2005年01月08日
偉業
南米コロンビア共和国は世界的なコーヒー生産国として名高いが、そのコーヒーの大生産地帯にマニサレスという小さな町がある。市内は標高2200mの高地にあり、町全体が雲の間に見え隠れしていることから空中都市とも言われている。そんなマニサレスにとって"おらが町のチーム"的存在が、今回第25回トヨタカップ(サッカークラブチーム世界一決定戦)に南米王者として出場したのがオンセカルダスである。チーム名オンセカルダスのオンセとはスペイン語で数字の「11」を意味し、カルダスはマニサレスを県都とする「カルダス県」の名前にちなんだものである。 オンセカルダスはコロンビア国内リーグにおいて常に中位を行ったり来たりの中堅クラブ。国内リーグの強豪であるアトレティコ・ナシオナル、デポルティーボ・カリ、アメリカといったチームと比較しても運営資金、人材、施設においてその貧弱感は否めない。そんなチームがどうして世界的な大会であるトヨタカップに出場できたのであろう。 今回は南米チャンピオンを決めるコパ・リベルタドーレスでサントス(ブラジル)、ボカ・ジュニオール(アルゼンチン)の強豪を破って、見事に初優勝を果たした訳であるが、多くのサッカーファンは「ラッキー(幸運)」としてとらえているようである。Tioもその幸運そして偶然の一致による出場という意識はあるが、少し違った見方をしてみたい。これまでコロンビアのチームがトヨタカップに出場したのは、飛び出しゴールキーパーとして有名なイギータが率いたアトレティコ・ナシオナルのみである。トヨタカップの歴史過去25年間でコロンビアのチームが出場したのは今回のオンセカルダスを含めたったの2回だけである。多くの大会はブラジル、アルゼンチンといったサッカー強国のチームが参加してきた。オンセカルダスがコロンビア代表としてコパ・リベルタドーレスに初出場したのが5年前の1999年である。前年のコロンビア国内リーグでデポルティーボ・カリに敗れたものの2位という近年にない好成績を収めた。そして望んだ大会では一次予選でアルゼンチンの強豪べレスサルスフェード、リバープレートと同組となり1勝もできずに敗退。全ての試合において"圧倒的な力の差"を見せつけられての敗退となった。一次予選で対戦したべレスの当時のゴールキーパーは世界一のゴールキーパーとして有名な元パラグアイ代表チームキャプテンのカルロス・チラベルトで、彼自身は96年のトヨタカップにべレスのメンバーとして出場し、イタリアの名門ACミランを破って優勝している。これ程の有名選手の発する雰囲気、そして時折発する怒号に萎縮したのかオンセの攻撃陣は萎縮し攻撃のリズムさえ掴めない、守備陣もサイドからの執拗な攻撃、そして時折チラベルトから配給されるロングボールからの速攻に慌てふためく始末。べレス以外にもリバープレートにも完敗となった。Tioはこれらの試合を実際にオンセの本拠地パロ・グランデスタジアムで全試合観戦したが、プロと高校生ぐらいの実力差を感じたものである。これまで2度出場したコパ・リベルタドーレスでは特にアウェーでの成績は散々でドローさえない状況であった。 そんなチームがこの敗戦を機に、翌年からは"しぶとく"勝ち残るチームへと変貌を遂げていくことになる。まあ"国際"試合の難しさと経験したチームが、如何にしたら勝ち抜けるのかを追求したといってもいいだろう。今年のチームは、その勝ち抜く作戦が実に徹底されたチームであった。オンセカルダスはコパ・リベルタドーレスに参加した36チームの中でもチーム運営予算は極めて少なく、何百万ドルを稼ぐいわゆるスーパースターは存在しない。コロンビア代表選手も数えるぐらいであるが、その中で中心となるのはファン・カルロス・エナオ(33)である。現在、彼はコロンビア代表チームでもプレーするGKである。長年オンセカルダスに在籍し、年齢的にも精神的にもチームの中心的存在である。この選手を中心とした"守り"のサッカーが今のオンセカルダスの特徴である。 今年のコパ・リベルタドーレスは、これまでの経験を踏まえ、アウェーでは徹底した守りのサッカーでドローに持ち込み、ホーム・マニサレスで数少ないチャンスを生かし逃げ切るという作戦が選手全体に徹底されていた。グループリーグの結果を見てみると、ホームでは負けなし、アウェーではべレス(アルゼンチン)に喫した負けが唯一の敗戦で、後は勝利もしくはドローに持ち込んでいる。準々決勝の相手となったサントス(ブラジル)戦では、アウェー(1ー1)のドロー、そしてホーム・マニサレス(1ー0)で勝利としぶとく勝ち上がっている。準決勝の相手サンパウロ(ブラジル)戦でも、準々決勝で見せた作戦同様、アウェーでドロー(0-0)、ホーム(2-1)で勝利している。 決勝の相手となったのは最近南米のクラブチームでは"最強"といわれるアルゼンチンのボカ・ジュニオールである。かつて日本代表FW高原(現ドイツ・ハンブルガーSV)が在籍していたリームで、その他にも神様ディエゴ・マラドーナや、マルティン・パレルモといったアルゼンチン代表選手を数多く輩出し、トヨタカップもこれまで2度手にしているという南米屈指の名門チームである。対戦前の大方の予想ではボカの圧倒的有利。しかも、今年はアルゼンチン代表をコパ・アメリカ準優勝に導いた若手怪物FWカルロス・テベス(現ブラジル・コリンチャンス)を擁すというチームで、無名選手ばかりのオンセカルダスにとっては、何とも対戦前から不利とする報道がなされていた。 しかし、オンセは目前の強敵に臆すことなく、自分達のこれまでの作戦を徹底。アウェーでは(0-0)ドロー。そして迎えた7月1日のホームでは、スコアこそ1-1だったものの、PK戦を2-0で勝利、見事南米クラブチームの頂点にたったのである。しかもこのゲームでは、チームの柱であるGKエナオが大活躍。まさに"守り"のサッカーの集大成ともいえるゲームとなった。この試合の結果を伝えたある記者は、「非力の小物が、怪物獅子を翻弄」と伝えている。 12月12日に開催されたトヨタカップでは、ヨーロッパチャンピオンのポルト(ポルトガル)を相手に、これまで同様しぶとくスコアレスに持ち込んだものの、PK戦で惜しくも敗退。大会前にエナオ同様、これまでチームの攻撃陣を支えたコロンビア代表MFヴァレンティエラのUAEのクラブチームへの放出は、攻撃陣の手薄なオンセにとって、その戦力ダウンはあまりに大きかったのかもしれない。結局"世界初制覇"とは成し遂げることはできなかった。今回のトヨタカップは最後の大会である。来年以降は大陸別チャンピオンが一同に会す大会に様変わりする。25年間続いたのクラブチーム世界一決定戦トヨタカップの歴史は静かに幕を下ろした。 南米コロンビアの小さなサッカーチームオンセカルダスは今年コパ・リベルタドーレス、そしてトヨタカップに確かな足跡を記した。無名弱小の一クラブが数々の強豪チームを撃破した事実は、経営に苦しむ南米の他のクラブチームに対する大きなインパクトであり、巨額のマネーを擁し、有名選手を買いあさるチームと対等に戦う見本となった。オンセカルダスが今年南米サッカー界、いや世界のクラブチームに与えたオンセカルダスの衝撃は、ただの幸運と偶然の一致というだけでなく、そこには確かな"作戦"と"自分達の応援してくれる町マニサレスとチームを愛する心"がもたらした勝利といえよう。
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posted by colombiasoccer |12:42 |
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