2007年05月01日

幸運は勇敢な者についてくる(byオシム)、あるいは部活を考える

新年度が始まって1カ月。新入社員、新入生のみなさんにとって、新鮮かつ慣れない環境で、たいへんな1カ月だったのではないでしょうか。

新年度といえば、わたしがサッカーに本格的に出会ったのが、中学1年生の入学直後。さっそくサッカー部に入り、ボールをける楽しさを知りました。そして、高校でも当然のようにサッカー部に入り、その後の人生にとても大切なものを得ることとなるのです。

今回は、学校の部活について考えてみたいと思います。

◆

わたしの母校、I高校は、神奈川県のごく普通の県立高校です。わたしが7期生ですから、当時はまだまだ新設校といった風情でした。サッカー部も特に強いというわけではありません。自慢できるような成績を残していない、ごく普通のサッカー部です。


で、5年前、サッカーを専門とする体育教師が赴任しました。30数年のサッカー部の歴史のなかでは、サッカーに専門に取り組む教師は3人目。さっそくサッカー部の監督に就任し、チームづくりが始まりました。

また、その一環としてOB会が組織されることとなり、わたしは事務局の一員としてOB会のWebサイトの制作・管理を担当しています。

伝統も何もない高校が、監督が変わってすぐに強くなれるほど高校サッカーは甘くありません。わたしが現役だった30年前、神奈川には約100校の高校がありましたが、今は200を超えています。

まして、サッカーは人気スポーツですから、どの高校も部員は多く、そのなかで勝ち上がるのは容易ではありません。それでも、監督、選手、コーチ、マネージャーたちの努力の成果で、ここ2~3年は県のベスト32まで進出できるようになりました。逆にいえばそこがカベとなっています。現在、FIFAに加盟してワールドカップ予選に参加する国が約200あり、日本のランキングが46番(2007年4月現在)ですから、I高校は県内において、だいたい世界のなかの日本の位置づけと似たようなところにいるわけです。


そんなサッカー部が先日、関東大会の県予選を戦いました。ベスト32まで順調に勝ち進み、いよいよカベであるベスト16に挑戦です。ワールドカップでいえば、決勝トーナメントへの挑戦でしょうか。ところが、相手は2005年度の高校選手権に県代表として出場したF高校。

私立のサッカーに力を入れている高校で、いわばサッカーのエリート集団です。I高校は、レギュラーの半分が中学時代は控え選手で、そんな選手たちをこつこつと鍛えてきたわけですから、試合の結果はだいたい予想がつきます。そんなあきらめ気分で試合観戦に行ったわたしは、思いがけない光景を目にするのです。


試合会場は、F高校の整備されたサッカー専用グラウンド。アウェイで、しかも強豪相手に不安しかなかったわたしの予想は、キックオフから覆されます。

個々のテクニックに勝るF高校は、安定したボールポゼッションからI高校のゴールに迫ります。しかし、普段はおとなしいI高校の選手たちが、試合の立ち上がりから相手ボールにすさまじいプレッシャーを与えています。さらに、いつもは黙ってサッカーをしている選手たちが大声を張り上げ、仲間を鼓舞し、一歩も引かずに戦っている。1週間前、いつものように静かに進む試合を見ていたわたしは、驚きました。こいつら、こんなサッカーができるのか。


実力は相手が一枚も二枚も上です。バックラインを破られ、シュートを打たれますが、GKが懸命にセーブ。さらに相手のシュートはわずかにワクから外れます。クロスバーに助けられたこともありました。GKが抜かれ、無人のゴールにシュートが飛びますが、猛ダッシュでゴールをカバーしたDFの足に当たってクリア。ゴールを許しません。相手のミスもあり、ラッキーな展開です。


「幸運は勇敢なる者についてくる」。
日本代表のオシム監督の語録のひとつだそうですが、まさにこの日のI高校の戦いぶりは、勇敢でした。幸運は、ただの運ではなく、必然でもあるのです。シュート体勢の相手に粘り強く体を寄せる。シュートコースを消そうと、体を投げ出す。GKは勇気をもって前に出る。とにかく、あらゆる局面でボールに食らいつく。この積み重ねが、相手のプレーの精度を鈍らせたのです。


