BOAT RACE ビッグレース現場レポート

THEピット――涙の優勝戦

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boatrace-405263.jpg「ゆうしっ! やったっ!」
 ピットに大音量の叫び声が響いた。声の主の顔を見たわけではないが、井口佳典だろう。
 新田雄史が1マークを先頭で抜け出した! ピットには一気に興奮が渦巻き始めた。
 もしかしたら、篠崎元志も上気していただろうか。同県の岡崎恭裕が出走しているのだから、こちらにも思い入れはある。だが、同じ釜の飯を食った同期の快挙もまた、元志を興奮させていたはずだ。11Rを勝ったのはその篠崎元志。展示を終えてピットに戻ってきた新田は、元志と出くわすと力強く右手の親指を立てた。元志が鋭い笑顔でうなずき返す。新田にとって、元志の勝利は最高のエールと思えたことだろう。
boatrace-405264.jpg ヒーローが凱旋して、出迎えたのはやはりその二人である。元志は岡崎のエンジン吊りがあるからそちらに向かわねばならないが、井口は新田がピットに上がるのを待って、両腕を大きく大きく広げている。その胸に飛び込む新田。二人はがっちり抱き合い、歓喜を分かち合った。
 偉大なる師匠に、艇界の顔ともなっている同期に、これで追いついた! もちろん井口の実績はさらに先を行っているし、元志には賞金王出場で先を越されてもいる。だが、二人がもっている肩書を、自分も手に入れたのだ。新田の瞳が潤むのは当然のことだった。
 新田は表彰式でも、家族とお父様に言及した際、こらえきれずに涙を流している。ボートレーサーになることを勧めたのはお父上(新田いわく「強制でした(笑)」だそうです)、そして日々戦う自分を支えているのはご家族。自分を取り巻くさまざまな人の顔が脳裏に去来したとき、新田は大きな達成感を得た。その涙はひたすら美しく、輝かしいものであった。
boatrace-405265.jpg もちろん、水神祭も行なわれている! 師匠と同期が中心となり、残っていた地元・福岡勢も参加して、静まり返った水面で行なわれた水神祭。全員で新田を水中に放り込むと、続けて井口と元志もダイブ! 強い絆で結ばれた者たちの歓喜が、福岡のプールを満たしていくようだった。いったん3人が水中から上がると、リフトは上昇を始めているが、その間に今度は新田と井口が肩を抱き合って再ダイブ。「きぃもちいぃぃぃぃぃっ!」。新田の声が福岡の空に響いて、大きな大きな拍手が巻き起こった。
 新田雄史、おめでとう! 会見でも語っていたが、3年前の笹川賞でのピット離れ遅れや(おかげでひとつ内に入ることになった岡崎のまくり差しVをもっとも間近で目撃することになった)、10年新鋭王座で毒島に逆転されたこと、11年新鋭王座で1マーク振り込み大敗など、大きな悔恨を何度も味わった新田だ。それを乗り越えてのSG戴冠、格別なものがあるだろう。これでおそらく賞金王もほぼOKの位置につけたはず。暮れの大舞台でも、新田雄史の豪快なレースを堪能させてもらおう。できれば師匠と一緒に参戦できると最高っすね!

 敗者たちは、それぞれに悔恨や無念を滲ませていた。やるだけやった、その思いがあったとしても、敗戦はやはり悔しい。
boatrace-405266.jpg スタート展示からコース動き、本番でも前付けを見せた湯川浩司は、やるだけやった一人。しかし、モーター格納の間も顔は歪み、悔しさを隠そうとはしなかった。前付けは勝つためにやるのであって、勝てなければ意味はない。そんな思いが透けて見えたように思ったが、しかし僕はナイスファイトだったと思うし、優勝戦をコク深き一戦にした立役者だと讃えたい。
boatrace-405268.jpg 湯川の前付けを許さず、2コースからインをまくって潰しにいった服部幸男も、やるだけやったと言えるだろう。キャリアの分なのか、もっともサバサバしているようには見えたが、しかし唇をきっと結んだ顔つきには敗戦に納得がいかない様子がありありと見えていた。湯川のモーター格納をヘルプしていた松井繁が、ほんの数秒、服部に寄り添っている。しかし服部も松井も、口を開かない。お互いが何を考えていたのかはうかがい知れないが、言葉を交わさずともわかり合える何かが、この二人にはあるはずである。
boatrace-405269.jpg 準Vとなった峰竜太は、時に笑みを浮かべていた。会見が終わり、水神祭を取材するためにピットに戻ると、着替えを終えた峰と顔を合わせた。峰は言った。「今日は楽しかった! 今節は楽しかった」。以前にも同じ言葉を聞いたことがある。あれは蒲郡だったと記憶しているから、一昨年のオーシャンカップか。その2カ月前の笹川賞でSG初優出を果たし、その節も準優に進出している。「この舞台で勝負しているということが、勉強にもなるし楽しいんです」。そう語ってくれたのは、準優で敗退した直後のことだ。
 そういうものかな、と納得したが、本音だろうか、とも思った。あれから峰は一躍艇界の顔の一人となり、SG優勝戦も何度か経験し、賞金王には2年連続で出場した。明らかにあの頃よりグレードアップしたし、ということは着実に成長もしているだろう。
 だから、同じ言葉を聞いて、やっぱり思う。そういうものかな。でも、本音だろうか。ひとつ言えるのは、あの言葉を聞かせてくれた以降、峰はグングンと強くなり、上のステージで戦うようになった、ということだ。ということは、また今日以降、峰はさらにさらにグングンと強くなるだろう。

