2002年11月26日

白球の視点 第73回

 社内のエレベーターで顔を合わせた営業部のひとりが私に向かって「大の巨人ファンの女房までが、今度の”ペタジーニ獲り”にシラけて怒ってますよ」と口をとがらせて、いう。巨人ファンの中でも、同リーグ内のライバルの四番打者を奪取していく巨人の手法にシラけ、不快感さえ感じているようであることは、巨人ファンであることで知られるあるテレビ・キャスターが自分の番組で、やはり似たような発言をしていたことでもわかる。

 「なんとか、戦力の一極集中を防ぐ方法はないものか」といったのは、「季刊ベースボールマガジン・冬季号」(シーズン決算号)の企画で久しぶりに谷沢健一さんとじっくり話し合った席で、だった。「シーズン決算」の話は読んで頂くとして、本題が終わったあとも話に花が咲いてなかなか席を立てなかったのだが、その中のひとつ、ファンの中でも実現を希望している人が多く、選手会も独自の方法論を提案しているが、セ・リーグの反対もあってなかなか実現の方向に進まない両リーグ交流試合について興味深い話を聞いた。

 ある機関で、交流試合を実現した場合の観客動員についての試算をしてみたら、巨人を除くセ・リーグ5球団の観客動員数がかなり下回ったという。その数字がセ・リーグ球団だけでなく、機構にも伝わっており、それがなかなか交流試合実現に踏み切れない原因にもなっているのだそうだ。

 だが、そこで、谷沢さんはいうのだ。

「そうであれば逆に、交流試合をやってみてそういう現実をみせつけることによって、パ・リーグの観客動員の少ない球団に強い反省を求めることができないかなぁ。ファンに愛されるチーム作りの努力を怠っている、営業努力も足りないんだという厳しい現実を、そういうところから学んで貰う、そこで奮起を促す、そこから全体の、球界あげてのレベルアップを考えるという方向に向かえないものか。そうでもしないと、戦力、観客動員の較差は、ますます広がる一方になりますよ」。

 両リーグが切磋琢磨、競争してプロ野球全体の興隆をめざしてほしいというのが念願の私としても、ウームと考えこみ続けた一日だった。

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2002年11月19日

白球の視点 第72回

 18日に行われたセ・リーグのJCB・MEP賞の表彰式で最優秀選手に選ばれた巨人の(アッ、もう巨人の選手ではないのか)松井秀喜選手が受賞のあいさつで「他の5球団の選手(ヤクルト・岩村明憲、中日・川上憲伸、阪神・浜中おさむ、広島・新井貴浩、横浜・吉見祐治)はみんなぼくより若いのを見て歳月を感じた。来年からはぼくを乗り越える成績をあげて欲しい」といったのを聞いて、あらためて松井秀喜という男の存在感を感じた。

 ずっとシーズン、フル・イニングス出場を続けている松井を見ながら今季はじめてフル・イニングス出場を果たしたヤクルトの岩村は「これだけは続けて松井さんのように“ミスター・MEP”と呼ばれるようになりたい」という。公式記録のタイトルではなくても、こういう賞は選手の励みになるものだと思ったのはそういう岩村のコメントやファンとの記念撮影にニコニコと応じる広島の新井のシンから嬉しそうな表情に接したときだ。

 JCB社長の「体力のある限り続ける」という言葉にホッとしたのは、その約10日前、すっかりファンの間にも定着した感のある、最優秀リリーフ投手に贈られる「ファイアマン賞」が今年限りで打ち切られることを、表彰式で知ってガク然としたからだ。

 その表彰式で西武の豊田清投手は「(この賞の)計算方式も知っていたし、投げながらいつもこの賞のことを考えていた」とファイアマン賞が励みになっていたことを明言した。そういう賞がなくなってしまうことに場内はざわめいた。

 前年まで、この賞独特の“火消し纏(まとい)”を受賞者に着せるセレモニーもすでになかった。かつては江夏豊投手も佐々木主浩投手も喜々として体にまとい、昨年アメリカからかけつけたロドニー・ペドラザ投手(当時福岡ダイエー)の両親も日本情緒たっぷりの異色の賞に「ワンダフル」を連発していたものだった。

 22回も続いたファイアマン賞の提供社の幹部は「野球だけでなく、あらためて全文化事業をイチから見直すということです」と語っていたが、日本経済はそこまできたのかと衝撃を受けた。どこかに奇特なスポンサーはいないものだろうか。

