2006年03月31日
つまり気味の小フライが三塁前に上った。目の前にポトリと落ちた打球が妙な転がり方をして三塁手は捕りそこね、あわて、本塁への送球が乱れ、同点に追いつかれ、サヨナラ負けの元になった。センバツ大会、5日目(3月27日)第2試合、愛知啓成-金沢桜丘戦、1対1から9回表、金沢桜丘が2点を加え、にげきるかと思われた9回裏、愛知啓成が1点差に追い上げ、さらに一死満塁の場面。
先に金沢へ取材に出かけたばかりの「ベースボール・クリニック」の稲富浩子記者が「ずっと土の上の練習ができなかったんですからね」と同情した。雪に覆われた雪国の冬の球場のわびしさをよく知っている身としても、「泣きじゃくっているだろうな」と同情したくなった。だが、翌日の新聞をみると、選手たちは「次は夏だ」と明るく笑顔だったというからホッとした。
1イニングに9点を取られてもあきらめず逆転勝ちしたり(今治北)、5回終わって2対8から試合をひっくり返したり(秋田商)、逆転劇続出で春の大会は波乱が続いている。微妙なアヤが勝負の流れを変える野球の面白さを満喫する。
公式戦開幕のプロ野球のほうも、話題のギンジロー君はじめ若者たちがピチピチと動き出し、新鮮、気持ちのいいスタートだ。開幕2試合目、「10代バッテリー」で勝った西武のメンバーの新鮮な変わりように目をみはったが、これも昨年のチャンピオン、ロッテの西岡剛や今江敏晃が強い刺激剤になっている、と見た。ソフトバンクの王監督も、開幕2試合、7打席ノーヒットのルーキー松田宣浩三塁手を「ずっと(先発・三塁で)使い続ける」と名言、次代の主役に育てる意向のようだ。他チームで実績をあげたベテランを引っぱってきては使い捨てていくチーム(かなり反省しているようだが)に比べ、「新鋭育成」のほうがずっと気持ちがいい。
「10代バッテリー」で賑わったスポーツ紙の中で、「川上(哲治)‐吉原(正喜)以来」(1938年、熊本工から巨人入りした巨人のバッテリー)と書いた人もいたが、そんな“むかし”から、私が実際に見聞きした“10代投手”では、梶本隆夫、稲尾和久、鈴木啓示、江夏豊、堀内恒夫……などなど。日本プロ野球史に一時代を築き上げた錚々たる男たちが数えきれないほど、いる。そして、そういう男たちを育てあげるところからチームの伝統が受け継がれていく
他チームの出来上がった選手を大金を投じて連れてきては失敗しているチームの幹部は、そのことを肝に銘じるべきだろう。
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第181回~第200回 |
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2006年03月23日
聞けば、いまメジャー・リーグ関係者が、「状況が許せば……」という仮定にたってのことではあるが、「大金を投じてももっとも獲得したい選手」は、キューバのグリエル二塁手だという。WBC決勝戦、6対5と1点差に迫られた9回表、一死一塁で、日本チームの2番打者・西岡が、そのグリエルがダッシュして打球をつかんでもどこへも投げられない絶妙なプッシュバントを決めたとき、私は勝利を確信した。「打って、走って、守るニッポンの野球」が世界を制したことが嬉しくてたまらない。
みんな、すばらしかった。準決勝の対韓国戦で、大量点の口火をきった二塁打で頭から滑り込んで左コブシでベースを殴りつけた松中。あれで気合が入った。決勝戦で二度エラーした川崎がイチローの右前安打で二塁からのホームインも捕手のマタの間から右手でベースにタッチする“感動もの”だったが、起き上がってベンチに帰る顔や姿が、一種、放心状態のようで、そこまで凄いプレッシャーと戦っていたのかと心に響いた。
韓国の右翼手の再三のファインプレーにうなっていたら“こっちも見せてやろう”とばかり左翼ファウル・フライを体当たりで捕ってみせた多村の超美技、2 度目の韓国戦で返球を落球して「日本へ帰られない」と落ち込んでいたという今江が決勝の1回、日本に勝利への意欲をもたらした満塁での中前タイムリー。みんなみんな、すばらしかった。
