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シモン・パジェノーは内在する均衡によって選手権に近づく:2016インディカー・シリーズ第5戦 インディアナポリスGP

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 このインディアナポリスGPでの完璧な勝利を見れば、どうやらシモン・パジェノーの能力は歴然としている。ポールポジションから無理にタイヤと燃料を使うことなく自然に後続を引き離してラップリードを重ね、途中でフルコース・コーションを利したライバルに先行を許すものの、相手がピットに入った瞬間から一気にペースを上げて事もなげに失地を回復する。最終スティントでは適切な差を作って相手に隙を与えず、何事も起こらないよう静かに静かにレースを閉じる。唐突なコーションによってレースがリセットされることを前提とするインディカー・シリーズではいちばん勝率の高い完璧なやり方で、パジェノーは100回目のインディアナポリス500に向けた2週間の開幕を彩った。書いてしまえばこれ以上なく簡単な展開だったが、しかしこうしたレースを実現させるのはもっとも難しいものだ。速さ、冷静さ、正しい判断、適度な抑制と解放のすべてを高い水準で備えるドライバーがいてはじめて、感嘆と退屈の入り混じった溜息が出るような週末は目の前に現れる。

 一方で、その3週間前に行われたアラバマではまるで正反対のレースをしている。82周目のターン8で、先頭を走っていたパジェノーは執拗に追い立ててくるグレアム・レイホールに対し明確にドアを閉めて右後輪を弾かれ、グラベルにまで飛ばされたのだが、これはレース全体やあるいは選手権までも俯瞰して見据えれば、冷静さも正しい判断も適度な抑制も捨て去った、およそこの一回の優勝以外にはなんの価値もないと主張せんばかりの感情的な動きだった。もし彼に「選手権を戦う」などといった俗な発想が少しでもあったなら、外側のラインを維持してレイホールに空間を与えることができただろうし、それで2位に落ちたとしてもさほど大きな被害にはならなかっただろう。開幕からの3戦で130点以上を稼いだパジェノーはすでに十分なリードを築いており、しかも直接の敵であるディクソンは序盤のスピンによって後方に下がっていた。万が一車が壊れれば水の泡だ。結果としてコースに復帰し、そのうえ再度の優勝争いを制してしまったのが非凡なところだが、手にしかけていた50点、悪くとも40点をむざむざ失うかもしれない危険を冒す必要のある場面でなかったのはたしかである。だが彼は躊躇なくそれをやり、勝った。たったひと月の間に信じがたいほどの極端な両面を見せ、そして両面ともで勝者となったのだ。

 パジェノーがインディカーで頭角を現しはじめていたころ、米国の舞台で、しかも南米出身のドライバーが幅を利かせていた時代にやってきたこのフランス人は、丁寧正確な運転を身上とし、冷静沈着で作戦どおりに事を運ぶのが巧みなタイプだと思われていた節がある。事実そうした能力に長けていたのはたしかで、しかも比較的早い段階から発揮されていた。たとえばフル参戦2年目となる2013年のデトロイトは典型で、レース終盤にリーダーの背後を脅かしながら無理に仕掛けはせず、相手が先にピットへ向かうやいなや一気にスパートをかけるF1のようなレースで初優勝を上げた。新人だった2012年の好成績も、チーム力が低かったためにうまく立ちまわった結果という印象が比較的強い(デトロイトやミッドオハイオの表彰台は、圧倒的なリーダーの影に隠れて得たものだ)。ル・マン・シリーズの経験が豊富なことも相まって、如才ないレースができてしまうがゆえに速さや強さ以外の資質によって自分の居場所を確保しているように捉えられがちだったのではないか。まさにインディアナポリスGPを安全に締めくくったようにである。

 だがそうしたスマートな姿が彼の本質の一側面でしかないこともまた、早いころからわかっていた。2012年のロングビーチでは後にチーム・ペンスキーで同僚となるウィル・パワーを相手に堂々と渡り合った末に2位表彰台へと登ったし、また初優勝と同じ年、2013年にボルティモアで行われたストリートレースでは目を瞠る攻撃性を露わにした(「頽廃のエリオ・カストロネベスはシモン・パジェノーの後ろ姿を知っただろうか」2013年9月6日付)。あのレースの69周目には今年のアラバマに通じる彼の本質がこれでもかというほど詰まっていよう。4~5台が連なる激しい先頭争いのさなか、ホームストレートで反則すれすれのブロックラインを取るマルコ・アンドレッティのインに飛び込むと、ロックしたタイヤから白煙を上げながらホイール同士の接触も厭わずターン1を制して先頭を奪った。さらにターン7の脱出に失敗して一度はセバスチャン・ブルデーに抜かれながらも、直後のターン8の進入で相手のサイドポンツーンに左フロントタイヤをぶつけてアウト側へ追いやりその座を守り切ったのである。通算2勝目をもたらす情熱的な機動だった。

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