しかも、守るばかりではなく、攻撃も見事でした。ボールを奪ってからすばやくボールを動かして一気に相手ゴール前で勝負に出ます。弱いチームが強いチームと戦うセオリー、いわゆるカウンター攻撃ですが、その展開はスピーディー。相手が前がかりですから、当然カウンターが決まりやすいことを除いても、その切り替えは鮮やかでした。


緊張感のある試合となり、時間がどんどん過ぎています。前半32分、相手のコーナーキックから集中を欠いてしまい、失点。前半は0-0で終わるべきところを残念な失点でした。相手のベンチは大騒ぎ。それだけ、F高校は苦しんでいたのでしょう。


ハーフタイムのインターバル。またしてもわたしは驚かされました。
「あそこのマーク、誰だよ」。
選手たちはなにやらしゃべりながら、ベンチに帰ってきます。水分を補給しながら、選手たちの話は止まりません。これまでベンチで一言もしゃべらない選手たちを見て、わたしは歯がゆい思いをしてきました。

20070427-04.JPG



ハーフタイムにしゃべらないサッカー選手がいることに、驚きさえ感じていたのです。広いグラウンドに11人、自分ですべてを判断しなければならないサッカーをしていれば、ハーフタイムはチームメイトとお互いにしゃべりたいことだらけのはずです。

ところが、イマドキの高校生は、黙って水を飲み、黙って監督やコーチの話を聞き、後半のピッチへ向かう。こうした傾向はどこの高校も似たようなものだそうです。
この日の彼らは違っていました。前半終了間際の失点で気落ちするどころか、冷静に失点の事実を受けとめ、マークや戦術をお互いに確認し、監督の指示を聞き、目に闘志をたぎらせて、後半のピッチへ向かったのです。


同点コールが生まれたのは、後半開始40秒でした。相手ゴールに近い位置でボールを奪うと、ワンタッチでボールをつなぎミドルシュート。サイドネットにボールが吸い込まれます。歓喜の輪をつくるI高校のイレブン。

ここからは、一進一退の攻防です。ボールキープから短いパスとドリブルで攻めるF高校、しっかりしたディフェンスからカウンターを狙うI高校。初夏を思わせる強い太陽がグラウンドを照らしています。

後半15分、ゴール前をワンツーで切り裂いたF高校が、ゴールを決めて勝ち越し。しかし、I高校は崩れませんでした。自分たちのサッカーを貫き、運動量では相手に勝っていました。しかし、チャンスがありながら決めきれない。3分の長いロスタイムのあと、主審が長いホイッスルを吹きました。


まさに、緊張感に満ちた熱戦。彼らは一生、この試合のことを忘れないでしょう。卒業して30年たっても、居酒屋で飲むたびに、同じ試合の同じシーンを語り続けるわたしたちのように。学校の部活に取り組むことは、まさに一生ものの飲み会のネタを仕込むことでもあるのです。

昨日の夕食のメニューは忘れても、30年前の試合の光景は忘れません。サッカー部の仲間は、一生の仲間です。また、その後の人生にとっても大きな影響を与えます。わたしは、サッカーをやっていたことで、たくさんのサッカー仲間に恵まれました。年齢や、生い立ちや、仕事など、まったく接点のない人間が、サッカーを通じてすぐに仲間になれるのです。ひとつのボールをお互いにけってもいいし、戦術のウンチクを語り合っても、サッカーをネタにした話題は尽きません。


「部活」という独特のシステムによって、日本のスポーツは長い間、学校が中心になってきました。学校教育とスポーツが一体となることで、ある意味では効率的にスポーツを根付かせ、強化されてきました。ところが、一方でその限界もあることも指摘され、サッカーを中心にクラブ組織による普及と強化が叫ばれつつあります。


Jリーグの下部組織を代表とする、整った施設に専門的なスキルをもったコーチたち。地域から運動能力に優れた選手たちを集め切磋琢磨すれば、競技力は確実に向上するでしょう。多くのスポーツが、Jリーグのノウハウを学ぼうとしています。

