2002年12月24日

白球の視点 第77回

 「中村紀洋、近鉄残留」のニュースが流れた夜、自宅に10通ものメールが入っていた。いずれも「よかった」、「ホッとした」というものだった。私も同じ思いでいたから、すぐ返事を打った。

 「中村紀洋本人のためにも、パ・リーグのためにも、いや日本球界全体のためにもいい選択をしてくれたと大歓迎」と。

 中村の近鉄残留をめぐっては、推測も入りまじって諸説ふんぷん、中には、そこまでかんぐらなくてもいいのに……と思うようなウガッた説もあったが、私にいわせれば、もうそんな推移などにこだわることはない。今度の中村の選択は「野球の神に誘(いざな)われた」のだ。中村個人にもパ・リーグにも、日本球界にも野球の神様が“そうであってほしい”と願った、その道を中村が歩いていったのだと思いたい。

 「(決断する以前の)夢はメジャーだった。しかし、これからの夢は近鉄が日本一になることだ」という、その言や、よし。「中村が“その気”になった近鉄は要注意だ」とハワイから帰国するやすぐ感想を洩したという西武・伊原監督の気持ちが、わかる。そうであってこそペナントレースは面白くなる。

 優勝チームにライバルの4番打者が入団したって面白くもおかしくもない(巨人とペタジーニのことだ)。強者に対して、戦力では劣るとみられているチームが刃向かって倒すところに観戦のひとつの妙味を感じているひとりとして、だから、2002年の下位チームがどうやって戦力を整い直して2003年へ向かっていくのかが、いまの興味の中心になっている。

 その意味で12月24日付けの日刊スポーツ(関東版)の一面、「オリックスが前エクスポズの吉井理人投手獲得に乗り出す」という記事に注目した。もしそうなら、そしてもし獲得できたとしたら、看板選手は谷佳知外野手ひとり、“みるべきものなし”とまで酷評された最下位チームに、同じくアメリカ帰りの鈴木誠投手とともに大きな“みどころ”ができる。

 そうやって、どのチームにも“みどころ”がほしいのだ。“1チームだけ強けりゃいい”という球界では、いずれファンから見放されると思うからだ。

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2002年12月17日

白球の視点 第76回

 「週刊朝日」12月27日号によれば2002年は「涙の年」であったという。そういわれればプロ球界でも、何度も様々な意味での「涙」を見た。

 ヤクルト・池山隆寛選手引退表明のときのユニフォームを着た息子さんの涙には少年特有の甘ずっぱさもにじんでいて心にひびくものがあったが、最近の契約更新時の“涙顔”の選手の写真をスポーツ紙で見ると、なんだかやりきれなくなってしまう。自分では精いっぱいやったつもりのプレーに対する評価が、自分の意図するものに比べてあまりにも低すぎるという悔しさからだろうが、それにしてもあんなところで、大の男が“お金の額”のことで泣き顔を見せるなんて、本当のことをいうとウンザリだ。

 「こういう不景気の世の中、やれ5000万円足りないとか1億円に達しないとかいわないでもっとスッキリできないものかね」といったのは西武・伊原監督だった。そうだよ。なけなしの小遣いをためてやっと月に一度、高い入場料を払って胸をときめかせて球場にかけつけ、たまたま凡試合につきあわされてしまったファンの気持ちを選手は考えたことがあるだろうか。選手の中からも、伊原監督のようなニュアンスを含めた言葉に出会いたいと思っていたら、あるパーティーで出会った巨人の幹部から阿部慎之助の話を聞いた。

 なんでも、契約更改の席に向かう前、担当記者たちとのやりとりで「今年の成績からいって1億円はイケる」としきにけしかけられたそうだ。だが、阿部捕手は「まだまだ“1億円の選手”というほどの選手ではない」といい、「こういう世の中ですから・・・」と球団の提示額(7800万円=推定)通りに一発サイン、そのことよりも契約更改前に訪れた「アフガニスタン写真展」で受けた衝撃を語り「日本は恵まれている」と年俸の中から寄付を申し出たという。

 横浜の石井琢朗、ヤクルトの岩村明憲両選手のように新たに基金設立による社会奉仕をスタートさせた選手もいる。年俸のアップ額、ダウン額をめぐって“グラウンドのヒーロー”がメソメソ泣くなんてシーンはゴメンこうむりたい。