中でも、やはり、特筆大書したいのはイチローだ。声をあげ、体をふるわせ、体いっぱいに喜怒哀楽を表現して、打ち、走り、守った姿に全選手が強い刺激を受けたはずだ。イチローは「野球少年」に戻ったのだと思う。日本で数々のタイトルをとってももの足らず、渡米して記録を作って、チームの低迷で野球を楽しめなくなった男が、久々に思いっきり野球に没入して「野球の歓喜」を歌いたくなった場所、それが「JAPANチーム」だったことを私たちはあらためて喜びたいと思う。
そして、優勝した翌日、「(みんなと別れたくなくて)一度、一緒に成田まで帰って、そこからあらためてアリゾナ(のキャンプ地)へ向かおうかと思った」というほどのナインとの一体感をもった「JAPANチーム」。これは、いまの日本の12球団全部に与えたなによりの教訓となったはずだ。
さあ、いよいよペナントレース開始。チンタラチンタラ・プレーを続けるチームや選手たちには、JAPANチームのビデオテープを送りつけてやろう。
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第181回~第200回 |
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2006年03月15日
大会には出場していないカージナルスの選手までが、同僚の日本人選手、田口壮選手に謝ったという。WBC、日本-アメリカ戦の、例の「誤審」(と、あえていう)事件。記者席のテレビも何度もあのシーンをリプレー、そのたびにアメリカ人記者も肩をすくめ、中には「恥ずかしい」とつぶやいた記者がいたと聞いた。
翌日、アメリカが韓国に大敗した夜、「アメリカが彼を必要としたとき、彼=ボブ・デビットソン審判はどこにもいなかった」(CBS電子版)という皮肉報道が流れたのも、「誤審で勝った」といわれる恥かしさの裏返しだろう。まったくへんてこりんな大会になってしまった。
ほとんどがアメリカ人という審判員構成をはじめさまざまな大会運営の不手際が指摘されているが、そういうことを覚悟の上で臨んだ王貞治監督やイチローら出場選手の胸中を察すると、いじらしく可哀想になってくる。王監督は、石井弘の故障で、代わって自チームの馬原投手を選んでチームに参加させた。ほかのチームの選手に遠慮して、自分があえて“犠牲”になったのだろう。そういうところが、いじらしいのだ。
3月13日付け「東京中日スポーツ」で作家の海老沢泰久氏が「ワールド・ベースボール・クラシックの日本代表の統括者は誰なんだろう」と根本的な問題を鋭く衝いていたが、同感だ。なにもかも王監督に依存して平気な顔で見ている“組織なき組織”に強い怒りもおぼえてきた。
だからよけい、敗れれば自分ひとりの責任のようにいい、アメリカに渡っては身銭をきって焼肉パーティに選手を招いて励ますイチローの、まさに身を挺しての尽力ぶりが光って見える、「プロは、勝っても負けてもお客さんに喜んでもらえるプレーを見せること」とはイチローの名言だが、この大会に一身を賭けたイチローの言動を、日本にいる選手たちはあらためてかみしめるときだろう。
この大会のせいではないが、国内の春のオープン戦も、なんとなく活気に乏しい感じがする。梅や桜の前線の北上とともに“プロ野球シーズン近し”という躍動感が感じられないのは何故なのか、大会に参加していない関係者はもっと深刻に考えなければならない。
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2006年03月08日
自分でもアキレたが、WBC第1次リーグ、4日の韓国-中国戦を観戦していて、ガイドブックを持っていなかったせいもあって、つい、「3番を打っている韓国のDH、すばらしい打者だね、ひときわ光ってみえる」などと言ってしまった。「なにをいっているんだ。イ・スンヨプ(李承燁)じゃないか」と隣席から大いにバカにされたものだが、あらためて韓国、台湾、中国3チームの試合ぶりをじっくり見て、さまざまな意味で興味が増した。
もっとも興味をもったのは、中国の野球選手がどんなプレーを見せるだろうかという点だった。すでに多くのメジャー・リーガーを生んでいる日本や韓国と違って、こと「野球」に関しては“発展途上国”といっていい中国の選手が、どんなプレーで日本や韓国とわたり合うのか。
