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アビスパの一番長い日(九)

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キャナルシティでは、ゴールの瞬間に総立ちとなったサポーターたちの抱擁やハイタッチが繰り広げられている。 会場を通りかかった人からも、感嘆と拍手が起こっている。 マイクを握りしめ、森田みき氏は嬉し涙を堪えていた。 長くスカパーでアビスパを担当したミキティ、北斗の栄光も挫折も傍らでみてきた。 その北斗が今この瞬間、再び光り輝いている。誰よりも。 いけない、泣いていちゃだめだ。私のやるべきことをやらなくちゃ。 まだ、試合時間も残っている。
所用のため、長居にもキャナルにも行けずオフィスでオンデマンド観戦だった川原武浩氏。 瞬間、絶叫しながら振り上げた拳をしこたま打ち付けてしまった。 痛い、嬉しい、やっぱり痛い、それでも嬉しい。 この瞬間は生涯忘れることはないだろう。なにせ身体で覚えてしまったから。
JR博多シティは、にわかに忙しくなってきた。 駅前広場での報告会、つい先ほどまでは通常のイベント同様に考えていた。 このまま昇格が決まれば、帰福するアビスパの選手達に加え、多くのファン・サポーターが夜の博多駅に集結する。 前回昇格時は、イベント予定はなかったにも関わらず夕方の福岡空港に500人のサポーターが集まった。 今回はどうなるか。日曜の23時前。前例がないのでどれくらいの人が集まるのか、最大限の用意に取り掛かる。