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2002年11月12日

白球の視点 第71回

 日米野球第2戦、巨人の上原投手に抑えられ、日本に大きくリードされた6回頃のアメリカ選抜チームのベンチの表情は(あくまでテレビ画面にクローズアップされた顔の印象だが)、真剣そのものだった。「日本には、まだこんなにすごい投手がいるのか」という驚きと打てない悔しさがまじりあって、まるで公式戦のときのような思いつめた表情をしいぇいた。8対1という大差から終盤、少しでも差をつめていったのは彼らのプライドだったのだろう。だが彼らの真剣さには好感がもてた。

 その夜、1年間のうち半分はニューヨークで過ごしているNさんからショッキングなメールを頂いた。

 なんでもいまは、三塁手難で、だから、メジャー関係者も日本の中村紀洋にかなり強い関心を持っているのだとか。それは、それほど驚くことではないのだが、驚いたのは、そのあと「だから日本の若い三塁手にも目が注がれていて、ある球団関係者から聞いた話では早くも巨人の福井敬治選手に注目している」という情報だ。

 メジャーの調査はそこまできているのかという驚きと、そこまで三塁手難に陥っているのかという驚きが交錯して考えているうちに妙な気持ちになってきた。

 というのは、ちょうどその日の昼、「野球カード・ショー」の「トーク・ショー」で、かっての西鉄ライオンズの名三塁手(ホント、守備がうまかったんだ)中西太さんと同席になり「長嶋茂雄三塁手」の話が出たりしたばかりだったからだ。一時代前は、南海ホークスの鶴岡一人三塁手とか、「初代ミスター・タイガ-ス」といわれた阪神の藤村富美男三塁手とか、中西三塁手から長嶋三塁手へと「名三塁手の時代」はずっとつながっていた。

 大洋・桑田武、阪神・掛布雅之、巨人・原辰徳~まだまだ書ききれない打守走併せ持った名プレーヤーが三塁にはずっと揃っていた。いまでもヤクルトの岩村明憲のようにグングン力を発揮してきた三塁手もいる。さらにいえば、インターコンチネンタル杯で守りでミスしたあと逆転につながる快打を放った横浜の古木克明とつづく。その「三塁手」がアメリカでは、巨人の福井を追うほどに(福井、ゴメンよ)不毛なのだという。

 これは、一体、何なのだろうか。11日、第3戦もダイエー・小久保裕紀のホームランなどで全日本チームが大量リ-ドしている夜、「これは一体何だ」とずっと考えこんでいる。

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2002年11月05日

白球の視点 第70回

 「なにをいっても裏切り者といわれるだろうがー」という巨人・松井秀喜選手の言葉。記者会見のときの、あの声がいまなお耳の奥で鳴っている。

 その夜の各テレビ局の街頭でのフアンへのインタビュウでも、翌日のスポーツ紙に掲載されたフアンへのアンケート集計でも過半数の多くの人達がメジャー・リーグ行きに踏み切った松井選手の決断に温かい拍手を送っている。多くの人が応援している。松井選手が「フアンを裏切った」とは思っていない。というのに松井は、ひとり「裏切り者」と考え悩んでいたということに、私はあらためて彼の誠実さを感じた。

 かねてから、「心優しいゴジラ」だと感心していた。グラウンドであれだけの実績をあげながら、おごらず威張らず、さりとてサービス過剰でもなく、明るくときにかるい下ネタまでまじえてさわやかに相手に対する青年。新人時代からいまに至るまで変わることのないきれいな応対に人柄がにじみ出ていた。

 「2002年のペナントレースで記憶に残るシーンをあげよ」と週刊ベースボール・増刊号の編集担当者にいわれ、そのひとつに対ヤクルト戦(東京ドーム)の、二塁手の頭上を襲っていくと見えたら、そのまま加速してぐんぐん浮上して右中間席に、文字どうり「突き刺さって」いった松井のホームランのことについて触れた。ベンチにいた仁志選手が「(ヤクルトの)二塁手が(捕れると思って)ジャンプした」と真顔でいった当たりだった。現にそのときの浜名二塁手も「右肩の上をライナーで通過していったので、このままならフェンス直撃だろうから(外野からの返球の)中継に走った」と証言している。

 私は、そのとき、とっさに「中西太以来の打球だ」と思った。「内野手の頭上すれすれを越えたと思ったら、打球はそのまま外野席へ」という伝説の主だ。かって大リーガー達が来日すると、試合前の中西太のフリーバッテングをみんなが取り囲んで見て驚いていたものだった。

 それから40年以上も経って、ついに、そういう強打の日本人打者がメジャーの世界でバットを持つ。期待こそすれ、誰が「裏切り者」と思うものか。

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