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砂漠の落日にIRLの日々は消え去る:2016インディカー・シリーズ第2戦 フェニックスGP

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 フェニックス・インターナショナル・レースウェイでインディカー・シリーズのレースが開催されるのは2005年以来で、いまはNASCARへと転出したダニカ・パトリックが新人として走っていた年だというから、ずいぶん昔日のことになってしまったと懐かしくさえ思ったおり、ふとひとつの違和感を得て調べてみると、一年のうちでインディアナポリス500マイルより前にオーバルレースが行われるのも2010年まで遡らなければならないという記録に行き当たって、あらためて楕円に沿ってひたすら高速で回り続けるこの魅惑に満ちたレースがもはやすっかり姿を消してしまった事実を自覚させられるようで嘆息のひとつも漏らしたくなってくるのだった。オーバルの剥離はインディカーの、どう取り繕おうにも凋落と言うほかないほどの低迷と疑いなく軌を一にしており、インディ500を除けばどのレースウェイを見ても空白だらけの観客席に寂寥を覚えるばかりなのだが、11年ぶりに戻って来た、つまり郷愁と物珍しさを利用して人を集めるのに最適な条件が整っていたはずのレースでさえ復活を謳えるほどの客入りではなかったことに、もう手立てなどどこにも残っていないのだろうかと、日本のテレビ観戦者に過ぎず直截にはなんの貢献もできないくせをして身勝手にも憂鬱になる。結局のところNASCAR(わたし自身は熱心に見ているわけではないのだが)開催時の観客席と比べると差は歴然で、ホームストレートの目の前でさえ空席が目につき、ターン4や1にいたっては人影のほうが目立って見えるほどのありさまだったのだから、甲斐のない現状であることを否定するのは難しい。他のカテゴリー、まして米国で随一の人気を誇るストックカーと並べるのはさすがに酷で詮ないと振り払おうにも、今度は皮肉なことにGAORAがレース前に懐かしの映像として流した11年前のフェニックスに活気が溢れていて、今との落差が時の流れの残酷さを示してしまうのだ。見ているとその映像の実況でなぜか「IRL」と言われていたのが聞こえ、当時すでにシリーズは現在とおなじ「インディカー・シリーズ」に変わっておりIRLの名は運営統括組織として残っていただけのはずだが、とはいえ対抗するチャンプカー・ワールド・シリーズ(IRL分裂後、破綻したCARTを引き継いだシリーズである)もまだかろうじて息をしていて、なるほどたしかにIRLと口にしたくなるほどその面影が色濃く残っていた時期であったのかもしれない。「IRL=Indy Racing League」というなんとも中途半端な名称は、オーバルを毀損していたかつてのCARTに対するアンチテーゼとして「真のインディカー」を取り戻すべく蜂起するにあたり商標であったIndycarの名の帰属をめぐって法廷闘争が起こった末の妥協の産物に過ぎなかったのに、振り返れば名前を使えなかったIRL時代のほうが現在よりもよほどその精神が充足して見えてくるのだからやはり皮肉を感じずにはいられない。あるいは名乗れなかったからこそ純粋な姿を追い求めていられたのだとすれば、遠くから焦がれるときの理想がいちばん美しくようやく手にしたとたんに褪せてしまったのだから、これもまた皮肉である。2005年のインディカー・シリーズは14のオーバルレースと3つのロード/ストリートレースによって戦われており、IRL時代から続いた全戦オーバルの掟がはじめて破られた年だったが、シリーズの主体はまだ楕円の中にあった。それもいまや5つのオーバルと11のロード/ストリートに反転している。この間に源流をともにするCCWSは消滅を迎え、やがてインディカーの統括組織も改称されて「IRL」は完全に歴史上の単語へと移ろった。前回のセント・ピーターズバーグGPについて記した際、わたしはそのあり方がまったくといっていいほど変わらないといったわけだが、単一のストリートレースに目を向ければそう見えるという話であって、そこに時代という串を一本刺せば先端と根本はあまりに、懐古趣味と嗤われようと好ましくない形で違っている。11年。そういえば去年の5月にインディ500をその場所で観戦すべくインディアナポリス・モーター・スピードウェイに赴いたとき、観客席で隣り合わせになった地元在住の婦人はもう56年もここに通い続けていると話してくれたのだった。宿では43回目だと快活に笑う紳士にも会った。ふたりが愛しているのがインディ500なのかインディカーなのか、両者はともすると重ならない場合もあるので定かではないが、はたしてこの数年の間にさえ変わってしまったオーバルレースのありかたに、ふたりがなにか思うところはあるのだろうか。それとも、USACからCARTへ、CARTからIRLへ、2度のインディカー分裂と統合を直に見知っている生き証人として、それも歴史の中で受容すべき善悪の伴わない変化にすぎないと鷹揚に微笑むだろうか。

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