2006年09月11日

おじさんたちの10月26日

『メタフットボール』こと、菅野芳伸です。


先日、「BLUETAG」プロジェクトメンバーのフットサルの仲間に入れていただきました。
キックオフは21時。終わりは23時。その2日前にサウジアラビアとアウエーで戦った
日本代表が夜中に練習したそうで、“プチ代表気分”でライトの下で楽しくボールをけりました。
が、現実の厳しさも思いっきり味わったのでした(特に翌々日の筋肉痛)。
メンバーのみなさん、おつかれさまでした。


で、9月に入り、だいぶ過ごしやすくなりました。

秋は、わたしのような中年のサッカーファンにとって、ちょっぴりせつない季節。


そうです、あの10月26日が、やってくるからです。


1985年(昭和60年)、ワールドカップ、メキシコ大会のアジア予選。

日本は予想に反して(?!)快進撃を続けます。
一次予選で同じグループのシンガポールと北朝鮮を下し、準決勝へ進出(このとき、
北朝鮮とのアウエー戦ではピョンヤンの人工芝のグラウンドで戦ったのです)。
そして、香港を破って決勝へ駒を進めた日本代表。
決勝の相手は宿敵、というか当時プロ化していてまったく歯が立たなかった韓国。

ホーム&アウエーを勝ち抜けば、夢でしか語れなかったワールドカップに出場できるのです。


その初戦が10月26日。舞台は国立競技場です。


実はこの頃、27歳のわたしは仕事やらなにやらで、ほとんどサッカーから離れていました。
せいぜい年に数回のテレビ中継を見る程度。
しかし、日本がワールドカップへの切符をかけて韓国と戦う、というニュースを耳にして、
何かが鋭く全身を走りました。 絶対に、国立へ行かなければならない。


高校時代はサッカー部の仲間とよく国立に通いました。
日本代表の国際試合の会場は必ず国立だったからです。

「じゃ、明日、聖火台の下で」。これがわたしたちの合言葉。


当時のスタンドはガラガラです。聖火台の下にはわたしたちしかいませんでした。
試合が始まると好きな席に移動し、ヤジを飛ばすのが楽しみでした。
普段グラウンドで大声を出しているわたしたちの声は、まばらな観客席だけでなく、
枯れた芝の上で戦う選手にも届きます。あるサイドバック(現解説者)はヤジに反応して、
高校生のわたしたちにガンを飛ばします (注:ガンを飛ばす=にらみつけるの意)。

「ほらほら、よそ見しているとまたドリブルで抜かれちゃうよ、あっやられた」。そんな時代が長く続いたのです。


さて、韓国戦。

わたしは決戦を前に、前売り券を買いました。

初めての経験です。何かの予感がしたのでしょう。当日、通い慣れた千駄ヶ谷の駅を降りると、
人があふれています。こんなことも初めてです。そして国立のスタンドを目にしたわたしは、
呆然としてしまいました。キックオフ1時間前なのに、ほとんど人で埋まっているのです。
初めて見る光景を表現する言葉が見つかりませんでした。しかし、呆然とばかりもしていらない。
席を確保しなければならないからです。
この日、わたしはつきあい始めて間もない女性と一緒でした(現在は妻)。


森孝慈監督率いる当時の代表チームのメンバーは、
森下申一、石神良訓、松木安太郎、加藤久、勝矢寿延、都並敏史、田中真二、
西村昭宏、宮内聡、木村和司、長澤和明(女優・長澤まさみのお父さん)、
岡田武史、与那城ジョージ、水沼貴史、柱谷幸一、原博実、手塚聡、戸塚哲也などなど。
ほとんどが指導者や解説者として、現在の日本のサッカーを支えている人ばかり。
わたしと同世代の男たちが、世界の舞台を目指して戦っていました。


