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充実のウィル・パワーが失った選手権に戻ってくる:2016インディカー・シリーズ第10戦 ウィスコンシン・コーラーGP

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 例年どおりの完璧な予定調和で開幕戦セント・ピーターズバーグのポールポジションに就いたはずだったウィル・パワーが、三半規管の不調と診断されて医師から止められ決勝の舞台に姿を現すことができず(当初は運転できないほどの腹痛に襲われたとか、練習走行での事故に起因する脳震盪かなどと憶測交じりの情報が流れていたが、どうやらそういうことらしい)、まるまる1レースを棒に振ってしまったあと、しかし一見すると酷ないたずらでしかないようなその顛末が、むしろパワーの今季に射す明るい光になりうる可能性はあると、わたしはこのブログで綴ったのだった。

 過去数年にわたって、パワーにまつわる予定調和とは、つねに開幕で最速を誇示し、春の数レースを支配的に戦う姿と、裏腹にライバルから追い立てられる夏以降の失速を意味していた。それは彼の所属するチーム・ペンスキーにもまた当てはまる。パワーもペンスキーも、いつだって春を謳歌し、いつだって夏を怖れた。新しいシーズンが開幕するとすぐに圧倒的な独走態勢を固めて優位を築き、にもかかわらず開催を重ねてシリーズ・チャンピオンの行方が気にかかる時期に差しかかると点数に怯えているとしか思えない戦いを繰り返してレースに熱量を与えられなくなっていったのだ。必要なリスクを犯せず、逆につまらないミスだけは積み重なって最後に逆転を喫して失意の閉幕を迎える。録画映像を飽きもせず何度も何度も再生するように、彼らは毎年おなじ展開で敗れつづけた。ダリオ・フランキッティの全盛期はとくにそうだったが、相手がスコット・ディクソンだろうとライアン・ハンター=レイだろうとべつだん変わるところはなかった。おおむね彼ら自身の問題だったからだろう。

 パワーは天体の運行のようにそうであることがすでに決まっているシーズンを繰り返してきた。だから逆説的に、開幕戦で変わらず速さを証明しつつも思わぬ形で決勝を走れなかった不運は、あるいは1年を通じた予定を打破しうるかもしれないと想像されたのである。もしパワーの、ペンスキーの失敗が、先行して手にした優位によって生じた保守性、立場を失うことへの怯え、つまりレースに対する精神の喪失なのだとすれば、最初に現実の喪失に見舞われてもはや相手を追う以外になくなったパワーは、そこを脱却できるのではないか。実際、2014年に王者となったとき、彼は同僚のエリオ・カストロネベスに長い間リードを許しながら、シーズンの終わりごろになってようやく逆転したのだから。

 と、3ヵ月前に書いたこういった内容は、もちろんわたし自身の本心によっている。なすべきことを絞りやすい追う立場のほうが気づくと先をゆく者より有利になっているなどといった逆転は往々にしてあるし、まるでその証明かのように、近年、すくなくとも2010年代のインディカー・シリーズにおいて、シーズン最後の3戦を残した段階でのポイントリーダーはことごとく最終的な勝利を逸してきたという事実も存在する。開幕戦で優勝したファン=パブロ・モントーヤと2位シモン・パジェノー、そして4位だったカストロネベスと、上位を独占した同僚たちにまたぞろペンスキーの呪縛が纏わりつくようなことになるとすれば、不幸にもチームの歓喜の輪に加われなかったパワーは、しかしだれよりも強い反撃の機会を与えられたのではないかと考えたこと自体に嘘はない。

 だが、その具体的な蓋然性がどれくらい高いのかと問われれば、たぶんわたしは口を噤まざるをえなかっただろう。いかに優れた精神性を獲得しようとも、具体的な現実の問題は目の前に残る。インディカーでの「欠場」はリタイヤ以上に厳しいものだ。パワーはセント・ピーターズバーグの決勝で1点も獲得できなかったが、これはスタートさえすれば0周リタイヤでも手に入った8点すらふいにする結果で、最初から負わされる負担としては大きすぎるようだった。グリーン・フラッグ直後にクラッシュしたと思えばいい、だれしも1年のうち何回かはそんなレースもある、得点だってさほど変わらないと励ますことはできるかもしれないが、ひとつにはそれはあまり慰めになっていないし、ひとつにはだとしても失った数点さえ惜しまれる。優勝50点のインディカーに、1点の価値がどれほどあるというのだろう。もちろんみんなわかっているはずだ。昨季、チャンピオンとシリーズ2位はまったくの同点だったのである。

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