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ジョセフ・ニューガーデンは自分だけの賽を持つ:2016インディカー・シリーズ第11戦 アイオワ300

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 およそすべてのモータースポーツにそのような性質は備わっているというべきなのかもしれないが、インディカー・シリーズのレースには、ことさらにさいころゲームの趣がつきまとう。完璧な車を用意し、最高のドライバーを乗せ、間違いなかったはずの作戦を用意したつもりでも、自分の意思と無関係に、ゆくりなく、そして多くの場合不可避にやってくるフルコース・コーションがレースをまったく別の顔へと変貌させてしまうことがある。コースのほとんどを全開で走り続ける単純な、単純であるがゆえに高速で、高速であるがゆえに繊細を極めるオーバルレースは特にそうで、ある瞬間の速さは次の瞬間にそうあり続けることを必ずしも保証せず、中途の先頭が優位を積み上げているとも限らない。黄旗によって絶え間なく引き起こされるリスタートは、文字どおりのやり直しとなってドライバーたちにレースと向き直ることを強制する。賽が振られ、だれかの名前の面が上になる。ふとした気まぐれのように、また振られる。やり直す。だれかが出る。黄色、緑、振る。黄、緑。やり直す。何面体の賽なのかは知る由もないが、そういう儀式めいたやりとりを何度か繰り返したあと、偶然にチェッカー・フラッグが訪れる。もちろんチェッカーは最初から予定されている、しかし最後の賽がいつ振られるかばかりはわからないのである。ともあれそのとき出ていた名前こそが、レースの優勝者として刻まれるだろう。F1ないし耐久といったカテゴリーの勝利がスタートからゴールまで一貫して積み重ねられた論理の先にあるとするなら、インディカーの、オーバルのそれは最後の最後、論理が届かない場所にある――そう断言するのが極端だとするなら、届かない場所に行ってしまう場合がある。たとえば2016年、ともに世紀の逆転と呼ばれるにふさわしい2つの大レースには、しかし違いを見出すことができるはずだ。ル・マン24時間レースのポルシェにとって、チェッカー・フラッグの3分前に先頭を走るトヨタがスピードを失ったのは幸運だったといえるのかもしれないが、当人たちが歓喜以上に当惑さえ抱いたと思しき信じがたい優勝を掴んだ要因は、結局23時間57分をかけてトヨタの次という順位を築いたうえで、残り3分をも壊れることなく走り続けたことにある。耐久レースの決着がスピードと同時にその名のとおりの「耐久」にあるとすれば、奇跡的な、幸運を手繰りよせた優勝に見えるとしても、ポルシェはその枠組みのなかで論理的に積み上げた正当な結果を受け取ったにすぎない。翻って100回目のインディアナポリス500マイルで最後に振られた賽にはアレキサンダー・ロッシとあった。コース上でただひとり給油を1回省略して燃料が尽きるまで走り続けた結果の大逆転は、最後のコーションがあと1周ずれていたとしても、または160周目から200周目の間にあと一度コーションになるような事態が起こったとしても絶対に生まれえなかったと断言できる点において、説明しようのない偶然の産物だった。もちろんそのことがロッシの偉業を損ねるわけではなく、チームメイトの協力も得て困難極まりない作戦を完遂したことは讃えられるべきである。だがその勝利にはポルシェがたどってきたような論理の流れが存在しないのも一面の事実だろう。最終スティントをリードラップで迎えたことだけが根拠のすべてで、そこに至るまでにレースのなかで積み上げられているべき「優勝への接近」がまったく見えてこない。そういう状況で最後の――もちろん、事後的に遡った場合に最後だった、である――賽が投げられたとき、きっと他の面には違うドライバーばかり書かれていたにもかかわらず、ロッシの名前が上を向いた。それは「こうなりうるだろう」という過去からの推測をも拒否し、死角から横っ面を叩くような優勝なのだった。

 もとより性質の違うことが明らかなカテゴリー同士をこのように直接比較する妥当性は措くとしても、少なくともインディカーは構造的にレースの連続した意味づけを断ち切るようにできている。それはかつてその場所で走っていた松浦孝亮や武藤英紀をもってしてレース解説で「わからない」と言わせてしまうことからも明らかだ。だがこの事実は、けっしてインディカーがほんとうの意味で賽を振るだけにすぎない運次第のゲームであることを含意しない。論理を断絶されえてもなお、インディカーを舞台とした車が、ドライバーが走ることにはやはり意義がある。F1や耐久でのレースの過程とインディカーの過程ではその意味あいが違うだけのことだ。前者は優勝に、またはよりよい順位に向けて土台から積み木を重ねていくようにレースを戦う。ゴールの時にもっともよく積めていた者が勝者であり、より速く、強固に積むことはそのままレースでの優位となる。もちろん、ル・マンでのトヨタのように文字どおり積み木よろしく突如として崩れ去る場合はあるのだが、それもまた全体の論理の一部であり、2番目によく積んでいた者に順番が移るにすぎない。他方でインディカーのレースの過程とは、次の瞬間不意に投げられるかもしれない賽をめぐる争いである。いくらレースが何の脈絡もなくやり直される可能性があるといっても、その瞬間により戦いやすい場所を占めておくことで自ずと勝てる見込みは高まるはずだろう。リスタートを先頭で迎えるかリードラップの最後尾で迎えるかは大きな違いだし、まして周回遅れにされていれば勝利の可能性は事実上なくなってしまう。速いものはなるべく多くの敵を篩い落とそうとし、劣勢に回った側はそうであっても何かのはずみで大きな利益が舞い込んでくるよう耐え忍ぶ。賽の面の多くが自分の名前で占められていれば出る確率は高まり、たとえ絶望的な状況でもどうにか賽に名前を残しておけば万が一があるかもしれない。そうやって気まぐれな賽をできるかぎり自分に引き寄せようとするせめぎあいこそがインディカーの中途であるといえばいいだろうか。後者が起きたのがまさに先のインディ500で、最後の運命の時が訪れた際、ほとんどの可能性はカルロス・ムニョスの優勝を示していたかもしれないが、実際に出現したのはロッシだった。裏を返せばロッシは無茶を承知の燃費走行という作戦を採用したことで歓喜の牛乳へとたどり着けたということだ。あのとき周囲と同じく給油を前提に走行していれば優勝の可能性など万に一つもなかっただろう。ロッシは燃費走行によって無数の面を備える賽のたった一面に自分の名前を残したことで権利を維持した。信じがたいことだが、本当にそれを引き当ててしまったのである。

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