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アビスパの一番長い日(六)

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福岡市東区の筥崎宮。 毎年開幕前の必勝祈願をおこなう由緒ある社内に井原監督の言葉が掲げられている。 人事を尽くして天命を待つ。 最初から何かにすがることなどない、やれることをやりつくしたうえで、結果を受け入れる。 今、やれること。やらなければならないこと。 ホーム福岡に記した決意はいつも通りに、劣勢となった長居でも尽くされる。 ホワイトボードを手にピッチに指示を送る。
金森が一列上がった。 両ワイドもやや高めにポジショニングを変える。 点を取りにいけ!というメッセージ。 この試合に向けての非公開練習で、ビハインドを想定してのゲームプランは入念にチェックしている。 「なんでか大阪」の長居開催、偽りのホーム。 アウェイで先制された後半というシチュエーション、練習通りやればいい。
末吉の、速い縦パスがこの試合初めて入った。ウェリントンには収まらない。 亀川が久しぶりに前線に顔を出す。金森が上がったことでスペースが用意された。 中に転がしたパスを末吉が豪快に振り抜く。茂庭に当たってコーナーかと思いきや、オフサイドポジションにアビスパの選手がいたという判定でセレッソボールに。積極関与がなければ反則ではないのに。 キム・ジンヒョンからのボール、丸橋の前にウェリントンが身体をすべりこませた。これも笛を吹かれた。 嫌な空気だ。 堤がセンターラインを越えて攻撃参加する。 攻撃に厚みを持たせたアビスパに対し、試合開始時から続いていたセレッソの攻勢がスローダウン、重心はニュートラルからやや後方にチェンジした。

67分のこと。
セレッソゴール前。 クリアボールを手でコントロールした丸橋に、笛はならなかった。 家本主審はアドバンテージを選んだ。競り合っていた北斗の前、田村が拾い末吉に預ける。 ダイレクトで中央の金森へ、ターン。 パブロが気付いた。丸橋の裏が空いてしまっている。 金森も同じ場所を見ていた。スルーパスに反応した北斗、必死に追いすがってきたパブロをかわす、ゴールまで7m、中にフリーの城後。
時々、兄弟のようにみえてしまう。 中村北斗と城後寿。国見高校の先輩後輩。 北斗の復帰は、アビスパのキングとして独りで背負っていた重圧から城後を開放した。 城後一人が全てを背負う必要はない、北斗がしっかりと支えている。 寡黙な主将が責務をまっとうできた背景に、頼れる先輩の存在は大きかっただろう。
北斗はパスを選択した。ゴール正面で完全にフリーの城後。なにより、城後のゴールは特別だとサポーターの多くが思っていることを知っている。 二人の間には、必死に滑ってくる茂庭だけがいた。

城後へのラストパス。 茂庭が振り上げた、彼の右前腕を直撃した。


笛は鳴らなかった。 北斗と城後がハンドのアピールする。プレーは続いている、やむなく抗議を諦めた。 似たようなことは2006年にもあった。嫌な記憶がその後の数年とセットで蘇る。
セレッソはショートパスを繋ぎながらゆっくりと陣地を回復した。 攻め込んでいたアビスパの選手達も、失点するまでのように自陣に退かざるをえない。 パブロの強烈なシュートは大きく枠を外した。


キャナルシティは、静まり返っていた。 10分ほど前までは期待感で溢れていた会場は失点してからというもの、忍び寄る落胆と不安に支配されつつある。 司会の森田みき氏は必死に笑顔を作りながら、感情を波打ち際で押し留めている。 「・・・がんばれ!」 今のミキティにはそれしか言えない。
新宮町では、10歳のコウタローと8歳のユウセイが、両親、妹と一緒にTV観戦している。 妹はまだサッカーがよくわからない。 今年も家族で何度かレベスタに行った。 母親はアビスパにはまりつつあり、父親は福岡J・アンクラスがお気に入り。 コウタローはそこそこアビスパが好き、ユウセイはツンデレで「やっぱりアビスパ負けるやん」などと言いながら、家族でTVにかじりついている。

試合が激しくなってきた。 濱田が田代を押し倒しファールをとられた。
濱田水輝。最終ラインの統率と高さを活かした攻撃参加、腰痛で離脱するまでDFリーダーとして守備陣を牽引した。 よく勘違いされているが、水輝は完全移籍加入である。伴侶も得た。復帰戦で自らの結婚を祝うゴールも決めた。 昇格をはたし、今年を忘れられない年にしたい。 水輝同様に浦和育ちの堤俊輔。 彼ほど、サポーターの為にプレーする選手もそうはいない。特定の選手にあまり肩入れしないよう心掛けていた私が唯一背番号をいれたレプリカはツツ。早く福岡に家建てればいいのにと心底思う。
水輝にツツ、田村の3人は大きく広がった。 亀川と北斗が上がり、後ろはワイドの付かない3バックに変化している。 リスクをかけてでも、前に人数をかけなくてはいけない。

