2006年11月01日

「青田買い」に見る日本人選手海外移籍考察

今回は長いですよ。遅筆(キータッチが遅い)のおかげで2日にまたいで書かざるを得ませんでした。

セリエA・カターニャにレンタル移籍中の森本貴幸が、完全移籍を果たすかもしれないというニュースを耳にしました。

その移籍金額ですが、報知日刊が150万ドルサンスポが150万ユーロと、単位の差があって定かではないようですが、報道が事実だとすれば、イタリアのプロビンチャにとってはかなりの金額と言えます。

もちろんこの金額には「ジャパンマネー」に対する期待も込められていると思います。しかし、まだ18歳でA代表の経験はおろか、Jリーグでの顕著な実績もなく(2004年に新人王は獲ったが……)、さらにEUが拡大を続ける中でのEU圏外選手の獲得にはリスクも大きいはずです。

いずれにせよ、森本にとっては大きなチャンスがやってきました。
仮に完全移籍が成立するとすれば、彼にとっても、将来の日本代表にとっても、大きな意味があるのではないかと思います。
そして、この移籍は、従来の日本人選手の海外移籍のパターンとは全く違うということでも注目できそうです。

従来のパターンは「Jで活躍→日本代表→海外」でした。
ところが森本のケースは、「Jで活躍」の段階すら踏んでいません。
18歳という彼の年齢もあり、今回の移籍を評して「青田買い」というメディアもあるようです。

しかし、この「青田買い」移籍、どうやらメリットも大きいようです。
そのメリットを説明したいと思います。

従来のパターンの移籍では、成立、不成立を問わず、だいたいがレンタルでの移籍だったと思いませんか?
それには、Jリーグが設定する「移籍金算定基準」というものが深く関係していると思います。

この基準は90年代初頭、Jリーグの黎明期に設定されたものだそうですが、当時はもっと低かったそうです。
しかし、一部のクラブが資金力にものを言わせて強引な引き抜きを繰り返した結果、突出したビッグクラブの出現を恐れたJリーグ側が係数を引き上げ、現在に至ったということのようです。
この基準は当然、国内移籍に際して用いられるものですが、ほとんどの場合、報道で聞いた限りは、これまで欧州のクラブに完全移籍を果たした場合(中田英寿、小野伸二、中村俊輔など)でも使われているようです。

ただし、この「移籍金算定基準」の移籍係数引き上げによって、また90年代後半のJリーグのバブル崩壊によって有力選手の移籍はぐんと減ってしまいました。
そして、引き上げたまま放置されているこの基準が、現在日本人の有力選手を海外に出られなくさせる「足かせ」になっているきらいがあります。

試しに、試算してみましょうか?

移籍金の算定方法は実にシンプルで、
(現在の年俸+移籍先クラブの提示した次期年俸+現クラブの提示した次期年俸)を3で割って、Jリーグが定める移籍係数をかけたものが移籍金となります。

いわゆる、従来のパターンである「Jで活躍→日本代表→海外」の場合で考えてみましょう。

■日本代表A選手(仮名、年齢26歳。J1のあるクラブで中心選手として活躍。現在の年俸4000万円)の場合。
この選手が、仮に別のJ1クラブからのオファーを受けたとしましょう。この移籍に設定される違約金は、
現在の年俸:4000万円。
オファー先が提示した次期年俸:5000万円。
現クラブが提示した次期年俸:4500万円。
A選手は26歳で、J1同士の移籍なので、移籍係数は6。
よって(4000万+5000万+4500万)÷3×6=2億8000万円。

これは、A選手が同じJ1のクラブに移籍する1つのケースとして算出された移籍金に過ぎませんが、他のクラブが年俸倍増などといった余程の好条件を出さない限りは、ほぼ同等の金額になると言っていいでしょう。
ところが、言い方は悪いのですが、日本人を戦力として評価してくれる程度の海外(欧州)のクラブの財政状況を考えると、この金額は大き過ぎるのです。
せっかくオファーがあっても、多くはレンタルでのオファーになり、しかもレンタルということで出すJクラブも認めにくくなる、という悪循環に陥っている、これが先述した「足かせ」なのです。

かの辛口ジャーナリスト、杉山茂樹さんもコラムのなかで「深みにはまっている」と仰っているのですが、日本人の実力以上に、こうした金銭的な面での問題も、日本人が欧州でプレーできない要因になっているような気がします。

長々と書きましたが、まだまだ続きます。

ところが、これが「青田買い」の場合だとどうなるのでしょうか?

