2009年12月19日

クラブワールドカップのポテンシャル。あるいは,本家ワールドカップの限界。

前の記事で

>まぁこうやって歴史を積んで価値のある
大会になればいいですなぁ

というレスを頂いたのですが,ここでふと疑問に思ったのは,果たしてこの大会は歴史を積めば価値のある大会になりうるのか,ということです。

結論から先にいえば,Yes。本家ワールドカップをしのぐ大会になる可能性すらあるんじゃないかと。なぜかといえば,クラブワールドカップには,本家ワールドカップの限界を超えうる特徴があるからです。

本家ワールドカップの限界とは何か?これは本家ワールドカップの持つ魅力の裏腹ともいえるのですが,例えば,仮にこの世界にカカーが100人いたとします。しかし,ワールドカップでプレーできるのは最大で約23人に過ぎません。ポジション適性の問題で実際はもっと少なくなるでしょうけど,少なくとも77人のカカーはプレーできない計算となります。その理由は彼らが「ブラジル人」であるがゆえに。

つまり,本家ワールドカップには選手の実力以外の「国籍」という「政治的な指標」により選手を制限する仕組みがあります。100人のカカーなどというと極端な話ですが,実際クオリティの高い選手が数多くいるブラジル代表ではこれに似た現象は起きており,クオリティの高い選手がプレーすることを最優先に考えるなら,それはつまり大会のクオリティを上げることを最優先に考えるなら,ブラジル人チームを何チームか作って弱小国の代表チームに替えて出場させるべきでしょう。しかし,そうすべきでない,というのが本家ワールドカップ。なぜなら,本家ワールドカップは,スポーツの祭典であると同時に「政治ゲーム」「政治の祭典」でもあるから,つまり,ブラジル vs アルゼンチンのような政治共同体の代表らしき者同士が戦うという擬似的な国家競争のフォーマットを維持することをフットボールのクオリティよりも優先すべき(おそらくそっちの方が大会が盛り上がるという判断がある)という思想が背景にある大会だからです(余談ですが,同様なことはオリンピックにもいえます)。つまり,フットボールにはあんまり関心がなくても,アルゼンチンに勝って幸せになりたいブラジル人なら楽しめる,そういう窓口の広い大会にしたい,ということです。

クラブワールドカップには,このような制限は一応無いといえます(普段のリーグ戦やカップ戦での登録制限はあるのでそれにつきあう形でどのチームも編成される以上ある程度の制限はありますが)。もちろんクラブチームにもクラブチームなりの限界がありますが(一番大きいのはおそらく金銭的/経済的な限界),原則として上記のような限界は無いだけに伸びしろがある大会ともいえます。100人のカカーがいれば,23人以上のカカーがプレーできる可能性がある大会,つまり本家ワールドカップを超えるフットボールのクオリティが実現される可能性のある大会だと。

また本家ワールドカップとの比較でいうと,本家ワールドカップを「夢の祭典」とするなら,クラブワールドカップは「現実の祭典」といえる特徴があると思います。

例えば,今度の南アフリカワールドカップではおそらくアフリカ勢が躍進するのでしょうが,彼らの一部は「アフリカ代表であって,アフリカ代表ではない」存在です。彼らはアフリカ各「国」を確かに代表しているのかもしれませんが,強豪国の代表チームではアフリカでプレーしている選手はほとんどおらず,多くの選手達が普段プレーし,生活の基盤をおいているのはヨーロッパを始めとする他の社会なわけですから,アフリカ「社会」あるいはアフリカの「フットボールコミュニティー」を代表しているとはストレートにはいい難い気がします。

クラブワールドカップでもの凄い地域間格差を感じたり,あるいは歪なトーナメント表を見て何これ?と思うのは,まさにその世界の現実が反映されている,つまりは基本的にはヨーロッパの1人勝ちであって,南米のみ何とかそれに対抗しうるという現実が反映されているためといえるでしょう。そして,その競争が成り立っているとはいい難い現実を見て,観戦者にはある種のシラケた感覚が生まれるわけです。本家ワールドカップを見た時になぜこういう感覚が生まれにくいのか,というと,そういう現実を近代的な「平等な国家の集合体=世界」という理屈,「政治」でもって前もって組み替えリセットしているからです。アフリカの選手達は,ワールドカップの時は普段生活しているヨーロッパなどの社会/現実/日常から抜け出て,あたかも本国の社会/現実/日常で生きているかのように振る舞う,つまり現実には存在しないであろうフットボールコミュニティーをその時だけ想像させて,見ている人が覚えるであろう格差感を少なくとも競争が成り立っていると思わせる程度には縮減しているわけです。本家ワールドカップが「政治の祭典」だと前に書きましたが,上記のような意味でもそういえるでしょう。クラブワールドカップはそれと対比していえば,いわば「経済の祭典」といえるかもしれません。何億ユーロとかけて作った夢のチーム。普段人はお金と共に生きていますから「現実の祭典」といえると思います。