聞けば、ラフィーバー監督の悩みは「実戦」が少ないことだという(昨年の中国プロ・リーグは1チーム30試合だけだったそうだ)。それにしても、併殺プレーやバックアッププレーもキチンとしていて、その練習ぶりが窺えた。みんな体格がいい。08年の北京オリンピックまでには、かなりのチームになる、と見たが、ポイントは投手陣だ。自国内の打者相手だけでは、どうしてもピッチングの幅が広がらないだろう。野球のレベルの高い国の打者相手の実戦による錬磨がどうしても必要になってくる。ラフィーバー監督が、どうやって投手陣のレベルをあげていくのか、そこがカギだ。
4、5の両日、午前11時からの試合、プレーを続ける選手には気の毒なほどスタンドはガラガラだったが、ちょっと目立ったのは、少年ファンが意外に多かったことだ。グラブを手にした少年ファンの姿を見るのは嬉しいことだが、それにしても入場料の高さは、どうだ。昼の試合が5000円で、日本代表チームが出場した夜の試合がひとり1万6000円。これでは、まるで、“野球ファンを遠ざけている”金額設定ではないか。もっと気軽に“ほかの国のベースボールを見たい”という気にさせてくれる金額設定はできなかったのかと、空席の多いスタンドを眺めて悔しくてならなかった。
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2006年03月02日
たとえば「週刊ベースボール」3月13日号のうしろのカラー頁に掲載されていた阪神のルーキー・前田大和遊撃手の話。紅白戦に先発出場してすぐ、盗塁王・赤星の打球が三遊間深くに飛んだ。「普通ならあわてまくるところ。が、この天才少年は、サッと走ってバックハンドのグラブにおさめるとノーステップでノーバウンドの一塁送球。いとも簡単にアウトにしてしまった」という。「かわいいし、うまいねぇ。センスあるねぇ」が今岡の言葉で、「吉田(義男)と三宅(秀史)とタイラ(藤田平)を足して3で割った守りや」というのがネット裏の評価だったという。
こういう話を聞くと、“あ、春がきたんだな”と思う。毎年、キャンプが終って実戦段階に入り、あちこちから思いもかけなかった新戦力のきわだったプレーや、昨年まではカゲにかくれていたのにグングン台頭してきた選手の活躍ぶりを見たり聞いたりすることが一番、楽しい。
今季のルーキーでいえば、たとえば初オープン戦初打席で逆転サヨナラ3ランを打った日本ハムの川島慶三内野手とか、広島とのオープン戦初戦に「4番・三塁」で先発出場してホームランを打ったソフトバンクの松田宣浩内野手とか、公式戦に入れば出番はなくなるかもしれないが、たとえファームであっても“よし、これからずっと成長過程を見続けてみよう”という気になってくる。そこが楽しい。
ルーキーでなくても、またたとえば、もう9年目になる楽天の森谷昭仁外野手の“足”に野村監督が興味をもちはじめたという話。近鉄時代、ウエスタンで3 年連続(00年~02年)盗塁王になった快走。昨年は楽天で8試合出場でノーヒット、0四球。代走で1盗塁という選手が起用が多くなったらどんな走りっぷりをみせるか。これも、今の季節だから“楽しみ”ということになる。
まだ、ある。森谷の背番号は「00」だが、「背番号202」という選手、中日の竹下哲史内野手。今季からの支配下登録もされていない「育成選手」のひとりが対外試合初出場で「歴史的初ヒット」を放ったというニュース。年俸僅か300万円で、まだ入寮も許可されていない環境で「支配下登録」を夢見る青年。こういう男たちの足跡をじっとみつめていきたいとも思う。
WBC日本代表チームの練習試合では相手チーム打者の打球が右翼方向へ上がっただけでスタンドはどよめいた。“イチローの守備が見られる”というどよめきだ。打つだけでなく、守っても走ってもファンに喜んでもらえる選手でありたいと常に、いっているイチローらしい風景だった。イチローは、久しぶりの日本のベンチでノドがかれるほど大声をあげつづけている。全力をあげ、緊張感の中でプレーに打ちこむ喜びのハスキー・ボイスだ。
ルーキーも、長い間下積みの苦労を続けてきた選手も、“雲の上のイチローのようなプレーを”とは、いわない、せめて、野球に対するイチローのような”真摯な姿勢を”と願わずにはいられない。
posted by 田村大五 |00:00 |
第181回~第200回 |
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