2006年09月11日
“気配りの皇帝”、退位宣言
10日に行われたイタリアGPで今季6勝目を飾ったフェラーリのミハエル・シューマッハが引退を表明しました。 F1ファンなら説明不要ですが、昨日のイタリアGPまでに彼が積み重ねた勝利は90勝。これは2位のアラン・プロストの51勝、3位のアイルトン・セナの41勝を大きく上回る圧倒的な記録です。 もちろん、この勝利数には彼の実力もさることながら、良きチームメイトに恵まれたという事情もあります。 エディ・アーバイン、ルーベンス・バリチェロ、そして今年からのフェリペ・マッサ……。 彼らも同じサーキットで戦うドライバーには違いありません。勝ちたいに決まっています。しかし、フェラーリのステアリングを握っている間は、まさに日本人の好みそうな“滅私奉公”の精神を発揮し、ミハエルの勝利をサポートする「2ndドライバー」としての地位に甘んじたわけです。 そんな己の立場を知ってのことでしょうか、私がミハエルに抱くイメージで最も強いものは“気配りの人”というイメージでした。 私がまともにF1を見始めたのは比較的最近のことで、丁度ミカ・ハッキネンがマクラーレン・メルセデスで全盛期の頃でした。 あの頃のフェラーリはマシンの戦闘力がマクラーレンに比べて弱く、特にエンジンパワーではメルセデスエンジンに比べて絶望的な差がありました。 そこをミハエルのドライビング・テクニックで何とか勝負に持ち込んでいたというのが私の印象です。 そんな明らかに戦闘力の劣るマシンでも、彼は不平不満を表に出すことなく、1戦1戦を必死に戦っていました。 そんなフェラーリが、世紀をまたぐととたんにマシンの戦闘力を増加させ、前人未到の5連覇へとつながっていくわけです。 それゆえ、当然、ミハエルは何度も表彰台の中央に立つことになったわけですが、いつも不思議に思っていたのが、あの豪快なガッツポーズでした。 もちろん優勝したのだから嬉しいに決まってます。 しかし、彼の喜びようといったら、いつもまるでルーキーが初めて優勝したときのような派手なものでした。 何度も何度も勝っていながら、どうしてあれほどまでに喜ぶことができたのか、不思議でなりませんでした。 私が記憶する限り、彼が優勝の後に喜びの表情を見せなかったのは彼の母親が亡くなった03年のサンマリノGPと、昨年、ミシュラン勢が全てレースをボイコットしたアメリカGPくらいです。 表彰台でのあのガッツポーズは、単に次なる勝利への渇望というのが大方の意見のようです。 しかし、私はそれ以外にも別のものを感じ取っていました。 それがタイトルにもつけた“気配り”ではないかと思うのです。 そういうと彼がわざと喜んでいるのかと思う人もいるかもしれません。しかし、あのガッツポーズはチームのためにもやはり「必要」なものだと思います。 F1に限らず、モータースポーツは他のスポーツに比べて不確定要素が非常に大きいスポーツだと言えます。 表面上、戦うのはドライバーですが、彼らは生身で戦うわけではありません。 当然、マシンの性能や信頼性によって大きく結果が左右されるわけです。 これまで積み重ねてきた結果に対して巨額の報酬を得ているミハエルのマシンを支えるのは、大勢のメカニック、エンジニア、その他のスタッフたちです。 彼らは、ミハエルを勝たせるために、ミハエルの何十分の1、何百分の1かの報酬で全力でサポートしているわけです。 レースの前にはマシンに対する要求では人後におちることのない彼の要求を聞き、レース中は細心の注意を払いつつ最速のピット作業でミスなくコースへ送り出す……全てはミハエルを勝たせるため。 もしもミハエルが表彰台で、あたかも野球のホームランバッターがホームランを打った後のように淡々とした表情をしていたら、スタッフたちはどう思うでしょうか? こんなに一生懸命やったのに、ミハエルは全然喜んでくれないではないか。何のために俺たちはいつも頑張っているのだろうか……。 もちろん、スタッフたちもプロですから、そんなことはおくびにも出さないでしょうが、同時に彼らは人間でもあります。スタッフのモチベーションを上げるためにも、ミハエルは感謝の意味を込めてあの派手なガッツポーズをするのだと思います。 学校の教室の壁によく貼ってましたよね。 「1人はみんなのために。みんなは1人のために」と。 これって、F1の世界を表現するのにぴったりな言葉だと思います。 そんな“気配りの人”、これまでの実績にリスペクトを込めて「皇帝」と呼ばれた彼も、今年で37歳。 今季も昨年のチャンピオン、フェルナンド・アロンソと激しいチャンピオン争いをしていることから、技術的に衰えたということではないのでしょう。 今はまだ引退の真相はわかりませんが、鈴鹿を含めた残り3戦、彼のガッツポーズ、すなわち“気配り”が何回見られるのか、注目したいと思います。
posted by bunchousann |00:57 |
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