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シモン・パジェノーとウィル・パワーの30秒は一貫した情熱を約束する:2016インディカー・シリーズ第13戦 ミッドオハイオ・インディ200

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 ウィル・パワーは必死さを隠そうともせず露骨なブロックラインを通って自分とコーナーの頂点を結ぶ空間を埋めようとする。少し後方ではチャーリー・キンボールがコースから飛び出して「チャイナ・ビーチ」の砂にまみれているものの、フルコース・コーションになる気配はない。ターン6から8へ右、左、右とうねる連続コーナー「エッセ」の終わり、シモン・パジェノーが気流の乱れを意に介さず真後ろに張りついている。右へとほぼ直角に回りこむターン9の出口で前を行く銀色の車体が外側の縁石までラインを膨らませる。姿勢が乱れる。水色と白に塗り分けられた背後の車が小さく回り早めにスロットルを開放して並びかけようとするが、その進路に車体を割りこませて阻む。タイヤの手応えはもはや明らかに後ろの車が優れている。雷の谷の名に違わぬ急激な下りの短い直線を抜け、全開で駆け抜けるターン10にいたってもパワーは内側の窮屈なラインを選択している。外のパジェノーは余分な距離を走らされるが、速度で補って追従する。ステアリングの左下に配された緑色の追い抜き用ボタンが押されており、一時的に過給圧を150kPaから165kPaへと高められたシボレーエンジンの出力は20馬力ほど向上している。次の高速コーナーで内と外が逆になる。22号車のフロントウイングが10号車の後輪にまで重なろうとする瞬間に空間が閉じられる。ふと、4月のアラバマで起きたパジェノーとグレアム・レイホールの事故が想起されるが、結局そこではなにも起きない。回転木馬と名付けられる円く長いターン12が迫る。パワーは進入で内を押さえ、パジェノーはまた外を選ぶ。コーナーは長く長く、いつまでも回りつづけるかのように長く、やがて出口に向かって半径が小さくなる。銀の10号車は遠心力に逆らうこと能わず少しずつ中心から剥離してゆき、水色と白に塗り分けられた22号車のタイヤは路面を掴んで放さず正確にコーナーの頂点を捉えて滑らかに向きを変える。2本のレーシングラインが時間差で交叉する。失速と加速が対照を描く。パワーが正しいラインに戻ろうと操舵し、同じチーム・ペンスキーの2台は車輪どうしをかすかに接触させる。また姿勢が乱れる。残響が消えて平穏が戻るころには位置関係が入れ替わり、パジェノーが先に最終コーナーを通過しようとしている。

 ミッドオハイオの66周目、コーションが解除されたリスタート直後からじつに半周にわたって繰り広げられた事実上の首位攻防を、観客は忘れがたい記憶として脳裏に留めるはずである。それはどんなレースよりも美しく、信じがたく情熱的で、優れた技巧に溢れた公正な30秒間だったと、どれほど精緻に描写しようとしても、どれほど称賛の言葉を並べたてようとも、まだ足りないもどかしさばかりが消えずに残ってしまう。2年前のまったく同じコース、64周目にまったく同じ区間で見たジョセフ・ニューガーデンもそうだった。えぐるようなエッセの切り返しから、ターン9でコース幅をいっぱいに使い切るライン取り、カルーセルの曲線を削り取って微分するコーナリングまでが、その後にピットで起きた悲劇――今でも考えられないことだが、ホースに繋がれたホイールガンがピットボックスに放り出されていて、戻ってきたニューガーデンはそれを踏んでしまったのだ。右後輪を担当するピットクルーが転倒するおまけまでついた――も含めて鮮明に思い出されてくる。モータースポーツはそんなふうにして、われわれに対して不意討ちのように美しい場面を提示して心を奪う。物理的な限界を追い求めることしかできないただの機械であるはずの車から、姿のよく見えないドライバーの精神が溢れでてくる瞬間はたしかにある。その瞬間を、ニューガーデンの30秒、パワーとパジェノーの30秒を知るためだけに、時に退屈な時間帯もあるレースを見つづけているといっても、特別に大袈裟なわけではない。

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インディカー
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