しかし、だからといって、学校の「部活スポーツ」はその魅力を失っていないと思います。同じ学校で勉強し、スポーツに取り組むことで、濃密な時間を過ごすことができる。授業はもちろん、体育祭や文化祭、放課後のグラウンドや体育館での練習、友情や軋轢や葛藤や恋愛。あらゆるものがぎっしりとつまった中学、高校の6年間は、普通の子供たちにとって大切な時間となるはずです。


ところが、現在の学校はかつてのような余裕を失っています。教師たちは仕事が増え、部活に使える時間は確実に減っています。最近の学校の現場が抱える問題は複雑で、熱心な教師ほど、疲れてしまっています。


公立学校にも取り入れられはじめた“成果主義”という流れは、確実に教師たちを追い詰めていくでしょう。何をもって成果とするか、教育という分野ではこれまた難しい問題です。また、熱意をもって子供たちと真正面からスポーツに取り組む教師は確実に減っていますし、部活をやれば内申点が上がるからと、それだけの理由で放課後にスポーツをする生徒も存在します。学校の部活がいろいろな意味で転換点に来ていることもまた事実です。



現在は、わたしが無邪気にボールをけっていた牧歌的な時代ではありません。それでも、ピッチで戦う後輩たち、中学生や高校生を見ると、胸の奥底がざわざわします。おやじ世代にとっては過去が懐かしいだけかもしれませんが、今、スポーツができる瞬間を大切にしてほしいと思いますし、たくさんの1年ボウズが部活の門を叩いてくれればと願っています。

◆


母校の激闘も熱かったのですが、Jリーグも上位が混戦となり、なかなかおもしろい展開になってきました。これから暑くなれば、コンディションづくりがとても大事になってくるでしょう。また、日本代表は3連覇をかけたアジアカップも楽しみです。幸運を自らに呼び込む勇敢な戦いができるのか。走って、走って、時にはリスクを犯して、攻めきることができるのか。今年のアジアカップは、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムという東南アジアの4カ国の共同開催。しかも7月ですから、暑さと湿度に悩まされるはず。オシム翁の手腕に期待です。


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posted by sugano |07:43 | sugano | コメント(5) | トラックバック(1)
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ヴィッセル神戸戦。 【You'll Never Walk Alone】

昨日は結局、更新をしたあとも寝てしまい、この2日間でたぶん30時間ぐらい寝ていた。(笑)ここまで寝ていたのは本当に久しぶりである。ただ、寝すぎたせいで肩が痛い…。多摩川クラシコのバーナーが復活した。しかし、エラーが出てしまって、リンクを貼ることができない…。仕方ないので、バーナーの下にリンクを作ったので、もし見たい方はそちらをクリックしてください。本当はバーナーをクリックすれば、リンクが貼られているのがいいんだけれども…。そして、昨日、師匠のHPでこのブログを紹介してもらい、一気にアクセス数が多いとき...

2007-05-01 20:55 | 続きを読む
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Re:幸運は勇敢な者についてくる(byオシム)、あるいは部活を考える

コメント投稿者ID :

>学校の部活に取り組むことは、まさに一生ものの飲み会のネタを仕込むことでもあるのです。

言い得て妙です。私も20年間当時『仕込んだネタ』で酒を呑んどります。

posted by domo | 2007-05-01 08:43

Re:幸運は勇敢な者についてくる(byオシム)、あるいは部活を考える

コメント投稿者ID :

自分にとっても部活の思い出とは本当に大切で、生きる自信に繋がるかけがえのないものです。
この記事を読んで、ずっと心の奥にあった大切な気持ちが蘇りました。
ホントにありがとうございます。
自分のBlogにこの記事を読んでの感想を含めた、自分自身の部活に対する思いを書きました。
もしよければ、目を通してみてください。
以上、長々と失礼しました。

posted by Kay Kay | 2007-05-01 10:30

幸運は勇敢な者についてくる(byオシム)、あるいは部活を考える

コメント投稿者ID :

