き放した後方集団はすぐ後ろに並び、いまピットに入れば最下位まで落ちるのは確実だった。

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ストフェル・バンドーン
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