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レースの意味は文脈によって規定される:2016インディカー・シリーズ第14戦 ポコノ500

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 フォーメーションラップの隊列が整わずにスタートが不成立となり、2周目にあらためてグリーン・フラッグが振られた直後も直後、ターン1でのことである。強豪チームへの移籍の噂が現実味を帯びて伝えられているジョセフ・ニューガーデンが、ロシア人ドライバーとしてはじめてインディカーのポール シッターとなったミカイル・アレシンを苦もなく抜き去った瞬間、そこからゴールまでのあいだにすべての敵を置き去りにしていく展開が頭をよぎった。予選の意味などまるでなかったように最初の加速であっさりと先頭を奪うその様子が、ニューガーデンがレースのすべてを支配し尽くしたアイオワ300にひどく似かよって見えたからだ。6週間前と違うとすれば最初のスタートに失敗していたことで、これによってアレシンは早々とラップリードのボーナス1点を得た。それはもしかしたらアレシンにとって「幸運」だったのかもしれない、すなわちニューガーデンが圧倒的な速さで逃げていってしまえば、ことによると安全な黄旗に守られた1周目がポールシッターにとって最初で最後のラップリードになる可能性だってあると、その場面を見ながら勝手な予感を抱いたわけである。

 過去の物語になぞらえるだけの予断にたいした意味はない。1周2.5マイルのポコノを走るニューガーデンは結局アイオワほどに速くなく、むしろアレシンこそがこの日の支配者のひとりだった。スタート周のターン3で佐藤琢磨がスピンを喫したことで導入されたフルコース・コーションを経てレースが再開されるとほどなく先頭を奪還し、じつに3スティントにわたってその場所を維持する。2番手に収まって燃料を節約するような小細工も弄さなかった。ここまで逃してきた初優勝への渇望をそのまま走りに映したようにどのスティントも全開で走り続けたことは、32周目、61周目、93周目、120周目、148周目のピットストップが22台のうちほぼ3番目以内、多く最初に行われた事実に示されている。幸運が舞い降りる可能性をいっさい期待せず、正面から優勝の玄関ドアをノックする走りは、報われるにふさわしいものだっただろう。

 あるいはライアン・ハンター=レイである。リーダーとしてレースを支配したのがポールシッターに対し、事故によって予選を走れず、21番手からという対照的なスタートを余儀なくされた彼は集団の中での走りによってコースに集まる視線を支配した。グリーン・フラッグが振られ、佐藤がスピンした数十秒後にはもう14位を走り、リスタートからたった30周のあいだにニューガーデンまでをも抜いて2位に上がってしまうのだから、ほとんど冗談のような速さに違いなかった。こうしてまだ実績のないアレシンを先頭に、かつての王者であるハンター=レイと、これから王者になるニューガーデンが続く。この日もっとも速い3人が揃った40周目あたりからの約110周は、心地よい静謐に貫かれている。少しずつ篩い落とされて勝利の資格を失っていく後続、適度な順位変動、何回かの先頭交代。ときどき、他のドライバーが戦いに加わる。たとえばアレキサンダー・ロッシ。たとえばカルロス・ムニョス。だが結局は、アレシンがレースをコントロールし、ハンター=レイが速さをひけらかしつつ機を窺い、ニューガーデンが付き従う図式に収斂していくのである。途中のピットで、ロッシが進入してくるチャーリー・キンボールに気付かずピットレーンに合流しようとして接触し(ようするに先々週のアレシンとおなじだ)、すぐ前で発進しようとしていたエリオ・カストロネベスに乗り上げる事故はあったが、レースを乱しうるそうした危険があったにもかかわらず、レースの相貌にはまだなんの変化も起きていなかった。

 それはインディカーのオーバルにとってはなんの変哲もない日常的な風景だ。だがこうした場面をずっと眺めていると、観客としてその担い手に愛着が湧いてくる。良質な時間を提供してくれているドライバーのだれかひとりに勝ってほしくなり、また勝つべきだとさえ思えてくる。純粋な速さでいえばハンター=レイを称揚することができた。21番手のスタートから隊列のすべてを呑みこむ走りは平板なレースに次々と刺激を与え、アイオワのニューガーデンとはまた違った興奮を呼び起こしている。もちろん、アレシンが勝つなら最高だ。2週間前に確実だった初優勝が手からこぼれ落ちた苦労人が、ポールポジションと最多ラップリードを携えて完璧な雪辱を果たす……そういう瞬間を目撃できればどれほど幸せな気分に浸れることか。ニューガーデンの鮮烈なスパートが見られるならそれもよい。いずれにせよ勝つのは彼らのうちのだれかだろう。その中で、ハンター=レイの興奮を取るか、アレシンへの感傷を取るか、はたまたニューガーデンの才能を取るかという好みの軸足をどこに置くかの違いがあるにすぎない。そんなレースとして見届ければいい。

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インディカー
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ライアン・ハンター=レイ
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