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さよならジャスティン・ウィルソン、さよならその日常:2015インディカー・シリーズ第15戦 ポコノ・インディカー500

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 本当なら、ポコノのトライオーバルについて書きたいことも書くべきことも山ほどあったに違いなかった。ミッドオハイオの後にレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングがいまだ信用に足るチームではないと記したのは単なる経験的な予感に過ぎなかったが、今にして思えばあまりに予言めいたその言葉ははかなく的中してしまい、チームはもっとも重要な局面で致命的な失敗を犯して選手権を遠ざけていく。2回目のピットで給油作業に手間取ったことで、直前まで5位を走っていたグレアム・レイホールは20番手の後方にまで下がってしまった。それさえなければトリスタン・ボーティエに内側から寄せられてスピンする必要もなかった。一事をもって万事を失うのはオーバルレースの常である。フォンタナでの給油ミスは軽い罰金を科せられるだけで済まされたが、二度目はなかった。書くべきこととは、たとえばそういう失意の果てにどう最終戦を戦うかという興味だ。

 ファン=パブロ・モントーヤが輪郭のおぼつかないポイントリーダーであり続けていることもすでに書いた。インディアナポリス500以降、状況的にチーム・ペンスキーのエースとならざるをえなくなった16年前の王者は、しかし当時のような鋭くも危うい走りをいっさい発揮することなく、順位を拾いながら選手権の1位に留まっている。ブリックヤードから今まで、われわれはレースの先頭を走るモントーヤをほんの5%も見ていない。彼はほぼいかなる場面においてもレースの中心になりえず、にもかかわらず選手権の中心でありえてしまう。ポコノはそういうシーズンを凝縮したレースとなったと言って構うまい。直接のライバルであるレイホールは自滅に終わり、モントーヤは最後のスティントによってのみ35点を懐に収めた。時宜を得たスパート? たしかにそうも見える。だが結局、ラップリードは1周たりとも記録しなかった。24人中12人が先頭を走ったレースで、選手権の首位が。その寂しさに文字数を費やすこともできただろう。

 ずっと熱いまなざしを送り続けてきたジョセフ・ニューガーデンが最多ラップリードを記録してもはや押しも押されもせぬ一線級のドライバーとなったと疑いえなくなったことも含めて、わたしはインディカーを見つめる自分の目を誇ってもよかったのかもしれない。それほど、このブログにここまで積み重ねてきたテキストをなぞる、すべてが想像の中に収まったレースだった。そういうレースだと書けたはずだった。

 ポコノの180周目で起きたのは不幸な出来事、不運な事故だったという以外に言葉が見つからない。セージ・カラムの単独スピンは、それこそ自身の未来を左右するミスではあったかもしれないが、事故の形態としてはありふれている。セイファー・ウォールが制御を失ったチップ・ガナッシの車を柔らかく受け止めてドライバーへの衝撃を緩和し、フルコース・コーションも事故が起こるやいなや各車のコクピットに発信されて隊列は即座に減速を開始した。それはオーバルレースの日常的な光景の一つであり、粛々とコースを片付けてリスタートをかける程度のことだ。だれを責めなくてよい。2011年のラスベガスに見たような破滅的な状況だったわけでもない。頭部の保護に脆弱さの残る安全面の議論はひとまず措こう。現在のインディカーという枠内において、対応は完璧になされていた。カラムの車からちぎれた破片が宙を舞い、事故を避けようとしたジャスティン・ウィルソンの頭部を襲うなど、ただの偶然でしかない。ましてそれが命を断つ結末になろうとは、想像もできなかった。われわれは、愛すべきモータースポーツと不慮の事故が不可分であることを、こうして不意に知らされたのだ。

***

 ここで思い出を語りはじめるのは感傷の名を借りた偽善のようにも思う。インディカーを見るわたしにとってウィルソンは必ずしも特別な記憶とともにあるドライバーではないからだ。彼について最初に思い出すのは、今年のインディ500前日に行われたドライバーズ・パレードで目の前を通り過ぎる際に名前を呼んだら、サングラス越しにこちらを見やり、手を振って親指を立ててくれたその姿である。だが別段、ウィルソンだから声をかけたのではなくて、あくまで3人ずつ紹介されて登場する中でいちばん歩道側を通るドライバーに対して一様にそうしていたうちのひとりだった。ニューガーデンも、シモン・パジェノーも同じように反応してくれた。その並びにウィルソンがいた、という以上の意味があったわけではない。予選は6番手(3の倍数のグリッドにつくドライバーが、ちょうど目の前を通る並びだったのだ)につけたものの決勝は21位で、印象に残るレースではなかった。

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