歓喜の輪がアウェイスタンド前で折り重なる中、航輔が、城後が、センターサークルでセレッソに再開を許さない。 北斗のゴールが決まった直後、一瞬のガッツポーズだけみせピッチ中央へ向かおうとする城後と衝突し転倒してしまった金森も、無事歓喜の輪から戻ってきた。 サポーターも少しだけ平常心を取り戻す。 私もしゃがれてしまった声で叫ぶ。 頸椎にまで達していた凍結感は、灼熱の歓喜がいっぺんで溶かしきった。 全身に滾る熱量をのせ、サポーターが絶叫する。 まだ終わってない!最後まで走れ! 言われなくてもアビスパの選手達は理解している。 試合終了間際の失点を、過去幾度となく繰り返してきた。 ミスもあった、不可思議なジャッジもあった。 最後の最後での失点が全てを無にしてしまう恐怖。 選手だけじゃない、井原監督自身が22年前に味わっている。 ドーハの悲劇と同じような思いをアビスパに味合わせるわけにはいかない。 三浦文丈コーチとホワイトボードを操作、ピッチサイドから指示を飛ばす。
セレッソは田中裕介を下げ、パワープレー要員としてCB中澤聡太を投入。中澤、最前線へ走っていく。 丸橋が後方から放り込む。中澤、田代の間で亀川が先に触ったボールがタッチへと転がる。 続けざまの選手交代、セレッソ最後のカードはエジミウソン。玉田との交代。 先制ゴールをはじめ、アビスパを再三苦しめた玉田、ピッチ脇に座り込み戦況を見守る。 本来ならピッチ内の選手と混同しないよう、コートを羽織るかもっと離れるべきだが、家本主審は咎めない。 私も構わない。玉田圭司には、その場所でピッチの仲間を信じ祈る権利がある、そう感じさせるだけのものをみせていたから。
アビスパは全員が自陣に引いた。 守り切るという決意。 金森や坂田が防衛ラインの最前を駆け回り、容易な放り込みすら許さない。 隙あらば、懐に忍ばせる鋭利な刃物でとどめもさせる、そんな切れ味を残しつつ。 スローインですらセレッソに自由にはさせない。やむをえずダイレクトに高く放り込んだ丸橋のクロスに群がるエジミウソン、山下、田代、中澤。 航輔がパンチで弾き飛ばした。
正面の分針が、水平位置で停止した。 アディショナルタイム。何分だ。首をまわせば大型ビジョンに映し出される分数は確認できるのだろう。 見てない。そんな余裕はない。 迫りくる最後を視認してしまうのはホーム側のサポーター。 あと4分しかない。 今日一番の大音量で、セレッソの選手達を奮い立たせようとする。
航輔が大きく蹴りだし、ウェリントンが金森に落とす。時間を稼ぐ、と見せかけ中原へ。リターンを金森、とどめにいこうとするのをパブロがカットした。大きく前線へ、中澤を狙う。 DFとFWは、求められるヘディングが異なる。後方からのボール、中澤は落下点を読み切れない。 濱田がクリア、エジミウソンが返す、亀川がさらに返す、ヘディングの応酬。 サイドに開いていた末吉。中原が指示している。前線へ蹴りだす。
ボールはまっすぐ、そのままキム・ジンヒョンへと渡った。
敵陣深めでのスローインか、それともゴールキックにしたかったのか。 結果的に安易なプレゼントボール、一瞬不安がよぎる。 数秒後、それが現実となってしまう。
キム・ジンヒョン、ゆっくり上がる。セレッソの前線、タワー集団のスタンバイが完了した。 全力で蹴ったボール、迎える中澤。正面からのボールなら。 微かに触れたボールに丸橋が反応、胸で中へ。 チョンマゲが揺れる。 山下がいる。 不格好にも必死でとらえたシュートが、セレッソの願いを乗せて転がっていく。
セレッソサポーターの絶叫が悲鳴に変わる。 アビスパサポーターの悲鳴は安堵に変わる。 ボールはわずかにゴールをそれていった。 航輔の怒気を含んだ叫び。 集中しろ。まだ終わってない。 関口はボールを要求し、ゴールエリアにセットし走り戻る。 状況に応じ行動に移す。諦めを知らないのか。 こういう選手がいる限り、最後まで試合はわからない。
坂田のターン、ドリブルから金森にパス。金森、キープを試みる。 ここでもやっぱり山口蛍が現れて、金森を弾き飛ばす。坂田のフォロー、割って入ったパブロがキーパーへパス、トラップの乱れを抑え込んだキム・ジンヒョンが関口に送る。 関口がドリブルであがる。アビスパ陣内なかほどまで侵入し丸橋へ。丸橋のクロス、濱田がクリア、ボールを拾ったのは全速力で戻ってきた金森。 中澤が追ってくる。前には山口蛍。 金森、蛍の裏へボールを蹴りだす、裏街道、そのまま蛍の足と接触しファールを得た。 フル代表の蛍に、最後まで抑えられた。 抜けなかったが、最後に一矢報いた。 そう遠くない未来に、金森健志のドリブルは山口蛍を華麗に抜き去っていくだろう。上昇カーブの成長曲線、果てはまだまだ見えない。
アディショナルタイム直前から歌い続けている「俺たちが福岡」、まだ試合は終わらない。
アディショナルタイム3分経過。 ウェリントン、茂庭へのチャージでファールをとられる。 ほぼ確信犯。茂庭が激昂している。 キム・ジンヒョンが放り込む。中澤の流したボール、追いかける関口から北斗がブロック、タッチまで転がっていく。 プレーが切れるたび、サポーターの歌声は声量を盛り返し、アビスパの選手には油断を、セレッソの選手には諦めを、それぞれ許そうとはしない。 J1かJ2か。 ネイビーブルーとピンク、魂同士が未来をかけぶつかり合う。
スローインの落下点で勢い余った中澤が倒れる。アビスパはファールをとられた。 笛の後でボールを蹴ったウェリントンにイエローカード。もう確信犯だ。 キム・ジンヒョンが上がってくる。 関口が丁寧にボールをセットする。 絶対に、諦めない。 執念のFK、落下点を制したのはエジミウソン。 エジミウソン、バックヘッド。 ボールはピンクのキャンバスに柔らかな弧を描きながら、ゆっくりと舞い降りてくる。

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