2004年06月30日

白球の視点 第148回

 なにかざわざわと心落着かぬ日々、1通の封書を開けて襟を正した。
 
--どうか(略)、自分自身を悲劇の主人公に仕立てていたずらに悲憤慷慨したり、「そうらみろ、だから言わんこっちゃない」と、鬼の首をとったように関係者各位に”自己責任”をなすりつけたりという、感情に流されるままの言動をこらえていただければーー
 
--卑屈にもならず、といって居丈高になることもなく、かつ、センセーショナルな、そうでなければ、まるで他人事のようなマスコミの報道に惑わされる事もなく、パ・ファンとして毅然とした態度をとっていただければーー
 
--どうか、さまざまな感情を”平常心”でくるみこんで、いままでと変わらず「パ」を見守ってーー
 
--いままで通り、あるいは、いままで以上に、球場に足を運んで、またはTV中継で「パ」の試合を観戦して、「パ」の選手たちのプレーを見て下さい。彼らのプレーの中に、球場の中に、「パ」ファンとしての私たちのこれから進むべき道について、なにか答えやアドバイスがみつかるかもしれませんーー
 
 熱烈なパ・リーグファンの集まりである「純パの会・関西本部」編集の「純パ・ニュース 125号」(6月25日発行)に掲載された「編集部よりのお知らせとお願い」の中の一部引用である。
 
 一読、粛然。特に「いたずらに悲憤慷慨したり、鬼の首をとったように関係者に”自己責任”をなすりつけたりという感情に流されるままの言動」とか、「センセーショナルな、そうでなければ、まるで他人事のようなマスコミの報道」というような指摘には、私自身への戒めとも受け取り、身を正して読んだ。
 
 連日、さまざまな、複雑微妙な感情とともにパ・リーグの試合をTV観戦している。ダイエーの松中、城島の連続本塁打に唸ったり、西武・松阪、近鉄・岩隈両投手の投げ合いにシビれたり、”こんなに素晴らしいリーグをなくそうというのか”と、つい、「純パの会」のご指摘にかかわらず、自宅でひとり声をあげてしまってハッとする。
 
 それにしても連日、”雑音”の中で力いっぱいのプレーを続けている選手たちの姿を球界幹部たちはどんな思いで見ているのだろうかと、これまた、つい、「感情」が高ぶってしまう。無力感に苛まれつつ、”自分にできることは何だろう”と考えこんでいる。

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2004年06月23日

白球の視点 第147回

 自宅近所の人との朝の挨拶からはじまって、少年時代の同期会、夜の行きつけの店の主人夫婦、常連客、昼は取材や打ち合わせで会う野球関係者……もう朝から夜まで、顔を合わせる人との会話の第一声は「いったい、どうなるんですかねぇ」だ。もう、いまや当該のオリックスと近鉄だけの話では、ない。「いったい、どうなる?」は、「日本のプロ野球」そのものを指している。もはや「国民的関心事」といっていい。

 日本経済新聞のスクープから始まった今度の騒ぎは、まだ具体的な細部がわからないうちにたちまち「1リーグ制」論議が支配的になって、噂だけが雪だるま式にふくれ上がってひとり歩きしたところに特徴がある。50年以上も慣れ親しみ、プロ球史に名を残す大スター選手、個性派選手を生んだ球団が消えようかというとき、問題が明るみに出てから10日も経ったプロ野球実行委員会で、未だ合併の「手続きをすすめることだけ了承」という、ただそれだけの発表しかできない関係当局幹部の超スローモー対応。

 プロ野球全体がどうなるのかとまで心配しているファンと、およそ切迫感を感じさせない関係幹部の能面のような表情を見ているとイライラしてくる。

 短期間では片付けることのできない複雑で微妙な問題が山積していることはわかる。それにしても、だ。

 約40年前、ドラフト制が12球団の合意を得てスタートするまで一緒に当時のパ・リーグのオーナー、球団幹部の精力的なセ・リーグ幹部への説得行脚に随伴して取材を続けた元新聞記者(長らく球界幹部として影響力をもっていた)と、最近、他の用事で会ったら「あの頃、ドラフト制を成立させなかったらプロ野球はダメになると立ち上がったパ・リーグの幹部には情熱があった。野球への夢があった。野球への情熱があった。なのに、いまは……」とタメ息をついた。「自分たちで作ったドラフト制を骨抜きにして、上限を決めたはずの契約金もたちまち破って、ウラ金も見て見ぬふり。あげく“もう球団経営はやっていけません”といっても、なぁ」。

 みんな「危機だ、危機だ」というだけで、まるで他人事のように事態の推移を“見ている”だけだった。この10日間、いまだ「合併」と「合併後」の具体的な方策がなにひとつ浮かび上がってこないのは、その象徴だろう。

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2004年06月16日

白球の視点 第146回

 「みんなが納得するような万全で、抜本的な改正をやるには2、3年はかかるだろう」といわれる“プロ野球の憲法”野球協約の改正問題から、選手の救済まで。プロ野球を震動させた今度の「オリックス―近鉄合併は、大袈裟でなく数えきれないほどの難問題を抱えている。

 これまでも球界幹部から各球団の幹部、選手会も含めての真剣に話し合ってひとつひとつ乗り越えてこなければならなかった諸問題を、いずれも“先送り”してきたツケが、今度の合併話で炙り出てきた感じだ。

 なにから語っていいかわからないほど複雑な問題がからみ合っている。たとえば、合併話と同時にひとり歩きを始めたような「1リーグ制論」にしても、むしろ困惑しているのは、いまのセ・リーグ各球団のほうでもある、というふうに、今度の合併話は、“パ・リーグが5球団になる、奇数球団では日程編成ができない、だから・・・”という単純な話ではないのだ。「プロ球団の経営とは?」という根源を問われている。だから、みんなが頭を抱えている。