このように考えてみると,実はクラブワールドカップで勝つことは,本家ワールドカップで勝つことよりある意味意義深いのではないか,といえるかもしれません(現状ではとてもそうはいえませんが,将来的に規模が拡大して成熟した大会になった場合には,です)。特にアジアやアフリカなどヨーロッパや南米のクラブではないということで現状「その他のクラブ」扱いされているクラブのある地域にとっては。クラブワールドカップに勝つということは,お金の力であれ何であれ,そのクラブが存する社会に世界最高レベルのフットボールがあることを意味することになると思いますが,本家ワールドカップで優勝してもそれは必ずしも意味しない,遠いヨーロッパの地にあるだけかもしれないからです。いいかえれば,本家ワールドカップはチームの大半が「ヨーロッパ組」でも勝てるタイトルですが,クラブワールドカップは「ヨーロッパ組」が存在しないチームでしか勝つことができないタイトルであり(もちろんヨーロッパのクラブは違いますが),つまりその地のフットボール力が試されるタイトルである,ということができると思います。

posted by coladevaca |07:35 | スポーツ文化 | コメント(3) | トラックバック(0)
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

トラックバックURL
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/coladevaca/tb_ping/257
この記事に対するコメント一覧
(事務局では、サービス全体の雰囲気醸成の為、全コメントをフィルター/目視チェックし、削除等しております。見逃し等も有りますので、ご不快な思いをされた場合は、事務局宛 support@plus-blog.sportsnavi.com にご意見頂けると幸いです。)
クラブワールドカップのポテンシャル。あるいは,本家ワールドカップの限界。

コメント投稿者ID :

たしかにそうですね。デコやペペとかはブラジル国籍から出てこそすんなりW杯に出れた感じです。
ブラジルやアルゼンチンの選手はなんであの選手が選ばれない?スタメンで出ない?というのが多数。
時の監督の戦術的趣向とか個人的な人間関係とかも影響します。監督って結果が悪ければすぐにクビになるけど
選手は現役である以上は代表のチャンスがある。欧州ビッグクラブでレギュラー外されても他の地域のクラブに移籍すればレギュラーになれる可能性は高いです。

posted by 罰ゲーム? | 2009-12-19 07:50

クラブワールドカップのポテンシャル。あるいは,本家ワールドカップの限界。

コメント投稿者ID :

大変興味深く読ませていただきました。確かに本家のワールドカップにおいて、国籍と選手たちの実生活の場には大きな隔たりが有りますし、おっしゃる通りの違和感を感じたりします。ただ、ケチを付けるわけではありませんが、我々日本人と諸外国人の国籍に対する考え方や拘りは相当な違いが有る様に思います。彼らは我々に比べて土地から離れる事に抵抗が無いように思います。むしろ平気で動くからこそ、アイデンティティーとしての国籍が需要だったりします。国の成り立ちからして勝ち取ったり政治的に出来てたりがほとんどの様ですし。ですから、当事者にしてみればまさしくアフリカ諸国代表として十分価値のある物なのではないでしょうか。ただ、大会の質という観点から考えた場合は管理人さんの意見に完全に賛成ですし、国籍にあまり拘らない日本人の私はとしては、なんなら本家WC無くなってもいいんじゃね?くらいに考えています。これからも頑張って下さい、楽しみにしています。

posted by ミラニスタですが。 | 2009-12-19 18:20

クラブワールドカップのポテンシャル。あるいは,本家ワールドカップの限界。

コメント投稿者ID :

出生国がアフリカならアフリカ代表でいいんじゃないの

CLに南米代表とかを組み込めばいい

posted by も | 2009-12-19 18:53

コメントする

「他サービスID/メールアドレス」で投稿する場合は、そのID/メールアドレスは表示されず、当サービス専用の固定のコメント投稿者ID「英数+連番」に変換され表示します。

※コメント投稿手順
(1)上記リストから希望のIDを選択する。
  例: Yahoo! JAPAN IDでコメント投稿
(2)Yahoo! JAPAN上の本人確認画面でIDとパスワードを入力する。
(3)スポーツナビ+blog側のコメント入力画面が表示される。
(4)コメント本文を記入し、投稿ボタンをクリックする。
(5)コメント投稿者IDとコメントが表示される。

詳しくは以下2ページをご覧下さい
【仕様変更】PCからのコメント投稿について
ブログ利用マニュアル「コメント投稿方法」

※コメント投稿手順
(1)上記リストからログイン/メールアドレスのどちらかを選択する。
  例: ログインしてコメント投稿
(2)plus-blogのアカウントとパスワード/メールアドレスを入力する。
(3)コメント入力画面が表示される。
(4)コメント本文を記入し、投稿ボタンをクリックする。
(5)コメント投稿者IDとコメントが表示される。

詳しくは以下2ページをご覧下さい
【仕様変更】PCからのコメント投稿について
ブログ利用マニュアル「コメント投稿方法」