boatrace-405270.jpg さて、1号艇を活かせなかった桐生順平だ。モーター返納の間は、平石和男の横で苦笑いを浮かべたりもしていて、悔しさにジッと耐えている様子はうかがえた。それでも淡々とした雰囲気はあって、それはきっと己をコントロールしているのだろうと、僕はただただ心中を想像するのみであった。
 返納を終えると、桐生は整備室内の水道で何度も何度も顔を洗っていた。汗を流しているのか、悔しさを流そうとしているのか。汗を流すだけにしては、回数が多かったように思う。整備室を出て控室へ。その付近で撮影をしていたチャーリー池上カメラマンは、桐生の目から涙がこぼれ落ちたのを見たという。遠目で、岡崎が桐生に軽くパンチを入れるのが見えたが、それは頬を濡らす桐生への岡崎流の慰めだったようだ。
 実はその後、僕は帰り支度を終えて出口に向かう鎌倉涼とすれ違っている。お疲れ様でした、そう言うと、うつむいたままの鎌倉は軽く会釈をしただけで、そっけなく去っていった。今節、いつも笑顔で挨拶をしてきてくれて、話しかければ明るく応えてくれた鎌倉が、である。今節の間に嫌われた可能性も否定はしませんが、しかし桐生の様子を考えれば合点もいく。桐生の悲しみをもっとも身近に受け止めたのは、同期で、レース前にはじゃれ合うようにして桐生の笑顔を引き出していた鎌倉涼に違いない。そして、桐生順平は今日、もしかしたら選手生活でもっとも強く傷ついた。
 月並みではあるが、桐生順平はこの傷をバネにして、さらに大きな存在になると僕は信じる。いきなり最初から結果を出さなくたっていいじゃないか。失敗したって、それをいつか取り戻せばいい。そう、今日の新田雄史のように。桐生は必ずやそれを現実にする男である。それほどの男である。今日は悔しさにまみれ、その憤りを胸に刻んで、明日からさらに強い桐生順平になるべく、大爆走してほしい。

boatrace-405271.jpg 最後に岡崎恭裕である。もっとも落胆をあらわにしていたのは、岡崎だったと思う。いろいろと思うところはあるが、ひとつだけ書くことにしたい。
 新田の水神祭に参加した岡崎は、新田がリフトに上がり、万雷の拍手を浴びているのを、複雑な表情で眺めていた。その場にいた全員が拍手していた。ただ一人、岡崎だけが拍手をしていなかった。リフトの手すりにもたれて、ほとんど無表情で、笑顔を爆発させる新田を見つめていたのである。
 僕はそんな岡崎を最高だと思った。そして、せつなかった。もちろん、岡崎に新田を祝福する気持ちはある。表彰式や会見を終えた新田がピットに戻ったときには、笑顔で出迎えている。だが、悔しさは消せない。ごまかすことはできない。歓喜に沸く新田を眺めながら、岡崎の胸には改めて悔恨が湧き上がってきたのではなかったか。そんな熱くてピュアな若き勝負師を見て、僕はちょっとたまらなくなった。そして、カッコいいと思った。
 岡崎は今夜、眠れぬ夜を過ごすのかもしれない。だが、これだけは間違いなく言える。今節の岡崎恭裕に、僕は最後の最後までただただ、痺れさせられたのだ。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)




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2013笹川賞
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THEピット――涙の優勝戦

あの体勢で2コースの選手ははまくりに行って勝てると思ったのでしょうか?
むしろ、まくりに行くと見せて差す方が勝つ可能性は高かったのではないでしょうか?
道中も含めレースを壊しているとしか思えません。
最後に本誌予想者様。埼玉の選手を優勝戦で本命にしないでください。
SGとれなくなります。

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