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勝者は正しい中からしか選ばれない:2016インディカー・シリーズ第7−8戦 デュアル・イン・デトロイト

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 土曜日のレース1で42周目にフルコース・コーションが導入されたとき、ポールシッターにして、そこまで倦怠的ですらあるほど完璧だったシモン・パジェノーが最後の給油へと向かったのは自然な成り行きで、当然の正解であることを信じて疑わなかった。そのときチーム・ペンスキーは4位までを独占する態勢を築いてレースを支配しており、パジェノーとともに2番手のウィル・パワーと4番手のエリオ・カストロネベスを同時にピットへと呼びこんだのは同僚と公平に勝負させるためで、雨が降ってくることも予想されていたなか3番手のファン=パブロ・モントーヤをステイアウトさせ、チームとして安全に勝利を取りにいったのだろうと受け止めたものである。もちろん優先されるのはレースと選手権でともに首位をゆくパジェノーであって、その存在を中心に据えて取るべき行動を機械的に決めていけば作戦はなかば必然的に決定する、ペンスキーにとってはそういうレースだったはずだし、最後のスティントはそんな最速チームの仕上げをあくびを噛み殺しながら見ていればいいように思えた。パジェノー、今季4勝目おめでとう。近年まれに見るハイペースでの勝利は選手権を大きく引き寄せたのだと、そういう結論なのだろう。あるいは、もしかするとパワーがちょっとしたいたずらをしかけるくらいの波瀾はあるのかもしれない、とその程度だった。

 ピットに進入可能となったのが43周目、レースは27周を残しているが、そこから数周はコーションが続くことは確実で、レースペースでも25周は走れるだろうと思っていた(これが大間違いだったと後で知ることになるわけだが)から、過度に燃費を気にしなくても適切に走らせていけばゴールまで辿り着くことはたやすいだろう。ましてそういったレースをさせたらインディカーでも上位を争うパジェノーである。このとき6台がステイアウトを選択して上位に居残ったが、燃料の足りるはずがない彼らがいずれピットに向かえば何事もなかったように自然と先頭へと戻ってくるはずだ。やはり、4勝目に拍手するべき展開のようだった。

 たしかにわずかながら誤算は生じ、おなじチーム同士の給油・タイヤ交換作業でわずかに上回ったパワーにピットレーンで逆転を許しはした。そのうえ苦手なリスタートでカストロネベスに先行を許してさらに順位を落としてしまう。これ自体はパジェノーが選手権を阻まれるとしたらもっとも大きな要因となるであろう弱点であるが、均衡した力関係の中で正当に争った結果として、優勝から3位までのどこに落ち着くかどうかの違いでしかない。昨季に比べればある程度は改善されたとはいえレース途中にゆくりなく速さを失ってしまう悪癖と合わせてパジェノーを批判的に取り上げても構わないし(それはわたし自身の彼に対する最大の不満でもある)、選手権首位を独走するチームメイトを俊敏なリスタートで抜き去ったカストロネベスを賞賛することも可能だろう。いずれにせよ、彼らは正しい判断に従って正しくレースを戦い、正しい結果を持ち帰るに違いないと考えていた。フルコース・コーションが明けて数周のころには、そう考えない理由などまったくなかったのだ。

 だがレースというのは見えないところから横っ面をひっぱたかれるようなことも起こるのだろう。パジェノーをはじめとするピットストップ組が走行距離を伸ばすべくペースを抑え気味に走る一方で、ステイアウトした6台は圧倒的に速かった。先頭に立ったモントーヤは46周目のリスタートから54周目にピットインするまでの間に15秒近いリードを築いて、5番手でコースに戻ってきてしまったのだ。追随するスコット・ディクソンは電気系の故障で車を止める結末に終わったが、その後ろを走っていたセバスチャン・ブルデーとコナー・デイリーはモントーヤよりさらに3周、そのだれより速い周回を伸ばした。2人が56周目に記録した自己ベストのラップタイムは最終スティントの決定が明暗を分けたこのレースを象徴する一幕だと言ってよい。走れば走るほど差は広がり、このとき先頭と2番手だった彼らは、それぞれ57周目と61周目に最後のピットストップを終えると、そのまま先頭と2番手でレースに復帰することになった。予選15番手と16番手、およそ速さなど持っているとは思えなかった2人が、ほんの十数周で1回分のピット作業時間を稼ぎだしたのである。もちろん、燃料に余裕のない後続に追い縋る術はなく、彼らはあたかもレースを最初から完全に支配していたかのようにあっさりとチェッカー・フラッグまで逃げ切ったのだった。先行ピット組の後ろに回ったモントーヤも最終的には3位に上がり、何より不思議なことに6位で我慢していたパジェノーは頼みの燃料を失って最終周に13位まで順位を落とした。43周目にピットインした中での最上位はカストロネベスの5位だ。結果として、一見するとあのピットインは間違いだったように思えてくる。

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インディカー
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勝者は正しい中からしか選ばれない:2016インディカー・シリーズ第7−8戦 デュアル・イン・デトロイト

>草レーサーさん

どうもありがとうございます。コメントはまず来ないブログなので嬉しく思います(笑)。
「独自」……なのかはわかりませんが、楽しんでいただけたなら幸いです。

勝者は正しい中からしか選ばれない:2016インディカー・シリーズ第7−8戦 デュアル・イン・デトロイト

独自の視点により、

大変実のある記事を読ませていただきました!

ありがとうございます。

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