■若手有望株B選手(仮名、年齢19歳、U-19代表。A選手と同じクラブに所属するも、ポジションがA選手とかぶるので出番がほとんどない。年俸はA契約最低年俸の700万円)の場合。
別のJ1クラブが、レギュラー格で起用したいといってオファーを出しました。
現在の年俸:700万円。
オファー先が提示した次期年俸:1000万円。
現クラブが提示した次期年俸:900万円。
B選手は19歳で、やはりJ1同士の移籍なので、移籍係数は10。
よって(700万+1000万+900万)÷3×10=約8666万円。

カターニャが森本の獲得に準備している金額が報道の通りであれば、いかに本気かということがうかがえます。
この程度なら、欧州の中小クラブでも出せる金額ですし、若手の有望選手ということで、育てる(そして売る)という“楽しみ”もあります。

もちろん、完成品として輸出されるA選手と違い、B選手にはまだまだ未知数な部分もあるでしょう。今後、伸び悩む可能性だってあるわけですから。
しかし、時間的猶予の面でも、B選手の方がメリットが大きいと思われます。
最初からある程度結果を求められるA選手。
結果よりも、まずは内容を重視(その上結果もついてきたら言うことないが)されるB選手。
欧州には年齢別カテゴリーがU-21までしかないので、一応21歳という年齢が1つの目安になりますが、それでもチャンスは大きいと思います。

平山相太が筑波大を中退し、オランダに渡り、この度帰国しましたが、その時に巻き起こった批判の中には「まずJで活躍してから海外に打って出るべきなのに、順序が逆ではないか」といったものがありました。
しかし、ヘラクレスが彼を獲得した最大の要因は、なんと言っても移籍金がかからない(オランダの特殊な規定:外国人選手には最低でも約5000万円の年俸が必要、ではあったが)という点に尽きると思います。
結果は皆様ご存知の通りですが、海外でプレーするための方法論として、移籍金がかからないアマ→海外クラブの道を選んだことは、今後の選手に参考になると思います。

海外でプレーしたいと考えている選手は有名無名に関わらず、結構いると思われます。
しかし、ここまで述べてきた通り、単に実力さえ伴っていればいいということでもなさそうです。

現在、U-19代表がアジアユースを戦っています。
このまま勝ち進み、Uー20W杯で最大限のパフォーマンスを披露すれば、もしかしたらいいオファーが来るかもしれません。
Jで活躍することなのか。A代表に選ばれることなのか。2010年のW杯に出場することなのか。
それとも「CLのファイナルでビッグイヤーを掲げたい」のか……。
今後、何に目標を置くのかをよく考えて、行けるべき時に行くのも1つの手だと思います。

サンフレッチェの前田にも、日本資本が絡んだフランスのあのチームからのオファーがあるという報道があります。
リーグ2に属するこのチームは、今シーズン昇格争いにも絡んでいるようなので、チーム状態がいいのでしょう。それゆえに出番がないかもしれませんが、佐藤寿人とウェズレイがいるチームでも出番がないのは同じです。

随分前の伊藤翔君の記事に「どうせサテライトの試合に出るのなら、Jリーグよりもプレミアの方がいい」と書きました。
前田にもその言葉を贈りたいような気がします。

長くなりました。いやあ、結局深みにはまってしまったのは私かもしれません。

(通りすがりのオールドサッカーファンさんのご指摘を受け、一部記事を訂正させていただきました)

posted by bunchousann |23:20 | サッカー | コメント(7) | トラックバック(0)
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この記事に対するコメント一覧
Re:「青田買い」に見る日本人選手海外移籍考察