なんとかゴール裏の端に2人分の席を確保し、
改めて6万人の大観衆を目にした感動が胸に迫ってきました。
サッカーを応援している人が、国立に来なければと思った人が日本にはたくさんいる。
サッカーなんて、マイナースポーツだと思っていたのに。
サポーターという言葉はまだありませんでしたが、観客が多ければ多いほど選手を鼓舞するのと同時に、
同じ空間と思いを共有する観客同士もお互いに鼓舞されることを、初めて実感したのです。


午後2時。

大声援のなか、キックオフの笛が曇り空に響きます。
しかし、わたしは試合内容をほとんど覚えていないのです。

あの伝説のフリーキックのシーンを除いては。


前半終了間際、2点のビハインドを負った日本は、韓国ゴール前でフリーキックのチャンスを得ます。
もちろんキッカーは木村和司。ここから記憶は鮮明になります。
日本側のゴール裏のスタンドから、遠くに見える背番号10。わたしはその背中に願いました。

決めてくれ。

そして誰もが願っていたことが、現実となります。短い助走から右足が振り抜かれる。
カベをこえたボールがゴールネットを揺らす。爆発するスタンド。
わたしも思わず立ち上がり、全身をふるわせ、両手を突き上げ、大声を出していました。
スタンドが歓喜でわき上がる瞬間。その喜びを忘れることはできません。
そしてその後の記憶がまた薄れていくのです。結局、この試合を1対2で落とした日本は、
続くアウエーでも0-1で負け、韓国がメキシコへの切符を手にしました。


86年のメキシコ大会といえば、ディエゴ・マラドーナの大会。
「神の手」、「5人抜き」。あの大会に日本が出場していれば。今さらながら、
そんなことを考えてしまいますが、この敗戦から日本のサッカーは大きな変化への胎動を始めます。
プロにならなければ韓国に勝てない、ワールドカップにも出場できない。
J リーグは、あの満員の国立がなければ生まれなかったかもしれません。


ただ、サッカーは世界の国々でいちばん人気のあるスポーツですから、
経済やメディア、交通手段など、いろいろな意味でグローバル化が進むなかで、
その魅力に日本だけが取り残されるということはなかったでしょう。
プロ化に向けていろいろな人の努力があったことも事実ですが、
今の日本のサッカー人気は必然だったとも思えるのです。


今では日本代表の試合は必ず満員になり、夢でしか語れなかったワールドカップが当たり前となりました。
しかも、共催ながら日本でワールドカップが行われた。夢が現実となったのですから、
日本のワールドカップ優勝もまた、夢ではないのです
ま、そう思えるくらいワールドカップは遠い存在だったということを強調したいわけで)。


スポーツを愛する人の多くは、試合観戦の原体験や忘れられない試合があると思います。
初めて連れて行ってもらったプロ野球。最近は、サッカーのスタジアムも多いでしょう。
身近なところでは、同じ学校の仲間が出場する試合を応援するために足を運んだ体育館やグラウンド。
好きなチームや選手、友人を応援するあの高揚感や、
勝敗に一喜一憂する楽しさをもっともっと多くの人に経験してもらいたいと思います。


わたしにとって、1985年、秋の国立競技場がそのひとつであるように。


10月26日。


一部のおじさんサッカーファンはこの日を「和司記念日」と呼んでいます。




オシム監督率いる日本代表は、9月3日、6日と続いた厳しい中東2連戦を、1勝1敗で終えました。
ゲームそのものより、炸裂するオシム節の方がニュースになるという状況もなんだかと思いますが、
わたし自身、その記事を読むのを楽しみにしていることも事実。あの老練なジイサマは、
時々本意とは逆のことを言って選手や報道陣を煙に巻くそうです。
どれが本意で、どれが逆説なのか。読み切れないところがまた、
ッカーは人生であるということでしょうか。


日本代表チームはOSを「オシム」に切り替えて再起動したばかりで、まだまだβ版、
というかそれ以前の企画段階のデモ版に過ぎません。
これからの進化に期待したいと思います(サッカーチームはいつでもβ版なのかもしれませんが)。

 

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posted by sugano |11:30 | sugano | コメント(0) | トラックバック(0)
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