2007年05月02日

心に響き渡った、あの日のソプラノ

空腹は限界に近づいていた。大型連休中の行楽地。長蛇の列の最後尾に並びながら、俺の目は売店のメニューをさまよっていた。焼そば。おにぎり。焼きとうもろこし。ありふれたメニューの中で、俺の目を釘付けにしたものがあった。カレーだ。

「タマネギをしっかりいため、ココナッツミルクとバナナチャツネを使用、コクとうまみのあるカレーです」

うん、決めた。秀逸なキャッチは、かくも空腹を刺激する。オーダーの順番が近づくにつれ俺の期待は高まってゆき、売店のおばさんとカウンターで向かい合ったとき、期待は確信に変わった。奥のガス台で猛烈な湯気を上げる巨大なアルミ鍋。グツグツという音が聞こえてきそうだ。

「俺の選択に誤りはなかった…」そうつぶやきながら、俺は450円を支払い、カウンターから1歩離れておばさんの呼び出しを待った。カウンター内は戦場だ。津波のように押し寄せる注文を寸分のミスもなくさばいてゆかねばならない。

厨房をめまぐるしく立ち回り、素早くメニューを揃えては手渡すおばさんを、ちょっと離れたポジションから頼もしそうに見つめる俺。ふと、銀色の袋が目の端をよぎった。「え? まさか」不安が胸をかすめた次の瞬間、おばさんのソプラノが響き渡った。「はい、カレーおまちどうさま」

レトルトだった…。

今にして思えば、あの秀逸なキャッチを疑うべきだった。他のメニューは「うまい」とか「味自慢」とかの簡素なキャッチだったのに、カレーだけは妙に贅を極めていたのだから。てゆーか、売店にそんな手の込んだメニューなんかあるわけねーじゃん。と冷静に気付くべきだった。

銀色の袋から解き放たれたカレーは発泡スチロールの容器へと流し込まれ、やがて傷心の俺の腹の中に収まった。ゲフッ。<亀>

posted by bowl-m |22:59 | トラックバック(0)
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