物書き屋のサッカーを笑うな

3198字に込めた“チャンピオン・サンフレッチェ”への想い-サンフレッチェ広島×セレッソ大阪

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 「仙台敗れる」の一報が入った瞬間、泣き崩れてしまった。“アジアの大砲”高木琢也の記憶がうっすらある頃から応援してきた私にとって、サンフレッチェ広島のJ1優勝(年間制覇は初めて)は感情を抑えずにはいられなかった。どういうわけか、前半終了の頃からちょっと涙ぐんでいたけれど。

 今シーズンのホーム最終戦は、残留争いを強いられているセレッソ大阪とのゲーム。サンフレッチェが勝利し、同時刻キックオフのベガルタ仙台とアルビレックス新潟の一戦で、ベガルタが敗れたのみ、サンフレッチェの優勝が決まる。降格の危機に瀕しているアルビレックスは、現サンフレッチェ監督の森保一が昨シーズンまでコーチを務めていたクラブ。彼らの“アシスト”を期待せずにはいられなかった。

 サンフレッチェのスタメンは、西川周作、森脇良太、塩谷司、水本裕貴、石川大徳、青山敏弘、森崎和幸、清水航平、森崎浩司、高萩洋次郎、佐藤寿人という顔ぶれ。累積警告で出場停止のミハエル・ミキッチと千葉和彦のポジションには、石川と塩谷がそれぞれ入った。リーグ戦で塩谷が3バックの中央でプレーするのは初めてだ。

 アルビレックス先制の直後、高萩の先制弾が生まれた。


 序盤の入り方は、アウェーのセレッソが優勢。中盤の守備はある程度上手くいっており、サンフレッチェになるべくボールを持たせず、落ち着いたビルドアップもさせなかった。

 ところが17分。見せ場が無かった前線のトライアングルが威力を発揮する。ゴールを背にボールを収めた寿人が高萩へ落とすと、前方の浩司へラストパスを供給。相手に当たってしまったところを拾った高萩。今度は左足でシュートを選択し、豪快にネットの右隅へ叩き込んだ。サンフレッチェ先制。「アルビレックスが先制」という知らせの直後だった。

 豪快なゴールの3分後に待っていたのは、美しい展開。左サイドの清水がクロスを放ると、石川がギリギリで追い付いて頭で折り返す。中盤から駆け上がっていた青山が詰めて、スコアは2対0に。その後も勢いは加速するばかり。中盤からのロングパスに大外から回り込んで追い付いた清水の突破は、山口蛍(左サイドハーフで先発し、途中から右サイドバックへ)の退場を誘発。重圧のかかるPKを寿人が決めた。点差は3点に。

 遂に歓喜と嬉し涙の瞬間がやってきた。


 エンドが変わった後半早々にもスコアが動いた。中盤に引いていた高萩が、前方右のぽっかり空いたスペースにボールを送る。反応したのは石川で、そのまま右足を振り抜くと、キム・ジンヒョンの手に当たってゴールに吸い込まれた。

 風向きが少し変わったのは、中盤で獅子奮迅の活躍だった青山を下げて、石原直樹を投入した直後だった。扇原貴宏のアシストから枝村匠馬のヘディングで1点を返された。明らかに油断していた様子。その後は一人少ないセレッソに押される時間も。左サイドバックで先発した扇原や負傷明けの柿谷曜一朗は、プレーの精彩は欠いていたが、何かやってやろうという気概は伝わってきた。

 サンフレッチェの勝利が確定的のまま、4分のロスタイムへ。後は優勝を争っているベガルタの動向だ。なんとロスタイム6分という知らせが。手倉森誠監督のチームは土壇場での驚異的な粘りが身上なだけに、アルビレックスの逃げ切りをひたすら祈るだけだった。先にサンフレッチェの勝利が決まり、直後に歓喜と嬉し涙を運んでくる吉報が。森保監督はベンチ前で飛び跳ねた。寿人はピッチに泣き崩れていた。

 指揮官とストライカーの絶叫。


 穏やかな見た目とは裏腹に、言葉は松岡修三よりも熱い森保監督のインタビュー。「今までサンフレッチェが立ち上がって、本当に多くの方に、我々は支えてきて頂いて、今日ここまでやってきました、そのサンフレッチェに関わるすべての人の思いを爆発させました!嬉しいです!」。ビックリマークはいくつあっても足りないくらい。

 寿人は「ありがとうございます!」と絶叫した後、噛みしめるように言葉を続けた。「苦しかったシーズンも多かったですし、決していつも皆さんに楽しんでもらえるような試合ができなかったですけど、でもいつもこうやってスタジアムに来て、そしてテレビを通して、ずっと応援してくれたおかげで、今僕らがこうやって戦えると思います。皆さんのおかげで優勝を成し遂げることができました。ありがとうございます」。