 そういう重大問題山積の中で、小さなことかもしれないが、合併話が明るみに出てからずっと気になってならないのは、やはり若い選手たちのことだ。両チームが合併したら単純計算で135選手。支配下選手ワクを80人に増やしても55選手は淘汰されてしまう。早くも、岩隈久志投手や中村紀洋内野手は、どのチームへ行くのかなど騒いでいる人たちもいるようだが、問題は、その「55選手」、いずれも将来性ある若者たちだろう。10年目に一気に台頭してきた“赤ゴジラ”(嶋重宣)のような選手がいるはずである。そういう選手が消えていってしまうことが気になってならないのだ(たとえば、ウエスタン・リーグの“ただいまホームラン王”の山下勝巳内野手のように、なんとか救ってあげたい選手は、いっぱいいる)。

 社会人野球が手をさしのべるという話もあるが、選手として生きて行く土壌が違う。大量の淘汰が始れば“冷たいプロ野球”というイメージも広がるだろう。だから、これは合併する2球団の問題ではない。プロ球界全体にかかわる大問題なのだ。

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2004年06月09日

白球の視点 第145回

 ダイエー・松中信彦と西武・和田一浩の力感あふれる連日の猛打に強い興味と関心をもって日々のバッティングを凝視している。

 6月8日現在、松中は.372という高打率で、ずっとパ・リーグ打撃成績のトップを走り続けていた日本ハムのセギノールに代わってトップの座に立った。ホームランも和田が連発すれば松中もすぐ打ち返して、もう20本台に入った。こちらもセギノールのホームラン数を越えるのは、もうすぐという感じだ。

 松中と和田は、打点もダイエー・城島健司に次ぐリーグ2位と3位。ともにプロ入り8年目で1歳違い。リーグ優勝を争うチームの選手会長で4番打者。小久保が抜けたあと城島とともに打線の芯棒となった松中と、カブレラ故障欠場の間に台頭してきた若手打線をグイグイ引っ張る和田の気力充実ぶりが窺える。チームの勝利に直結している内容の濃いバッティングで、見ているほうも力が入る。

 巧打、好打の連打ももちろん、見ていて小気味いいが、巨体(2人とも180cm、90kgを越える堂々たる体躯だ)からの試合の動向を左右する豪砲一発の打ち合いを見る快感は、なんともいえない野球観戦の醍醐味だ。きわどいゲーム差を競り合う豪快男同士の打ち合いを堪能(たんのう)できるのは、いつ以来からだろう、過去の強打者たちの打ち合いを楽しく思い出してみたのも一興だった。

 古くは“ホームラン王・中西太”に挑んだ山内和弘や野村克也たちの打ち合い、野村が王座に君臨するようになると長池徳二や大杉勝男らが果敢に挑戦した。セ・リーグではON時代の中日・江藤慎一や阪神・田淵幸一らの強打の応酬。「パ・リーグの三冠王・落合博満」には、「不惑の挑戦」といわれた南海・門田博光の反撃があった。

 いずれも豪快味たっぷりで、気力にあふれたバッティングがペナントレースを熱いものにしたものだった。04年の松中と和田の熱気に満ちた打ち合いは、そんな“輝ける球史”の復活を感じさせるに十分だ。それに、あえて故障癒えた日本ハムの小笠原道大も加えよう。願うのはただひとつ「彼らに大きなケガのなきように」それだけだ。

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2004年06月02日

白球の視点 第144回

 ダイエーの杉内俊哉投手が、自分の不甲斐ないピッチングにハラをたて、ベンチの椅子を殴りつけ、両手の小指のつけ根を骨折したというニュースを聞いたときは驚いた。なにかの間違いではないかと思った。右手だけならまだしも、こともあろうになによりの”財産”である利き手の左手で堅い椅子を力いっぱい殴ったというのだから。なによりも体が資本、わけても左腕投手にとって球を握る左手は、なによりの”生命”だ。それを、みずから傷つけるとは”なにかの間違い”と考えたくもなろうというものだ。翌日、関係者に電話で聞いたところによると、杉内の”荒れよう”を見た城島が、杉内が左手をあげたとき「利き手だけはやめろ」と叫んだという。”さすが城島”というところだが、興奮状態に入っていた杉内の耳には、その声は届かなかったようだ。
 
 左腕の血行障害や腰痛などが重なって思うようなピッチングができない苛立ち、自分の不甲斐なさへの自責の念はわからないでもない。それにしてもーーと、一日過ぎたいまも、昨年の、あの小気味いい杉内のピッチングを思い浮かべて呆然としている。
 
 ”連続試合出場の衣笠祥雄選手”は、タクシーに乗るときでも、自動開閉のドアに体の一部でも当りはせぬかと気にしておそるおそるシート座席に着くほど慎重だった。「もし手でもはさまれたらと考えると恐ろしくて」と神経をとがらせていた。”盗塁王・福本豊選手”は、高ぶる神経を鎮めるために深夜の海辺で心が落ち着くまでひとり釣り糸を垂れていた。みんな、そうやって心と体のバランスをとることに努めた。”鉄腕・稲尾和久投手”は、風呂の中でも、お湯の抵抗を利用して”指の強化”を続けたが、それも「指がふやけないように」一定の時間がくると指だけをお湯の上に出すなどして”指”に気を遣った。
 
 グラウンド上のプレーだけでなく、そういう”細部への配慮”からして「プロ」だった。
 
 起きてしまったことは、取り返しがつかない。伝えられる王監督の言葉ではないが、チーム全体がこれを教訓としてプロとしての”体への配慮”につなげていくしかない。杉内投手の一日でも早い回復を祈るばかりだ。

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