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2002年12月10日

白球の視点 第75回

 球場正面入り口を入ると高い高い天井だった。入ってすぐ右手の関係者食堂には、古いフランス映画の1シーンを思わせるような”時代もの”の扇風機が、やはり高い天井に水平にとりつけられていてソヨソヨと微風を送っていた。テレビの大相撲中継を見ながらバルボンさんが「左四つになったで。こいつの得意や。イケるでぇ」などと”解説”していた。

 懐かしの阪急・西宮球場。数々のドラマの舞台となってきた西宮球場がとりこわされるということで8日、かってはBクラスが多かった阪急ブレーブスをパ・リーグを代表する”優勝チーム”へと導いた西本幸雄・元監督はじめ約100人ものOBたちが集まって同球場に別れを惜しんだという。

 私はスポーツ紙の西鉄ライオンズ担当記者として昭和30年代から40年代にかけてよくかよった。当時、他の球場には見られないゆったりとしたネット裏指定席、スタンド上段の広い通路には歴代の”勇者たち”の写真が掲げられていて独特の味があった。阪急ブレーブスというチームは、シブいが実力のある、したたかないいチームだった。デイリー・スポーツ(東京)の記事によれば、西本さんは、グラウンドに降り立ってスタンドを見上げ、集まった人々の顔を見、「(野球人として)人にも時にも場所にも感謝したい」と語ったという。西本さんらしいいい言葉だった。

 ひとつの壮大な野球史の舞台が消えてしまう-と感傷にひたっていたとき、戦前から戦後にかけての巨人・黄金期の名二塁手・千葉茂さんの訃報に接して愕然とした。野球体育博物館の図書室でしょっちゅうお会いし、つい先日も、私が出たとき千葉さんが入るときで、ドーム球場の外で30分間も立ち話をしたばかりだった。いつも飄々としていたが、ボキャブラリーは豊富、文学や諸芸術に通じていて語りつづけて飽きない人だった。

 千葉さんのことだけでもひと晩じゅう語りつづけても語りきれないほどの思い出があるが、ここではただひとつ、最近よくいわれたこと、「どうも、いまどきの野球、余裕がないな。ギスギスしすぎる」という言葉をあげておこう。このひと言、考えようによっては、ありとあらゆることにあてはまらないか。

「野球」を「野球」として、もっと素直にたっぷり楽しもうよーーと西宮球場も千葉さんも語りかけてくれたような気がして、ひとり、大酒を飲んで偲んだ。

posted by 田村大五 |00:00 | 第61回~第80回 | トラックバック(0)
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2002年12月03日

白球の視点 第74回

 メジャー・リーグもなにかと大変らしいということは、外電や、折にふれて関係者から聞く話などで知らないでもなかったが、ニューヨークから直接、そのことに触れたメールが自宅に届くようになると、さすがに心穏やかでない。

 やれワールド・シリーズのテレビ視聴率が史上最低(11.4%)だったとか、そのワールド・シリーズでいえば、勝ったチャンピオンのエンゼルスの幹部が「それでも球団売却の方針に変わりがない」と明言したというニュースなどに接すると、オイ、オイ、オイと声をあげたくなってくる。

 やれ10億だ、20億だ、30億だというようなスター選手の巨額の報酬が話題になる一方で、とうとう年間観客動員数100万人を切った球団(エクスポズが81万人だったという)があるとか、経費削減のためマスコットを馘首したという話もある。また、外電によればメッツは相手球団と開催日によって入場料を 4ランクに分け、なんとか観客減に歯止めをかけようとしているそうだし、ヤンキースなど“金満球団”も課徴金制度(選手の年棒総額が1億1700万ドルの基準額を超えると超過額に17.5%の“ぜいたく税”を課徴する)による“減収”におびえ、その対策に大わらわで“金満球団”になるのも良し悪しだというから笑えない。“アメリカのこと”といってはいられない思いに包まれ、ゾッとする。

 そういう状況だからなのだろう、「大金補強だけではいいチームを作ることはできない」という声がジワジワと球界の底辺から湧き上りはじめたという。その象徴が、削減対象球団といわれながら大健闘、「ベースボール・アメリカ誌」に「最優秀球団」ともちあげられたツインズであり、マイナー・チームの戦力育成力を注ぎトップの座にのぼりつめたエンゼルスだろう。

 そういうもろもろの最近のアメリカ球界の動揺を“他人事”と見てはいられないことを、いま日本球界の幹部は深刻に受け止めなければならないのに、そういう議論が希薄なことを憂える。

 これは、松井秀喜がアメリカに行くということ以上に大変なことなのに……と実は、気が気でないのだ。

posted by 田村大五 |00:00 | 第61回~第80回 | トラックバック(0)
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