久々におじゃまします。
深みにはまり(笑)、面白いなぁって読んでしまいました。森本くんの場合(ん?何かデジャブのような気が。しかもbunchousannのブログで前に森本話を書いたかも...)、足かせなく評価されてのレンタル→完全移籍ですから、どんどん他の選手・代理人も参考にして欲しいですね。
クラブ側にとっては、もうけが減って痛いだろうけど(爆)

posted by UJ | 2006-11-02 00:06

管理人より

UJさんへ
森本君についてのコメントですが、確かに随分前に戴いていましたね。完全に忘れていて過去記事を探しに探しました(笑)。

この方法はほとんど選手本位の考え方なので、クラブにとってはご指摘の通り、利益がうんと減ってしまうやり方だと言えます。
ただ、実は書いているうちに、Jクラブが抱える契約上の致命的欠点のことをすっかり失念しておりまして、本来はその辺もしっかり踏まえて書くべきだったのですが、話が横道にどんどん逸れそうなので一切書きませんでした。また機会があれば書こうかと思いますので、その時は深みにはまってやって下さい(笑)。

posted by bunchousann | 2006-11-02 00:41

Re:「青田買い」に見る日本人選手海外移籍考察

初コメントで失礼いたします。
Jリーグの移籍係数は91~92年頃のリーグ黎明期に設定されたもので、90年代後半では無かったと思います。確か最初に設定された係数は今よりもずっと低くて、それが原因で読売クラブ(現東京ヴェルディ)が柱谷哲を日産(現横浜FM)から引き抜いたりするなどの移籍劇が後を絶たず、各チームが悲鳴をあげていました。Jリーグは急遽、救済策として移籍係数を何倍にも引き上げたという経緯があります。
資金力にモノを言わせた選手移籍に積極的だったのが読売でした。個人的には川淵チェアマンが読売クラブが巨人軍のようになることに危機感を覚えて、係数を引き上げて戦力の均衡を図ろうとする策に打って出たのではないかと考えています。
その係数によって国内の移籍市場の活性化を阻み、海外移籍の障害となっていることはかなり前から指摘されていました。
実は私はJリーグ改革を今後行っていくうえで避けて通れない部分だと思うのですが、今度のチェアマンも特にやる気なさそうですね。

posted by 通りすがりのオールドサッカーファン | 2006-11-02 20:19

管理人より

通りすがりのオールドサッカーファンさんへ
まずは誤りのご指摘、ありがとうございます。
何せ移籍係数の正確な数値を知ったのがここ数年のことだったので、そんなに前から、しかももっと低い数値だったとは知らず驚きです。
そもそもJリーグが出来た頃に、移籍金などという言葉は少なくとも巷には存在しませんでしたし、私もその存在と正確な意味を知ったのはもっと後のことです。
あの頃はまだ峠を越えたベテランとは言え、ワールドクラスのプレーヤーがたくさん来日していました。その背景には、バブルの余韻が残った金銭的余裕と、ご指摘の移籍係数の低さがあったのかもしれませんね(欧州はボスマン判決前でまだバブルが到来してませんから)。

現実問題、この移籍係数では国内に限っても有力選手を獲得できるのはほんの数チームしかなさそうです。ですが、UJさんへのコメントにも書きましたが、Jリーグの契約システムには、ある選手の海外移籍の際に明らかになった致命的な欠陥があるとしか思えません。そこをついて、選手にとっていい移籍、ステップアップができることを願ってやみません。

posted by bunchousann | 2006-11-02 23:00

Re:「青田買い」に見る日本人選手海外移籍考察

またまたすいません。
後の記事で深みにはまりそこねた分、こちらにハマってますが(笑)、移籍係数を景気変動制?みたくする必要があるのかもしれませんね。
現状だと欧州と比較して、1/2~2/3位なのかも。

後、最近やっと気づいたのですが、通りすがりの方やHNが特殊な方は、スポナビの編集の方?
小生のブログの方でも有難い意見を頂いており、他人様のブログ上で失礼しますが、御礼申し上げます。
#bunchousannさん、変な書き込みですいません。

posted by UJ | 2006-11-04 07:12

Re:「青田買い」に見る日本人選手海外移籍考察

初めまして。
広島の前田君なんですが、何かのインタビューで『海外に行く気はない、めんどくさいから』的なコメントを聞いた気がします。

移籍係数為になりました。
これからも興味深い記事を期待しています。

posted by Ivica | 2007-02-02 21:22

管理人より

Ivicaさんへ
初めまして。
そうですか。では前田君は寿人、ウェズレイと勝負ですね。

お褒めの言葉ありがとうございます。
これからもご意見、ご感想をよろしくお願いします。

posted by bunchousann | 2007-02-02 22:46

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