ベンチが動いた。 中原秀人が下がり坂田大輔が入る。 課長の安定を捨て、サカティーの攻撃的なゲームコントロールにシフト。 メッセージはスタンドにも伝わる。 攻撃力もさることながらその献身性をもって圧倒的な信頼を勝ち得た坂田。 「サムライ」とはこういう男のことだ。 いまだに進化を続ける元代表選手に、サポーターの期待は高まる。 ウェリントンがFKを獲得。 キッカーは北斗。壁に当たってCKに。今期公式球のコネクト15は、ブレ球の代名詞だった5年前のジャブラニに比べ変化量に乏しい。 CKのクリアからまたも丸橋が手でコントロール。今度は笛が鳴った。 ゴール前20m。 櫛の歯を狙ったのだろう、虚をついたウェリントンのキックは壁に当たった。 リベリーノのようにはいかない。 正面で声を振り絞るサポーターの中から悲鳴にも似た叫びがとんだ。
攻めているのに。 シュートまではいけるのに。 あと、15分しかない。


身体は熱い。 心は煮えたぎっている。 毎分ごとに下から凍り付いてくる背骨だけが、冷たい。 アビスパを長く追い続けてる人なら経験があるだろう、98年や2006年と同じ恐怖感。 バンデーラ最前で跳び叫び続ける私の目の前では、エスコティーバの井上氏がトラメガを握りしめている。 私の後方では、アビスパファミリーサッカー(AFS)の宮井氏が、井上先生と似た感情を堪えながら必死で声援を送っている。家族で長居に乗り込んだ宮井さん。前回昇格時はまだ小さかった愛娘に、その瞬間を見せたい。一緒に喜びたい。悲しむ顔なんか、見たくない。 アウェイゴール裏から正面に見える電光掲示板は、アウェイサポーターにアナログの時間情報しか与えてはくれない。 漆黒に溶け込む無機質な長方形の左側で、時計と、下の45分計だけが動いている。 その真っ赤な分針は最下点を過ぎ、血の滴る死神の鎌が振り上げられるが如く、ゆっくり、ゆっくりと終幕にむけ時を刻んでいく。

セレッソ選手交代。 中盤でバランスをとっていた橋本に代え扇原。守備への比重をさらに増すということか。
玉田、関口、田中裕介、山口蛍。セレッソのパスワークがアビスパ守備陣を振り回す。 田代がつぶれ丸橋が左足を振り抜く。航輔が正面でキャッチする。 田村が放り込む。ウェリントンのヘディングは左にそれていく。 攻めあがる堤。ミドルシュートは枠を捉えきれない。 濱田と田代が再三競り合い、田代がややヒートアップしている。
坂田が3人に囲まれながらキープ、北斗におとして亀川へボールが渡る。 左サイド、アビスパのストロングポイント。 攻撃のスイッチが入った。アウェイスタンドから「よしッ!」と声がとぶ。 駆け上がる亀川の正面に田中裕介、亀川スローダウン、田中裕介の脚がボールに触れ、そのままの勢いで亀川が倒される。ノーファールの判定、忍び寄ってきていた山口蛍がボールを掻っ攫った。 まずい! セレッソのカウンターが発動した。リードし、守り切りたいセレッソにとって理想的な展開。
玉田がドリブルで上がる。田中裕介がフォローに走り、蛍は二人を追い越していく。引き寄せられるアビスパ守備陣、ゴール前には田村ただひとり、その裏に田代が潜む。 田中裕介、蛍に預ける、戻す、倒れこみながら玉田へとパスが通った。 82分。中村航輔の目の前には、ターンした玉田、フリーの田代、DFは田村独りだけ。 半ば確信するホームスタンド、フラッグを持つ手に力をこめる。 決まる。 決めて、勝って、J1へ。 距離20m、正面やや右。 左利きのストライカーは本能のままに振り抜いた。 手を伸ばす航輔、その遥か先を飛んでいくボール。 アウェイスタンドからあがる悲鳴。
田代の怒声、平謝りの玉田。 シュートはゴールマウスの上空へ抜けていった。 完全にフリーだった田代の憤りはおさまらない。彼も点取り屋。決めきれないのなら俺に出せ!剥きだしの本能。 この時、玉田のシュートブロックに飛び込んでいく田村の後ろで、中村航輔は小さく左にステップしていた。 田代にパスが入っていたとしても、相応のパススピードを田代がコントロールし且つダイレクト、もしくはワントラップで撃たなかったとしたら。ターゲットを定めた航輔か、ゴールへとカバーに走っていた堤らの餌食となっていたかもしれない。前半のように。 たらればの話。正解は結局、誰にもわからない。 わかっているのは、セレッソは決定機を逃し、アビスパはギリギリのところで危機を脱したということ。 試合時間は残り10分を切っている。



ーー(七)へーー

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