 セレモニーは、選手と監督へのメダル授与から。前世紀末からクラブを引っ張ってきた(病気との闘いもあった)森崎兄弟がチャンピオンフラッグを受け取る。そして寿人が優勝杯(シャーレ)を受け取って、優勝クラブしか味わえない感動の瞬間が。その後に監督の胴上げも。久保允誉(まさたか)会長や本谷祐一社長も姿を見せたが、サンフレッチェというクラブを引っ張ってきたことを誇らしく思ったはずだ。

 今のスタイルを創ったミシャとポイチさんの違いとは。


 昨シーズンは昇格1年目の柏レイソルが優勝したように、J1は「本命不在」で「シーズン前の予想がことごとく外れる」リーグだと思う。今シーズンのサンフレッチェは優勝どころか、降格争いに巻き込まれるという見方も少なくなかった。経営難でミハイロ・ペトロヴィッチ監督の退団を余儀なくされて、得点源の李忠成も海外へ移籍した(チュンソンはブログに祝福のメッセージを載せている)。そこでの新人監督抜擢はギャンブルにも思えた。

 ミシャ(前監督の愛称)とポイチさん(現監督の愛称)の違いは何だったか。まず、怪我人が少なかったのは大きかった。五輪代表やフル代表に選手を“取られる”ことが少なかったとはいえ、今シーズンから就任した松本良一フィジカルコーチの存在は大きかったようだ。

 もし負傷者が出たとしても、清水や石川といった若手がきちんと結果を残していたのも印象的だ。若い選手が伸び伸びプレーできたのは、ポイチさんの信頼があったからであり、ミシャに育てられたベテランの選手たちの存在があったからだろう。5年半もチームを指揮したペトロヴィッチ監督には、一人のサポーターとして、感謝の気持ちしかない。ちなみに、杉浦大輔コーチ兼通訳はTwitterで「皆おめでとう」と祝福の声を寄せていた。

 ポイチさんは、ボールを持たない時のディフェンスやセットプレーの守り方にも気を配っていた。実際に昨シーズンまでは何度となく痛い目に遭っていたが、随分改善されたように思う。最終ラインからの繋ぎは相変わらず重視しながら、状況によっては大きく蹴り出すことも容認。おかげで自滅的なミスも減ったように感じる。

 対策の対策を考えつつ、いざクラブワールドカップへ。


 優勝したサンフレッチェは今後どこへ向かうのか。個人的な思いとしては、賞金圏(7位以内)をキープしつつ、優勝を狙ってもらえればと思う。アジアチャンピオンズリーグと国内リーグの両立は相当難しく、資金規模を考えると「強豪クラブの仲間入り」を宣言するには少々無謀か。

 確固たるスタイルは既にあるが、対戦相手のサンフレッチェ対策も一層厳しくなっていくだろう。例えば「前線のトライアングルを封じる」のも一つの手だろう。ただ、セレッソ戦の先制点のシーンのように、寿人が下がる・浩司が上がるなどの変化を付けていければいい。後は自信も必要だ。勢いに乗ったら止められないサンフレッチェは、先制すれば負けないが、リードされた状況を引っ繰り返すのは苦手としている。

 最後に。試合前に走馬灯のように駆け巡った記憶。90年代中盤にJリーグチップスで高木琢也のカードを引き当てて喜んだこと。サッカー教室で藤本主税がバスケットゴールにシュートを入れたのを見て驚いたこと。札幌での壮絶な打ち合いの末に降格してしまったこと。J2勢ながらスーパーカップを制覇したこと。Jリーグ立ち上げ時のチームとしてようやく年間優勝したこと。次はクラブワールドカップ。どんな記憶を残してくれるだろうか。





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3198字に込めた“チャンピオン・サンフレッチェ”への想い-サンフレッチェ広島×セレッソ大阪【Football Beautiful】

>>sugarbabyさん

コメントありがとうございます。

きっと私よりも長く、熱く応援しているサポーターだと推察します。

今回の優勝を追い風に、さまざまなことがいい方向に転べばと思います。選手の流出はどうしようもない部分かもしれませんが。

やはり新しいサッカー専用スタジアム。広島県民ではないですが、強く願うばかりです。

3198字に込めた“チャンピオン・サンフレッチェ”への想い-サンフレッチェ広島×セレッソ大阪【Football Beautiful】

初コメント失礼します。
とても興味深く拝見いたしました。ココロのこもった文章だと思います。

私事ですが、埼玉遠征に向かった者であり、あの敗戦はムダではなかったと月並みながら思う次第です。

今後のゆくえについては、特に同感です。
主力選手の流出が毎年のように行われる(であろう)現状を打破するためにも、そういった結果が求められるのだと私も思います。いつか負けが込んできた時、その時こそポイチさんの腕の見せ所でしょう。

いや、しかし・・・現役時代大好きだったぽいちさんと森崎ツインズと寿人のアテネ世代が一緒にシャーレを持つ写真。泣くなというほうが無理です^^


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