"まさに一生ものの飲み会のネタを仕込むことでもあるのです。"
それだけですよ。
jリーグが始まった時点で高校サッカーを思い切って廃止にすればよかったんじゃないですか?
新人戦、インハイ、選手権を3年間やって計9回。
全日本ユースに出場したらふえますけど、高校サッカーに一度入部すれば部員数60人(ざっと)で
じゃあ各大会に振り分けて選手を起用してる学校って存在しますか?
要は、圧倒的に日の目に当たれない選手の方が多いんですね。
サッカー人口が増えても公式戦を一度も経験せづに卒業していく選手が多いんです。
いくらトレセン制度が昔に比べて行き届いていてもそこに行き着ける選手って日の目に当たってる選手になりかねませんよね?
海外のクラブと比較すると新入りだからってボール拾いや雑用をしてる人間は居ません。
それだけの理由じゃありませんけど、海外の場合良い選手が日に日に出てきます。
そろそろワールドスタンダードでリーグ戦中心の体制を築いたほうが良いんじゃないですか。
もう日本にサッカープロリーグが発足されて十数年。就職、進学の為にサッカーをやらせるのは止めましょうよ。

posted by フットボール | 2007-05-01 10:48

Re:幸運は勇敢な者についてくる(byオシム)、あるいは部活を考える

コメント投稿者ID :

GW中、自宅で部屋やPC内の整理整頓をしている合間に、自分の高校サッカーを思い起こしながら思わず読み入ってしまいました。

自分の高校である愛知県立J高校サッカー部も、同級生は中学ではベンチを暑くなるまで暖めていたような仲間ばかりのチームでした。

でも、在学中は素直に監督の指導に従って、サッカーを心から愛し、楽しんで部活動に取り組んでいました。

炎天下の合宿や冬の間、日が暮れた後「通称ロケットダッシュ」と言って恐れられた、10M、20M、30M、50Mの往復ダッシュなど今でも忘れませんが・・・。

>「幸運は勇敢なる者についてくる」
決して恵まれた環境でのスタートではなかったものの、引退をかけた試合では幸運は上位常連校と私の母校を行ったり来たりしていたと思います。

>昨日の夕食のメニューは忘れても、30年前の試合の光景は忘れません
思わず、自分の高校引退時代と余りにも似ていた為、感動してしまいました。

posted by 田口ヒロ 田口ヒロ | 2007-05-01 14:43

Re:幸運は勇敢な者についてくる(byオシム)、あるいは部活を考える

コメント投稿者ID :

「幸運は勇敢な者についてくる」 のコメントの欄を何とはなしに読んでいました。
 現在、高校で指導をしているのですが、どのコメントにも興味深いものがありました。
Jリーグが出来てから、高体連のサッカーも随分変ったかなと思っていたのですが、またここ最近は疑問だらけです。
 ボールを運ぶことはうまくなったのですがどこに運ぶかを間違ってしまう者、ボールを保持はできるのだけどポゼッションにならない者、知ったかぶりの戦術論を展開するのだけれどもボールが止まらない者、がんばりますといいながら走り回って必要なときに止まれなくて用のなさない者などなど、こう考えるとJリーグが出来てもやはりあまり進歩していないのではないかと考えてしまいます。
 Jが出来たときに高校サッカーがなくなってしまえばとコメントされた方がいたのですが、私も実はそう思っていた一人でした。
 ですが今ではそうでもないのかなぁと感じています。 高校の指導者のノウハウとその経験と選手とともに学校生活を送っているという世界的に見れば特殊な環境は馬鹿に出来ないと思っています。
 中学年代でJのチームをきられた選手で代表になり、スコティシュリーグで最優秀選手になつた選手もいますよね。

 今や、高校もすべての選手が公式戦出るようになっています。
何年後には、県内すべてでリーグ戦を行う予定となっています。 大変な変化です。

 私の学校も50人の部員がいますが、高体連の試合、県リーグ(U-17)、市の2種リーグと場合によってはすべてかさなり1チームに12~3人しか人を割けないでヘトヘトになって戻ってくることもあります。

特別な高校ではなくごく普通の高校で、勉強も大変、学校行事も盛りだくさん、恋もあれば失恋もあり、先生に怒られしょげたと思えば、試合に勝って大喜びとまさにこの年代でなければ経験できないようなことをし、そしてスポーツを楽しみ、サッカーの何かを知り、サッカー文化の伝道者として卒業していって欲しいと考えて彼らとかかわっています。
 高校サッカーも捨てたものではないようです。
がんばります。

posted by hidepapa | 2007-05-04 23:28

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